歪む街・・・残党一掃の真意・・・・・・
8月7日・・・
ニビシティでの一件から数日後、日差しはさらに激しくなり
何もしなくてもまるで長距離走をしたような人のように汗をかいてしまう。
流石にこの暑さと日差しの強さでは、ポケモンたちは日陰や水場で涼むしかない。
勿論、人間たちも同じような行動をとるわけで、避暑地に行ったり、室内の冷房設備で涼んだりするわけだ。
外はとにかく暑い。特に、都会となるとコンクリート等の吸熱効果や水場の無いつくりによって
その暑さを溜め込みやすく、排出しにくい構造になっている。
さらに、冷房設備から排出される熱が加わって、街は狂ったように暑くなる。
これも人の業がなすことであって、因果応報であるといえる。
そんな狂ったような暑さに包まれているのは、カントーでは2つの都市だけだ
一つは大都会 ヤマブキシティ。 そしてもう一つは、ここ、タマムシシティ・・・・・・
PAS Chapter3 第5話 壊滅の日
信じられないほど人がいない街中を、この季節に不似合いな色のスーツをきた青年がたった一人
陽炎の向こう側から歩いてくる。その姿はこの暑さの中、上下黒、靴もネクタイも黒と
言葉が悪いかも知れないが、暑さで頭をやられてしまった人としか思えない。
この狂ったような暑さの中で、熱を溜め込みやすい服装をする。
おそらく狂っているのだろう。 感覚も、意識も、思考も・・・・・・
それでも多少の暑さへの対策はしているようで、黒いネクタイを緩めてある。
暑さのあまり歪む街。その歪み具合は明らかに自然から、正常からかけ離れている。
時は正午を過ぎもう少しで13時を迎えようとしている。
街を歪ませる暑さがドーム状になって街全体を包み込むと、さらに暑さが増していく
きっと暑さがドームを形成しているのだろうが、その内側、街の中にいると
そのドームの形成が暑さだけとは思えない。 なぜなら、先ほどからこの街は
何かもの凄いプレッシャーに包まれており、嫌な緊張感が街全土を覆っているのだ。
その緊張感と暑さが交じり合って、街に外界との境界線を作り出している・・・
街の状態を知ってか知らずか、4人の男女が街に、境界線の内側へと足を踏み入れようとしている。
北側から少々ど派手な格好をした女が
東側からど派手な色のスーツを着用した男が
南側からまた同じようにど派手な色のスーツを着用した男が
西側からスキンヘッドの男が
それぞれ、ほぼ同時に街に足を踏み入れた。境界線の外と内ではまったく空気が違う。
外側と内側の共通点は暑さだけで、それ以外は全く違うようだ。
カラッとした日差しと、さわやかな暑さをもった外側の空気と
ジメッとした暑さと日差し、よどみ、重く、気持ちの悪い空気の内側。
相当な変人で無い限り、どちらの空気が好きかという質問をされた場合、間違いなく外側と答えるだろう。
先ほどの黒いスーツの青年が真っ直ぐと目的地に歩いていると、13時ぴったりに先ほどの4人の男女は
青年が目指す先をあらかじめ知っていたかのように、青年の目指す先に向かって歩き出した。
全員の額にべったりと汗が付着している。暑さの影響か、それとももっと別のなにかなのか
黙々と歩みを進めた青年は、5分しないうちに足を止めた。どうやら、目的地に到着したようだ・・・
青年の目指していた先はタマムシシティ最大の娯楽スポット、ロケットゲームコーナー。
現在店先にいるのだが、時より人の出入りのために開かれる自動ドアの内側からは冷房設備によって無理やり下げられた
冷たい空気と、店内に流れる大音量のBGMと騒音が漏れ出している。
「・・・・・・ふぅ。」
青年は大げさな溜め息を吐くと、暑さで緩めていたネクタイを直してから店内に侵入した。
店内にはメダルの排出される音や、機械の電子音、流行の歌がBGMとしてあふれている。
多くの人がスロットマシーンだけを見つめて、それ以外のことにあまり興味を持っていないようだ
渦巻く人の欲望と、煙草の煙。明るいようで暗いこの空間は、別のよどみを感じ取れる。
青年はそんな中を歩き、硬く閉ざされているはずの地下への隠し階段へと向かう
「お客様・・・どちらへ・・・・・・」
腰が低い男の店員に背後から呼び止められる。青年は数秒考えてから振り向いた。
「客を全員退避させておけ・・・。“不発弾”の撤去作業を行う。」
「そのような話・・・・聞いておりませんが・・・・・・?」
青年の言葉を信じていないようだ。まぁ、当たり前と言えば当たり前だが。
「信じる、信じないはお前の勝手でいい。ただ、客の誰かが死んだときは責任を取れよ・・・」
店員へ向ける瞳に感情をこめて、この話が真実であると伝える。
「・・・・・・わ、わかり、わかりました!!」
青年の眼力に圧倒された店員は、すぐさまホールスタッフを緊急集合させてミーティングに入った。
あの店員を含めて、この店の店員と店のシステムがどれほどのものかはよく知らないが
10分しないうちに全ての客を退避させてくれることだろう。そして、計画上は後数分で付近住民の避難も完了するはずだ。
閉ざされているはずの隠し階段へのドアを蹴破ると、青年はボールを片手に持ってコツコツと階段を下りていく。
案の定と言うか、予想通りと言うか、情報通りに見事に階段も通路も明かりも整備されていて
この場所が最近まで、もしくは現在進行形でこの場所が使用されていることがよく解る。
長い通路を通り過ぎると、広いフロアと下り階段が見えてきた。
ここのフロアはどうやら物置のような役割になっているようでダンボールや怪しげな機械が置いてある。
しかし、流石に当局の捜査のメスが入っただけに重要な書類や資料は殆ど残ってはいないようで
機械やダンボールは長い間使われた形跡が無く、埃をかぶっているのがよく見れば解る。
人の気配や息遣いを全く感じないようなので、とりあえず下の階層に移動するために階段を下る。
地下2階、対侵入者用の設備も今では何の効果も無く、難なくエレベーターのある場所へと向かえたが
流石にエレベーター周辺には2.3人の黒服のトレーナーがうろちょろしている。
ここを抜けてエレベーターで地下4階まで侵入できれば、彼ら、反乱分子と頭となっている連中を根こそぎ一掃可能だ。
青年はポケギアを取り出して画面に表示されている時間を確認する。
時は13時15分・・・ここに侵入してから5分が経過している・・・・・・
ポケギアを握り締める青年には、覚悟の表情が浮かんだ。
(・・・・・・しかける!!!)
手に握りっぱなしだったボールから、ニョロボンを呼び出すと青年はポケギアを元の場所に戻し
さらにもう一つのボールを手に持ってニョロボンと一緒にエレベーターに向かって駆け出した。
「あ、ブラック!!!」
黒服のトレーナーの一人が、接近する黒い影に気がついて声を上げる。
だが、全てが遅すぎた・・・・・・
「“ばくれつパンチ”!!」
走っての加速状態から顔面への強烈な拳。拳を打ったというよりも、ぶつけたのほうが正しいのかもしれない
メキッと音をたてる確かな手ごたえ。衝撃の瞬間、顔面は陥没し鼻の骨は砕け散り、眼球は潰れた。
バタリと倒れた男を確認することも無く、ニョロボンは加速分の勢いを殺さずに前方へとステップ
くるりと身体を回転させて、棒立ちしている別の黒服のトレーナーの顔面に左腕で裏拳を放つ。
人間とは規格が違う太い腕と大きな手から放たれる裏拳の衝撃は計り知れない。
大きく横に吹き飛ばされて壁に身体を強打すると、加速分の勢いを地面を蹴ることによって完全に殺し
新たなステップとして別の加速で勢いをつけたニョロボンは、壁に寄りかかるトレーナーに
冷酷な追撃、“ばくれつパンチ”を加える。拳はトレーナーの腹部に突き刺さるように抉りこみ、トレーナーから意識を奪い去った。
それらの攻撃に平行してブラックは、ボールからピカチュウのピカを呼び出すともう一人の黒服のトレーナーに攻撃を命じる
「ピカ、“アイアンテール”!!」
ボールから飛び出した黄色い身体は、空中で高速の縦回転を行いながら自らの尾を鋼鉄のように硬く変化させる。
そしてその鋼鉄の尾を黒服のトレーナーの頭部へと振り下ろした。
ゴツッという非常に鈍い音がすると、黄色い身体は地面に着地。その後を追うように、黒服のトレーナーは白目を向いてバタリと倒れた。
この間、僅か10秒・・・・・・既に神業の領域だ。
息一つ乱さずブラックはエレベーターの前に立つと、ポケモンたちをボールへと戻す。
倒れるトレーナーたちに目をくれることも無く、下へ向かうボタンを押すとエレベーターの扉は開かれた・・・
同日、同時刻・・・
近辺住民は全て“不発弾処理”ということで避難となった。この避難の誘導を行ったのはポケモン協会である。
そう、今日この街で起こることは全て協会に監視されているのだ。どうやらそれを指示していたのは
時間を確認していたことから、ブラックが指示をしておいたのだろう。
予想通り避難誘導を行うトレーナーたちは皆、協会の派遣されたトレーナーとして「T」の字のバッジを衣服のどこかに着用している。
この「T」の字バッジは協会の、というよりあの男、優しい声で残酷なことをいう男の直属のトレーナーであることを示しているのだ。
直属のトレーナーたちは既にこの街を完全包囲し始めており、怪しい存在誰一人として見逃さないようになっている。
その人数は50人を軽く越えており、その何れの人物もかなり腕の立つトレーナーである。
ある意味、ロケット団以上に恐ろしい集団であると言えよう。街はさらに嫌な緊張感に包まれてしまった・・・
「殲滅する!!」
どこからか男の大きな声が聞こえた。急いでその男を捜す協会のトレーナーたち、キョロキョロと見て回る手には早くもボールが握られている。
そして声がしてから約3秒を過ぎた頃、凄まじい爆音が街のどこかで鳴り響いた。
一気にかく乱されるトレーナーたちの一部が高速で斬撃を加えられて、血しぶきを上げている。
「し、四聖獣だぁ!!!」
そう叫んだトレーナーに強烈な鞭の一撃が打ち込まれた。四聖獣の突然の襲撃に、街の歪みは増した。
「ブースター、“シャドーボール”!!」
「ヤンヤンマ、“ソニックブーム”!!」
「シザリガー、“スピードスター”!!」
トレーナーたちのポケモンが展開されて、四聖獣たちに攻撃を加える。その攻撃から逃れるために走る四聖獣。
「ゲームコーナーへと追い込め!!!」
一人の号令で、全てのトレーナーたちが四聖獣をゲームコーナーへと追い詰めるように攻撃を加える。
飛び交う衝撃波や光線を上手く切り抜けて、四聖獣たちは彼らの作戦通りゲームコーナーへと逃げ込んだ。
「あそこに逃げ込めば、“不発弾の処理”でお終いだ。」
トレーナーは不敵な笑みを浮かべた・・・・・・
地下4階でエレベーターはその動きを止めると、身体にグッと重力がかかる嫌な感覚がする。
ピンポーンと音を立てて扉は開ひらかれた、そして、その先に足を踏み出す。
「・・・ここに来たって事は、何か覚悟があるんだろうな?」
扉の先は総勢50人以上の黒服のトレーナーたちが待ち構えていた。
約50対1の状況。しかも、50のほうはボールや武器をその手に持っており、今すぐにブラックに攻撃を加えることが可能な状態だ。
しかも、この空間は空をとんで攻撃を避けるほどの天井の高さが無く、攻撃を回避する術は存在しないだろう。
ガシャン。
唯一、攻撃を回避することができるはずの手段であるエレベーターの扉が閉まった
だがそれはあまり関係ない。なぜならブラックには元々攻撃を回避する気など存在しないからだ。
「悪かったな・・・いろいろと・・・・・・」
ブラックの口からは謝罪の言葉が出てきたが、今さらこんな言葉が出たところでどうしようもないだろう。
反乱分子は後には引けないほどの被害を与えているし、なにより、ここまで敵対しておいてこの言葉は意味が無い。
「俺たちは、今の世の中にうんざりしているんだ。今さら、今の立場を捨てようとは思わない。」
「オレはアイツじゃない。再び組織を再建しようとは一切思ってはいない。」
真っ向から食い違う意見
50人のうちの誰かが、どこからか話しかける。このとき初めて解った。
この反乱分子の組織には絶対的統率者がいないと言うことだ。
「だいだいあんた何様だよ? 裏切った上に、仲間を殺し、傷つけておいて・・・ふざけるなよ・・・・・・」
「総崩れよりはましだろ?」
また別の50人のうちの1人。
反乱分子たちは、縦の関係を持っているのではなく横の関係で構成された組織。
さまざまな意見を取り入れやすく、組織としても身軽だが、その反面、責任を取れるものがいない。
責任者がいないということは、決定的な統率をとることができない。
「アンタが来てから全てが壊された!! 組織も、人生も、人間も、ポケモンも!!!」
「なら、自分で壊れないように動くこともできないのか?」
また別の50人のうちの1人。
今、話した彼は“虎の威を借る狐”に過ぎない。本心からのし上がろうとするものならば変化を恐れることは無い。
“ロケット団という怖い組織がバックについている”コレが無ければただの弱虫でしかない。
闇の世界に堕ちるということ自体が、心の弱い証明なのだ。
「群れの力が無ければ、弱者にしか噛み付けない“牙”に、興味も価値も無い・・・・・・
命乞いをするなら今のうちだ・・・・・・」
ブラックの挑発的な言葉に、フロアの雰囲気がさらにに険悪になった。
「この状況で・・・その言葉が出るとは・・・・・・やっちまおうぜ!!!」
一気に殺意をむき出しにするトレーナーたちに、ブラックは手に持っていたボールをホルダーに戻し
目を瞑ってエレベーターの扉に寄りかかった。まるで、相手にする気も無いといった様子だ。
「・・・見せてやるよ、お前たちが絶望した縦社会、縦組織の力をな・・・・・・」
反乱分子たちのポケモンが展開される。その数、目視で100体以上。普通のトレーナーなら間違いなく死を覚悟するだろう。
しかしブラックは腕を組んで楽な姿勢をとり、あからさまな挑発を見せる。
挑発に乗ったトレーナーが、攻撃を仕掛けようとした瞬間であった・・・・・・
金属を切断したときの鋭く高い斬撃音がフロア全体に響き渡る!!
凄まじい音を立てて、一部の、それもブラックの目の前の天井が落ちてきた。
あわてる反乱分子のポケモンとトレーナー。落ちてきた天井と一緒に4つの影とカブトプスが降りてきた・・・
「・・・・・・遅れました。」
四聖獣降臨・・・・・・その迫力と存在感に反乱分子のトレーナーとそのポケモンたちは動きを止めた。
「・・・頼むぞ。」
「「「「了解。」」」」
上と下の会話。これが存在するのが縦組織の特徴だろう。
四聖獣たちはボールから全てのポケモンを開放した。50人のトレーナーたちは未だに身動き一つできない。
ニードルがニヤッと笑った・・・・・・
「・・・“セイクリッド・ビースツ・ストライク”を仕掛けるぞ・・・・・・」
場の空気が一気に変わる。50人のトレーナーたちは冷め切った怯えの空気に変わり
対照的に四聖獣たちの間には熱い、外気よりも熱い戦闘意欲と闘争心をむき出しにした熱い空気へと変化した。
「・・・に、逃げろぉ!!!!」
怯えきった声。その時、ブラックはニヤリと笑った。自分の計画通りに事が進んでいることに喜んでいるように思える。
攻撃姿勢に移行する四聖獣とそのポケモン、奥へと逃げようとする反乱分子たち
四聖獣たちに背を向けた瞬間、悪夢の攻撃は始まった・・・。
“針”・・・
「蜂の巣だぁぁぁ!!!」
ニードルの絶叫と共に、彼の手持ちである“針”のポケモンたちから無数の“針”の弾丸が放たれた。
“どくばり”、“つららばり”、“とげキャノン”、“ミサイルばり”・・・
間無く撃ちだされる“針”の弾丸は逃げだす反乱分子たちの身体に撃ち込まれていく
鮮血と絶叫と、混乱と恐怖が入り混じったものが人数のために狭くなっているフロアの中で渦巻いている。
そんな中を50人のトレーナーたちはある場所を目指して死に物狂いで走る。
しかしそんな彼らに容赦なく追撃は、“セイクリッド・ビースツ・ストライク”は続行される
“鞭”・・・
「オーッホッホッホッホッホ!!!悶絶の声を上げなさい!!!」
高笑いと共に床を打つ鞭の音と同時に、ウィップの“鞭”のポケモンたちが逃げ惑うトレーナー集団の中に潜り込んだ。
そして、足や触手を巧みに使って足止めを行うと回転しながらの強烈な“つるのムチ”が放たれる
逃げ惑うものに“鞭”、泣きっ面に蜂。・・・・・・痛みに悶えるトレーナーとポケモン。
強烈な心理的ダメージと足止め攻撃によって50人の動きを確実に止める。
それでも人間の“生きること”への渇望の力は凄まじく、鞭を打たれた身体を引きずってある場所を目指す。
そこは、部屋の奥に飾られている一枚の大きな絵画で、どこかの農村をほのぼのタッチで描いたもので
今のこの場所の、そして今までのこの場所の雰囲気とは全く当てはまらない絵だ。
“刃”・・・
「失礼いたします・・・。」
落ち着いた声で下される攻撃命令と同時に、展開されていた彼の“刃”のポケモンたちはそれぞれの“刃”を輝かせた。
唯一の飛行ポケモン、エアームドの“エアーカッター”、そして残り5匹の“きりさく”、“れんぞくぎり”、“いあいぎり”で
鞭の攻撃を逃れた者たちを一刀両断していくと、部屋中に真っ赤な噴水が上がる。
このフロアから逃れる術は存在しないと言わんばかりに、最も逃げ惑う者を集中的に斬りつける
最後の仕上げである、最も強烈な一撃を加えるために・・・・・・
“爆”・・・
「finissaggio!!!」
その一声で、集団の中に居た四聖獣のポケモンたちはその攻撃を中断し、主人の元へ戻ると
ボムの“爆”のポケモンたちが、ボールから解放されて集団に向けて突っ込んだ。
それと同時にブラックはエーフィのブイをボールから呼び出すと、自分と四聖獣たち、そしてそのポケモンたちを守るように
念の障壁、一種の“バリアー”を展開した。紫色をした薄い障壁はブイを中心に展開される。
その障壁が展開されて数秒後、まばゆい光がフロアを包み込み、爆音と共に何もかもを吹き飛ばした。
まばゆい光が視界を奪い、衝撃波で障壁が振動する。ときより衝撃で飛んでくる瓦礫等が障壁に激突すると、障壁が一瞬割れそうになる。
“不発弾の処理”は名目上のことだったが、あながち嘘とはいいがたいように思える。
爆発の余韻が全ておさまると、障壁は解かれて目の前には地獄だけが残されていた・・・・・・
視界に入ってくるものは黒焦げの部屋、そして黒焦げの人とものとポケモンがゴロゴロと転がっている地獄絵図。
むせ返るほどの人が焼けた異臭がフロア全体を包んでいる。口と鼻を押さえなければ、その異臭に気が狂いそうだ。
そんな中、先ほど気になっていた大きな絵画があった場所に大きな横穴が開いている。どうやら、トレーナーたちが目指していたのは
この横穴だったようで、あの状況から推測するにこの穴は非常時の脱出経路だと思われる。
「・・・・・・。」
無言になるブラックに、何かを察した四聖獣たちは自分のポケモンたちをボールへと戻した。
「今日を持って、そしてこの瞬間からロケット団は表舞台そして裏側からも壊滅する。だから・・・」
ブラックの今日までの努力が実る瞬間がやってきたようだ。彼が話すこれからの計画を四聖獣たちは素直に聞き入る。
そして話された驚愕の計画と作戦に、彼らはただただ驚くことしかできなかった。
ブラックは彼らに計画の全容を話し終わると、ボールホルダーから一つのボールを取り出し、そのたボールを何の躊躇も無く床に投げた。
そしてボールから呼び出されたポケモンは、その身体の大きさを開放されて天井を突き破りゲームコーナーを破壊してその凶悪な姿を太陽の下に晒す。
ゲームコーナーのスロットマシンはあっけなく壊れ、大量のコインが散乱する。店長の泣く姿が目に浮かぶ光景だ。
突き破られた天井の隙間をプテラのプテの翼で飛んできたブラックは、凶悪なる巨体の頭部に着地した。
凶悪な閃光の審判が今、再び下される・・・・・・
「究極連携!!!ギラン、“はかいこうせん”!!!!!」
凶悪なる巨体、バンギラスのギランと、その頭部に乗るブラックは共に極限まで集中すると
その身体から今の時間帯に合わない漆黒のオーラを発生させた。恐怖に街の気温が下がったように感じる。
目の前の狂気にT」の字バッジのトレーナーたちはその動きを止めて狂気に見入った。
目を背けたくなるような現実が待っているはずなのに、その狂気は人を惹きつける。これもブラックの才能なのだろうか
ギランの口の辺りにエネルギーの集束が始まる。5秒としないうちに真昼間の街に眩しい光源が創り出された。
その光景を見る人々は気持ちの悪い暑さを忘れて光景を凝視してしまう。緊張が街を包み込んだ・・・・・・
「いっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!!!」
ブラックの、全てを込めた絶叫。その瞳は狂気に支配されて、怪しく光る顔はどこかうすら笑っているようにも見えなくも無い。
臨界点を越えた光はその形を一本の閃光へと変えて、大地を撃った。ギランの全身からは光が伸びて街の時を止める。
地下まで貫いた閃光は、地下から爆発していく。エネルギーの逃げ場の無い地下からエネルギーは逆流して
凄まじい爆音と光、そして衝撃と熱を放ちながら大地を、そして街のコンクリートを吹き飛ばした。
そして、全てのものを粉塵へと変えていく。それはコンクリートや瓦礫に限らず、人やポケモンの死骸もだ。
「・・・っ!!!」
ブラックを包み込む真っ白い光。ギランと共にブラックは真っ白い光の中に消えていった・・・・・・
「レッド!!!」
聞きたかったあの女の子、いや、女の声。
手を伸ばせば、彩りあるあの街リュラルタウンが手が届く。そして、そこで待っているあの女が・・・クリムが。
あと少し、本当にあと少し。あと1ミリ・・・いや、もっと短い・・・マイクロ、ナノ・・・その短さ。
もう手が届く、向こうへといける、クリムに会える・・・。
だが、いくら伸ばして手は届かず現実がブラックを、レッドを引き戻す。開放の時はまだ訪れないのだろうか・・・・・・
ポツ、ポツ、ポツ・・・・ザー・・・・・・
目覚めの雨が、どしゃ降りの雨が降り出して、ブラックの意識を取り戻させた。
しかし、意識を取り戻しても身体を動かしたいと思わないし、あまり動きそうも無い。
大の字に寝転んだ状態で目だけ動かして、現状を把握する。遠くで立っている巨体は微動だにせず雨を浴びている。
そして、先ほどまで自分がいた場所と少々景色が違うことに気がつくと、自分があの衝撃で吹き飛ばされたのだと理解した。
降り注ぐ雨の色は、空中に舞ってしまった砂埃や瓦礫を吸収して黒く染まっている。
「まだ、死なせてくれないか・・・・・・」
力無く、かすれた悲しみの声。
黒い雨で汚れる顔に涙が流れていく。頬を伝ってコンクリートに落ちていったが、そんな涙に誰も気づくことは無い。
身に着けていたスーツはズタボロで、ポケギアは無残に2台とも壊れた。たくさんの擦り傷と打撲を負って、人殺しの罪を背負って・・・
自分では納得をしたはずなのに、虚しさと悲しさが全身を包むと、涙が止まらなくなる。
黒い雨を浴びて、もうこの場で朽ち果てたい思いが溢れて、重すぎるものが全身を押しつぶして、心を打ち砕いて
自分の思い通りにならないことに絶望して、技術と力が無い自分に絶望して、弱い自分に絶望して・・・
それでも
立ち上がる、まだ、立ち上がる。
それが、自分の選んだ道だから。自分を犠牲にすると決めたから。もう、後悔しないと決めたから。
なんとなく、心の中のなにかの答えが見え始めた気がした。
涙を自分で止めて、ブラックはずぶ濡れで傷だらけの身体に鞭打って立ち上がった。
まだきっと、いや、確実にやらねばならないことがある。
どこか心の中で甘えていた、死ぬことによる開放を自分が決めれると勘違いしていた、そして解った。
死の自由さえも自分には存在しないということが、究極の自己犠牲の真理はもっともっと深いところにあるのだと
徐々に魅せられる“統べる者”の力に、全てをゆだねたくなった。自分の本当の姿はこうであると思えてきた。
だが、今はその思いを確認するまえに全てを終わらせる必要があった。
この戦いを終わらせるために・・・・・・
「・・・ロケット団を殲滅、壊滅させたぞ・・・。これで満足か?」
「まさか・・・本当にやってしまうとは・・・・驚きですよ」
「T」の字バッチのトレーナーからポケギアを借りて、あの男に全てを報告する。
「解りました・・・しばらくの休養の後、あなたを元の職場に再配属しましょう」
「助かる。」
通信は切断された。これで、少しはこれからが楽になるだろう。
この瞬間、ブラックの仕掛けた策に見事に協会も、あの男もはめられたのだ。
そう、ブラックは“反乱分子の排斥”という行為を、“ロケット団残党の一掃”へと見事に仕立て上げた。
塵一つ残らない強烈な一撃ならば、その遺体を調べることはできない。よって、四聖獣たちは死んだものとされ
四聖獣というリーダーを失った組織は消滅するしかなく、ロケット団は滅ぶしかない。
さらに、総本部も失ったとなれば活動することはもう不可能であろう。ブラックはロケット団を壊滅させてしまったように見せかけたのだ。
無論、ロケット団はブラックがその全てを解体しない限り存続している状態であるが、解体が進んでいる今なら
近い将来、完全な解体は達成されることだろう。それまでの間に協会の追撃と捜査を止めさせることができるのならば
解体の進行も早くなることは間違いない。今までの努力は本当に実ったのだ。
黒い雨の中、ブラックは歪んでいた街を抜け出して家へと帰る。
命じられた休養の時に彼の心は再び揺れていく・・・
傾く心に新たな運命が開かれていくことに、まだ彼は気づくことは無い。
新たな出会いと戦いは彼に休む時を与えないだろう。
開かれる運命の扉のドアノブに、彼は今、手をかけたのだ・・・・・・
第6話へ・・・