AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する



マサラの友情が青年を癒す・・・だが流れ、流し、流れる時が、青年を確実に追い詰めていた・・・・・・



とにかく必死に時を流して、1週間が過ぎ去った。

相変わらず、心を開いてくれる気配さえ見せないピンクとの

微妙な結果的な同居生活は、どうにか続いている。

部屋の隅に投げた、鋭い光を放つ狂気の刃も

今は台所の定位置にしっかりと戻されている・・・



自室を彼女の寝床にして、自分はソファで休む日々。

いつか彼女が、隙を見つけて出て行ってしまわぬように

彼女の雰囲気と気配には細心の注意を払うと、気が休まるときは無い・・・



だが、それはそれでいいことだったりする。

そうあることが、今の自分を支えているのだから・・・・・・













 PAS Chapter3 第27話 restart -親友たちの決意-

















 11月20日・・・円卓の騎士との決着の日から1週間。あの長かった戦いも時にしてみれば

1日の出来事でしかない。しかし、その1日がもたらした変化はあまりにも大きく、その日を境に

冬が訪れ、自宅には“博愛”のピンクが居る。そしてなにより故郷の自宅で生活している。

この変化がとにかく大きかった。その変化がもたらした出来事が、今日これから起こる・・・。






 「なんで居酒屋なんだ?」






前回一緒に行った店を想定してネクタイまで締めてきたというのに、その店は逆にその姿でいる

ことが恥ずかしいくらいの大衆的で、少々小汚い外観をしたどこの町にでもありそうな居酒屋。

只今の時刻、午後8時。店内はけっこう賑わっていて、どこぞのおじさんたちの大きな笑い声や

話し声に混じって、若い女の店員が必死にオーダーをとる声が辛うじて聞こえる。カウンターの

奥で厨房に立つ捻り鉢巻のいかにも職人といった、きりっとした顔に、深いシワが織り込まれた

色黒のおじさんが、スラッと長い刺身包丁で赤身の魚を丁寧に切っていく。そのすぐ近くでは、

ややぽっちゃりしているが優しい顔つきをしたおばさんが、せっせと煮込み料理を菜箸片手に

作る姿が見える。2人ともかなりの苦労をしてきた人のようで、外見から感じる年齢は60代後半

くらいなのだが、その活力ある動きを見れば、おそらく40代後半から50代といったところだろう。




 その2人がせっせと厨房の中を動き回り、お客に差し出す料理を仕上げていくのだが、互いに

互いの行動を邪魔をしない。しかしそれでいて変に離れすぎない。おばさんが何か調理器具を探

そうとすると直ぐに色黒のおじさんがその調理器具を何も言わずに差し出し、色黒のおじさんが

刺身を切り終えると、自然とおばさんが盛り付け皿をさっと準備する。つかずはなれず、そんな

微妙な位置取りができて、尚且つそこまでの連携ができるとなると、直感的にこの2人の関係が

夫婦であるとわかった。一瞬、オーダーを取っている若い女の顔を見てみると、どことなく2人

の顔に似ていて、年齢から考えても、おそらく娘なのだろうとわかった。そんな一家がやってい

る居酒屋なのだ、店内の雰囲気は和気藹々としていて、人情というものを自然と感じる。





「アンタの都合に合わせたのよ。」
「はいはい、すいませんねぇ・・・安月給で。」





奥の座敷の席が空いていたのでそこに3人で座る。自分は壁を背にして、正面に2人が座る形だ

向かって右側、奥の方に座ったのがツンツン頭の俗に言うイケメン男の名は、グリーン。そして

向かって左側、外の方に座ったのが手入れの行き届いた茶髪が美しい女の名は、ブルー。

2人とも、一応自分の親友“だった”人で、今ではどう思われているかなどわからない関係の人達だ。

とりあえずトコトコとこちらに水を持って歩いてきたあの女の店員に、この場に合った“飲み物”と、

適当な“つまみ”を4、5品注文しておく・・・。




「で、話ってなんだよ・・・お前達に話せることなんて無いさ・・・・・・」

「あら〜、そんなにやさぐれちゃって・・・随分と変わったわねぇ〜」




お互いに皮肉を言い合うと、やはりこの正面の女性とはいつまでもこういう関係が続くのだと、

嫌でもわかってしまう。今までは、言い返せないような悪意の無いであろう皮肉を散々言われて

ムキになっていたが、今の年齢になると多少は言い返せるようにはなっていた。

それでも、彼女に敵うとは思えないが。




「いろいろあったしな・・・やさぐれもするさ。」

「話す気は無いのか?」




ここにきてやっと口を開いたのはグリーン。彼の落ち着いていて、刃物のように鋭い声は、聞き

慣れていないものには間違いなく威圧感を与えてしまう。しかし常にそういう声をしているわけ

ではなく、こうした一気に踏み込む時だけに限られている。普段の彼は、あまり喋らず行動で示

すタイプの人間なので、余計にその声が鋭く感じるのだろう。ただ、そうしてあまり喋らずに行動で

示すからこそ、彼の下につく人間は力強く成長しやすいのだ。





「何から話せばいいのかなって・・・」

「迷ったときは、まず、恋バナからスタートって、決まってるでしょ」





大きなため息をついてグローブの右手でガシガシと頭を掻く。彼女は間違いなく自分の調子を

狂わせてくれる天才。だが、一瞬にして場が和んでしまうのは、これもまた彼女の才。

グリーンでさえも薄っすらと笑みを浮かべる程だ。そんな彼女だからこそ・・・




「グリーン・・・お前もよくコイツを嫁に貰う気になったな。」

「・・・慣れれば愉快なペットだ。」




10年以上前、であった当初は相反しあう性質でなんだかムカつくヤツだったのに、今ではこう

して同じ感情、同じテンションを共有しあえる。自分とほぼ同族の後輩とは、直ぐに解りあって

しまったが、グリーンとは長い期間をかけてじっくりお互いを理解した気がする。




「夜とかも?」
「あぁ・・・」


「あんたら一回、本気で怒るわよ??」




前回一緒に飲みに行った時にある程度は聞いていたが、こうしてグリーンを適度に笑顔にできる

のであれば、やはりグリーンがブルーを選んだ理由も納得がいく。そしてまた、こうして冗談を

いえるようになったグリーンをブルーが選んだ理由も納得がいく。いろいろあったらしいが、

今こうして幸せを掴めているのなら、それはいいことだ。




「おいおい、怒るなら旦那だけにしろよな!」

「安心しなさい、殴るよりも効果的な方法を知ってるから。」




怪しげな笑みをグリーンに見せ付けるブルー。笑みと一緒に余裕の表情を浮かべていたグリーン

の顔が、みるみる引きつっていく。なにやら相当なものがある様子だ。






「・・・あ、アレは勘弁してくれ・・・・・・」






このアホらしい場面に割って入ってきたのは、愛想のよい笑顔と「楽しそうですね。」の言葉。

そして木製のテーブルに置かれていく“つまみ”と、この場に合った“飲み物”。褐色のビンと

コップが3セット分、コトリと音を立てて置かれた。カチャリと音を立てて栓抜きがさらに置か

れると、「ごゆっくり。」と笑顔と一緒に若い女の店員は別のテーブルの注文を受けに行った。






(そういえば・・・)






ふとこうして酒を何の気なしに飲もうとしている訳だが、先日行った医者は何と言われていただろうか。

流れた時を少し意識でさかのぼる・・・













 あのアルトとの、円卓の騎士との戦いに一応の決着をつけた日の2日後。その前日はポケモン

協会に出向いてあの男と面会していたので一日が潰れたが、今日はとにかくケガを何とかしなく

てはと思い、今日やっと病院に行ける。道徳的にはどう考えても順序が逆なのだが、これが社会

の当然である以上、仕方が無いことである・・・。




「・・・よくその怪我で動けますね・・・。」




短髪で40代後半くらい。ところどころ白い毛の見えるその外科医が、診察を終えた後の第一声

はそれだった。まぁ、当然といえば当然なのだが。外科医はこちらと話しながら時々机に向かい

何かの紙にペンを走らせる。その時のこちらを見る目の動きは、間違いなくこちらの挙動を確認

しているようだ。とてもじゃないが素人では気付けない。・・・これが医者。




「まぁ、ポケモンにも力を借りてますから。」




たはは、と笑いながら答えると外科医は首をかしげた。どうやら自分のしている怪我は、そんな

程度で済むはずがない程度の怪我なのだろう。こちらに一度背を向けてまた紙にペンを走らせると、

筆記を続けながら、背を向けて話しを続ける。




「私なら、半年は入院してますよ。」

「・・・鍛えてるんで、いろいろ。」




回答に少し困ったが、とりあえず事実を言っておく。徐々に思い出しつつある黒服のあの男との

修練の日々では怪我で休むことなどできず、しかもその休めない状況、怪我をした状況での戦い

を修行したのだ。嫌でも怪我には慣れる。そのおかげで自然治癒力も高まって、大概の怪我は

1、2ヶ月おとなしくしていればほとんど治るようになっていた。しかも“治る”ので、復帰の為の

リハビリもほとんど必要としない。(落ちた体力はさすがに無理だが。) しかし、我ながら

全治6ヶ月の怪我でピンピンしているとは驚きだ。修行の、修練の賜物と思いたいが・・・




「とりあえず、ギブスと包帯はしばらく外さないでくださいね。」




当然の注意なのだが、どうにも自分がギブスや包帯を取っている様子が見えているように注意し

ているようだ。おそらくある程度の性格や人間性は分析済みなのだろう。実際、こういった自由

を奪う、行動を制限するものは人一倍好きじゃない。自由奔放が人間の欲求の極みである以上、

それを望む心は間違いなくあるが、あえて煩わしい問題に首を突っ込むのも好きなので、身体が

自由に動かず、ポケモンたちと走り回って遊べないことが嫌なのだろう。



「後、気がかりなんですが・・・・」



突然医者が雰囲気を変える。今までは「しょうがない人ですね」のなんだかんだいって面倒見の

いい人の雰囲気だったのに、今度は明らかに医者本来の雰囲気。それこそ重大な病を通告する

時のような重い雰囲気。これにはブラックも緊張するしかなかった。





「食事、睡眠、しっかりとってます?」





重い雰囲気なのに、医者の口から出たのはそんな質問。これは医者に掛かる以前の問題で、

これを怠ったたら、当然のように医者に掛かることになるだろう。




「えー・・・最近、ちょっと・・・おろそかかなぁ・・・・・・」




その雰囲気がどこか怒っているように感じたので、ブラックは申し訳なさそうに言葉を詰らせて

おっかなびっくり話してみた。それを聞いた医者の顔はかなり渋い顔になり、ため息を吐いた。








「あなたの内臓はもうボロボロです。・・・年齢で言えば60、70代の内臓ってとこでしょうか。」








医者はありのままの真実を冷静に伝える。かなり深刻な状況なのだろう、医者は真っ直ぐこちら

を見つめて、その視線を一切動かそうとしない。これは甘くない事実だ。



 その言葉に正直驚いた。これでも自慢じゃないが、人よりも丈夫な身体をしているつもりだ。

自画自賛するわけではないが、自分の肉体がそこらの同年代よりも筋肉質なのはたしか。健康は

自分のとりえの1つだと思っていた分、医者の言葉には驚きを隠せない。医者もその驚きは想定

していたようで、ある程度こちらの動揺が治まってから、再び口を開いた。



 口を開いた医者はどうしてそうなるのか、そうなったのかをつらつらと説明してくれた。ただ、

専門用語の頻出する(少なくてもブラックにはそう感じた)小難しい話だったので、全てを理解

できなかったが、とにかく過度のストレスと疲労、そして栄養不足により大半の臓器は衰弱し、

そして傷ついているということ。そして、睡眠が不足している為にその回復がほとんどできず、

傷だらけで、衰弱したままで放置に等しかったので、今後、悪化の一途を辿ったということだ。

外傷の治療や、ギブスや包帯の装着前に精密検査を受けさせられたので、その結果から解った事

らしいのだが、それ以前に、顔のやつれを見て内臓に何らかの問題があるのでは。と、確信したそうだ。

確かに、確信が無ければ精密検査などしないだろう。






「酒や偏食は絶対に控えてくださいね・・・薬の効果も無くなりますから。」






ここまで思い出したが・・・まぁ、どうにかなるだろう。

ただ、この後に続いた言葉はどうにもならないことだったのだが・・・





















 「で、どうなの? ・・・あのコとは。」



真面目な雰囲気で話し始めたブルーの息は少々アルコール臭い。しかし自分も回りもそんな臭いを

させているので全く気にならない。しばらく時間がたち、テーブルの“つまみ”も3分の1は減っただろうか。

褐色のビンは空になり、さらに栓を開けたばかりのビンが2本置かれている。

そして相変わらず回りのおじさんたちの声は少しうるさい。



 彼女の言う“あの女”とは、無論、円卓の騎士の“博愛”の騎士ことピンク。あのでくの坊と

思われた“鋼鉄”の騎士グレイと常に一緒に行動していた三白眼の気の強い女のことだ。同じく

円卓の騎士である、おそらく最強の実力者である“激流”の騎士アルトとのあの決戦以降、

彼女とは結果的に自宅で一緒に暮らしている。




「まぁこれでも、同棲経験はあるからな・・・」

「いや、そうじゃなくて、“関係”の方よ“関係”の。」




相変わらず無駄に鋭いブルーの言葉は、こちらがはぐらかそうとしている部分に確実に切り込んでくる。

ここでやさぐれて、話をそらしてしまうのも1つの手だが、なんだか逃げているようであまりいい気はしない。

それにそうしてしまう空気ではない。もしかしたら、彼女はこうなる事を見越していたのかもしれない。




「・・・正直、許したくはないけど、自分のやったことを考えれば、許すべきなのはこっちだしな。」




チラリとグリーンの方を向くと、彼はコップの“飲み物”を飲みながら視線をこちらに向けて、

一言一句聞き逃さないようにしている。それほどにまで興味がある話なのだろうか。




「それに・・・どっちかが許さなきゃ、永遠に憎み続けなきゃいけない。」




少し重たい話なので、真剣に“重み”をこめて話す。この話を自分で話していると不思議な気分になる。

初めから知っていた訳でも、今までの経験からでも、ましてやドラマや映画、ほとんど読まない小説から

引用した言葉でもない。この言葉はいつの間にか口にしていた不思議な言葉。

・・・あの“時のはざま”に居たから出た言葉ではないかと、今でもそう思うときがある。






「真面目に語っちゃってるけど、“意識”はしないの?」






ブルーがそういうと、グリーンは再びコップの“飲み物”を飲みながら視線を向ける。どうやら

グリーンも聞きたいところらしい。口がそこまで達者じゃない彼をフォローするように、彼女が

彼の思いや考えを代弁しているように見える。グリーンもその言葉を期待しているのなら・・・

ふぅ。と、ため息を吐いて観念して、包み隠さず本音を話す。これも“飲み物”の影響だろうか




「“発端はオレ”って何度も何度も自分に言い聞かせるけど、やっぱ、お前たちに手を出したことは

       絶対に許せない。・・・やるならやるで、オレだけを狙えばいいのに・・・やり方が汚いなって。」




正面に座る2人の方を見ることなくどこかに視線を外して話すのは、心の奥にある本音を話して

いる証拠の挙動でもあり、そんなことを話してしまう羞恥の感情もある。そして少し間をおいて

「・・・やり方に関しては、オレも汚かったけど」と付け加えた。どうやら、回想している間に

円卓の騎士たちに何をしていたのかをある程度は説明したようだ。



「1人で勝手に感動してるけど、そうじゃなくて・・・あの子のこと、女として“意識”してる?」



ガクリと肩透かしを食らうとブラックはまたため息を吐く。拍子抜けした分をコップの“飲み物”

を飲んで補うと、チラリとグリーンの方を見る。グリーンは、こちらの話を興味深そうに聞いて

くれていて、話の続きを求めているようだ。だがこの場合、話の“続き”を求めているのだから

ブルーの導いた方向に話を続けていくのが正解のようだ・・・





「考えられる訳ないだろ・・・!?」





関係の無い人間であり、且つ大切な仲間たちを傷つけた者である。言葉と心では許しを思ったと

しても、そうそう感情が収まることは無い。そんな相手に愛情なんて感情は存在しない。逆に、

彼女が自分にしてきたように、刃物で相手を殺傷したいのはこちらも同じ。用法が少々違うが

“可愛さ余って憎さ百倍”の逆、“憎さ余って可愛さ百倍”は起こりえないし、

第一、その言葉の“逆”は、“真”ではなく“偽”だと自分で思うからだ。



 かなり真剣に、そして若干の怒りをこめてそう発言したが、それを聞いた2人の表情の変化に

これはやられたとすぐに解った。今この場を包む雰囲気がそういう雰囲気で無いことなど、

先程の「“恋バナ”」の時点で解っていたはずなのに・・・。




「あら、以外ねぇ〜」
「性欲に負けて既に押し倒したかと思ったがな。」


「お前らな・・・」




呆れながらも、こうして茶化してくれることが本当にありがたい。これがもし協会の“あの男”

ならば、絶対にこうはいっていない。間違いなく自分の利益となる情報を引き出すまで追及し、

こちらの思惑や心理を読み切るまで鋭い視線を向け、優しい口調なのに高圧的に感じる言葉で

心の奥のカスにまで攻め続けることだろう。



 ・・・そういえば、その“あの男”とこの一週間で会っている。それは、任務終了報告をする

為の出頭命令が下り、彼の居るセキエイこうげんのポケモン協会本部を訪れた時のことだ。








 相変わらず威厳のある緊張感漂う空気が流れるポケモン協会本部。そこの“幹事長室”で待つ

“あの男”にしっかりとした挨拶を済ませると、早速今回の任務の報告を求められたので、口答

で自分のしてきたこと、見てきたことを話す。あの決戦の時、決戦を察知して部隊を率いて来た

ということはこちらの動きを把握していたということから、こちらの会話をも把握してた可能性

も否定できない。別にこの男に全ての真実を話して取り入ろうという思いは全く無いが、この時

まだ医者に掛かる前で(決着後の翌日)、簡単な応急処置しか済ませていない今の身体では、

長時間この男と会話をすることは不可能だ。その証拠に先程から自然な呼吸のペースが崩れていて

呼吸自体が困難な状況になっている。冷や汗も額にびっしりとかいている。

そろそろ、ポケモンの力を借りなければ立つこともできなくなることだろう・・・




「優秀な人材が足りませんのであなたを、元の職場に一時的に戻します。」




予想に反して、あの男が話したのはその一言だけだった。絶対に何か追及されるかと思われたが

どうやらそうする意思は無いらしい。当初、これはラッキーだと思っていたが、今になって思い

返してみれば、必要な情報は既に全て入手済みと考えたほうが自然かもしれない。

そして、自分のことは泳がせておいたほうが、より多くの情報を得ることができると踏んだのだろう。

だが今は、ギリギリの体調だったのでこうして話を終わらせてくれるのはとても助かる。




「ポケモンと人間が共存できるように頑張ってください。」




温度を感じさせない無感情な瞳でのその言葉は、はっきりいって明らかな嘘にしか感じられない

ただ、何が嘘なのか。それは解らない。“頑張って”がはたして嘘なのか・・・それでも今は・・・・・・




「ありがとうございます。」




この一言しか、口からは出なかった。それ以上を語ることもできないし、聞くこともできない。

本当は、捕らえたらしい“円卓の騎士”たちについて色々と聞きたいのだが、“今”は無理だ。

体調の悪さが一番の原因だが、それ以上に、傷口に荒塩を擦りこむようなプレッシャーが、目の

前の男、“あの男”から放たれているのだ。無理だから聞かないが、もし可能ならば聞いていた

“円卓の騎士”に関する情報も、ここまでのプレッシャーを掛けられてしまうと聞くに聞けない



 長時間この部屋にいることはぐったりする身体には悪影響。と踏んだオレは、あの男に形式上

の礼を済ますとさっさと部屋を退出した。部屋を出るとすぐに我慢していた全身の激痛と、熱に

よってそのまま倒れるところだったけど、ボールから出てきてくれたニョロに助けられて、なん

とか倒れずに、そして意識を失わずに済んだ。本当ならこの後病院に行く予定だったけど、病院

にも行けない状態だったのでそのまま行きと同じようにプテに頼んで帰宅した・・・。

















 「これからどうするの、あのコと。」

「できることをするさ。・・・自分のできる範囲、全部使って。」


テーブルの上においてある褐色のビンの本数がまた1本増えている。その間に少々うるさかった

おじさんたちは帰っていった。いつの間にか店内は自分たちだけしか客はおらず、このテーブル

のシリアスな雰囲気が、そのまま店内の雰囲気になっている。

 そのシリアスな雰囲気に厨房のおじさん、おばさん、そしてウェイターの娘さんはこの雰囲気に

困惑しながら、キョロキョロとブラックたちのテーブルを気にしている。




「・・・その範囲に俺たちは入っているか?」


「・・・・・・。」




少々顔の赤いグリーンの一言にブラックは黙り込んでしまった。雰囲気がグッと重くなり、

厨房の皿洗いの音も止まる。そしてあからさまにテーブルを見てしまうおばさんと娘さんを

おじさんが注意して止めさせるが、当の本人もかなり気になっているようで、包丁の手入れを

しているのだが、その手つきは非常にぎこちない。




「これは、オレ個人の問題だ。」




そうブラックが言い放つと、場は一気に重く張り詰めた雰囲気になった。





「お前たちにこれ以上迷惑はかけられないから・・・・・・」





無理矢理作ったであろう笑顔が痛々しい。親友2人は目を瞑って彼から視線を外す。

それを見たブラックは、これが当然の反応だと思って親友たちから視線を外して下を向いた・・・。









「それとですね・・・」


医者はまだまだ話を続けた。あの運命を告げておいてまだ話すことがあるのだろうか。

あの運命ならば、別に何がどうなろうと結末は変わらないはずだ。何も知らずに運命に従ったほうがいい。




「診断書はもう回してありますから、このあとすぐに精神科へと行ってください。」


「・・・精神科?」




かなり間をおいて返事をした。自分には永遠に関係ないと思っていたその言葉。

ブラックは首をかしげ耳を疑った。何度も何度も医者に聞き返したが、医者の言葉は変わることは無かった。










 視線を外し合う3人。重い雰囲気を何とかしたい娘は、水でも持っていこうかと思ったのだが

それさえもやりづらい雰囲気。コップに水を汲んだのはよかったが、足がそこへと向かわない。

結局、一家揃って3人の様子を固唾を呑んで見守るしかなかった・・・




「そうか・・・じゃあ、お前が迷惑をかけられないなら、こっちが迷惑をかけよう。」




目を開いたグリーンがブラックを見つめてそう言うと、ブルーも同じようにブラックの方を見て

その意見に賛同しているといわんばかりの真っ直ぐで熱い視線を送る。

だが彼女の場合は、その性格から“それ、おもしろそうね?”のノリの方が強いような気がする。



 これが、長い間実行されなかった2人の親友の決意。あの“事件”の時から思い続けていた事

それがこの熱き友情の決意。すれ違い続けていたのは男と女の“想い”だけではない。

今のこの時まで友を想う“想い”もすれ違い続けていた・・・彼が、ブラックが自らの罪の意識の為に、

親友たちを遠ざけていたのがそもそもの原因で、それは・・・

彼が友情という“絆”を心の奥底から信頼していない証拠でもあった。




「何、言ってんだグリーン?」




本当に言葉の意味が、真意が解せない様子のブラック。すると今度はブルーが話し出す・・・





「・・・今のあなたは、どの瞬間に鬱病を発症するかわからないくらい危険な状態です。」

「お、オレが? う、鬱病???」






 「そうよねー、私たちもケガとかしてるわけだし。・・・別にいいわよね?」




彼女の性格らしい言葉も、今の雰囲気では痛い言葉だ。最後に付け加えるように言った一言以外は、

完全にナイフのような鋭さを持っていた。本当に心に刺さる音が聞こえてきそうなほどだ。





「今はまだ、気を張って頑張れる目標や目的があるからいいですが、それがなくなった瞬間に、

 または、今以上の重圧が加われば、どんなにあなたが強い精神力をお持ちでも、根性があっても

 間違いなくあなたの心は崩壊し、生きる気力が失われ、重度の鬱病を発症します・・・」







「そう、だよな・・・・・・好きにしてくれ。」
「じゃあ決まりだな。」




その言葉を待っていたと言わんばかりに、グリーンは即座に言葉を返す。

どうやら、ここまでの流れは全て親友2人が作り出したもののようで、その流れに完全に乗せられたようだ。

おそらくこの店で話すことも、話の腰を折ったりするのも全て計算の内。

その計算高い策から、ブルーが今夜のセッティングを全てしたのだろうと理解した。

あのグリーンがここまでの手の込んだことをバトル以外で考えて、実行するとはとても思えない。






「精密検査をしてみないとわかりませんが、最近、あなたの脳は大量の興奮物質を放出したんです」






「・・・お前の問題は俺達の問題だ。力になる」

「だから、これはオレ個人の問題で!」






「あなたが最近よく眠れてますか? 眠れていないとしたら・・・それは未だにその時の興奮物質の

  生成速度が適正な速度に減速していなくて常に、興奮、覚醒状態が続いているのです・・・」









「言ったはずだ“迷惑”をかけるとな。これも列記とした“迷惑”だ・・・“おせっかい”っていう名のな。」
「アンタの十八番でしょ。今まで散々やってきたことじゃない。」


「・・・・・・ッ!!」


頭のてっぺんから両足の指先にまで凄まじい雷がはしる衝撃。その衝撃の為か目からポロポロと

大粒の涙がこぼれた。深い深い感動が衝撃となって彼の心を震わせた。



・・・純粋に嬉しかった。












「あなたはその状態に慣れてしまっているので、自覚できていないようですが・・・

    あなたのその生成量は・・・普通の人間ならとっくに発狂していてもおかしくない量なんです。」







「生成自体がピタッと止まれば、それがきっかけとなって今までの反動としても重度の鬱病が発症します。」







「しかし・・・残念なことに、たとえ緩やかに生成速度が減速していっても、徐々にその反動が現れて

         結果的にあなたは鬱病は発症します。これは間違いありません・・・」














 「・・・悪ィ・・・ちょっと、トイレ。」


男がこんな時にトイレに行くのは、涙を見せない為だ。親友2人の言葉が純粋に嬉しかったのだ。

心の奥底にある何か重く苦しいものが、確実に無くなっていく感覚をブラックは味わった。

トイレに泣きに行った彼を見送る親友2人は、向かい合うとお互いにクスリと柔らかく笑うと、

店内の雰囲気は一気に明るくなって、ホッと全員が胸を撫で下ろした・・・













 精神科の医者はいい例えをしてくれた。薬物中毒者の例えだ。





「いいですか? 元々、薬物中毒者というのは、脳内物資の異常生成による精神状態の変化を快楽としています。

あなたの興奮物質の大量生成状態は、俗に言うアッパー系の薬物を乱用した人間に見られる状態なんです。

そして今のあなたはほぼ常時大量の興奮物質が生成、作用されている状態で・・・・・・つまり、

常に大量の薬物を乱用している状態と何ら変わりはありません。


・・・そうなると、あなたが薬物中毒者と同じ症状になることは確実です・・・」






精神科の医者は“重度の鬱病”と言っていたが、それはまだまだオブラートに包んだ表現であり、

実際は・・・精神、人格崩壊という結果になるようだ。コレに関しては、記憶の片隅で自覚しているので

やはりこの医者の話には信憑性がある。





「あなたの病気とは、精神科医としても向き合うつもりですが・・・それ以上に、脳神経外科の力が必要です。

      おそらくですが、物理的な問題がこうして精神的な問題に繋がっている可能性がありますので・・・」





“脳神経外科”・・・つまりは、手術の必要があるということだ。カウンセリング程度では根治することは不可能。

この精神科の医者は遠回しにそう言っているのだ。





 “第四段階”の、そして“限界超越”の副作用・・・大きな力を揮うには、それだけ大きな代償が必ず存在する。


(ブラックの“究極連携”も大きな力。最大レベルの集中時に、ポケモンと一心同体、また一身同体になり

よりトレーナーとポケモンが密接に結ばれた力強い戦闘を可能とさせるが、その代償として、

心と身体を共有するが故に同じダメージを共有してしまう。また、最大レベルの集中を必要とする。


今まで、強大な力を揮ってきたブラック。その代償が今こうして彼の精神と肉体に返ってきたのだ・・・・・・












 「ただいま〜♪」



酒が回っているので随分と陽気な声が出た。冒頭でやさぐれていた男と同一人物とは思えない。




「居るなら返事くらいしてくれ。 ・・・心配するだろ? それとももう寝てた??」

「・・・・・・酒臭い」




部屋の明かりがポワッと優しく点くと、軽く暖房の効いた居間が照らし出され、2人掛けのソファで

クッションを抱きしめながら、チョコンと小さく体育座りをしているピンクがブラックの視界に入った。

ピンクの茶色い髪の毛はくしゃくしゃになっていたので、予想通り今まで寝ていたようだ。

 寝ていたところを起こしてしまったことに対する罪悪感が湧いてくると、自分は立ったままの状態、

ピンクはソファに座り、クッションを抱きしめたままの状態で、特に目を合わせる訳でもなく

2人の会話は始まった・・・




「あれ、酒ダメ?」
「・・・そういう問題じゃない。」


「じゃあどういう問題?」
「・・・殺す」
「だから、殺されないって」
「・・・もう寝る。」




ふざけながらも積極的に話題を持ちかけるブラックだが、ピンクはそれをほとんど流してしまう。

ブラックとこれから会話する、という意思は毛頭無いようで、ソファから立ち上がるとクッションを

ソファに投げつけ、ブラックに背を向けると、本来の自分の寝床であるブラックのベットがある部屋、

即ち、ブラックの自室へと向かう・・・




「明日から仕事行くけどさ、ちゃんと家に居てくれよ。」




ブラックの言葉を無視して、居間から廊下へと繋がるドアを開けてさっさと廊下へと出てしまう。

そんなピンクの態度に少々ムッとしながらも、声色や口調を変化させずにピンクに呼びかけた。




「あとさ、帰り遅くなるけど・・・・・・どこか店やってたらさ、服、買い行こうぜ!!」




心の荷が少しは下りた今、その雰囲気はとても明るく、“レッド”であった頃とほとんど変わらない。

しかしそんな変化を気にすることなく、寝室のドアはバタリと閉められて、ガチャリと鍵が閉められた。

静かな屋内ではそんな音が鮮明に聞こえる。











「はぁ・・・・・・。」


真っ暗な部屋にため息一つ。寝巻きに着替えるわけでもなく、ネクタイやボタンを外して、衣服の締め付けを

緩めると、そのままぐったりと居間のソファで寝る。これが今のブラックの睡眠方法だ。ただ、このままでは

寝難いのでピンクが抱きしめていたクッションを枕にする・・・のだが、今日はいつもと(といってもまだ1週間だが)違い

彼女の、ピンクの、女性の、“女”の匂いを強烈に感じた。





(「真面目に語っちゃってるけど、“意識”はしないの?」)





脳裏にそんな言葉が蘇る。親友2人、特にブルーが決意を伝える為に用意した言葉だろうが、どうにも的を射ている。

改めて彼女の才には驚いてしまう・・・あれを嫁に貰うグリーンが少々不憫に思うのだが・・・

そんなことを思いながら、そして悶々としながらも、マサラの夜が更けていった・・・・・・









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