AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する



戦場を駆け抜けて・・・汚れた身体の帰る場所・・・・・・



ただひたすら奪った

命と幸せと権利を

残ったものは、血と傷に汚れた手。

反乱分子を生み出したのは自分の手腕の無さが原因だろう。



だが、後悔は無い

この行動で多くの人を、多くの仲間を守れたはずだ

後悔することはない、寧ろ誇るべき行動のはず



戦いが終わり狂気から覚めると、自分でいられる時間が終わりを告げた。

心休まらない時が再び始まり、今日までの行いを後悔する時間が再び始まってしまう

いつしか、狂気でいる自分が本物のように思えてきた

マサラでの暮らしが演技で、狂気に囚われる日々が自分・・・

いや、もしかしたら、既に自分というものは存在しないのかもしれない



レッド”を失い続ける青年の一日・・・・・・














PAS Chapter第6話 光の喪失















8月7日、深夜・・・

ボロボロの身体で自宅へと到着する頃には、きれいな月が高々と上っており

もうじき今日という日が終わることを示しているようだ。

カントーの夏らしい、ジメジメした熱帯夜はやはり気持ちが悪いものだ。

今、プテラのプテに肩を掴ませて、その大きな翼の力を借りて結構なスピードで空を飛んでいるのだが

正面からの風の体感温度は、湿気にやられてあまり低く感じない。

肌にまとわりつくような生暖かい風は、やはり気持ちが悪いものだ・・・



夜空に輝く星や月も目に入らず、ただ、呆然と気持ちの悪い風に包まれて空を駆けていく。

眠いわけではないのだが、すわった瞳と夜空よりも暗い真っ黒な瞳に生気を感じることはできず

今から自分が“行く”先に何の希望も感じていないのか、約3週間ぶりの故郷に喜びを感じない。

その理由の背景には青年の罪と覚悟がある・・・






世界で一番汚れていない場所、それが自分の故郷だという。

だとすれば、やはり自分の生まれ育った場所にはいつまでもその姿でいてもらいたいと思うのが普通だろう。

全てをぶち壊したい!などという発想が生まれるほどの嫌な思い出がある場所ではないのだ。

逆に、全て捨て去りたいのに捨てられない、いい思い出が多すぎて困るくらいだ。

今の状態や気分で考えても、やはり故郷には今の状態を保持してもらいたいと思う





世界で一番汚れていない場所・・・まっさらな場所・・・・・・

しかし、その故郷を汚すのは自分・・・・・・

自分が最も嫌がっていたことを自分でやり、そのうえそれで人を殺めた・・・・・・






「・・・ポケモンを・・・悪事に利用するってのは・・・自分の手が直接汚れないから・・・

やっていることの重大さに気がつかない・・・。」




「・・・なにより、悪事であることがわからない・・・ポケモンを利用することが・・・

オレは一番許せない・・・。」






自分で言ったことを守れない自分に嫌気がさした。気持ちの悪い夜風は慰めの風にはならない。

考えれば考えるほど湧いてきてしまう自己嫌悪。そんな状態で飛行する自分の目下には

“世界で一番汚れていない場所”が見えてきた。夜の闇に包まれた、その場所は

ひっそりと静まり返り、何か生物の気配を感じさせても、その生物が活動している雰囲気は無い

もう日が変わる時間だ。

自分の存在を拒んでいるように見えるその場所に、ゆっくりと降下していき足をつけた。

地面が黒く染まっていく気がした・・・・・・







8月8日、深夜・・・

自宅に着くと、時刻は12時を回り日は変わった。だからといって太陽が昇るわけではない。

とりあえず家の中へと思い、ドアノブに手をかけた瞬間である






「・・・ポケモンを・・・悪事に利用するってのは・・・自分の手が直接汚れないから・・・

やっていることの重大さに気がつかない・・・。」




「・・・なにより、悪事であることがわからない・・・ポケモンを利用することが・・・

オレは一番許せない・・・。」






先ほど思い出してしまった言葉が何度も何度もリピートされる。

この場所に居るというだけで、自分の罪が責められている感覚に陥る






「・・・人殺し・・・・・・」






男とも女ともわからないが、ボソリと呟く声。

グサリと胸を刺す言葉が、どこからか聞こえた気がした。

ドクン、ドクンと心臓が音をたてる。そして再びあの言葉が頭に思い浮かぶ。






「・・・ポケモンを・・・悪事に利用するってのは・・・自分の手が直接汚れないから・・・

やっていることの重大さに気がつかない・・・。」




「・・・なにより、悪事であることがわからない・・・ポケモンを利用することが・・・

オレは一番許せない・・・。」






気が狂いそうになる。そして、それに加えてどこからか聞こえた気がした先ほどの言葉が

頭の中を何度も何度もリピートされる。






「・・・人殺し・・・・・・」






怖くなり、逃げるように自宅へと入る。青年は土間で蹲り、両手で顔を覆って小さく震え始めた。


「ッ・・・・・ウッ・・・・・・」


声を殺して涙を流す。

彼の流す涙は人を殺めたことへの涙が大半であったが、残りは全て自己嫌悪の涙であった。

汚れる仕事を他者に押し付ける行為、そしてそれを後悔していることを自己嫌悪しているのだ。

擦り傷と打撲が身体中にできて、その上にボロボロのスーツを着ている。

何の事情も知らなければ、この青年は逆に被害者であるようにも見えなくは無い・・・

戦場で魅せた力強さは今の彼には存在しない。

今、ここに存在するのは自己嫌悪に陥り、そして背負ったものに押しつぶされていく

そして、それらの悩みも何もかも明かすことができず、弱って泣いている青年だ。

涙を流し続ける青年は、いつしか今日までの疲れがどっとでたのか

5分間も泣き続けるといつのまにか意識を手放していた・・・・・・













先ほどの戦いのあの時、白い閃光に包まれ、その閃光が周囲を真っ白に染めていくあの一瞬

一瞬考えていた、いや、やる前から考えていた・・・・・・自分の死のこと。

そして気づいてしまった、寧ろ気づかされた究極の自己犠牲の真理。

“統べる”・・・即ち“誰かのために上に立つこと”の最たる姿・・・

それは自分を捨て去ること、他者を導くために自分を失うということ。

その領域まで到達寸前まで至ったものが“究極連携”だと思っている。

おそらく、最たる領域を一端を感じてしまったのはその2つ“究極連携”と“死”を同時に思ってしまったからだろう。

この2つが両立している状況・・・それは即ち、“統べる者”の本質である“無”の力を手にしているということだ。

真理に近づくことが“無”の力を得るということ。だが、今回の戦いで“無”の力の全容が見えてきた。

“無”の力は、自分自身が“武器”になることなのだ。本当に人々の上に立つということは人々を導いているのだが

逆を言えば自分は人々に導かれている、即ち、“統べる者”の真理とは上に立つのではなく上に立たされること。

そして、導くものの責任を負う。それが上に立つもの、“統べる者”。

推測の域を出ないのだが、おそらくコレが“統べる者”の真理であろう・・・・・・







信頼されていることは嫌と言うほどわかる。だけれど


いつも何かが不足していて、孤独・・・。


どこか壁があるような人付き合いはもう、嫌なんだ・・・。


解放されたい・・・・・・死にたい・・・・・・







あの声は、弱々しく呟いていた・・・・・












どれほどの時間が過ぎたのだろうか

青年は涙を流すのを止めて、室内へと入っていく。

3週間ぶりの我が家は何一つ変わっておらず、生物の気配を感じさせない寂しい家だ。

そんな家の中で自分が休める場所を探す・・・その場所として青年が選んだのは、ベットのある寝室。

電気もつけず、まるでゾンビのように力なく歩く姿を見ていると、何故か切なくなる。

暗闇でよく解らないが、とりあえずベットらしき場所にバタリと倒れこむ。

ボロボロの衣服も、ボールホルダーも、壊れた2台のポケギアもそのままの状態で・・・

底なしの闇の色をした虚ろな瞳の先には、何かが写っているのにそれを視覚情報として捉えることは無い

ただぼんやりと瞳の先は存在し、何かを見つめているようで何も見つめていない。

死者のような瞳、いや、死者と同じ瞳をしている。力なくベットに倒れこむ姿は

青年が見てきた死体と同じでぐったりとしている。

ベットの近くにある窓からは、月明かりも星の明かりも注ぎ込まない。



そんな状態で青年は何かを思い出したように動き出して、デスクトップ型のパソコンのスイッチをいれた。

椅子に力なく腰掛けて、だらりとしているとOSが起動してデスクトップの画面が表示される。

青年はマウスをやっとこ動かして、とあるプログラムを起動した。

そのプログラムの起動画面には協会のマークが記されており、このプログラム自体が協会製だと解る。

青年はそのまま画面をクリックし続けて、なんと自分のポケモン管理システムへとアクセスした。

(無論この行為はハッキングそのものである。)

どうやらこのプログラムは、ポケモンセンターでのポケモン管理プログラムを自宅で行えるというものらしい

ただし、ポケモンの受け渡しや転送には専用の設備が必要なので、このプログラムだけではできることが限られている。

青年はキーボードでさまざまな情報を入力して、ものの数分のうちにこのパソコン上に自分の特殊なボックスの内部を表示した。

そこでさらに操作を進めて、青年はそのボックス内に一匹だけ存在するポケモンの管理画面を呼び出した。


その名は、“ミュウツー”・・・・・・


青年はそのままキーボードとマウスを操り、なんとミュウツーをボックスから逃がした・・・・・・

しばらくの脱力の後、青年はパソコンのスイッチをきると、ぐったりとしながらベッドへと戻ると

バタリと力なく仰向けに倒れて、天井を虚ろな瞳で見つめた。

何も考えていない、何も見ていない、虚ろな瞳の先には何が映っているのだろうか・・・?



闇だけの部屋にはいやにゆっくりとした時が流れている。

瞳を閉じることを忘れてしまったのか、青年は闇の中でただ、虚ろな瞳を保っていた。

今日からのことを考えるわけでもなく、ただ虚ろな時に心と身体を預けている。

そんなところへ、不思議な光を放ちながら一つの存在が窓に近づいた・・・



(どうしてだ・・・?)



窓の向こう側から、思念波が直接送り込まれてくる。

青年はそれに対して、窓越しながら話して答える。



「・・・もう、お前をロケット団の呪縛で縛りたくない。それだけだ。」



悲しみにあふれているような声を窓越しで聞くと、不思議な光はどこかへと飛んでいった・・・

再び静寂と闇だけが部屋を支配すると、青年は気絶するように眠りについた。

また一つ、失った・・・・・・









窓から降り注ぐ眩しく、暑い日差しに青年は目覚めを強要された。

無論、強要された目覚めなどよいはずが無く、頭の中はぼんやりとしており、視界もはっきりとしない。

窓から見える日の高さから、自分がかなりの時間寝ていたことを理解すると身体の自由が奪われていることに気がついた。

自分の身体をムッとした表情で見ると、身体の至る所で手馴れているようで少しへたくそな巻き方の包帯が巻かれている。

いつの間にかスーツも脱がされてトランクス一枚にされている現実・・・そして、耳に入ってくる微かな鼻歌。

そして、鼻に入ってくるおいしそうな、味噌汁のとてもよい香り。

頭の中でこの現実を整理すると、過去の記憶からこれから先の展開と、こうしてくれた人物が誰か解った。



ガチャリ・・・・



部屋のドアを開けて、白いシンプルなエプロンをした金髪の女性、イエローがひょいっと覗き込んできた。

そしてその隙間から2匹の黄色い電気ねずみ ピカとチュチュがそれを真似して覗いている。

可愛らしいその行動に自然と笑みを浮かべてしまうが、即座に“制約”のことがよぎる。



(「イエローが特別に意識しなくてもしちゃうことも、本当にしなくていいからな。

これからはちゃんとオレも“制約”を守るから、イエローも頼むぞ。」)



3週間前の自分の言葉だ。彼女への対応や反応の前にこのことがすぐに頭に浮かんだことを考えると

やはり、自分の中でこの“制約”は相当大切なことらしく、彼女との関係には必要不可欠なのだろう。


「・・・あのな、イエ・・・・」
「気分はいかがですか、レッドさん?」


青年の名が呼ばれた。・・・きっと、“今は”この名前が適しているのか、それとも彼女にとっては自分という存在はその名なのか。

口を開いてそのことを話し出そうとした瞬間、彼女はそのタイミングに合わせるかのように言葉を言葉でかき消した。

意図的のように感じるが、そこまで彼女が考えての行動をとる必要性がよく解らない。

ただ、その時のイエローの声はどこか必死な感じがした。焦っているような感じも覚えた。

いろいろな人や、仲間たちからよく自分は鈍感だといわれるが、自分ではそうは思っていない。

なぜなら人を率いるということは、その人間の性質や性格を読み取り理解しなければならないからだ

自分で言うのも難だが、他者の考えや心の動き、性格や性質を読み取るという行為は、自分にとって得意分野の一つだ。

実際、そのレベル以上の世界で危険なバトルを乗り越えてきているのだから間違いない。


(無論、レッドはこの見解自体が的外れということに気がついていない。)





「とりあえず、着替えるからちょっと待っててくれ。」
「あ・・・・・・はい!」


頬を赤くして、彼女は2匹のピカチュウたちと一緒にドアを閉めた。窓の外では自分のポケモンたちが戯れている声が聞こえている。

包帯は衣服にはならないことを考えると、今自分が身に着けているのは立った一枚のトランクス。

彼女とは過去にこの一枚のトランクスさえも無い状態で抱き合ったこともあるが、それとこれとは話が別。

客人の前ならば、服を着て応対するのが常識であろう。

とりあえず、タンスから半袖のシャツと、短めのズボンを取り出して着用するとイエローが居るであろうへダイニングルームへと向かった。



ダイニングにあるテーブルには、ほかほかでつやつやした白いご飯とあつあつの味噌汁。青々とした夏野菜のサラダに塩胡椒のかかったハムエッグ。

そして、氷の入ったコップに注がれているとっても冷たそうな麦茶。コップの表面には結露ができていて、今にもテーブルを濡らしそうだが

ちゃんとコップのしたにはコースターが引かれており、一見すると素晴らしい食卓であることがわかるのだが

天然の入っている彼女らしく、何故か箸が用意されていない。どこか一つぬけているのが彼女なのだ。

だが、箸を用意していないのは逆に好都合だったかもしれない。もしも箸があったら、そのまま手を出していたに違いない。

なぜなら、“制約”のことを対面に座り、ニコニコしている彼女にもう一度説明できるチャンスだからだ。


「レッドさん、ご飯作っておきました。」


ニコニコと笑顔を浮かべて満足げ。彼女が座っている椅子の下では2匹のピカチュウがじゃれあっている。

レッドは椅子を引いて腰掛けると、イエローの瞳を真剣な眼差しで見つめた。その変化に、ニコニコしていた彼女も表情を引き締める。



「・・・イエロー、本当に感謝してる。包帯とか、ポケモンたちのこととか、飯のこととか・・・でもさ・・・・・・」



レッドの話す声のトーンや口調には、申し訳なさが溢れており、誰がどう聞いても“迷惑”という感情が読み取れる。

もちろん、それが彼女、イエローも例外ではない。あからさまに感情を表に出されて、流石にしゅんとへこんでしまった。



「迷惑でしたよね・・・・・・」



悲しみがいっぱい詰まった声。あと、もう少し突いたら泣き出してしまいそうな声だ。

レッドはイエローのその変化に罪悪感を覚え、慰めの言葉をかける。



「・・・と、言うよりも・・・・・・迷惑なのは、イエローじゃないのか?」



慰めの言葉とは思えないが、この言葉は心の奥底から自然に出てきてしまった言葉。

その言葉にイエローはよく解らないという表情をしている。

自分でも何を口走ったのかよく理解できなかったが、心の思うままに、そのまま自分が思っていることを続けて話してみた。



「イエローみたいな、女の子がオレのところなんかに来てもしょうがないぞ。イエローみたいな外も中もちゃんとしてる女の子が

オレのところなんかにきたら、ヘンな勘違いされちゃうぞ。」



今話している言葉の内容を理解していない訳ではない。この言葉はどう考えても拒絶の言葉。

この瞬間、自分の心の意図が読めた。



「イエローにはもっと自分を大切にしてもらいたい。だから、ちゃんと“制約”を守ってほしい。」



なるべく優しく話してみたつもりだ。

言葉は心ではなく、自らの思考の中から生まれた間違いの無い言葉。

本当は上手い嘘でも吐いてでも遠ざけた方がいいのだが、そこまで知恵が回るような人間でないことは

自分自身がよく知っている。それくらいの知恵があったなら、人を殺めることはなかっただろう・・・・・・。





ああ、そうか。そうなんだ・・・・・・





話していて何かが切れたような感覚がした。そしてはっきりと解った。

イエローは自分の傍にいるような女の子じゃない。これをやっと理解することができた。

寧ろ、居させてはいけない。彼女のような光り輝く女の子を、闇と血で汚れた男が汚すわけにはいかない。

彼女は絶対の“光”の存在。まさに今の自分とは対極の存在・・・。

そうなってくると感じてしまうのは、住む世界が違うという感覚・・・・・・

彼女の輝く笑顔の度に、何気ない仕草や行動の度に、可愛らしい声を聞く度に感じてしまうのは、自分と彼女との不釣合いさ。

“美女と野獣”のように愛さえあればではなく、愛があるゆえに彼女の存在を傷つけるわけにはいかないのだ。



「私のこと、嫌いに・・・・・・なっちゃいました・・・・・・・?」



拒絶の言葉にイエローは相当なショックを受けたようで、しょんぼりと俯いてしまった。

こういう時、“制約”は最も意味があるものになる。それは、自分がイエローを愛せるということ。

こうやって傷つく彼女を慰めて、彼女を守ることができるということ。

ただ、この行為がこれからの彼女の障害となるのならばそのときはどんな苦しみを伴おうと、すっぱりあきらめる覚悟はある。



「そんなことないよ。イエローはずっとオレの大切な“光”なんだから。」



優しい笑みを浮かべながら、レッドの声でイエローに話す。

椅子から立ち上がって、テーブル越しながらもイエローの頭を右手で撫でてあげた・・・・・・


「・・・はい。」


心なしか、先ほどのしょんぼりも和らいでいるようだ。

青年の中では彼女は“光”をあらわすものの基準。その彼女が笑顔でいることはとても重要なのだ。






(右手・・・・・・)


ふと、強烈な違和感に襲われて、右手をじっくりと見る。すると、とあることに気がついた。


「・・・イエロー・・・・・・右手のグローブはどうした。」


レッドに慰められて多少は落ち着いたイエローだったが、冷たい声で話し出した彼に驚いてビクリと反応する。


「今、洗濯・・・して干してますけど・・・・・・」


イエローは少し怯えながら答えた。その時、彼女は青年の表情を見ていなかった。(無論それは俯いているからなのだが。)

青年の顔は青ざめている。目は大きく開かれたままで、いやな呼吸になってきている。



見たくなかったものを見てしまった。



歪に変形してしまっている右手の骨と皮。醜い状態のその右手は青年の深い心の傷を表しているのだろう・・・・・・



「・・・イエロー・・・悪ィ・・・・・・ちょっと、帰ってくれない・・・かな?」



怯えているのは、イエローだけではない。青年も怯えている。

あの思い出がフラッシュバックしてきて、青年の脳裏にあの女の子の最期の姿と笑顔が交互に浮かぶ。



「・・・頼む!!」



少し強めに言うと、イエローはビクッと反応すると、チュチュと一緒にとぼとぼ歩いて帰っていった。



その瞳には涙が溢れていた・・・。



だが、ピカと共に部屋に残された青年の瞳にも涙が溢れている。

そしてその部屋には悲しみと後悔と苦しみと立ち尽くす青年とピカが残った。

ほんの一瞬の何気ない行動でまた一つ失ったようだ・・・・・・










外に干してあったグローブを取り込むと、右手にはめて傷を隠す。

日の光の暑さが先ほどの自分の行動を責めているように感じると、やはり故郷は自分を望んでいないと思ってしまう。

責めるものから逃れるかのように室内に逃げ込むと、用意された食事に手をつけることなく寝室へと戻る。

寝室に入ると同時にベットへと移動して、そのまま倒れこむ。もう、何かを考えたり思ったりすることがいやになった。

空調を効かせてもう寝てしまおうと思ったが、時刻はまだ正午を1時間ほど過ぎたところで

時間や、腹の減り具合、日の光、そして先ほどのことや、昨晩のことが一つ一つ青年を責めると寝ることもできない。

それでも右腕で自分の視界を塞ぎ、ベットで仰向けになっていると多少は落ち着けそうだ。

落ち着けなくなりそうだったので、オケモンは全てボールへと戻しておいた。

空調の音が部屋に静寂をもたらすと、しばらくの時が流れて青年を何とか眠りの世界へと誘おうとしていた





ピンポーン





聞きなれたあの電子音が家の中に響き渡った。

丁度眠りの世界へと入ろうとしていた青年にはストレス以外のなんでもない。

今の来客が誰であれ、今の気分と精神状態では人に会いたいとは思わない。無視を決め込んで青年は眠ることに集中する。





ピンポーン





再び鳴らされた電子音。

しかし、二、三度鳴らすことは普通のことなので特に気にせず無視を決め込む。





ピンポーン





三度鳴らされる電子音。

ここも無視の対象。最悪、あと一回くらい鳴らされるかもしれないがここは我慢である。





ピンポーン





四度目の電子音。

おそらくここで諦めてくれると信じて電子音を無視する。





ピンポーン





五度目の電子音。

諦めの悪い客人である。しかも、この客人は一度目から五度目までの電子音の間隔はほぼ同じ。

これは連打の次に腹立たしいものである。しつこさを表す鳴らし方である。

(決して実践はしないでいただきたい)





ピンポーン





六度目の電子音。

明らかに内部に人が居ると解ってやっているとしか思えない。どうあっても出てきてもらう必要があるようだ。

ここは折れるべきか、それとも無視を決め込むか・・・





ピンポーン





七度目の電子音。

次の電子音のタイミングも読めてくる。それを考えると気になってしまい、寝てなどいられない。

青年は大きく深い息ををハァと吐くと、起き上がり扉へと向かうことにした。

誘い出されるように・・・・・・









失うものは多く、得るものは少ない。人生の理想形とは真逆の生き方。

自分で選んだ道ながら、ここまでの結果には驚くばかりだ

いつか訪れるであろう開放の時を信じ、しつこく鳴らされる呼び鈴に誘われてドアを目指す。



ドアの先で待っている存在に会うために・・・



ガチャリと音を立てて、ドアは開かれた。

そしてドアの先には眩しい夏の日差しと・・・





「はじめまして。」「はじめまして。」





2人の女の子が左右対称という感じで並んで立っていた。

二人とも同じような茶髪の伸ばしっぱなしのロングヘアで、長めの前髪が影となって瞳を確認することができない。

その前髪は自分から見て左側の女の子は左に流れる前髪で、右側の女の子は右側に流れる前髪だ。

服は夏らしい色をした(ここだけは2人の色が違う)肩を出すタイプのワンピース。

しかし、その服装、雰囲気は夏らしいとはいえない。というよりも、感じられない。





「ベージュと申します」「セピアと申します」





全く同時に名乗った2人の女の子。その2人から感じるのは、なにやら怪しげな雰囲気だけ。

口元だけで(と言っても、目が確認できないだけなのだが)笑う少女たちには

何か嫌なものを否応無しに感じ取らせた。








この出会いによって、青年の運命が動き出した・・・・・・









第7話へ・・・