迫る邪悪、迫る危機・・・鋼の意地を見た銀色の瞳は・・・・・・
凶悪な“ウェポン”、[クラウ・ソラス]の威力の前に
ゴールドとシルバーは混乱状態に追い込まれた。
同士討ちを始める2人を尻目に、新たな獲物を見つける双子姉妹。
木陰で一休みするミカンのもとへ邪悪が迫る・・・
一番道路が血に染まるのか
それとも鋼の力が勝るのか
結末は、銀色の瞳に焼きついた・・・・・・
PAS Chapter3 第19話(前編) 鋼の意地、銀色の怒り
晩秋の冷たい空と天高い雲がくっきりと見える天候だった今日。
それがいつしか薄黒いとまではいかないが、灰色をした雲が少しずつポツポツと現れ始めていた。
今の天気を気象学で言えば、雲量6。青空がそこそこに見えてまだ、“晴れ”と呼ばれる天気である。
空の面積に対して、雲の面積がしめる割合のことを雲量という。
雲量は0〜10の11段階で表され、空に雲一つないときが雲量が0で快晴、
そして雲が空一面を覆って青空が見えない時を雲量10、即ち曇りとなるわけだ。
さてそんな微妙な天気の下で、2人の若者が狂ったようにバトルしている・・・
ただし、自分の手持ちポケモンではなく、相手の手持ちポケモンと共にだ。
「オーダイル、“かえんぐるま”!!」
「バクたろう、“ハイドロポンプ”!!」
あべこべに命令された技を忠実に実行しようとしてしまうのがポケモンたちだ。
出来るはずは無いのだが、やろうとする。そうなると必然的に無理をすることになって
“わけもわからず自分を攻撃した。”となってしまうらしい。
それ以外にも、精神侵食を受けて混乱した場合は、自分自身に何者かが入り込んだ感覚に陥り
その存在を追い払う為に自分自身を攻撃するということもあるそうだ。
自爆する2匹のポケモン。戦闘不能にはなっていないが、打ち所が悪かったのか、目をぐるぐると回して気絶してしまった。
このままバトルは終焉するのかと思ったが・・・すぐさま次のポケモンで戦闘態勢を整える。
どちらかが敗れるまで戦いは続く。
この事実、実は想像以上に危険なことになりかねない危険を秘める。
なぜなら・・・彼らが本当に戦うべき相手は、目の前に居る人間ではないからだ。
「お姉さま、あの女の子・・・どうします?」
「そうね・・・混乱させてみてもいいし、眠らせて人質もいいし・・・迷うわね。」
雰囲気も、髪の色も、はっきりとは見えないが容姿もそっくりな2人の女が何かしゃべりながら歩いていく。
この2人を見ていれば、大概の人間が一卵性の双子だと気付くだろう。それぐらい彼女たちの雰囲気は似ている。
さて、そんな彼女たちの会話だが・・・普通の人間の会話でこんな危険なことを言い合うことはそう滅多に無いと思われる。
友人間の冗談で言うこともあるかもしれないが、普通は考えられない。
しかも彼女たちの言葉を考えると、彼女たちは姉妹のようだ。双子なのだから当たり前の話だが。
姉妹揃って同じような思考を持つのも双子ならではということなのだろう・・・。
友人間の冗談でしか言わないようなことを、不気味な雰囲気で話す2人。
その不気味さの中にはどこか軽い“ノリ”のようなものが含まれていて、話していることに相当な興味を抱いているようだ。
もしもこれが、“そういった”本職のプロの人間なら、軽い“ノリ”などは含まれない。
こういう“ノリ”が有るというのは、明らかにそれが彼女たちの嗜好なのだろう・・・・・・
「・・・精神を破壊してしまうのもなかなか面白そうですよね。」
「精神なんていわずに、肉体でもいいんだけれど・・・」
彼女たちが先程言った“あの女の子”の姿がはっきりと見える距離に彼女たちはやってきた。
標的となっている“あの女の子”は近づいてくる存在たちに気付き、視線を送る。
「・・・・どちらさま・・・ですか?」
向こうで激しいながらも、滅茶苦茶なバトルを繰り広げる自分の彼氏とその友人の行動の時点で
彼女、あのアサギシティジムリーダーのミカンは、とにかく現状を理解できない。
(単純に先程まで木陰で眠っていたので寝起きで頭が回らないというのも理由には含まれるのだが)
そんな彼女が自分の言葉を無視して、目の前に迫ってくる双子姉妹に、彼女は一気に警戒を強めた。
「永遠に光の無い生活を送ってもらってもいいですよね。」
「・・・それとも記憶でも奪ってみようかしら?」
こちらの声は聞こえているはず・・・だが、その態度、その言葉。
この時点で、ミカンは双子姉妹の異常に気付く。これも彼女がジムリーダーだからだ。
話しながらも時よりこちらが向ける視線を意識して、口角をニヤッと上げて不気味で威圧的な笑みを送る。
彼女たちから距離をとろうかと思ったが、それよりも先に彼女のプライドがそれを止めた。
「これでも私は一端のジムリーダー!!」
その挑発的態度に対する怒り、加えて危険な存在へと立ち向かう正義の存在としての使命感。
2つのミカンの意思が、彼女たちに立ち向かうという選択肢を取らせた。
その言葉を聞いた双子姉妹は足を止めて、突如フフフ・・・と耳に残る高めの声で笑いながら言った。
「でも、裏を返せば」
「“ジムリーダー”にしか過ぎないのですよ」
ミカンの“ジムリーダー”は彼女たちには通用しない脅し文句のようだ。
大概の人間ならばその肩書きだけで自分との実力差を理解できる。
特に10年ほど前から、各地方のジムリーダーの活躍は大々的に報道されているので
ジムリーダーの実力を疑うものも、見下すものも殆どいなかった。
しかし、目の前の双子姉妹は肩書きで引かない人間である・・・
久々に出会う強敵の予感にミカンのジムリーダーとしての心に火がつき始めた。
肩書きで解らないなら、実力行使しかない。
アサギシティジムリーダーの実力を見せ付けるしかない。
普段はマイペースな彼女だが、ジムリーダーして見下されるようなことをして来た覚えは無いのだ。
「負けません・・・。」
静かに、そして若干の怒りがこもった声を聞いた双子姉妹は、再びあの笑みを浮かべる。
双子姉妹のその不敵な笑みと存在感に、早くもミカンは自分自身の危機を覚えずにはいられなかった。
・・・しかし、まだミカンはこの時、先程の言葉を“本当の意味で”理解していなかった。
先程の姉妹の言葉の意味が理解できる人間ならば、姉妹たちの言葉に納得がいっただろう。
普通の人よりポケモンについて優れた技術と、知識を持ち合わせた者がジムリーダーとなる。
(無論、正常な精神や人格、そして常識を身につけていること、即ち模範になる人間でなければならないのだが。)
あくまでもジムリーダーの基準は“普通”の人以上であり、闇の世界の住人ではない。
まず、闇の世界の住人たちに、一般的な見解、即ち、常識は通用しない・・・・
そして、ジムリーダーのミカンには常識的な戦法しか存在していない。
「でも、記憶程度ではあまりダメージになりませんよ?」
「そうかしら・・・じゃあ、やっぱり肉体的なほうがいいのかしらね。」
非常識の塊が危険を予感させる言葉で話しながら、各々のボールホルダーからボールを一つずつ取り出した。
双子姉妹は間違いなく“やる”気満々。ならば・・・と
ミカンも同じようにボールを一つ握った。普段の彼女なら、一度全てのポケモンをボールから呼び出して
それぞれのコンディションをチェックしてから戦闘に臨むのが彼女のやりかたなのだが、
どうにもそんなことをしている余裕は無いようだ。
彼女たちは早くもモンスターボールを投げてポケモンを呼び出した。
ここは様子見ではなく確実な切り札で勝負に出るべき・・・とジムリーダーのミカンは思った。
ミカンは手に握ったボールを地面に向かって軽く投げた。
「行って、ハガネちゃん!!」
ミカンの投げたボールから、重量感たっぷりの巨大なシルエットがミカンを守るように姿を現した。
鋼鉄の塊が蛇のような身体を作り、凶悪なる顎は岩をも砕く・・・てつへびポケモン ハガネール。
あの“仮面の男事件”の時のカントー・ジョウトジムリーダー対抗戦でお目見え以来
ジム戦で数多の挑戦者の攻撃という攻撃すべてを弾き返し、逆に押しつぶしてきたミカンの切り札。
このポケモンで圧倒が出来ないのなら、または、勝利する可能性さえも見えてこないのなら
ミカンには勝機が無いこととなる・・・・・・
「図体がでかいだけの品の無いポケモンで」
「私たちがどうにか出来るとでも思いました・・・“ジムリーダー”?」
ハガネールのその巨体に彼女たちは一切驚かない。
しかも、そのリアクションはある程度先見していた感がある。
だが、ミカンとハガネールは怯むことなく双子姉妹に立ち向かう意思を見せ付ける。
そんな彼女が双子姉妹の呼び出したポケモンたちの姿をハガネールの影から、後ろから覗き見る。
「赤い・・・ムウマ・・・?!」
赤、燃えるような炎の赤。だが、真紅というほど赤みが強くなく、オレンジ色に近いような赤だ。
黒い部分がその色になり、紫の部分は白に。まるで妖怪映画の墓場に出てくる“火の玉”のようである。
そしてその火の玉は、1つではなく2つだ・・・
「お姉さま、どういう風にして欲しいかは、アサギシティジムリーダーのミカンさんに聞いてみましょう。」
「成程、自分の身ですものね。確かに自分でどうされたいか決める権利があります。」
左右へと流れる姉妹の前髪の奥で、彼女たちの瞳が確かに動きミカンに視線を送る。
しかし、ミカンはハガネちゃんの影に隠れてしまい、さらに距離をとっているのでミカンの姿は確認できない。
彼女たちの言葉はミカンにはもちろん届いており、彼女たちがこちらの素性を理解していることも解った。
「ハガネちゃん、“アイアンテール”!!」
ハガネールはその巨体を支える大きな大きな身体に力を込めると、終端部分が全身のどこよりも硬く硬直する。
既に“アイアン”を超えた硬度の身体がさらに硬度を増す。そして、巨大な身体をうねらせて
ハガネちゃんは、自分の体長の10分の1以下の2匹の赤いムウマを身体でなぎ払う。
なぎ払うときに起きた風で、双子姉妹の身体が宙に舞い、どさりと季節の影響で草が短くなっている草原に倒れこんだ。
「容赦は・・・しません!!」
強気に出るミカン。おそらく彼女のバトルスタイルとは大きく違ったものだろう。
確かに戦いは先手必勝といわれることが多いが、彼女のエキスパートタイプである「鋼」は
先手を取られたとしても、その硬い身体が大概の物理攻撃を弾き返してしまう。
よってカウンター戦法を取るものや、あえて後手に回って冷静に戦闘を進めていくというのがセオリーだ。
しかし、その彼女が先手を取り、尚且ついきなりの大技。
セオリー通りに戦闘をしないところを見ると、ミカンが全力で彼女たちと戦い、倒そうとしていることが感じ取れた。
「お姉さま・・・“ジムリーダー”が楯突いてきましたよ?」
「フフフ・・・フフフフフフ・・・」
双子姉妹は全く同じタイミングで跳ね起きると、まだ体力がの残っている2匹の色違いムウマを自分たちの下へと戻ってこさせる。
2人はまたあの不気味な笑みを浮かべている・・・しかし、今度の笑みはどこか興奮しているようだ。
流石に先程のハガネちゃんの一撃は凄まじかったようで、ムウマたちの体力はほぼ半分ほどになっていた。
だが、その結果を知ったからといって、彼女たちは一切動じることは無く、逆にどこか喜んでいるようにも思える。
喜びと興奮。この2つの感情が共存する今、彼女たちの危険性はより高まったことを付け加えておく。
「生きがいいほど」
「・・・そそるのよ」
赤い色違いムウマたちの身体が不気味な色のオーラを放ち始める。
それと同時に、興奮し始めた彼女たちからも異様なプレッシャーが放たれ始め、その存在をミカンに嫌というほど伝える。
オーラとプレッシャーに身の危険を感じたミカンは、再びハガネちゃんに攻撃を命じる。
「ハガネちゃん、もう一発“アイアンテール”!!」
ハガネちゃんは身体の終端部分を再び硬直させると、ガリガリと大地をこすって大きく円を描いて身体をうねらせると
勢いよく鋼鉄の身体を振って赤い色違いムウマたちを一気になぎ払う・・・!!
「2度も同じ手は」
「通用しませんよ?」
人間がそうであるように、一度痛みを覚えればその痛みを再び受けたいとは普通思わない。
ムウマたちも受けた痛みは忘れない。強烈だが単調な動きのハガネちゃんの身体をふわりと浮いて回避する。
だがそんなことをいいながらも、双子姉妹は再びなぎ払うときの風で大きく吹き飛ばされて、また地面に倒れる。
無論この時点で、先程と同じ流れで2匹のムウマに一撃を加えられるとはミカンは思っていない。
あの双子姉妹もそれを簡単に許すとは到底思えない。ミカンの一見、単調な攻撃にはしっかりとした意味が存在した。
あくまでもミカンの狙いは・・・
「ハガネちゃん、“かみくだく”!!」
左右への退路を断つ攻撃である“アイアンテール”。故に攻撃を回避するには前後上下以外の退路は存在しない。
さらに左右への退路を断たれるということは、直線的な攻撃からは殆ど逃れる術が無いということだ。
トレーナーの動きを封じたことがさらにここからの一撃の成功率を高める。
ハガネちゃんはその大きな大きな口を全開に開くと、戸惑う2匹の色違いムウマに頭から突っ込んでいき
そして・・・・
バツンッ!!!
2匹の赤い色違いムウマを、口中で完全に噛み砕いた・・・
「この程度なら・・・負けません。」
普段のミカンのキャラクターと違い、クールに言い放った言葉を倒れる双子姉妹は確かに聞いていた。
その言葉を聞くと同時に、彼女たちの手からそれぞれボールが1つづつコロコロと転がっていく・・・
戦場に静かな時が、一間流れた・・・
「フフフ・・・可哀想に」
「アレではもう・・・フフフ」
再び2人同時に跳ね起きると、服の汚れをパンパンと手で払う。
ミカンとしては、先程の一撃にかなりの手ごたえを覚えていたので、もしかしたら・・・という思いが大きく
敵ながら彼女たちに申し訳ない思いで一杯になっていた。
おそらくハガネちゃんの口の中で、彼女たちの色違いムウマは絶命していることだろう。
「・・・・・・。」
これもポケモンバトルの運命・・・そう割り切らねば、ジムリーダーなど勤まらないだろう。
複雑な表情を浮かべながら、ミカンはハガネちゃんに近づいていった・・・
グオォォォォォォォーーーーーー!!!
大地を、そして空を、空間を。
突如、全てのものを振動させるような呻き声をハガネちゃんは上げた。
聞いたことも無いその声に、トレーナーのミカンも流石に一度身を引いてしまった。
だが、そうして身を引いたことは確実に正しかった。なぜなら身を引いて数秒しないうちに
ハガネちゃんは口から炎を吹き出し、全身を悶えさせて暴れ狂った。その時、辛うじてミカンには肉体的な影響はなかった。
口から何度も火柱を上げて、悶え苦しみ、何時しか自分の体温で鋼の身体の一部が溶け始め
視点は定まらず、ただただ身体の中で業火が燃え上がる想像を絶する苦しみを味わい続ける・・・
この世のものとは思えない衝撃的なポケモンの苦しみ方に、ミカンは顔面蒼白。一言も、何も発することが出来ない。
ただ、苦しみ悶え続ける自分の手持ちポケモンの姿を見ているだけだ。
2、3分過ぎた頃、ハガネちゃんの呻き声は弱くなり、そして静かに弱っていった。
それと時を同じくして、ハガネちゃんの口の中から、弱りに弱りきった2匹のムウマがボロボロの身体で主人の元へと戻ってきた。
そして、主人のところへと戻ってくると、ムウマたちは主人たちの足元で力尽きて、地面にパフンと落ちた。
おそらくムウマたちは、ハガネちゃんに噛み砕かれた瞬間から、最後の力を振り絞って身体の奥に侵入。
その後、自分たちに宿る「炎」の力を解放して、命と引き換えにハガネちゃんの身体の中を滅茶苦茶に焼いたのだろう。
「致命傷だったようですね・・・」
「可哀想なムウマたち・・・」
本当に手持ちを失ったトレーナーの言葉なのだろうか。どこかその言葉からは、他人事のような印象を覚える。
地面に落ちてきたムウマたちをボールに戻してやると、彼女たちはミカンの方を向いた。
ミカンはただ、口から煙を吐いて動かなくなっているハガネちゃんの姿を真っ直ぐと見続けていた。
今の自分の状況を再整頓して、なぜこうなってしまったのかを何度も何度も頭の中で確認する。
そうでもしなければ、そのまま絶望に引きずられて、無様な姿を晒すだけだ。
しかしそれでも、ハガネちゃんの状態に逆上する力も出ず、地面に力なく、ペタリと崩れるように座り込みそうになった
激しい絶望と大きな悲しみに支配された人間がよくなってしまう、完全に腰の抜けた座り方だ・・・
「「さようなら」」
そうなるはずだった弱りきったミカンの身体。そこに、倒れたハガネちゃんの影に潜んでいたゲンガー2匹が姿を現した。
あの時、2度目の“アイアンテール”の時に、吹き飛ばされた彼女たちが放っておいた2匹の影に潜む悪魔。
2匹のゲンガーは素早くミカンの周りに近づくと、今、まさに崩れ去るという瞬間の彼女の身体に
腹と背中から同時に、“シャドーパンチ”を打ち込んで、彼女の呼吸を止めさせる。
「かはっ・・・」
絶望する身体に響き渡った、嫌なミシッという音を全身で感じ取ると、大きく見開かれたミカンの目の瞳は小さく縮み
そして彼女は、絶望に絶望の追い討ちを受けて、力無く、バサリと一番道路に倒れた。
絶望して、精神が弱りきった状態・・・完全に無防備。しかも、今まさに崩れ去ろうとする人間。
どれほど無防備だったかなど、想像しなくても解ることだ。そこに強烈な一撃・・・
覚悟が出来ている時の痛みと、出来ていない、または、全く知らないときの痛みはこうして違う。
「“ジムリーダー”にしては」
「頑張ったほうだと思いますよ?」
倒れたミカンに吐き捨てた言葉。当初から、戦闘や決闘など行われていない。
今、行われていなのは、ただ一方的な殺戮にしか過ぎないのだ。
「・・・・ミカン!!!」
双子姉妹の背後から声が聞こえた。
この声の正体は、彼女たちの言葉を借りれば“ご子息”のようだ・・・
「あら、ここからがお楽しみなのに」
「全く、空気の読めない人は困りますね」
双子姉妹は、やってきた“ご子息”の方へその視線を向けた。
倒れた自分の彼女の姿が、銀色の瞳に強く、そして痛いほど強く焼きついた。
感情が一瞬刻みで変化していく・・・
大切な存在を守れなかった絶望、自分自身の弱さへの絶望、彼女への罪悪感からの絶望・・・
より深く、細かい絶望がシルバーを責め立てるが、その感情は一気に湧き上がった。
「貴様たち・・・覚悟しろよ。」
声に込められた最大級の怒り。
怒りという感情は突発的に湧き上がる。
ギリッと歯軋りの音と、ギュッと固く固く握られた手袋の拳・・・
整った顔立ちで、世間一般でいう“いい男”のシルバーの顔が怒りの形相へとみるみる変化していく。
凄まじき怒気に遠く離れた周囲の野生ポケモンたちが身を縮ませて戦慄いている。
「流石、闇に片足を突っ込んでいるだけありますね」
「でも、所詮は片足。お話にはなりませんけどね。」
シルバーの怒気にも屈しないその豪胆な精神。
やはり、普通の人間とは次元の違う存在なのだろうか・・・・・・
ゴールドとのバトルを辛うじて制したシルバー。その証拠に、今日の為のおろしたての衣服がボロボロだ。
かなりの実力者に成長したゴールドを倒すのに、シルバーはかなりポケモンたちも疲労、怪我をさせてしまった。
キングドラ、ヤミカラス、リングマの3匹は戦闘不能。
オーダイルは気絶中で、今のところ戦闘には参加出来ないだろう。
シルバーの手持ちで使用できるのは、マニューラとギャラドスだけだ。
改めて、あの謎の光の恐ろしさを知った。現状の戦力でどこまであの存在たちに対抗することが出来るのか・・・
それでもただでやられないのがシルバーのしぶとさで、そしてそれが強さだ。
彼の天才的な才能は既に、あの謎の光への対処法はある程度考えてある。
ただ残念なことに、怒りですべてを忘れているシルバーには、その対処法を初めから仕掛けていくことが出来なかった。
「行くぞ、ギャラドス!!」
まずは一刻も早くミカンの元へ・・・それには立ちふさがる存在たちを突破しなければならない。
怒りに身を任せるシルバーはそのまま、ギャラドスの体格と戦闘能力を活かした力任せな攻撃を始めると、
攻撃が主人たちの元へと到達する前に、ミカンを倒したあの2匹のゲンガーたちが更なる壁として立ちふさがる。
「熱くなるだけ無駄だと思いますよ・・・?」
「まぁ、そういう輩を正面から潰すのも好きですけどね・・・」
「そういう口は、この一撃を受けてから言え!! “たつまき”!!!」
赤いギャラドスの竜の咆哮と同時に、シルバーの赤いギャラドスの前に大きな竜巻が発生した。
竜巻は地面の砂や草を巻き込みながら、2匹のゲンガーへと、そして存在たちへと襲い掛かる。
気合の込められたギャラドスの一撃に対して、2匹のゲンガーたちは主人たちと共に左右に分かれて真横に回避すると
“たつまき”はそのまま真っ直ぐと進み、倒れているミカン、そしてハガネちゃんの元へと進んでいく・・・
「・・・・・・ッ!!」
このままではミカンが大怪我をしてしまう・・・
倒れていて、無防備な人間が“たつまき”に巻き込まれて、地面に叩きつけられでもしたら
受身も取ることができずに、そのまま地面に叩きつけられでもしたら・・・
そう考えたシルバーの脳よりも早く彼の身体は動き出して、彼女を、ミカンを助けようと
自分の命じた攻撃の中へと無理矢理突っ込んでいく・・・
「あらあら」
「どこへと行くおつもりで?」
“たつまき”を回避した双子姉妹の2匹のゲンガーは、駆けて行くシルバーの影の中に入り込んだ。
それと同時に、シルバーの動きがその場で止まる・・・
「こんな時に、身体が・・・動かない!!」
「“影縫い”と」
「呼ばれるものですわ。」
“影縫い”とは、対象者の影を地面に縫い付けてしまい、一種の金縛り状態にしてしまう技のことを言う。
影を縫い付ける、縫い付けないに関係なく、金縛り状態にさせる技のことを、日本ではこう呼ぶことが多い。
金縛りさせるだけでなく、対象者の影と対象者自身を結び、影へのダメージも対象者自身へと与える。というものも
“影縫い”としてしばしば使用されることもあるそうだ。
「シルバ・・・さん・・・冷静に・・なって・・・・」
「ミカン!! お前・・・・」
運よく意識を取り戻したミカン。一瞬だが、シルバーに安堵の表情が戻る。
それでも、先程受けた攻撃の痛みがまだまだ残っていることだろう。
痛みの為に身体はそうそう動くはず無く、“たつまき”を回避することはできない。
「自分のことは自分で何とかします・・・だから今は・・・」
「こんな時に何を言って!!」
苦しそうに言ったミカンの言葉に尚更怒りを感じたが、少しはそれで冷静になれた。
その理由は、彼女の瞳。
ジムリーダーとしての彼女の瞳が、私は大丈夫、私は何とかできる、私はジムリーダーだ。と力強く訴えかけてくるのだ。
シルバーはその瞳に説得されたのだ。いや、その瞳の奥にあるミカンの意思とプライドに説得されたのだ。
彼女へと向かっていく“たつまき”を、彼女に任せることにして、シルバーは怒りを何とか静める努力をする。
シルバーは静かに目を瞑って、精神を集中する・・・
(向こうの完璧な連携を崩すのは至難の技だ・・・ここは連携を逆手にとった策を狙わなければ・・・)
シルバーはあの謎の光への対処の前に、あの存在たちのコンビプレイ自体の攻略法を考えることにした。
あの謎の光は確かに脅威だが、あの2匹のゲンガーを崩さない限り、永遠にこちらに勝ち目は無い。
そこでシルバーは、コンビプレイの盲点を突く策を考える必要があった。
コンビプレイにも幾つかの種類がある。
片方がを主軸に動き、片方がその援護に徹する・・・援護型
両者が同じ役回りになって、同時に行動する ・・・同時型
両者が臨機応変に役回りを変えて行動する ・・・応変型
これらのコンビプレイどれも一長一短で、どれが一番良いとも、悪いとも言い切れない。
援護型は、主軸の力を最大限にまで発揮させるが、主軸が崩れると終わってしまう高いリスクを持ち
同時型は、同時行動で結果を1倍以上に出来るが、2人分の知恵を活かせないために応変応力に欠け
応変型は、援護型と同時型を臨機で使い分けるが、精神や肉体への負担、コンビ自体の成立が厳しい
あの存在たちもこの何れかの種類に当てはまるコンビプレイをしていることには間違いない。
ただ一つ言えることは、あの存在たちは援護型のコンビプレイを取っていないことは間違い無いということ。
そうなってくるとほぼ必然的に・・・・・・
「戦闘中に目を瞑るなんて・・・」
「アマちゃんもいい加減にして欲しいですね・・・」
突如、両サイドから2匹のゲンガーの“シャドーパンチ”が胸に直撃した。
両胸を強く打たれて、シルバーはその力に対抗できずにそのまま仰向けに倒れた。
“影縫い”していたゲンガーたちかいつの間にか、影から抜け出して攻撃に出たのだろう。
それにしてもこのゲンガー2匹、この2匹の壁があまりにも厚すぎる。
片方だけでもどうにかしたいが、どうにも出来ない。
こちらが攻めると、2匹揃っての徹底的なカウンターが始まり
守れば守ったで、2匹揃っての猛攻撃が始まる。
(と、いうことは・・・)
倒れたままのだが、シルバーは冷静に現状と相手の行動パターンを整理する。
シルバーも双子姉妹に負けず劣らずの豪胆な精神の持ち主だ。これも血統なのだろうか・・・
(おそらく、今のところあの存在たちの行動パターンは同時型・・・。)
実力が均衡しているであろう者同士の組み合わせなら十分にありえる話だ。
ただ1つ、もしも存在たちが応変型だった場合は、この今の思い付きによって大きな痛手になることは間違いない。
あの謎の光への対処もとりあえずはある。後は、向こうを攻める策だけだが・・・
しかしそれでも、あの2匹のゲンガーたちが同時型のコンビプレイをしている以上、こちらが仕掛ける策はたった一つ。
(あいつらの意表を突く意外な行動からの一撃必殺・・・)
相手コンビ、即ちあの存在たちが、同時型が攻撃に転じている時=確実に両者守備をしていない状況。
これがもし、援護型のコンビプレイをとっていれば間違いなく援護をする側が、主軸側を防御してくるだろう。
即ち、援護型が攻撃に転じる時=攻撃も守備も両立している可能性。
存在たちが援護型をしていないことが不幸中の幸いである。
守備への意識の低い攻撃の時に、こちらが攻撃=上手くいけば、2人同時に倒せる可能性。
対策と呼べる対策ではないが、事実上、あの存在たちへの対策はこうするしかない。
力任せのゴリ押しでは、2人分の守りの前に間違いなく屈するだろう。
先程のギャラドスの“たつまき”も、あのゲンガーも、存在たちも軽々と回避したことが裏づけだ。
生半可なかく乱からの一撃もおそらくは無駄。応変能力の低い同時型でも、実戦経験で十分それはフォロー出来る。
あの存在たちの実戦経験の高さは、こちらの状態で十二分に理解できる。
求めるのは“イレギュラー”・・・・・
(まさか、アイツの力を頼る羽目になるとはな・・・)
ヨロヨロのシルバーは、静かにゴールドの方に視線を送った。
「・・・・・・!!」
ガックリとうなだれて、精根尽き果てたような絶望をあらわにするシルバー。
それを見た双子姉妹はそれをからかうように不気味な笑いを続ける・・・
見えた攻略の糸口・・・しかし、潰えた希望。
迫る“たつまき”、見えた攻略の糸口・・・
攻略から逆転へ・・・シルバーたちの運命は・・・・・・
第19話(後編)へ・・・