偶然の遭遇・・・・・・そして放たれる[光の剣]・・・・・
マサラでの戦いに決着がつく頃、
何かに導かれたようにマサラを目指していた
3人の若い男女たちがいた・・・。
1人の男はゴーグルがトレードマークの“自称”風来坊、ゴールド。
もう1人の男は赤い髪色をした美青年で、“自称”隠密、シルバー。
最後にロングヘアーにおっとり顔の女性で、ジムリーダーのミカン。
何とも不思議な面子がマサラを目指すと
一行に双子の姉妹が襲い掛かる・・・・・・
偶然の遭遇、ただし戦いは必然。
ゴールドとシルバーの戦いが始まる・・・
PAS Chapter3 第18話(前編) 狂気との初対決
木枯らし吹く、晩秋のカントー地方。もうじきカントーに、そしてマサラに冬がやってくる。
そんな中をのんびりと、だが確実にマサラに歩みを進めていく3人の若い男女。
ニビシティを過ぎトキワの森を出る頃までは、ゴールドとシルバーの言い争いは続いていたが
トキワシティを出る頃にはその言い争いも一旦は終結し、しぶしぶゴールドについて行くシルバー。
彼氏のシルバーが納得したところで、ミカンはホッと胸をなでおろした。
丁度この時、マサラではグリーンとブルーが、そしてブラックが騎士たちと激しい戦いを繰り広げていた頃だ。
(無論、この時彼らはマサラの現状を知らない。)
そして、2つのとびっきりの闇がマサラを目指して移動していた頃でもあった・・・・・・
トキワシティを後にして結構な時間が過ぎると、マサラへと続く一本道である一番道路へと出る。
道路といっても、獣道とまでは言わないがほとんど舗装されていないといっても過言で無い道で
一帯に広がっている草原の真ん中に、草の生えていない、地面だけの道が一本だけ。
普通なら寂しい道なのだが、嫌でも目に入る周囲の自然が季節ごとの彩を持っているので寂しさは自然と覚えない。
ただ、季節によっては今のように逆に寂しさを煽られるような時もあるので、一概には言えないだろう。
広がる自然は晩秋の雰囲気を醸し出し、見るものに切なさを与える・・・・・
そんな一番道路の先にあるマサラタウンにあるレッドの家が一応のゴールドの目的地だ。
彼も最近のレッドの事情については多少は話を聞いているので、レッドに会えるとは思っていないが
とりあえずそこに行けば、誰か1人くらいには会うことができるだろうという考えだ。
「そういえば・・・マサラに行きたいと思ったのは何故だ?」
しばらく無言で進んでいた一行だったが、シルバーが何か思いついたように口を開いた。
「んーっ、まぁ、何となくだ、何となく。」
深く考えるわけでなく、ゴールドはぶっきらぼうに答える。 実際、そこまで深くは考えてはいなかったのだろう。
ただ、別に誰にも会えなかったとしてマサラの空気でも吸ってみようかという思いもある。
その時はシルバーとミカンに多少の謝罪でもしようかなんて思いもあるわけだ。
これ位ゴールドのマサラへと行く思いというのは非常に突発的で、絶対的な願いではない。
さらに付け加えるとしたら、マサラに向かって異常な殺気の塊が移動していったことも理由である・・・
「予想通りの返答だな。」
丁度一番道路の中間地点くらいでシルバーは足を止める。シルバーが足を止めるとミカンも足を止めた。
2人が足を止めたのでゴールドは2人よりも若干前に出ていた。
「だったら聞くなっつーの。」
2人の方を振り返るわけでもなく言葉を返すと、大きくため息を吐き呆れながら再びマサラに向かい歩き出した。
しかし、その後をシルバーは付いていこうとしない。彼氏のシルバーが動かないのでミカンも足を止める。
また2人よりも前に出たゴールドは、2人が付いてこないことに気付くと流石に今度は振り返った。
「ここまで来てどーした? 頭痛か?腹痛か?それとも諸事情で腰痛か?」
少しイラついているゴールドに対して、何かを感じ取ったようで、静まり返りどこか殺気立っているシルバー。
ミカンはシルバーの隣に居るが、なんだかどうしようもない雰囲気にオロオロするばかりだ。
「・・・・・貧乏くじを引いたような気がしてな。」
既にここに居る時点で、そしてゴールドに付いていった時点で貧乏くじを引いているようなものだ。
そう自分に言い聞かせてシルバーは全身から力を抜いてため息を吐くと、心配そうにこちらを見つめ続けていたミカンの手をとって
イラついているゴールドの元へと歩みを進める。 ミカンもほっと胸を撫で下ろしてシルバーとともに進む。
ゴールドは2人が付いて来たことを確認すると、再び前へと進み始めた。
歩みを進めていく3人。一応、旅人をしているゴールドにとってニビ〜マサラ間の道など楽に歩いていける距離なのだが
普段からそこまでのトレーニングや生活をしていないミカンにとって、この距離は非常に長いものだった。
それに加えて男2人、しかも両方とも運動するタイプだとその歩く速度は女にとってみれば早いなんてものではない。
一応はシルバーが手を引っ張ってくれたり、歩く速度を合わせてくれたりしてくれているので、遅れをとることは無いが
その分、体力を使ってしまったために、ミカンは少し息を切るようになっていた・・・。
「・・・一休みしようか。」
シルバーは優しくミカンに話しかけると、彼女の手をとって近くにあった木の下に移動した。
ゴールドはその様子をとりあえずぼーっと眺めていた。この辺りに来ると自然と心と身体がぼーっとしてくる。
こんな風土をした町で育った人間が、ポケモンリーグで毎回優勝し続けるというのは少々考えられない。
ジョウト組3人がかりでも止められないバトルの鬼だとか、
最強との噂が流れるジムリーダーとか、最恐の女王様とか・・・・・・
このほのぼのとした雰囲気からどうしたらこういう人間が生まれ、育つのだろうか・・・?
そんなことを考えていると、ふと、後ろで人の気配がした。
ゴールドはシルバーたちの様子を確認するのを止めて、後ろを振り向いてみた・・・
「はじめまして」「はじめまして」
話しかけられた瞬間、全身にぞわっと悪寒がはしった。
振り向いたら約2メートル前に2人の不気味な女が並んで立っているのだ。
しかも、似たような外見で腰まで伸ばした茶髪のロングヘア、そして長い前髪が目元を隠しているために
その奥にある目の存在を確かめることも、感じることも出来ない。
・・・・・・不気味。
それ以外の感想を持つことが出来ないゴールド。
とにかくこの不気味な存在たちに対して背中を向けておくことは嫌だったので、存在に対して真っ直ぐに向いた。
「誰だアンタたち?」
一応女が相手なので警戒10割という訳にはいかないゴールド。とりあえず、警戒7割程度で会話をしてみる。
向かって右側の女の前髪は左に流れており、左側の女の前髪は右に流れている。
それによくよく見てみれば、2人とも同じ服やアクセサリー等を身に着けてはいるが、どれも色違いだ。
「ベージュと申します」「セピアと申します」
丁寧に頭を下げて名乗る目の前の存在。同時に話すのでどちらがどちらなのかはよく解らない。
目の前の存在に困惑していると、それに気付いたシルバーがゴールドのところに駆け寄ってきた。
「どうした?」
「いや、何か・・・よくわかんねー・・・」
この時まで目の前の存在たちは頭を下げたままで、いくらかこちらに挑発的とも思える態度だ。
2人は頭を下げ続ける目の前の存在をただ見つめ続けた・・・。
「お前たち何か用か・・・?」
シルバーは冷たい声で話しかけてみた。隣でそれを聞いたゴールドのほうが驚くほどの冷たい声だ。
しかし、頭を下げ続ける存在はそれに動じることなく、頭を下げ続けている。
「あの男のお仲間ですよね?」
「マサラタウンのレッド、いやブラックと・・・」
同じタイミングで頭を上げた目の前の存在たち。前髪で目を確認できないのだが、何故か強烈な視線を感じることが出来る。
あの前髪の裏側では一体どんな目をしてこちらを見ているのだろうか。
「・・・だとしたら何だ?」
先程の声の調子を変えずにシルバーは目の前の存在と話す。
シルバーがこうしてあからさまに敵意と警戒心を見せているのに、存在たちは不気味に笑みを浮かべる。
「フフフ・・・手間が省けましたわ・・・」
「探しに行こうと思いましたら、自ら来ていただけるなんて・・・フフッ」
言葉の意味が理解できない分だけ余計に不気味さは増し、シルバーの声にも臆さないところを見ると
否応無しにこの存在たちが、自分たちが想像している以上に常軌を逸した存在なのだと理解できた。
強いか、弱いか。ではなく、危険か、安全かの基準でこの存在に対しては向き合わねばいけないと
心の奥底、または自分の思考はそういう風に答えを導き出している・・・・
「あなた方の尊敬する先輩の犯した罪の重さを・・・」
「あなた方で表現させていただきます・・・」
2人は背筋を気色の悪い何かに舐められたような感覚に全身を襲われ、そして心もざわめいた。
身体が発したこの感覚は間違いなく危険信号。強者への出会いを喜ぶ武者震いではなく
命を守れと、身体が発した危険信号である・・・
「オイオイ・・・オレたちには関係の無い話だぜ?」
「何の罪を犯したかは知らないが、俺たちにそれを向けるのはお門違いだ。」
その言葉を聞いた目の前の危険な存在たちは、肩を震わせて不気味に笑い始めた・・・
「フフフフ・・・いいえ、これが正しい行動なんですよ?」
「逆に、これ以上の表現方法は存在しません・・フフフ・・・それに・・・」
笑いながら存在たちは言葉を続ける。2人はこの時になって初めて気付いた。
目の前の存在たちの全身から湧き出ている、邪悪な色をしたオーラの存在に・・・
「「今から殺られるだけの存在のあなた方に、そんな決定権は無いでしょう??」」
2人は無意識のうちに目の前の存在たちから距離を取っていた。身体が無条件で動いたのだろう。
そして2人は理解していた。目の前の存在が今までに戦ったことの無いタイプに存在であると・・・
ただ、近い存在として、バトルタワーの時のキクコを、そしてその時の最後の戦いとなった
ブラックとサカキの戦いにおけるブラックとサカキのことを思い出した。
もしも、その時感じ取ったものの最たる姿が目の前の存在たちであるとすれば
目の前の存在たちには、1つの言葉で説明がつく。
そう、目の前の存在たちは、完全に“狂気”の存在である・・・・・
(アイツの言うとおり、マジで貧乏クジを引いたっつーのかよ・・・)
ゴールドの後悔から、状況を一度整理しておこう。
まずゴールドは当ての無い旅の途中だったのだが、マサラの方角へと向かっていった異常な殺気に遭遇、
殺気自体に興味を持ったというよりも、タウンマップでマサラタウンを見たために
何となくマサラタウンに向かうことにしたのである。
マサラへと向かう途中でシルバーとミカンを偶然見つけて、半ば無理矢理一緒にマサラを目指すことにした。
そしてもうすぐマサラに到着というところで、ミカンが疲労を訴えてきたのでしばしの一休みしようとすると
突然、不気味な2人の女が現れて、「レッドの罪の重さをお前たちで表現させろ」の言い分で
ゴールドとシルバーを狙うというのだ・・・・・・
さて、第3者の視点で見てきた方々なら多少は理解出来るこの状況、
しかし、当事者であるゴールドとシルバーからしてみればどうだろうか。
極端な話、目の前の存在たちがやっていることは通り魔そのもの。
だが、存在たちの言葉を思い出してみると、こちらの素性を知っての行動のようだ。
おそらく、いつかは戦わなければならなかった存在たちなのだろう
そうなると自然と“逃げる”という選択肢が消えた・・・
「ヘヘッ・・・悪ィが、そんな訳の解らん理由でやられるわけにはいかねーな。」
ゴールドは自分の背負っているリュックからそっと自慢の“キュー”を抜いた。
その表情は自信に満ちているというよりも、腹を決めた表情というのが正しい。
「予想通り、タダでは殺られてくれませんか・・・ワカバタウンのゴールドさん。」
前髪が右側に流れる存在の方が、どこか高圧的に言葉を返す。
そして発声の後、口元は怪しげに笑みを薄っすらと浮かべる。
「・・・バカと意見が合うのは好ましくないが、仕方が無いな。」
シルバーは上着のポケットから、黒い手袋を取り出すとそれを両手にはめていく。
利き手側からはめていき、はめている最中はもう片方の手袋を口にくわえている。
滑稽な姿に思えるが、眼だけは目の前の存在たちの挙動をキリッと観察しているのがわかる。
「その眼、流石ですね・・・“ご子息”のシルバーさん?」
今度は前髪が左側に流れる存在の方が挑発的にシルバーの素性を一言で片付ける。
やはりもう1人の存在と同様に、薄ら笑いを浮かべている口元。
挑発的で高圧的、相当な自信がこの存在たちには有るのだろうか・・・
「人の素性をペラペラとしゃべんじゃねぇ!!!」
存在たちの言葉に怒りを覚えた、特にシルバーのことについて怒りを覚えたゴールドは
手に持っていた手に持っていたキューを思い切り振り回した。
しかし、存在たちはやはり口元に笑みを浮かべたままでキューをやすやすと回避する。
「危ないですね・・・」「危ないですね・・・」
はたして本当に危険と思っての言葉のだろうか。
ゴールドとしても、先程のキューが直撃したとしても、この存在たちならそのまま襲い掛かってくるだろうと思っていた。
この時点でゴールドがこの存在たちに対して、女だから手を抜く、優しく扱うという
彼のポリシーは崩壊し、存在たちは女であるが、女でないとはっきりと認識している。
「一気に決めるぞ・・・!!」
黒い手袋をはめ終えたシルバーは、腰のボールホルダーからボールを1つ取り出すと
ボールを地面に向かって投げつけて、自分は一定の距離をとる。
どんなに目の前の存在たちが“狂気”の存在であったとしても、自分たちがそれに対抗するには
トレーナーである以上、“ポケモンバトル”それ以外の方法は存在しない。
ボールが地面に着地すると同時に、ボールからオーダイルが呼び出された。
「“かみくだく”!!!」
大口を開けて目の前の存在たちに襲い掛かるオーダイル。
ポケモンバトルでの対抗しかできないと思う割には、トレーナーへの直接攻撃。
しかも“かみくだく”という残酷な技の代表例といった技でだ。
相手がポケモンバトルで応戦してくるか、それともそれほどの技を仕掛けるに値する危険と判断したのか?
襲い来るオーダイル、鋭い牙、強靭な顎・・・
噛みどころが悪ければ人間を絶命させることの出来る威力・・・。
オーダイルは今開けている以上に大きく口を開けて本当に噛み砕こうとする勢いで迫った。
ドスッ・・・・!!
1回のようで2回聞こえたような鈍い音。
どこからともなく2匹のゲンガーが現れて、一匹のゲンガーはオーダイルの腹に
そしてもう一匹のゲンガーがオーダイルの顎にそれぞれ拳“シャドーパンチ”で痛烈な打撃を加える。
怯むオーダイル、それに対して2匹のゲンガーたちは漆黒のエネルギー球“シャドーボール”を投げつける。
「フフフ・・・」「フフフ・・・」
2匹のゲンガーの“シャドーボール”を受けて流石にオーダイルも主人の元にまで余儀なく退避する。
「次はオレの番だぁ!!!」
ゴールドは手に握ったボールを投げようと振りかぶった。
「待て!!」
シルバーは腕をゴールドの前に伸ばして、ゴールドに静止を掛けた。
静止させられたゴールドは不満そうにシルバーの顔を見る。
「あの2人の余裕を見ろ。」
シルバーの銀色の瞳がギロリと存在たちを睨むと、ゴールドの金色の瞳もそれに続く。
「向こうはあの2匹のゲンガーの連携攻撃に間違いなく相当な自信を持っているだろう。
おそらく、奴らの余裕の表情はそこから生まれていると考えてもおかしくない。」
瞳を固定してままシルバーは話し続ける。
「裏を返せば、余裕があるのは連携攻撃のおかげ・・・
即ち、連携攻撃、ダブルバトルには絶対の自信があるということだな。」
その言葉を聞いたのか、存在たちは再び不気味に笑い始めた・・・
「フフフ・・・冷静さ、分析力、度胸・・・流石、血統書付きは違いますわね・・・」
「大方、オーダイルが“かみくだく”を仕掛けてきたのは、こちらが既にゲンガーを呼び出していることを察知したから
「霊」タイプに絶大な威力を誇る「悪」タイプの技での攻撃させた・・・・・・やってくれますね。」
存在たちの言葉を聞いたゴールドはシルバーの方を見た。
そこまでの考えがあったとは知らなかった。正にそういう表情だ。
やはり存在たちが言うように、シルバーに流れる血というものは侮れるものではない。
「ゴールド、奴らのやり方が連携である以上、こちらも同じ土俵に立たなければ勝ち目は無い。
ただ、中途半端な即席連携など逆に足を引っ張るだけだが・・・・・・」
「ならよ、“形式”だけそうすればいい。主体は個人戦、これなら大丈夫だろ。」
一体何が大丈夫なのかは知らないが、そうする以外に方法は無さそうだ。
お互いにここからの戦闘方法を理解しあうと、ゴールドは先程投げようとしていたボールを
自分の近くに投げて、自分の傍にバクフーンのバクたろうを呼び出した。
「こういう状況とはいえ、まさかコイツとタッグを組むとはなぁ〜」
「お前が嫌なように、俺も嫌だ。」
オーダイルが気合を入れなおして主人の前に立つ。
同じようにバクたろうも自分の炎を激しく燃え上がらせて自分の気合をアピールする。
「どのように来られても結構ですよ。」
「潰すだけの話ですから。」
主人たちが怪しげに笑みを浮かべると、ゲンガーたちも同じような笑みを浮かべる。
そして、漆黒のエネルギー球を作り出すと、ゲンガーたちは敏速に動き出した。
(先手を取りに来たか・・・)
シルバーはオーダイルと共に警戒を強めてカウンター策をとる。対してゴールドは猪突猛進。
まるで戦国武将の単騎駆けと言わんばかりに、バクたろうの背中に乗って勢いよく突っ込んでいく・・・
傍から見ればバカの行動にしか思えなかったが、シルバーはそれを利用する術を思いついた。
「いっけぇ、バクたろう!!!」
一気に距離を詰めたバクたろう。だがそこに2匹のゲンガーが立ちふさがる。
「“かえんほうしゃ”!!」
バクたろうは立ち上がり口から火炎を吐き出して、周囲をうろちょろするゲンガーたちを焼き払う。
「結構な威力の炎を使えるのですね。」
「ワカバタウンのゴールド、意外に侮れませんね。」
「そうか、なら俺も侮れないがな。」
攻撃と意識がゴールドに集中する中、シルバーはオーダイルと共に一気に距離を詰めた。
既に大きく振り上げられたオーダイルの腕。このまま振り下ろせば、存在たちに一撃を加えられる。
「悪いな。」
シルバーがそう言い放つと、ドスッという鈍い打撃音がした・・・。
「いえいえ、こちらこそ悪かったですね。」
「“かげぶんしん”って知ってますよね?」
再びどこからとも無く現れた1匹のゲンガーがオーダイルの腹部に“シャドーパンチ”で打撃を加えた。
完全に不意を突かれたオーダイルの身体はよろけて、その場にうずくまる。
それとほぼ同じタイミングで“シャドーボール”による攻撃でよろけたバクたろうの背からゴールドが落ちた。
「「その程度で私たちの連携が崩れるとでも?」」
存在たちがニヤリと笑うと、オーダイルに一撃を加えたゲンガーは、手に持ったままだった“シャドーボール”を
オーダイル・・・ではなくシルバーに向かって投げつけた。
「・・・ッ!!」
久々に受ける“シャドーボール”の精神侵食。脳が絞られて、脳汁を抽出されるような感覚に襲われる。
生き地獄の感覚に強靭な精神をもつシルバーでさえも地に両膝をつけた。
「シルバー!!!」
シルバーの救援へと向かおうとするゴールドに、ゲンガーが冷酷に攻撃を加えて
同じようにゴールドにも両膝を地につかせてうずくまらせた。
「もう一度、策を練り直したらどうですか?」
「まぁ・・無駄でしょうけど。」
挑発的な言動で2人を見下ろす存在たち。
先程話した言葉の意味を考えれば、「いつでもお前たちなど倒せる」と言っているようなものだ。
だが、その余裕を逆に利用できれば、反撃の手立てはあるとシルバーは思っていた。
「フフフ・・・血を引いているのに“真なる後継者”では無いなんて・・・・可哀相。」
「お姉さま、それを言ったら可哀相過ぎますよ・・・フフフ・・・」
シルバーの方を見て存在たちはボソリと言った。シルバーは怒り以上に、絶望に近いショックを受けた。
過去の柵を超えて、今を生きるシルバーにとって過去の柵を再び与えることは
今までの努力を無駄にして、存在自体を否定しているのと同じこと・・・
「テメェらぁ・・・それ以上、言ったら絶対ゆるさねェ・・・・・・」
天敵の事を悪く言う奴を許さない。
仲間や友達を大切にする先輩たちからの教え。
そして、仲間や友達の為に全力を尽くす・・・それもまた、先輩たちの教え・・・
ゴールドはキューを強く握り締めた。
「ゴールド、熱くなるな!!」
シルバーの静止を聞かずにゴールドはうずくまった状態から、根性で立ち上がり
バクたろうと共に存在たちに突っ込んでいく・・・!!
「チャンスを与えたというのに・・・」
「所詮は一般人ということですか。」
2匹のゲンガーが即座に動き、存在たちに到達する前にバクたろうとゴールドに“シャドーボール”を撃ち込む。
気合のこもった精神も“シャドーボール”の精神侵食が襲いかかると、その気合さえも奪われる。
精神が乱されると体力が自然と奪われる。さらに耐性の付きようが無い強力な精神侵食は
精神的な攻撃への対処能力や耐性を低下させる・・・これが“シャドーボール”の恐ろしさだ。
「・・・確かにその程度の“シャドーボール”じゃあ、レッド先輩には遠く及ばねぇな。
だから、オレたちを狙うんだろ・・・? レッド先輩には勝てないから。」
それでも起き上がり、虚勢を張るゴールドに存在たちは冷ややかな視線を送る。
シルバーも立ち上がるとオーダイルと共に攻撃態勢を整えた。
戦闘意欲を見せる2人に、存在たちの心に眠る残虐なる意思が呼び覚まされた・・・
「お姉さま、“とっておき”を見せてあげましょう・・・。」
「いいわねぇ・・・では、いきましょうか・・・フフフ・・・」
そういうと、2人はどこからとも無く一錠の薬を取り出すとそれぞれのゲンガーたちにそれを与えた。
ゲンガーたちが薬を服用してから数秒後、ゲンガーたちの身体から怪しげなオーラが湧き出し始める・・・
「さぁ、“ウェポン”発動よ・・・」
「私たちの戦い方の真髄を見せてあげましょう・・・」
明らかに先程の見下ろし視線でのバトルが終わりを告げている。
何かもっと別のタイプの戦いが始まろうとししていることを2人は否応無しに感じ取らされていた。
「「 さ ぁ 、 ヌ ァ ザ の [ 光 の 剣 ] を 抜 刀 し ま し ょ う ・ ・ ・ 」」
2匹のゲンガーは並んで主人たちの前に立つと、その全身に力をみなぎらせる。
“だいばくはつ”される可能性もあったので、迂闊に技のカットにもいけない2人のポケモンたち。
2人はなされるがままに、存在たちの[光の剣]をその身に受けることしか出来なかった。
「[クラウ]!!!」
「[ソラス]!!!」
2人のゲンガーが主人たちと同じように邪悪な笑みを浮かべると同時に、全ての力を解放した。
「な、なんだこりゃ・・・!」
「光が・・・来る・・・!!」
それぞれの最後の意識で言葉を発すると
ゴールドとシルバー、そして彼等のポケモンたちの全てがが真っ白い光に包まれていった・・・・・・
一休みをするといって、木にもたれ掛かって少し眠っていたミカン。
非常に無防備で危険なのだが、マサラの雰囲気が与える安心感と、なにより
シルバーへの信頼が彼女に心地よい眠りをさせてしまった原因である。
ふと起き上がり、現在時刻をポケギアで確認する。するともうお昼を過ぎた時間で
丁度自分のお腹が空いてきているのでこの時間は間違いでは無い。
(あれ、シルバーさんたちバトルしてるのかな・・・・・・)
まだぽわーんとする意識と視界では、今の状態をあまり正常に理解できない。
それでも2人のバトルの様子を必死に確認する。やはり彼女も一端のジムリーダー、
ポケモンバトル、特に自分の彼氏のバトルには興味を持つ。
「いけ、バクたろう!!」
ゴールドがそういって指差したのは、シルバー。
そして動き出したのはシルバーのオーダイル。
「反撃に出るぞ、オーダイル!!」
シルバーが指差したのはゴールド。
動き出したのはゴールドのバクたろう。
そしてそのまま、主人の指示に従って彼らは同士討ちを始めてしまった。
さらにそれだけでの満足いかないのか、トレーナー同士で取っ組み合いのケンカを始めてしまった。
「・・・どういうことかしら??」
なんだかよくわからない状況に、ミカンは動揺を隠せない。
とりあえず自分の彼氏とその友人がケンカがバトルをしている。ということは解るのだが
何故どうして、お互いに他人のポケモンに命令してバトルしているのだろうか。
よく理解できないバトルに、もしかしたらまだここは夢の世界ではないかと疑いを持ってしまうほどだ。
そんなミカンの存在に気付いたのは、彼らをこんな風にしてしまった張本人たちであった。
不気味な笑みを浮かべながら、徐々に存在たちはミカンへと近づいていく・・・
「「フフフ・・・さて、もっと面白くしてあげましょうか・・・・・」」
一番道路、狂気の存在たちの魔の手がミカンに迫る。
第18話(後編)へ・・・