AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する



戦闘能力は新たなる“段階”へ・・・死闘の果てに雨は止むか・・・・・・



 ここは黒傘のあの男の部下たちが、マサラ郊外に設営した野営。

深緑色をした野営用の大きなテントの中ある組み立て式のベットの上には

それなりの処置を受けた傷だらけの人間たちが眠っている。



大げさというほどに巻かれた包帯と薬を塗った跡と点滴。

準備のよさからこの野営が、こうなることを想定して準備されたものだと解る。

そしてベットとベットの間を忙しなく動く白衣の男たち。

この人間たちは、あの黒い傘のあの男の部下たちの一部で、ポケモン協会の職員。

その証拠に胸にはポケモン協会のマークがついた名札を全員つけている。

しかし周りを見渡してみると、テントのタグやベット、点滴の薬まで

ありとあらゆる全てのものにその協会のマークはつけられていた。





テントベットには治療を受けて眠る7人の男女・・・

雨音が異様にうるさいテントの中で、1人の女の手がピクリと動いた。
















 PAS Chapter3 第25話 さらなる高みへ− To the next phase −
















 延々と降り続ける大粒の雨と、ひっきりなしに轟き続ける雷。どちらも結構な時間続いてい

のに、一向に衰退の気配を見せない。これもこの雷雨を呼んだ張本人であるアルトの“神”の

力だろうか。2人の戦闘が始まってからずっと降り続けるこの雨と、轟く雷鳴は、いつの間に

か気にならなくなっていた。集中がそうさせているのかもしれないが、それ以上に戦闘時間が

結構なものになっているからだろう。お互いに身体にダメージを受けて、形式上は振り出しに

戻った2人の戦い。だが、精神状態において優劣は既に決まっていた。



「・・・[聖剣]は・・・・・・」



アルトは痛みをこらえながら両手でボールを捌き、片方のボールにおそらくもう助からないで

あろうギャラドスを戻してあげると、もう片方のボールを地面に向かって軽く投げる。着地し

たボールが一瞬光を放つと、ボールからはいつくしみポケモン ミロカロスが再び姿を現す。

ただ、今度のミロカロスは少々様子が違う。全身から深い青色をしたオーラが微弱ながら目視

できる。しかし、いつ、どこでアルトはミロカロスに力を付与したというのか。




「もう一振りある!!!」




熱がこもったアルトの声からは、今までの冷めた、いや、“おだやか”だった時とは明らかに

違う何かを感じ取れた。今のアルトの心理状態は“激流”・・・感情と意思は鉄砲水のように

勢いよく、そして激しい。含みのあるような、呟くような気取ったしゃべりもやめたようで、

ブラックはアルトの心の奥底にあった熱い感情を呼び覚ましてしまったようだ。




「とっくに気付いてる!!!」




“ウェポン”発動時に生じたあの怪しげな深い青色のオーラが、場に出ていたギャラドスだけ

でなく、ボールの中にいたポケモンにも確実に影響を与えていたようだ。そう、ミロカロスは

アルトがギャラドスに[エクスカリバー]の力を付与させた時、合掌された両手に挟まれていた

ボールの中に居たポケモン。ボールホルダーのボールにはオーラの影響は無かったが、両手で

挟まれてオーラを受けていたのだから、ミロカロスは吸水さえ済ませれば、すぐさま聖剣抜刀

が可能。ブラックの同調のフィールドがボール内部にも有効だったように、アルトのオーラも

ボール内部に有効だったようだ。




「[エクスカリバー]!!!」




姿を現したミロカロスは、主人のすぐ傍に着地と同時に地面の水分と大気中の水分を急速吸収

して「
」のエネルギーをビー玉大に一気に圧縮する。圧縮された水の塊は、ミロカロスの口

元付近で怪しげに輝きながら浮いており、主人からの号令を受けたら即座に斬撃できるように

待ち構えている。ここまでの一連の流れは非常にスムーズで、行動に躊躇いを感じ取れない。

そしてかけられた号令と同時に、水の刃が宙を走った。




(零距離で?!)




完全に意表を突かれたブラック。丁度自分の顔半分の高さくらいの空間が、真一文字に水の刃

で切断される。幸い後ろいるポケモンたちには被害が無かったようで、水の刃のは地面に深い

溝を一瞬のうちに作り出した。だが辛うじてしゃがんで難を逃れる。これも集中状態の賜物。

感覚がかなり研ぎ澄まされているので、相手の攻撃を見の判断ではなく、ある程度の行動予測

と予感で攻撃が回避できる。実際、攻撃を見ての回避だったら、この距離で音速の水の刃を見

てから回避行動に出る前に顔がスパッと切断され、間違いなく絶命した。



「むぅっ!!」



思わずアルトは唸った。至近距離で放った[エクスカリバー]が外れたことよりも、ブラックが

しゃがんだ体勢からこちらに向かって突っ込んできたことが原因。あわよくば、いや、確実に

そう。始めからこれが狙い。攻撃を後ろに下がって回避するのでは永遠に開かれることはない

活路を自ら前に出て、攻撃に対して前進して活路を開く。おそらく、今までもそうだったのだ

ろう。守っての思考よりも、攻めて活路を開くタイプ・・・それもそうだが[エクスカリバー]

の有効範囲も確実に頭に入っている。この“ウェポン”は、懐に入られたり、または密着され

たりに非常に弱い。誤って自分自身を切断しかねないからだ。




「ミロカロス!!」
「“
つばさでうつ”!!!」




両肩をガッシリ掴んでいる背中のプテラの翼を、まるで2刀の剣のようにして。一匹の戦鬼は

果敢に“神”目掛けて切り込むも、慈しみの水龍がその攻撃を身体で受け止める。その巨体に

翼の一撃は大したダメージになってはいないようで、その手ごたえにブラックは舌打ちして、

折角詰めた距離をバックステップで素早く後退。だが瞳の黒には、尽き果てない闘志と、湧き

始めた殺意が。これは間違いなく何かしてくる・・・その直感にアルトは“
れいとうビーム

の号令をミロカロスに掛けて、流れに乗り始めるブラックを牽制する。



「ちッ!」



舌打ちと同時に、ブラックは今度は横っ飛びで“
れいとうビーム”を回避する。ミロカロスの

撃ったその青白い光線は、しゃくりあげるように下から上へと撃たれ、光線が接触した地面を

ガチガチと凍りつかせた。





「雨は、エネルギー源だけではない!!!」





れいとうビーム”を放つミロカロスはアルトの指示通り動いて、雨を上空で凍りつかせる。

横に逃げるブラックの真上を狙い、青白い光線は雨を凍りつかせて雹を作り出す。作り出され

る雹は、回りの雨とも結合して握り拳大にまで大きくなると、複数個いっぺんに落ち始めた。

バラバラと落ちてくる雹にブラックは気付かず、崩れる体勢を直す。その間にも、彼の頭上に

は握り拳大の氷の塊がたくさん落ちてくる。このままだと、頭部に直撃しかねない。





「“
10まんボルト”」





瞬間、破裂音と閃光がバッと起こり、ブラックの頭上付近に接近していた複数の雹が全て消滅。

今の今までブラックの胸にしがみついていたピカチュウのピカが、一仕事終えて彼の肩、プテの

足の上にピョコンと着地する。気付いていないはずの雹も、ブラック、彼自身が気付かなくても

“究極連携”で意識や感覚を共有する今、プテとピカの視界から得られる情報で雹の脅威を感知

できたのだ。この一連の流れでアルトは相当渋い表情を浮かべる。




「殺れないよ、そんな“ちゃち”なモンじゃ。」


「認識不足・・・と、いうことか。」





“いつ死んでもおかしくない”・・・そんな雰囲気と現実が彼の心をひたすら煽り続けていた。

脳内では次々と興奮物質が作り出されて、興奮が限界にまで上り詰める。その証拠に、彼の目は

血走り、闘志に満ちているのに虚ろ。その目は完全に一線を越えた人間の目、何か世界が違う。

もう一種の変態寸前、変態とは紙一重の差。危機や危険が心を煽り、煽られた心はその代償に、

超人的集中力と極限の興奮を与えた。




 (コレ・・・“きた”な・・・・・・・)





いつかどこかで体験したその感覚。今、確実にブラックは身体の隅々で“それ”を感じ取った。

一度静かに両目を閉じて、大きく深呼吸して両目を開くと、アルトの隣にもう1人のアルトが出

現した。これはアルトが今の隙にやったことではなく、ブラック自身にしか見えない“”で、

その“”はブラックに“これからのアルト”を見せる。




(ボールからキングドラを呼び出して、精密射撃で肩を狙い、ピカとプテの足を封じる・・・)




”の見せた“これからのアルト”は、そうやってブラックを狙う。ブラックは意思でプテに

指示を出すと、攻撃先を的確に指定した。こうしてブラックが動きを止めている今がチャンスと

アルトは腰のボールホルダーからボールを1つ取り出して、地面に向かって軽く投げる。そして

そのボールが着地して中のポケモンが呼び出される直前、ブラックの意思を受けたプテの口から

放たれた閃光がボールを完全に破壊した。呼び出されるはずだったキングドラは、その不意打ち

に完全にやられて一撃で戦闘不能になってしまった。





 (ボールを・・・!!!)





驚愕するアルトと仲間を心配そうに見つめるミロカロス。ブラックはその結果をただ見ている。

偶然ではない。完全にブラックには“これからのアルト”が見えていた。それも“”として、

明確なヴィジョンとしてそれが見えている。これが、あの黒服の男にブラックが仕込まれた力。

極限の集中と興奮、戦う者としての才能、そして数多の戦闘経験が有って初めて可能となる力。

それは“戦い”においての超先見予測能力。未来予測とまではいかないが、究極の先読み能力。

そしてこのレベルの状態や現象を引き起こすには、精神的通過点をいくつか超えなければならず

そう簡単に引き起こることではない。




人間として普通の状態(興奮:普通 集中:普通)を一。

いわゆる火事場の馬鹿力状態(興奮:最大 集中:最小)を二。

究極連携”などの状態を可能とさせる、超集中状態(興奮:最小 集中:最大)を三。

(ただしブラックは、追い詰められてから=興奮してから集中を引き出す傾向がある。)


2と3の状態が複合して存在する状態(興奮、集中:最大)を四としてこの言葉をもって表す。




・・・“段階フェイズ












 (これからのヤツの動きが、一挙一動全部解る!!!)




ブラックは“第四段階フェイズ4”で自分の持っていた才能や情報を元に、相手の全ての動きや戦闘の展開

を明確なヴィジョンとして自由自在に描き、見る力を覚醒させた。型破りな相手も、それまでの

間に相手の動きや能力を測りそれを元にそれを実行する。こうして文字にしてみると凄そうな力

なのだが、実際のところこの力を持ち合わせるものは数多い。囲碁や将棋のような卓上でのやり

取りの競技から、スポーツや格闘技の世界まで。熟練した駆け引きのプロならこの力を用いて、

または使いこなして優秀な成績をのこした者は数多い。ブラックの場合は、ポケモンバトルや、

そしてそれを利用した決闘、殺し合いに対して向けられたというだけのこと。ただし“”とし

てそれが見えるほどその力は強力で、“先読み”程度の言葉では到底収まらない程の力なのだ。





 (合理的に出来ていますね・・・自ら作り上げたのだとしたら、素晴らしい・・・・・・)


離れて観戦する黒い傘のあの男は、この場でたった一人、ブラックのシステムを理解していた。

死しても立ち上がってくる“ねばり”が発動する頃は、必然的に、生死に関わるほどに追い詰め

られているということ。そうなればブラックの“追い詰められる程強くなる”が自然と発動し、

死という最大級の追い詰めで最大級の興奮が起こり、最大の集中と、最大の興奮を同時に得る。



加えて、数多の戦闘経験を“技”、極限の集中状態を“体”、狂気の完全開放を“心”として、

彼には戦闘における基礎が、戦士としての基礎が究極レベルで備わっている。究極レベルの基礎

が存在することによって、彼は自由自在に、そして先を見た戦闘を行えるようになるのだ。



一切の無駄が無い戦鬼としての覚醒システムに加えて、究極レベルの“心”、“技”、“体”。

ただ、これほどにまでに完璧なシステムを完成させたのはブラック本人ではなくあの黒服の男。

あの事件の時、もしこの力が完全に覚醒しきっていたら・・・・・考えるだけで悪寒がはしる。








 “追い詰められる程強くなる”・・・自身の危機や、仲間の危機を己の武器と力とする能力。

数多の悪が、そして戦士が彼にに挑み、敗北していった理由がコレである。先天的に在った才で

あの黒服の男が見出し、そして最も惚れこんだ能力。“ねばり”と“爆発力”の正体でもある。


非常に感情的な力で、理で引き出すことは絶対に出来ない。それをあの事件が起こる前に黒服の

男が“永遠に続く戦い”で完全に覚醒させたのだ。その力の真実は今は明かされることは無いが

その力の正体を知る時はそう遠くない未来の話である。










 (ポケモンをもう一体場に出したいが・・・)


アルトは動きを止めているブラックを観察しながら、思考通り、さり気なくボールホルダーに手

を回してみたが、先程のことを考え、今も足元で倒れたままのキングドラを見ると、その行動は

自然と止まる。どうにかミロカロスと一緒に隙を作り出して、ポケモンを呼び出すチャンスか、

または[エクスカリバー]を決められる完全な隙が必要だ。



 隙を作る為の策を練る・・・この動作の瞬間も、ブラックの“超先見予測”の“影”には映し

出されている。ここがチャンス、そう思ったブラックは再びプテの翼で低空をピカと共に駆けて

先程後退してしまった分の距離を詰める。この時も、立つこともできないはずの全身の痛みや、

だくりゅう”にのまれた時の目の痛みがまだ残っているはずなのだが、今の彼に、“痛み”と

いうもの全く無かった。なぜなら、極度の興奮が痛みを完全に麻痺させてしまっているからだ。

現在のブラックは、完全に殺しきられる以外で、止める術は一切存在しない。











「“
かみなり”!!!」





一気に詰まったアルトとの距離。それを迎え撃つようにミロカロスは天から“
かみなり”を落と

す。この雨の天候では、“
かみなり”は必中技へと変化する。アルトもこういう戦い方をある

程度想定したメンバーを手持ちとしているようだ。だが・・・



「“
10まんボルト”!」



何を狙うわけでもなく、ただの放電。意味もなく破裂音と同時に放電の閃光が視界を一瞬奪うと

ブラックに向けて放たれたはずの“
かみなり”は、ピカの身体に落ちた。それもそのはず、ピカ

の身体はブラックの頭上よりも高い位置の宙に在るだけでなく、周囲よりも10万ボルト分電位

が低い。宙に浮いているのに、地上よりも10万ボルト電位が低いということは、電気にとって

そこが最も電位が低い地点であり、電流が最も通りやすく、“
かみなり”が落ちやすい地点だ。





「“
じゅうでん”も一緒にさせてもらったぜ? “かみなり”は直流だからな。」





一般家庭の交流の電気は、時間でプラスとマイナスが変化する電気で一定の極を得られないので

充電することは出来ないが、時間がいくらたっても極性の変化しない直流ならば充電は可能だ。

(携帯電話等の充電器は、交流の電気を直流に変換して充電している。)



 一見、ポケモンがやった技術にしか過ぎず、ブラックの力など何も加わっていないように思え

るがそうではない。“究極連携”状態ではポケモンはブラックの意思のままに動くので、超瞬間

的な技の切り替えや技の強弱さえも可能とさせる。この“
かみなり”の“じゅうでん”も、ブラックが

ピカにやらせたことなのだ。それだけの知恵と知識と理解が、ポケモンバトルには必要とされる。


ちなみに今の彼なら、同じようにピカに“
かみなり”を撃たせたとしても、その一撃で蟻一匹殺さないこともできる。

(「
電気」のダメージは電流と、その流れた時間によって変化するので、それは可能である)




「お前のポケモンは「
」タイプが多いんだよな?」




意味深な笑みを浮かべて、ブラックはアルトを血走った黒い瞳の両目で見つめた。その一撃への

確信が溢れかえっているのだ。アルトはその笑みにかなり厳しい表情を浮かべている。この一撃

電気」の一撃をどうにかする為にアルトの手持ちにはヌオーやキングドラといった、「電気

を弱点としない「
」ポケモンが手持ちに含まれている。だがそうしても、「電気」の一撃は、

」タイプ使いにとっては脅威の一言だった。


 “
じゅうでん”したピカが、その「電気」のエネルギーをもって高圧の一撃を繰り出す。

逆転の雷撃が今・・・!!














  「“神水壁じんすいへき”」










興奮を感じさせない落ち着いた声がすると、雷撃が到達する前にミロカロスは水のバリアを出現

させた。水のバリアはミロカロスを中心にドーム状に広がり、自身とアルトの身体を守りきる。

ピカが放った高圧の電撃の一撃は、出現した水の壁を伝って地面に落ちていった。







(「
電気」が効かない・・・!!!)







“「
」ポケモンに「電気」が効かない”・・・常識を覆すこの結果には流石のブラックも、顔が引きつる。

早くも、ブラックの予期せぬ出来事が起こり、自分の“超先見予測”を早々と打ち砕いた。

ここまでの流れは間違いなく完璧に読みきって、“影”として彼には見えていただろう。そしてこの

顔の引きつた一瞬、アルトの望み通りに、ブラックに隙が生まれた・・・・・・





 “神水壁”・・・水の壁をドーム状に作り出しているに過ぎない技なのだが、その水が少々違う。

本来「
」ポケモンの放つ「」エネルギーや、「」そのものには何かしら必ず不純物が含ま

れていて、その不純物が「
電気」を嫌でも通してしまう。これは物理的にそうなのだからどうし

ようもない。だが不純物を全く、または殆ど含まないと、水は「
電気」を殆ど通すことが無い。

そうなった水はその名を“純水”に変える。どうやら、その“純水”=“神水”のようである。

純水は絶縁物。普通の水の軽く1000倍以上の電気抵抗をもち、電気が通らない物質となる。

その方法は謎だが、純水を一瞬のうちに作り出せるのは、やはり“現神”であるが、“神”だ。

そう、“神”だから、“人”ではない“神”の成せる技なのだ。





しかし、こうして“神水壁”をこのタイミングで見せたということは、アルトには既に起死回生

の電撃攻撃など想定内だったことが解る。だからこうして“神水壁”で今、身を守る。









 「聖剣解放・・・!!!」






今までにない言葉を呟くアルト。この言葉を言い終える頃には、ブラックの頭上にはミロカロス

の頭があり、既に水を吸水、そしてビー玉大の球状に圧縮してあった。思えば、“影”を見てい

た時や、ここまで仕掛ける間に十分と水を吸水するチャンスはあったのだ。だから一瞬の内に、

こうして水を吸水することも可能だった訳だ。



(水圧を変化させれば、ただの水撃にもなるのか・・・!!)



一瞬見えた宙に浮かぶ大きく広い水の塊に、冷や汗が全身から流れ出たような感覚に襲われた。

[エクスカリバー]の原理がウォーターカッターで、しかも圧縮した水を撃ち出しているのなら、

こうして水撃になるのだ。ただし、圧縮した水を開放した場合、全てを切り裂く速度を得るには

相当な量の水が必要で、バケツや幼児用のビニールプール等では追いつかない量の水が、一気に

開放されるのである。その重さは、軽く1トン以上にはなるのだろうか。






「“水槌すいつい”」






推定重量1トンを超える莫大な量の水をダイレクトにその身に受けた。ブラックは水の塊に簡単

に押し潰される。その衝撃は凄まじく、全身の骨に細かいひびが入り、粉砕寸前。さらには内臓

や他の器官全てが強烈な水による圧迫で破裂しそうになる。この一撃が直撃する寸前に、プテと

ピカを身体から離れさせたので、2匹に被害は無かったが、彼自身はどうしようもなかった。

ブラックの意識は完全にとんだ。・・・その証拠に両目は白目を向いている。







「・・・終わりだ。」








今度こその決着にアルトはそう呟くと、ミロカロスと倒れているキングドラをボールに戻した。

そして、小さいが非常に深い池の出来た自分の背後に、プカプカと浮かぶブラックを一度見ると

もう立ち上がることは無いだろうと確信した。ブラックは間違いなくそこで死んでいる。






「神に楯突くまではいけませんでしたか・・・」






黒い傘のあの男はとっても残念そうに呟いた。彼の目にも、間違いなくブラックの死が映った。

親友たちもただ呆然と、ここまでの殺し合いを見ることしか出来なかった。





 所詮、ブラックは“人間”。戦鬼であろうが、“現神”ではあるが“神”の前では1人の人間

にしか過ぎない。“第四段階”も所詮は“人間”の世界での話、“人間”基準では、“神”には


遠く及ばず、ブラック最後の反撃はこれで確実に終わった。

今度こそ“神”が息の根を止めたのだから。








 降り続ける雨を、即席で出来た深い池の水面で浮かびながら背中で浴びる。

それは間違いなくブラックの死、1人の人間の死を意味していた・・・・・・









●ブラックVSアルト○
決まり手・・・ミロカロス・“神水壁”で電撃無効化→“水槌








to be continued......







topへ・・・




























































 ・・・・・・だが戦いは終わらない。いや、既に“戦い”は終わりを告げたのかもしれない。




(奴は・・・不死身か?!)




視界が暗転するほどの異常事態が、自分の背後で起こっている。その証拠に、耳は池から這い

上がるブラックの音をこの雷雨の中はっきりと捉えている。この時、背筋にはしった悪寒は、

恐怖映画を見た時など比べ物にならず、恐怖以上に、異常を感じ取っていた。




あの一撃を受けたはずのブラックが、ユラリと、音も無く静かに立ち上がる・・・。





(・・・・・・。)





心が静かにその機能を停止して、感情と本能が理性を全て奪い去った。しかし、それでも続く

静寂が逆に妙で、さらなる恐怖と異常をアルトに感じ取らせる。



 思い起こせばどんな憎悪を抱かれた時も、命に関わる決闘も、ブラックは“トレーナー”と

して戦い続けてきた。それは彼の誇りでもあり、最低限のマナーや配慮でもあった。それでも

今までの戦闘や決闘ではかなりの数の死者たちがでている、しかしそれは全て結果としてそう

なったに過ぎなかった。自分は積極的に手を汚していない。本当の意味での“殺し合い”など

できてはいない・・・。しかし、今のブラックはそこまでのことを考えてはいないし、考える

こともできない。



 今以上の狂気を持って“トレーナー”の枠を、“人”の枠を超えなければ勝利、殺すことは

できない。“段階”も、戦闘以上決闘以下の戦いを想定しているに過ぎないのだから・・・。














「グゥゥゥァァァァーーーーーーーー!!」











獣に酷似した、戦慄の咆哮。狂気が“トレーナー”の枠を、人間の理性の枠を超えた瞬間だ。



(あらあら、“限界超越オーバーリミット”しましたか・・・これは、もう止められませんね。)



黒い傘のあの男は、ただ冷静にその様子を観察する。その間親友たちはただ怯え続けていた。



 ただでさえも極度の興奮と集中状態なのに、アルトはブラックを再び“殺してしまった”。

それによって今度は、人が生きようとする本能、即ち生存本能と、外敵から身を守ろうとする

防衛本能、さらには危険を排除する闘争本能が一気に目覚めてしまった。これによって脳内で

は今までの数十倍の興奮物質が生成、作用されて、ブラックの脳内から理性を完全に忘却させ

てしまったのだ。今のブラックはただ本能と感情に忠実に“生きる為に目の前の外敵を殺す”



 この本能は普通、“火事場の馬鹿力”、即ち“第二段階フェイズ2”として呼び起こされることが多い

のだが、既にそれ以上の“第四段階”の状態でいたブラックは、“第二段階”の最大の興奮を

現在の状態にさらに得てしまい、“追い詰められる程強くなる”性質が最大の集中をも呼ぶ。

こうなる“段階”も“第四段階”を超えた“段階”となり、ブラックには、いや、“人”には

制動できず、こうして自分自身を失ってしまう結果となった。



これが、“限界超越”・・・“オーバーリミット”。

より高い“段階”の世界へと踏み入れば踏み入るほど、“オーバーリミット”の危険が伴う。





限界超越オーバーリミット”は人間の興奮と集中が限界を振り切った状態。神経伝達物質、いわゆる

脳内麻薬が短時間で莫大な量生成、作用される。そうしてそれの作用が長時間続けば、脳細胞

や血管を破壊して、生命に関わる。加えて脳細胞の破壊は人格崩壊につながり、精神を失う。

さらには、その狂気が社会的なものさえも奪い去ってしまう。死人となるか、廃人となるか。

または孤独になるのか。この状態になってしまうと殆どデメリットしかない。だがその反面、

どんな残忍な手口でも、必ずといっていいほど相手を殺せるほどの力を得ることができる。











「・・・恐るべき執念!」



アルトはブラックの方へと振り向くと、ボールホルダーから再びミロカロスを呼び出す。その

瞳はもはや尊敬の念さえも持っていた。しかし、それは同時にブラックのことを“人”として

自分のことを“神”として、ブラックを見下している気があった。






「グァァ!!!」





自分自身を失ったブラックは、人と思えぬほどの跳躍と素早さを見せて、一気にアルトの懐に

まで接近すると、不意を突かれたアルトの頭を両手でガッチリと固定した。そして・・・





「「・・・“
ずつき”!!」」





親友たちの声が重なる。その通りポケモンの技ならそうなり、人の技で呼べばヘッドバット。

感情が昂りきっている今の彼に最も似合う技。鈍い音が2人の頭に同時に響くと、気圧されて

いるアルトは完全に怯んだ。ただこの額を合わせたこの瞬間、アルトは何かを感じとった。




(この男・・・まさか・・・・・・!!)




“神”として何かに気付く。そしてこの直感が正しければ、この戦いの決着には納得がいく。

その気付きに意識を向けてしまったアルトは、ブラックにとって隙だらけの存在でしかない。

ブラックはこのチャンスを逃さないといわんばかりにアルトの着ている甚平の胸の部分を思い

切り掴むと、自分の方へと力強く引き寄せる。この間に、“同調”を通して伝わった指示通り

にフッシーが蔓を伸ばしながらブラックに近づき、そしてその頭の上にピカが乗った。怯んだ

ままのアルトの左腕を余った手で掴むが、アルトも“現神”、“神”の力を持つ“人間”だ。




 アルトの“人間”としての生存本能と闘争本能に火がついた。“やられてたまるか”の意思

で反撃を試みようとするも、その動きは、完全にブラックに察知されており、逆にもう一撃、

額にヘッドバットの強烈な一撃を受けることになった。アルトの額から鮮血が噴出す・・・












 そんなアルトの動きは、ブラックの先読みでは完全に想定内の“人”の行動でしかなかった。

“神”が“人”に戻ったこの一瞬、いや、ブラックのこの暴走が、“神”を“人”にしたのだ。

超えることは出来なかったが、引き摺り下ろすことは出来た。それだけで十分、どう頑張っても

“人”に“神”を超えることは出来ないのだから・・・・・・








・・・そして本当の決着の時が来た。

















  “
ずつき”でヘロヘロのアルトをミロカロスの方へと回転の力を利用して、ロープスルーの

ような形で投げ渡すと、アルトは半ば強制的に泥の地面をヨタヨタ走らされて、ミロカロスに

ぶつかった。そうしてバランスを崩しているアルトの四肢を、駆けつけてきたフッシーが、伸ばして

いた4本の蔓で完全に拘束する。もう動けない、さらには残りの蔓がアルトとミロカロスに巻き

つき、2人を1つに纏め上げた。ミロカロスは“
れいとうビーム”で反撃を試みよるが、それを

読んでいたといわんばかりに、“
れいとうビーム”を完全に相殺するような“はかいこうせん”が

飛んできたプテの口から放たれた。その間に、ブラックの至近距離に接近するフッシーと、その

頭上のピカは、各々、エネルギーを蓄え始める・・・。





 狂いきった戦鬼は、自らの手で撲殺するよりも、確実に殺せる方法に気付いてしまったのだ。

自らの状態を“究極連携”で共有させて、自分のポケモンたちも自分と同じような状態にある。

自分自身を制動できない状態での一撃・・・想像を絶する効果を引き出すに違いない。





 観戦している親友たちもそのブラックの行動にかなりの異常性と恐怖、いや、異常性に恐怖を

覚えている。今のブラック、レッドは“容赦のない”の比ではない。もう完全に相手を、確実に

殺すことを前提に行動している。躊躇いを忘却するのではない、躊躇いなどもう、存在しない。

限りなくゼロと全くのゼロでは大きく違うのだ、デジタルな発想ならば、“忘却”には躊躇いが

あるが、今の彼には皆無、いや、元々存在していないのでゼロ。





 そしてそれが解っていながら止められない。身体が動かないのも理由の一つだが、それ以前に

心が身体を動かさせない。今の彼に近づくことがどれだけ危険なのか、嫌でも理解してしまった






「あの動き・・・まさか!!」

「ウソでしょ・・・あの威力をあんな至近距離で浴びたら・・・・・・」







口から出るのはどうしようもない、力の無い言葉。これではあの事件の時と全く同じ。ただただ

“見ているだけ”・・・・・・







 「
」タイプに「電気」が効かないのなら、“「電気」が効かないのなら”・・・・・・

直接、その身体に“植えつける”だけ。・・・・・・あの時の戦いと同じ。










「「・・・“
サンダープラント”!!!」」










親友たちがその技の名を叫ぶと同時に、鮮やかなエメラルドの輝きを放つ光が、フッシーの背の

大輪の花から放たれた。その光は真っ直ぐに3メートルと離れていない距離にいる、動くことの

できないアルトとミロカロスに向けられて放たれた。エメラルドの光をその身に浴びたアルトは

一瞬にして観戦者とブラックの視界から消え去った・・・・・・





その数秒後、マサラ郊外で同色の閃光を放つエネルギーの爆発が起こった。

爆発の閃光を背中で受け止めるブラック・・・

逆光で真っ黒になった彼の姿に、人のようで人ではないように思えた。







しばらくして、雨は止んだ。







第26話へ・・・