円卓の騎士・・・それは、12人のトレーナー集団・・・・・・。
翼を持ったポケモンたちが、それぞれの主人を連れて大空を駆ける。
だだっ広い草原、涼しげな湖畔、険しい山々・・・。
カントー出身で、カントー中を旅して回ったものだが、現在地点が何処なのかわからない。
おそらく、カントー地方のどこかだとは思うのだが・・・・・・
ポケギアを取り出してタウンマップで場所を確認しようと思ったが、なんだか面倒くさくて止めた。
死ねない命を散らすために、こうして向かっているのに、帰る場所を知っていたら
散らせる命も、未練という言葉が邪魔をして散らすことができないだろう。
進めば進むほど、暑い夏の空を駆ければ駆けるほど、「無」への真理へと近づいていく。
きっと、進む先には黒き力の運命が待っているのだろう・・・・・・
PAS
Chapter3 第8話 山中の古城
ひっそりとした山中にそこは存在した。中世ヨーロッパの古城がそこに確かに存在している。
木々に囲まれた中に存在する広い、いや、大きい城は、ポケモン協会の総本部の2倍の大きさはあるのではないのだろうか
とにかく、城は間違いなく存在し、山に溶け込んでいる。別に城の色は緑色というわけではないのだが・・・。
彼女たちは標準のサイズよりも少し大きいトロピウスの背にのっている。
トロピウスというポケモンは晴天の日ほど翼として役に立ってくれる。それは、彼らの特性である【ようりょくそ】が影響しているらしく
“すばやさ”が多少高まる性質があるからだ、無論、その力は戦闘においても発揮される。
時より吹く暑いながらも涼しい風が彼女たちの髪を靡かせると、それを整える姿はどこか愛らしい。
怪しげな存在と見ていると気づかないが、彼女たちもしっかりと女の子なんだと解る。
当然というか、予想通りというか、彼女たちを乗せた少し大きいトロピウスはその古城へと降下していく
それについていくようにプテラのプテに同じように古城に下りるように命じると、プテはゆっくりと下降を始めた。
古城の前、正門のような場所に着地すると古城をまた違った視点で見ることができる
コケの生えた城壁、錆び付いた正門、そしてその先にある、手入れのされていない庭・・・
直感的に人が多人数いるわけではないということと、さほど利用されていないということがわかった。
「あとでスカイさんにお礼を言っておきましょう」
「そうですねお姉さま」
少し大きなトロピウスをボールに戻した前髪が右に流れている方の女の子、即ち「ベージュ」が双子ながらも姉のようで
双子の妹になるのが「セピア」のようだ。そして、会話に出てきたスカイという存在はおそらく
彼女たちが所属する集団である“円卓の騎士”の「蒼穹のスカイブルー」であると思われる。
その名前だけでは性別を特定することはできず、また、性格や性質などはもってのほか。
彼らの情報を得るためにも、いつかは会う存在であることに違いは無い。
少しそんな考えごとをしていると、ベージュとセピアの2人が錆びた門を開き古城の庭園へと入っていく
青年は少し遅れてから彼女たちの後を追っていく・・・
青々と夏のエネルギーをその成長に注ぎ込む名も知らない植物たち。
その中に一人、なんだかよく解らない格好をした女の子がいる。
ちなみに、女の子と解ったのはふわっとカールされた茶髪の後ろ髪を見たからだ。
「キミドリさん、こんにちは。」「キミドリさん、こんにちは。」
ベージュたちがペコリと頭を下げて挨拶をすると、なぜかしばらくしてから返事が返ってきた。
「・・・ああ、こんにちは・・・・・・って、どなたですか・・・・その男の人。」
振り向いた彼女の瞳の色は薄い黄緑色をしている。今の季節では緑過ぎる草の色ではなく、春の淡い黄緑だ。
「・・・ブラックさんです。」「・・・ブラックさんです。」
間の取り方も全く一緒。ここまでくると、一人の人間が話しているようにも聞こえなくない。
「え? 太陽が黒いんですか?? もしかして日食・・・日食ですか!?」
そう話してくる彼女の黄緑色には一切の偽る気持ちは感じられない。おそらく、本気でそう思っているのだろう。
この瞬間、この女の子のキャラクターというものが多少は理解できた気がした。
それに加えて、この女の子の正体は「女王蜂キミドリ」であることも解った。よくよく見てみれば、彼女の腰には
しっかりとボールホルダーが装着されている。やはり、彼女もトレーナーなのだ。
「よろしく・・・頼む。」
青年は、いや、紹介された以上はこの名、ブラックはとりあえず頭を下げると、また先に進んでいってしまう
ベージュとセピアの後を追いかけた・・・・
古城の少し豪華なつくりの木製の扉が、ギーッと音を立てて開かれる。
それと同時に、肌寒くなるほどひんやりとした空気が外へと流れていく・・・・・・
城内はクーラーを効かせたように涼しく、少しじめついている。
古城の外は気持ちの悪くなるほどのじめついた暑さなのに、ここはまるで同じ時が流れていないようだ。
コツコツと音を立てて歩いていく2人の足元は石畳、ついていって足を踏み入れてみる。
田舎者のようにキョロキョロと辺りを見渡すと10メートルは軽くあると思われるほど高い天井と、その天井にある綺麗なステンドグラス。
それ以外は城壁と同じと石と思われる石の壁、そして、その壁とどこかへの道を繋ぐいくつもの木製の扉。
外観で見たよりも狭い内部。それとも、そういう風に見えるつくりなのだろうか?
様々な考えを持ちながらこの部屋の構造を頭に叩き込む。この時この瞬間から、この集団と敵対したときの対処を考えておく。
「キョロキョロなさらずに・・・こちらへ・・・・・・」「キョロキョロなさらずに・・・こちらへ・・・・・・」
ベージュとセピアがこちらを向いて呼びかけてくる、瞳が見えない分、その表情と感情を読み取れないのだが
雰囲気は少々の苛立ちを覚えているように感じられた。これから先、彼女たちの変化を察知するには
この少々の雰囲気の変化を感じ取らなければいけないだろう。やはり、彼女たちは相当なやり手なのだろう・・・
「ダブル・ゴースト ベージュ&セピア」・・・この集団において彼女たちの位置づけがどのあたりなのかはまだ想像はつかないが
戦闘という分野において彼女たちは、図鑑を持ちし者たちの中では雰囲気だけでシルバー以上のものを感じる。
「ああ、すまない。」
彼女たちはいくつかある扉のうち、自分から見て正面にある扉、即ち入り口から丁度真っ直ぐ先にある扉のドアノブに手をかけると
入ってきたときと同じように木製の扉は音を立てて開かれ、そこから繋がっていく回廊へと彼女たちは進んでいく。
ブラックはやや慌てて、彼女たちの後を追った・・・
長く長く続く窓一つ無い石畳の回廊。この回廊に照明設備が無いところを見ると、電気が通っていないのだろうか。
夜になったら、何も見えなくなってしまうだろう。
コツコツと自分の先を歩いていく2人は、しばらく歩くとその足を止めた。
「こちらへ・・・」「こちらへ・・・」
正面には、大きな木製の扉。それも、今まで見てきた中では最も立派な扉だ。その重厚感は、触れずとも伝わる。
どうやらこの扉の先へと進めということらしい。彼女たちがそこから動かないことを見ると
ここから先は自分一人で進んでいかなければならないようだ。
ブラックはずっしりと重い扉を片手で押して開けていく。ギーッと扉の開く音が大きく、大きく回廊に鳴り響いた。
だだっ広く、閉鎖的な空間に中世ヨーロッパを連想させる装飾品。
そして何より一番目に入るのは、12脚の気品あふれる背もたれをした椅子が、大きな大きな円卓を囲んでいる。
丁度部屋のど真ん中に位置する円卓には、1人の老爺と、30代後半〜40代前半といった感じのおじさんが座っている。
「はじめまして・・・ブラックさん。」
おじさんの方は、人柄がよく話しやすそうな雰囲気をしているが、老爺の方は、体感的にはベージュたちと同じ感じを覚える。
ただ、瞳を出している分、その表情を多少は読み取りやすい。対して老爺はその瞳は瞼によって隠しており、瞳そのものを確認することはできない。
「はじめまして。えーっと・・・・・・」
「モーブです。こちらが、最年長のブラウンさんです。」
人柄のよさそうなおじさんは、モーブと名乗り、隣の老爺をブラウンと紹介した。その名の通り、彼の瞳は濃い紫色をしている。
「猛毒のモーブ」、そして「化石のブラウン」・・・確かに渡されたディスクにあった名前。やはり、彼らは“円卓の騎士”のメンバーであるようだ、
初対面ということが影響してか、なんだかぎくしゃくした感じになり、会話が途切れる。
自分から積極的に話していきたいのだが、そうさせないプレッシャーがこの部屋に確かに存在している
「・・・とりあえず、おかけになってください。」
「ああ・・・」
なんとなくの会話で、とりあえず円卓の椅子に手をかけて座る。椅子の座り心地は、見た目とは裏腹にたいしたことは無い。
硬い材質でできているために、長時間座るには適さないと断言できる。その間にもブラウンは一度も瞳も口も開かない。
「・・・えー、本題から入りましょう。 私たちの組織・・・いえ、規模から言って集団のリーダーになっていただきたいのですが
あの2人の誘いを受けて、ここまで来たということは・・・お引き受けしていただけるのですね?」
円卓に両肘を立てて話すモーブと、未だ動きを見せないブラウン。この時、この集団に妙な違和感を覚えた。
「ちょっと待ってください、その前に、もう少しこの集団のことを教えてくれませんか?」
一応、目上の人相手の会話なので口調は自然と敬語になる。この辺りは、様々な人と交流するので完璧だ
「そうですね・・・今、この集団は・・・・・・」
「ウオッッホン!!!」
今まで何一つ動かなかったブラウンが、ここで初めて動いた。
それがこの明らかにわざとらしすぎる大きな咳払い。あまりに威圧的な咳払いをされて、モーブの話は妨害された。
「失礼した・・・・・・。」
初めて発する言葉。だが、この老爺の考えはみえみえで、明らかに内情を把握されることを警戒しているようだ。
いくら仲間になる可能性がある存在だとしても、完全な確信が無い限り、迂闊な情報の漏洩はどんな被害をもたらすことか・・・
「・・・・まぁ、実際に動いてみて、状況は把握します。」
とりあえず、潜入しないことにはこの集団のことを調査することができない。
この集団に形式上でも属していることが、自分にとってどれだけのメリットがあるのかはすぐに解る。
「助かります。」
モーブの言葉は、心からの言葉のように聞こえた。なぜだろう、この言葉には明らかに別のニュアンスを感じてしまうのは。
この集団・・・予想以上に何か裏がありそうな雰囲気だ・・・。
その後、今のままの雰囲気で話は続行され、この古城内の設備についてや、この古城が単なる集合地点でしかないこと
現在この古城に全てのメンバーが揃っていないということを聞くと、この古城の簡単な手書きの地図と、用意してもらった自分の部屋の鍵をもらった。
とにかく、今日はまだ初日。判定を下し、この集団をどうしていくのかを考えるにはまだ時間があるようだ。
全てのメンバーが揃っていないということを考えると、この集団は何らかの活動をしているのだろうか?
それとも、皆勝手に活動しているというのだろうか? だとしたら、この集団の存在意義は・・・?
ベージュとセピアに再び案内されて、渡された鍵が使える部屋へと案内される。
移動の間、渡された簡単な手書きの地図と照らし合わせて古城を歩く。その地図によると、先ほどの部屋を“円卓の間”というらしい。
機能としては会議室のような場所らしく、12人による多数決で方針を決定していくそうだ。
・・・偶数人による多数決に問題があったのだろうか、簡単な説明を受けたには受けたが、自分を必要とする理由が未だに明確ではない。
少し難しい顔をしながら回廊を歩いていくと、ステンドグラスのあるフロア、ロビーへと戻ってきた。
「こんにちは、パープルさん。」「こんにちは、パープルさん。」
「・・・・・・こんにちは。」
2人の挨拶に比べて小さな声がした。
よく見るとフロアの隅の影の中に、光沢がある紫色の髪の毛を伸ばしっぱなしにしている女の子がいる。
ベージュたちが言った名、パープルという名から考えて、この紫髪の女の子は「念動のパープル」だと思われる。
ぱっと見では、ベージュとセピアに似たようなものを感じるのだが、雰囲気が少々違う。
どこか内気で弱々しい感じ。その雰囲気が彼女の不思議な部分を打ち消して、なんだかよく解らない存在だ。
「その人・・・あ・・・ブラック・・・さん・・・です・・・ね・・・・・・」
蚊の鳴くような声で、ぼそぼそと何かを話したようだがよく聞き取れない。
「今は、少し忙しいのでまた後で・・・」「今は、少し忙しいのでまた後で・・・」
パープルが、何とか自分に話しかけようとしているように思えたのだが、ベージュとセピアがそれをまるで妨害するかのように
言葉で遮り、パープルと会話をさせようとしない。それどころか、ツカツカとどんどん先へと歩いていってしまう。
この2人とパープルは、仲が悪いのだろうか・・・・・・
「ここです。」「ここです。」
いくつかの木製の扉を開き、長い回廊を歩いていく。すると、一つの鉄製のドアの前で2人は動きを止めた。
「この部屋をお使いください。」「この部屋をお使いください。」
彼女たちはペコリと頭を下げると、ブラック一人を残してこの部屋に通じる回廊を後にした。
だんだん遠くなっていく2人の足音が、石畳の長い回廊に響き続ける・・・・・・
足音が消えてから、ブラックは先ほど受け取ったこの部屋の鍵を使い、ドアを開く。
鍵もまた古風な鍵で、鍵の柄には数字の「13」が彫ってある。13号室という意味なのだろうか・・・。
とりあえず部屋に入ると、ふかふか・・・・・・していない、硬そうなベッドと、太陽の光だけを入れる、開かない窓。
埃が積もっているテーブルとイスに、クモの巣が張ったクローゼット・・・・・・
明らかに手入れがされていないのがバレバレだ。一応、仲間になったとはいえ、この仕打ちは少しおかしいだろう。
「はぁ・・・」
自然と出た溜め息。とりあえず、何故かベットだけは綺麗だったのでベットに腰掛けると、腰に下げた2つのポケギアを取り出す。
どちらも新品のポケギアで、その機能も最新式。といっても、彼はその機能を全て使いこなすわけではないのだが・・・
(何やってんだろうな・・・オレは・・・・・・)
2つのポケギアを虚ろな瞳で見つめながら、ふと思う。
迷わずに、ただ、自分の心のままに・・・
その結果が人を殺め、傷つけて、ロケット団の首領でいながら、形式上正義の組織であるポケモン協会に所属する・・・・・・
改めて考えてみると、今自分がやっていることもそうだが、我ながら意味の解らない事をやっている。
まず、自分の行動に一貫性が無い。正義として、光として存在したいのか、悪として、闇として存在したいのか
その両方をやり続ける自分自身は、どう存在したいのか・・・?
だが、既に自分自身を捨て始めている自分にとって、どういうふうに存在すべきかなど、考えるにも値しないのか
だとすれば、どうしてこんなにも、諦めていることが自分自身を悩ませるのか。
矛盾だらけの自分自身・・・・・・・故郷では落ち着けないが、常に“職場”となりうるここならば
何か答えが、いや、そんな答えと言えるほど明確なものではないかもしれないが、何かを見つけることができるかもしれない・・・
ピリリリ、ピリリリ
丁度、手に持っていた片方のポケギアが鳴り出した。・・・どうやら、早くもこの古城から出発しなければならないようだ。
「・・・わかった。」
通信を終了すると、ブラックは2つのポケギア再び腰に引っ掛けて、立ち上がり全身を軽くストレッチする。
自宅へと帰るつもりは一切無い。その時間を用いて彼らの情報を探るほうが得策であるし、なにより
彼らと交流を深めてさらなる情報を得る必要がある。それに、今日の時点で全てのメンバーに会えたわけではない。
少々、変わり者が多いこの集団で情報を引き出すために、信頼を得ていくことが非常に難しいだろう・・・。
それに、ロケット団の解体もまだ残っており、宿泊代を浮かせることができるのならば
ここを新しく拠点として活動することもできる。一応、部屋を用意してもらったのだ甘えない手は無い。
今日から始まる日常は、この部屋を基準として続いていくのだ。
ブラックはストレッチを終えると、鉄製のドアを開いて再び長い回廊を進むのであった・・・・・・。
少しずつ動き始めた新天地。
しかし、その全容は闇に包まれて見ることができない。
そんな闇を見るためには、自分自身が闇と化して闇を感じるしか方法は無い。
円卓の騎士・・・闇に包まれたその集団の真実と、そしてそこに存在する運命は
青年に何をもたらしていくのだろうか・・・・・・?
第9話へ・・・