2人の決闘、動き出す青年・・・決着が終わらせ、また始めさせる・・・
再び始まる彼女たちの決闘
まるで彼女たちはこうなることを理解していたように戦う。
それを止めることのできなかった青年・・・
後悔が青年を支配するのかと思いきや
青年には戦いの運命が待っていた・・・。
彼女たちの決闘の行方、そして青年の戦いの運命。
しかし、どちらの戦いも大きな運命の奔流の一部でしかない。
運命に流されて、弄ばれて
青年と彼女たちの流れ着く先は・・・・・・?
PAS Chapter3 第20話(後編) 決着、そして始まり
分厚く薄黒い雨雲が太陽の光を遮り始めたここ、マサラタウン。
その雲量は10となって、天気は晴れから曇りへと変化した。
もうじき、雨が降ってくることだろう・・・
(“誰”って直感的に感じたが・・・コレ、本当に“人”・・・か?)
雨雲と共に近づいてくるプレッシャーをいち早く感じ取るブラック。
いち早く気付いた為に、こうしたプレッシャーの“質”を冷静に分析できる。
“誰”と当初、人間のプレッシャーとして感じ取っていたブラックだが
どうやら“人”のようで“人”で無い、今までに感じ取ったことのないタイプのプレッシャー。
相手に自分の存在を伝えよう、相手に自分の思いを伝えよう、相手に自分を伝えよう・・・
“人”からくるプレッシャーが感情的で、その人間の心境や雰囲気によって左右されるもの。として
理解、また知識としてあったとすれば、今、ブラックが感じ取っているのは全く異質。
相手に自分の存在を知られないように、相手に自分の思いが解らないように、相手に自分が伝わらないように・・・
正反対、“人”のプレッシャーとは正反対、そして、プレッシャーというものの定義とも正反対。
それなのに相手にはプレッシャーで存在は知られ、思いが解り、自分が伝わる・・・
知られたくないのに知られ、解られたくないのに解られ、伝わりたくないのに伝わる。
知られるはずなのに知れれず、解られるはずなのに解られず、伝われるはずなのに伝われれず。
全く正反対の“質”をしながら、それは“人”のプレッシャーのように感情的でいて感情的でない。
矛盾・・・その存在自体の矛盾・・・・・・
今、この自分の故郷に迫るのは、この矛盾のプレッシャーを放つ存在・・・・・・
こんなプレッシャーを放つ“人”をブラックは知らない。
この存在を一言で表すなら、それは・・・・・・
「ドドすけ、“みだれづき”!!」
「ペルシアン、“みだれひっかき”!!」
ブラックは威勢のいい2人の女性の声に、思考の世界を引っ張り出された。
金髪のポニーテールを元気に揺らしながら、そして、三白眼の瞳がキョロキョロ動きながら。
彼女たちの決闘は研ぎ澄まされたものへと変化していく・・・
様々な方向から迫り来るドードリオのドドすけの3つ頭のくちばしを、見事な爪の斬撃で捌くペルシアン。
イエローとピンクの実力差を考えると、このままこの攻防は膠着せずにペルシアンが巻き返しを始めるはずだ。
「ペルシアン、テンポアップ!!」
案の定、そして予想通り。
ピンクの掛け声を聞いたペルシアンは、爪の動きをどんどん早めていく。
今までくちばしを捌くだけだったが、今度はそれに加えて確実に一撃を加える。
・・・迫るくちばし1つに2回の爪の斬撃。
全ての頭に爪の切り傷がつけられ始めると、イエローも動く。
「ドドすけ、“ドリルくちばし”!!」
ピンクに負けず劣らずの声でイエローも掛け声をかける。
現在の距離ではペルシアンにただ引っかかれ続けるだけだ。
ならばここは距離をとるのが得策。距離をとらせるには、相手に一度引かせたほうがよさそうだ。
そう判断しての“ドリルくちばし”だろう、この技ならば大ダメージも与えられるチャンスである。
ペルシアンはほぼ反射的にドドすけのくちばし、そして頭を狙って攻撃を仕掛けていたので
ドドすけが“ドリルくちばし”に移行する為に攻撃を中断すると同時に、勢い余って体勢を崩した。
(・・・上手い!! 本当にコイツ、イエローか?!)
思わずブラックは驚いた。
態勢を崩すことも視野に入れての“ドリルくちばし”、ペルシアンの動きが観察できている証拠だ。
距離をとらせることが目的だったはずなのに、これで“ドリルくちばし”は直撃する。
ただ、“ドリルくちばし”という技の性質上、この至近距離では大したダメージは期待できないだろう・・・
ドドすけは自身の強靭な脚力で思い切り前へと突っ込むと、3つの頭を真っ直ぐ伸ばすと
くちばしを軸にして思い切り身体を宙で回転させた・・・そして、周囲の空気を巻き込んで突撃・・・!!
「チッ!!」
思わず口からこぼれるピンクの悔しそうな言葉。
辛うじて身体にくちばしが刺さることは無かったが、突撃の勢いでペルシアンは弾き飛ばされた。
突撃の推力は突き飛ばすエネルギーに変わるので、反動で体勢を崩しながら、ドドすけはその場で硬直した。
本来ならこの硬直の瞬間を狙い反撃を仕掛ける事が多いが、突撃の威力が予想以上に大きかったらしく
反撃に転じれるほどペルシアンの身体は思うように動いてくれない。
こういう時は、いち早く攻撃を開始してアドバンテージを奪うのが当然であり、ほぼ必然的にそうなる。
特に膠着状態からアドバンテージを奪えたとなれば、戦況はガラリと変わり、独壇場となりうることもあるのだ。
押し切れるかどうかは別として、今この場で先に攻撃を仕掛ける可能性が高いのは・・・
間違いなく、体勢を崩しているとはいえ、攻撃状態で硬直しているイエローのドドすけだ。
「勢いを殺すな!! そのまま“みだれづき”か「レッドさんは、口出ししちゃダメです!!!」
戦う者として思わず飛び出た言葉を、イエローは大きな声で遮った。
その迫力にただただ驚くだけのブラック。
この時、イエローはブラックの方に視線を送ることなく、ピンクとの戦闘に集中している。
驚きの硬直から開放されたブラックは、イエローの戦う後ろ姿を見つめる。
よくよく目を凝らしてみれば、なにやらオーラのようなものが溢れ出始めているように見えなくも無い。
(一体なにが、イエローをここまで・・・)
事の元凶というのは、大概自分がその理由であることには気付かない。
空気が読めないという訳ではないが、分からないものは分からないのだろう。
一瞬とはいえ、ブラックへと対応してしまったことが災いして、ペルシアンは即座に体勢を立て直してしまった。
極限の戦闘となると、こういった一瞬、刹那の時を制しなければ勝利を掴むことは難しい。
しかも相手と自分の実力差は歴然で、再び同等のチャンスを見つけるか、作り出すのは至難の業だろう。
このチャンスを逃したのは間違いなく大きい。十中八九、再び精神と体力、そして集中をすり減らす膠着状態に突入する。
長期戦、消耗戦となれば、トキワの力を使えるイエローには大きく分があるように思えるが
トキワの力がカバーできるのはポケモンの体力だけ。逆に自分自身の体力を大きく浪費してしまう。
加えて、実戦経験の乏しいイエローと闇の世界の住人で、戦いを稼業にしているようなピンクでは
その精神と集中の差はあまりにも大きすぎる・・・。
「・・ペルシアン、“きりさく”!!!」
しかし膠着状態になることを避けたいのは、ピンクも同じである。
仮にも彼女の狙いはイエロー以前に、ブラックなのだから、ここで大きく浪費することは避けたい。
その思いはペルシアンの技に表れている。殺傷力の低い技ではなく、思い切り殺傷力の高い技で攻撃を仕掛ける。
これは間違いなく、戦いを動かそうとしている表れである。
「イエロー、ここは一度距離をとら「だから、レッドさんは口出ししちゃダメです!!!」
再び遮られるブラックの言葉。イエローは先程と同じように大声で遮る。
攻撃を仕掛ける挙動を見せたペルシアンを見逃さなかったブラックが
これもまた先程と同じように、ほぼ反射的に口から飛び出してしまった言葉だった。
ただ、先程と違う点は、今度はブラックは引き下がらずに、イエローに言い返した点だ。
「お前が心配だからこうして!!」
「心配は後でいいです!!」
一時的に戦場から目を離して、イエローは怒声と共にブラックの方を向く。
お互いに視線を合わせて、いや、睨みあっての方が正しい。
無論、この間も戦場では時が流れ続けている・・・
「また痴話喧嘩??」
薄っすらと嘲笑して、ピンクはブラックに言い放つ。
ペルシアンの強烈な爪の一撃を、どうにか回避してやり過ごしたドドすけだったが
主人からの命令が来ないので、どうすればいいのか、どう反撃していくかが解らず逃げ惑うばかりだ。
それをペルシアンは追い回して爪で八つ裂きにしようと飛び掛り続ける。
「だから、“もう”痴話じゃない!!」
強情なイエローに少々腹を立てているブラックは、ピンクの方を向くことなく怒声を返す。
この時まだブラックとイエローは睨み合い続けている・・・
「・・・・・・。」
ブラックの怒声を聞くと、イエローはしょんぼりしてブラックの瞳を見つめるのを止めた。
視線を外されたので、ブラックは自分の意見が理解されたのだと思い、今度は優しく話しかける。
ただし、表情は戦闘中の顔をしてるので、集中し殺気だった表情である。
「お前には無茶して欲しくない・・・だから・・・」
イエローはブラックの言葉を聞いてはいるが、その顔を見ようとはしない。
ブラックはイエローを自分の方に振り向かせようと、手をイエローの顔に伸ばしたが
突如、ブラックは停止した。
しばらく真剣で鬼気迫る表情を崩さず、何かを考え込む。
かなりの何かを、彼は感じ取っているようである。すると自然に伸ばした手が引っ込められた。
「・・・無茶しない程度に、がんばれ。」
ブラックの意外な言葉にイエローは驚いていたが、それに構うことなく、ブラックは突然彼女たちに背を向けて歩き出した。
イエローの思考はしばらく止まっていたが、ものの数秒としないうちに思考は戻ってきて、目の前の戦闘に意識と思考を集中し始めた。
見送りの言葉は送らない・・・。
その代わりに、今、自分に向けられた信頼を形にする為にイエローは前を向く。
戦場から離れていくブラックを目で追うピンクだったが、彼に追撃を掛けようとはせず、イエローとの戦闘と向き合う。
2人の表情は先程よりも引き締まり、これから本当に始まる決闘で決着がつくことが直感的に解った。
薄黒い雨雲が空を覆い尽くし、空の色を灰色へと変えていく。
雨が降り出す前に、2人の決着はつくだろう・・・・・・
「絶対に負けません!! “みだれづき”!!!」
「何、そんなに必至になっているの?! “みだれひっかき”!!!」
薄暗い空の下で彼女たちは戦い、そして言葉を交し合う。
ピンクのペルシアンと、イエローのドドすけが激しくぶつかり合うと、痛々しい音が度々聞こえる。
爪、そしてくちばしが相手の身体を引き裂き、抉ろうと凄まじい勢いとスピードで襲いかかり続ける。
どちらも十分な殺傷能力を持っているのだが、ポケモン自体、そしてトレーナーの実戦経験差がかなりあるので
しばらく攻撃を捌かれのだが、ペルシアンの爪は確実にドドすけの頭部や身体を切り裂いていく。
このままではこの蓄積ダメージで間違いなくドドすけは戦闘不能になり、そのうちイエローの手持ち全てが戦闘不能になるだろう。
ようするに、イエローには勝ち目が無いということになってしまう。
だが、ここで引き下がるようなイエローではない。
「戻って、ドドすけ!!」
イエローはドドすけをボールに回収すると、別のボールから即座に次のポケモンを呼び出す。
「行って、ゴロすけ!!」
そこから呼び出されたのは、メガトンポケモン ゴローニャだ。
ゴローニャのゴロすけは呼び出されて早々にペルシアンに応戦し始める。
その間にイエローはドドすけの傷を“トキワの力”で回復を始めるのだ・・・
そう、この流れはブラックが介入してくる前までの彼女たちの戦いの様子。
ただ唯一違った点があるとすれば・・・ピンクがイエローを直接狙わないということ。
殺し合いではなく純粋な決闘・・・
2人の間にブラックの介入、彼の介入ががここまで大きな影響を与えたのだ。
「“特別”って・・・どういうことですか!?」
「さぁね・・・こっちが聞きたいくらいよ!!」
ここまでのイエローの健闘は、この想い、感情が全て原動力。
ブンッ!!と空を切る物凄い速度の拳をゴロすけは何発も放っているのだが、
俊敏なペルシアンはバック転や横っ飛びを繰り返して上手く回避していく・・・
「私にとってアイツは標的でしかないわよ?!」
どこかホッとしたような安堵の表情を一瞬だが浮かべるイエロー。
それを見て小悪魔的な微笑を一瞬見せたピンクは、そんなイエローの想いに気付いているのだろう。
しかしここで、壁役となってくれていたゴロすけが、ペルシアンの強烈な爪の一撃を受けて戦闘不能となった。
イエローはゴロすけをボールに回収すると、回復の終了したドドすけを再び戦場に送り出す・・・
この一連の流れは確かにブラック介入前の彼女たちの戦いと同じであるが、もう1つ違う点として
イエローの癒しの力、トキワの力での回復ペースが格段に速くなってきていることだ。
戦闘不能、または重傷、大ダメージを受けるたびボールに戻して回復させるのだが、回復が終わる頃には
その間、壁役として代わりに戦場に立っていたポケモンが即座に戦闘不能になってしまう。
休み無く続く回復・・・イエローの回復の力も無限ではない。イエロー本人の体力、精神力が途切れればそれで終わりだ。
イエローのトキワの力が勝るのか、それともピンクのポテンシャルには追いつかないのか。
短期決戦になりそうだが、決着にいたるまでの過程の戦闘は、我慢比べの持久戦となりそうだ・・・
(資料どおりの情報だけど・・・ここまでしぶといとはね・・・)
ひたすら粘り続けるイエローとの戦いに、ピンクは勝利の手ごたえを感じることは無い。
このままのペースでいけば、いずれ敗北することになるのはおそらく自分だろう。
そう考えると、今のままの戦闘方法では一方的に浪費していくだけ・・・
(このままじゃ・・・埒があかない・・・)
ピンクの戦闘力を前に、殆ど徹底防戦を強いられているイエロー。
彼女もピンクと同じように敗北の予感を十分に感じ取っていた。
この膠着状態から抜け出す打開策を早急に見つけ出さなければ・・・
((・・・“策”!!))
力でのゴリ押しが無駄ならば、徹底的な防御が駄目ならば
残された勝利の方法は“策”しか存在し得ない・・・
イエローは一撃で決着をつけられる策を、ピンクはイエローの能力を封じる策を。
未だくちばしと爪がぶつかり合う戦場を見ながら、2人は静かに考える・・・・・・
(これなら・・・!!!)
どちらが先に策を編み出したのかは、ここからの戦闘の流れを追って把握していただきたい。
「くぅ・・・!」
思わずピンクは苦しい表情で唸る。
ここにきて膠着状態であったペルシアンとドドすけの戦闘に変化が。
なんとドドすけの攻撃をペルシアンが捌ききれなくなってきたのだ。
ドドすけのくちばしをその身体に受けるペルシアンの表情は明らかに疲れており、呼吸も荒い。
どうやら長い戦闘とそれへの集中によって、スタミナが切れてきているようだ。
対してドドすけの動きに遅れや疲れは一切見えない。これが傷だけでなく、体力も回復させるイエローのトキワの力の恐ろしさだ。
このチャンスを活かそうと、イエローはボールを取り出すとボールからポケモンを呼び出した。
「ドドすけ“トライアタック”!!、ゴロすけ“あなをほる”!!」
何度呼び出されたかは解らないゴロすけは、呼び出されると同時に地面に潜っていき姿を消した。
その間にドドすけはそれぞれの頭から、「炎」「氷」「雷」3種類の属性を持ったエネルギーを同時に放ち
それを合成し、息切れしているペルシアンに思い切りぶつける・・・
焼き尽くすような炎、凍てつかせる氷、はじけ焦がすかのような雷を同時に受けたペルシアンは
口から煙を吐きながら白目をむいてバタリと倒れ、戦闘不能になった。
(だいぶ苦しいけど・・・)
ピンクは間合いを取りながらペルシアンをボールに回収すると、
2つのボールと何か一緒に取り出して、2匹のポケモンをボールから呼び出す・・・
呼び出されたポケモンは てんきポケモン ポワルンと こぐまポケモン ヒメグマだ。
ただ、ヒメグマはブラックとの交戦時にイーブイと一緒に“ねむり”状態になっており
可愛い寝顔でスヤスヤと眠り続けている・・・
「もう、その可愛さには騙されません!!!」
イエローは覚悟の言葉と共に、眠ったままのヒメグマに指をさすと
地中からゴロすけが飛び出してきて、ヒメグマをガッチリと捕まえると今まで自分が潜伏していた
深い深い穴の中へと再び飛び込んでいった・・・ヒューっと長い音がすると、その深さが尋常でないことが解る。
眠ったまま地下へと追放されたヒメグマ。
イエローは新たにボールを取り出して、3匹目のポケモンを戦場に送り出す。
呼び出されたポケモンは ねずみポケモン ラッタ。 ニックネームはラッちゃん。
ピンクは3匹目が呼び出された時、驚きを思い切り表情に表していた・・・
「ラッちゃん“でんこうせっか”!!」
速い、とにかく速い。イエローの指示も速いが、その指示を受けたラッちゃんの動きも速い。
イエローはピンクが揺らいだペルシアンの戦闘不能からの隙を上手く突いて、速攻で攻める。
ピンクはラッちゃんの動く先がポワルンだと解ると、急いでポワルンに応戦の指示を出す。
しかし・・・
「くっ・・・ポワルン、“たいあたり”!!」
てんきポケモンの名前通り、天気の影響を受けて力を得るポワルンにとって
今の雨が降りそうで降らない、太陽の光も無い、そんな天気では思うように実力を発揮できない。
しかたなく“たいあたり”で応戦してみるが、“でんこうせっか”で攻めるラッちゃんの動きを捉えることができず
ひたすらその身に攻撃を受け続けるだけだ・・・
「しょうがない・・・行って、イーブイ!!」
苦戦するポワルンを見かねてボールからイーブイを呼び出すピンク。
しかし、イーブイも先程のヒメグマと同じように眠らされており、すぐには援護は出来なさそうである。
しかも戦場にはドドすけが残っており、ドドすけをどうにかしなければポワルンを助け出すことは不可能だ。
“ねむり”状態のイーブイに、ドドすけが迫る・・・
「ドドすけ、“ふきとばし”!!」
「イーブイ、“でんこうせっか”!!」
移動しながら暴風を放つドドすけ、このまま吹き飛ばされればおそらく、先程の穴に落とされるだろう。
ドドすけの“ふきとばし”に対抗する技をピンクが指示すると、イーブイは“ねむり”状態から突然覚めて
迫りくるドドすけの脚と脚の間をすり抜け、ポワルン救助へと向かう・・・
(眠っていたはずじゃ・・・!!)
イエローが驚く間に、戦場ではラッちゃんとイーブイが攻防を繰り広げ始める。
素早く動きながら、身体と身体をぶつけ合って相手に確実なダメージを与え合う両者。
その様子を見て主人の指示を受ける前にラッちゃんの援護へと向かおうとするドドすけだったが
突然、背後から一撃を受けて、そのまま力なく崩れ去り戦闘不能になってしまった・・・
「“れいとうパンチ”・・・」
ドドすけの背後、そこにあるのはあのゴロすけの開けた深い穴。
そこから這い上がってきたのだろうか、右手の拳に冷気を纏わせたままのヒメグマがドドすけの後ろに立っている。
イエローはボールに戻して回復させようと試みたが、それより早くヒメグマはドドすけの身体を穴に投げ捨てた。
小柄な身体だが、進化系はあのリングマ。進化前からこのくらいの力を持っていたとしても何ら不思議は無い。
「ゴローニャとドードリオの始末はコレで済んだ・・・後、多くて4匹ね。」
淡々と話すピンクに、冷徹に徹していることがよく解る。やはり、トレーナーの実力差が大きい。
戦場にはラッちゃん1匹。そして相手はポワルンとイーブイとヒメグマを展開中。
イエローは対応する為に、2つのボールからバタフリーのピーすけと、オムスターのオムすけを呼び出す。
主人たちの様子を攻防を繰り広げながら確認したラッちゃんとイーブイは、一度それぞれ主人の元へと戻った。
お互いに全身に傷を作りあい、興奮した状態で睨みあう・・・
「トレーナーなら、コレくらい見切らないと。」
ピンクはイエローを見つめながら、左手で何かを宙に投げてそれをキャッチしている。
トキワの森によく出入りしているイエローなら、そして大概のポケモントレーナーなら
一度や二度はお世話になっている便利な自然の産物・・・カゴのみ。
その渋さは口にすればどんな眠気もバッチリ覚めてしまう。
ポケモンを戦場を呼び出すほんの一瞬の間に、ねむり状態のヒメグマとイーブイの口の中にカゴのみを放り込んだようだ。
ブラックやグリーン、シルバーやゴールドのような多くの実戦経験を持つトレーナーならば
ピンクのその行動にいち早く気付き対応策を練れただろうが、そこはイエローである。
打倒の策を考え、それを実行に移すことで頭が一杯になっていた彼女には何にせよ対応することは出来なかった。
「しかもまさか、考えていることが同じだったとはね。」
「うぅ・・・」
三白眼の目で射抜くような眼を放つピンク。その眼の強さは、鋭さはグリーンとほぼ対等だろうか。
そんな眼に、イエローは怯む。・・・ここでもトレーナーの格の差が大きいことが解る。
しかし格の差があろうとも、お互いに考え、編み出したイエローの能力を封じ、ピンクを一撃で倒せる策。
彼女たちが考えついた策は・・・ポケモンの追放。
それは戦闘自体の決着に繋がることかもしれないが、なかなか戦闘不能に出来ないのならコレが一番手っ取り早い。
ポケモンを指揮圏外に追放してしまえば、イエローはポケモンを回復させることもできないし、ピンクもどうしようもないだろう。
ただ、そうさせる手段、即ち“策”そのものは違ったようだ。
地面に深い穴を掘り、そこへとポケモンを落とすか、引き込むことで戦場からポケモンを追放させようとしたイエロー。
しかし、堀が甘かったのか、ヒメグマが這い上がってきたことを考えると策に用いるには少々浅かったようだ・・・
「折角だからあんたのポケモンたち、あの穴に全部落としてあげる。」
余裕の笑みを浮かべるピンク、おそらく、いや、間違いなく彼女はそれを実行に移すだろう。
彼女にとってもポケモンの追放はイエローに能力を封じられる策だ。
わざわざ追放の舞台を整えずとも、そこにあるものを利用したほうが効率はよい。
(それに、この子・・・ヒメグマが這い上がってこれるくらい浅い穴だから、あんまり利用価値が無いと思っているかも・・・)
予想以上に深さが足りないとしても、十二分にあの穴は追放ポイントとして利用価値がある。
穴に向かって“たたきつける”だけでも、そして落とすだけでも落下分のダメージも加えられるので
上手くやれば誘い込むだけで迂闊に技を放つ必要性も無い。それにポケモンだけでなく
トレーナーそのものも穴に追放してしまえばいいのだから・・・・・・
(まずは、羽をもぎましょうか・・・)
ピンクはバタフリーのピーすけに目をつけると、その意思を彼女のポケモンたちは読み取った。
向けられる敵意にピーすけが怯えると、イエローはピーすけが狙われていることに気付く。
どうして狙われるのかは解らないが、これ以上友達を傷つけさせない。だから、ピーすけだけを狙わせるわけにはいかない。
敵意に対して、イエローは真っ向から迎え撃つことを覚悟した・・・・・・
「ここまでよく粘ったわね・・・でも、これで終わりにしてあげる!!!」
「これ以上・・・もう、やらせません!!!」
ポケモンたちがそれぞれの敵目掛けて、駆け出した・・・・・・
イエローとピンク、2人の決闘は過熱し続ける。
お互いに集中を切らさずに技と策を仕掛けあい、見切りあう。
そしてお互いの全力を発揮し合い、その力で潰しあう。
一瞬の気の緩み、または自分の力が尽きた時に決着がおとずれる・・・これは既に死闘。
そんな状態が続き、再び膠着状態になり始めた頃、極限の集中状態になり始めた2人の何かが繋がり始めた。
(・・・サクラ・・・さん・・・サクラさん・・・ですよね?)
いつか、イエローにさらなる力の覚醒の機会を与えた声がする。
その声は光一つ無い暗黒の精神世界で誰かに語りかける。
(・・・・・・誰・・・アンタ、誰?)
男っぽい、ボーイッシュな印象を受ける声が返事として返ってくる。
その声をよくよく聞いてみると、目覚めたて、寝起きといった感じの印象も加わる。
光一つ無い暗黒の精神世界で、声たちが、現実で戦闘する彼女たちの意思と関係なく会話を始めた・・・
(キナコです・・・覚えていませんか?)
(・・・クロガネの知り合い?)
あまり親しいとはいえない様子。
というよりも、初対面に近いのだろうか・・・
(と、いうよりも・・・セキさんの・・・か、彼女だった者です・・・)
(・・・・・・あぁ、クロガネの兄さんの・・・)
お互いに多少はお互いのことを知っている。
だが・・・サクラと呼ばれた声はあまり機嫌がよくないようだ・・・
(何? 会えたことがそんなに嬉しいの? ワタシは別にアンタに会いたくないわ。)
(・・・・・・。)
機嫌の悪さ、いや、完全にキナコの声を、存在そのものを嫌う様子。
初対面なのかもしれないが、ここまで嫌うことは滅多にないだろう・・
(アンタみたいに本当に人を愛せていなかった人に興味無いわ・・・干渉しないで。)
(アレはそういう訳じゃ・・・)
話し始めてそんなに時間は経過していないのだが既にこんなムード。
サクラには相当キナコを嫌う理由があるようだ・・・
(大体、ワタシの大切な人を奪った人殺し・・・その恋人にだって、憎しみ以外の感情は無いから!!)
(そ、それは・・・私だって同じです!!!)
深い闇が彼女たちの間にはあったようだ・・・
(そう思うなら、いちいち干渉なんてしないで!!!)
サクラの声はそう言い残すと、精神世界からその存在を消した。
キナコは1人取り残されて、サクラの声をかみしめた・・・
(どうしてこんなにあの時の人たちが・・・)
“あの時”・・・それは一体いつのことなのだろうか・・・?
(セキさん・・・教えてください・・・・・・)
光一つ無い暗黒の精神世界を、キナコの悲しみが満たしていった・・・・・・
(これが・・・)
(最後のポケモン・・・!!)
現実に戻るといつしか最後のポケモンで戦闘することになった両者。幸い、お互いに穴に追放されることは無かったが
ピンクの宣告どおりイエローのポケモンたちは最後の一匹を除いて見事に穴に追放された。
しかも、その全てが穴の下、深い地下で戦闘不能状態だ・・・
だがイエローもただではやられなかったようで、ピンクのポケモンたちをどうにか同じように穴に追放した。
ピンクのように戦闘不能に出来たかどうかは定かではないが、追放したから結構な時間が経過しているのだが
一匹も這い上がってこないところを見ると、隠れてチャンスを伺っているという可能性を除けば
おそらく、最後の一匹以外は全て戦闘不能にすることは出来ただろう・・・
「頑張って、チュチュ!!」
「さっきは出しそびれたけど・・・今度は決める! ハピナス行って!!」
お互いに最後のポケモンをボールから呼び出す。
極限の集中状態にあるそれぞれの主人たちの心を感じ取った2匹のポケモンたちは
一撃で決着をつけようと、主人たちと同じように即座に極限の集中状態になった。
黄色い身体に“おめかし”の花・・・ねずみポケモン ピカチュウ。
桃色の身体にまんまるのタマゴ・・・しあわせポケモン ハピナス。
この2匹が彼女たちの切り札。
ポケモン同士の実力が均衡していようと、おそらく、一撃で決着がつく。
戦場はそんな雰囲気に包まれていた・・・!
「チュチュ!!」
「ハピナス!!」
2匹はそれぞれの主人の全ての期待と信頼を受けて、真っ直ぐ駆け出した。
あまりにもヒートアップしすぎているので、この時の彼女たちに追放戦術は頭に無い。
完全にサシでの決着以外は考えられない・・・
そして、2匹の距離は0になった・・・!!
「“10まんボルト”!!!」
ハピナスは仕掛けるよりも早く、チュチュは自分の体内で生成された全ての電気エネルギーを開放した。
チュチュ最大の攻撃、“あの”技も一応は使えるのだが、まだイエローとチュチュには制動しきれない。
バチン!!!!!
放たれた必殺の電撃・・・閃光が一瞬、戦場を包み込むとほぼ同時に、電気特有の破裂音に酷似した音が響き渡る!!
「“すてみタックル”!!!」
必殺の電撃をその小さな身体にもろに受けたピンクのハピナスだったが
電撃を耐え抜き、チュチュ目掛けて駆ける勢いを殺さず思い切り突っ込んでいく・・・!!
ドスッ。
ハピナスの捨て身の一撃は、見事にチュチュの身体に突き刺さるように直撃した。
戦場の時が止まる・・・・・・
「・・・チュチュ!!!」
時を動かしたのはイエローの悲しみと絶望の声。同時にチュチュの身体は大きく吹き飛ばされる。
宙を舞う間に“おめかし”の花は儚げに散っていく・・・
儚い時を終えると、現実の痛みが勢いよく大地に叩きつけらることにより伝わる。
チュチュ、戦闘不能。
今のイエローに、ポケモンを回復させる力は無い。仮に出来たとしても回復をする隙を作り出す術はない。
(私の・・・負け・・・・・・)
今にも消えそうな蝋燭の灯火のように弱々しい呟きを心で済ますと、イエローの目の前は真っ暗になった。
極限の集中は解け、ガクリと力が抜け、そしてそのままフラッと大地にうつ伏せに倒れこんだ。
全力を尽くしたバトルの反動と、それに賭けていた覚悟と意思の強さと大きさはここまでのものである・・・
「・・・悔しいけど、根負けよ・・・・・・」
電撃のダメージでは倒れなかったが、“すてみタックル”の反動でハピナスは倒れた。
それと同時にピンクも全身からガクリと力が抜けると、大地にうずくまる。
しかし、その状態を数秒も維持できず、ピンクもイエローと同じようにうつ伏せで倒れた。
極度の集中が長時間続いたので、その疲労と精神の浪費は凄まじかったのだ。
これ以上の戦闘の続行は、ポケモンにしてもトレーナーにしてもお互いに不可能である・・・。
・・・戦場は異様な静けさに包み込まれた。
彼女たちが倒れる戦場・・・そこに。薄黒い雨雲から、雨がしとしと降り注ぎ始めた。
これから始まる、もう一つの戦いが始まった瞬間である・・・・・・
△イエローVSピンク△
引き分け
第21話へ・・・