凄まじき[硬き剣]の威力・・・・・・過熱する2人の戦い・・・!!
グレイの“ウェポン”・・・・[カラドボルグ]の正体は
ポケモンに鋼の剣を持たせて戦わせるというものであった。
そして、一瞬のコンビネーションで一撃必殺を狙ったグレイの一撃は、
いともたやすく完全に青年に見切られた。
痛烈な反撃、圧倒する雰囲気、強い言葉・・・
追い詰められたグレイはさらなる“ウェポン”で青年に攻撃を仕掛ける。
繰り出される3匹目のポケモン、心を燃やし始める青年。
激しい戦いの中で起きる変化と発見が、この戦いの鍵を握る・・・・・・
PAS Chapter3 第16話(後編) 狂気の騎士
繰り出されるグレイの3匹目のポケモンに、ブラックはニョロと共に身構える。
傾向から言えば、グレイが繰り出してくるのは「鋼」タイプのポケモンであろう。
「鋼」タイプといっても、結構な種類のポケモンが存在し、そしてその多くは強力なポケモンたちである。
現状を再確認すると、はっきり言ってブラックが「鋼」タイプのポケモンに対して有利に戦いを進めることができる可能性は
今、呼び出しているニョロこと、ニョロボンが大きな鍵となっている。
「水」・「格闘」タイプのニョロボン・・・しかも、ニョロは「水」タイプの技を駆使して戦うスタイルではなく
その大きく、太い両腕や、強靭な脚力とバネを駆使して「格闘」タイプの技を駆使して戦うスタイルをしている。
この戦闘スタイルのニョロボンであれば、大半の「鋼」タイプのポケモンに対して優位に戦闘を進められる。
しかし、一部の「鋼」タイプのポケモンに関しては、逆に危機を招いてしまう可能性があるのだ・・・・・・
「いくぞ・・・レアコイル!!!」
グレイの3匹目のポケモンとしてボールから呼び出されたのは、「電気」・「鋼」タイプのレアコイル。
呼び出されたレアコイルに、ブラックはかなり渋い顔をした。
弱点は確実に突ける、ただし、「電気」タイプの技での反撃も十分考えられる・・・・・・
今のブラックにとって、これからグレイを倒すことを考えればニョロは生命線。
もしも、麻痺や戦闘不能に陥れば、これからの危機に対処することが難しくなる。
(だったら・・・・・・)
ブラックの考えは先程と同じ。大きな賭けになることは違いないが、やるならこうするしかない。
「[カラドボルグ]!!!」
グレイはブラックの予想に反して、“ウェポン”発動を宣言した。大男に相応しい、低く大きな声が空に向かって響く。
丁度、グレイのほぼ真上に待機していたエアームドが、高い声で一鳴きすると、自分の翼を鋼鉄化させて、大きく宙返り。
同じようにブラックのほぼ真上で待機するプテラのプテは、その様子を今は黙って見ている。
ドスッ、ドスッ、ドスッ。
グレイの前でニョロを意識し続けていたレアコイルの前に、3枚の鋼鉄化された翼が落ちてきて、音を立てて地面に刺さる。
どうやら、一刀流の次は二刀流を飛ばして、いきなり三刀流へと変化するようである。
キュルキュルと自分の身体のネジを回すレアコイル。そのたびにバチバチと高圧電流が流れているような音が聞こえる。
おそらく、この状態がこのレアコイルにとっての“ウェポン”発動状態なのだろう。
「鋼流飛び道具・・・“刀擲”・・・・・・」
グレイが低い声で呟くその剣技の名前を認識したレアコイルは、自分の全身に激しい帯電現象を発生させる。
レアコイルの鋼の身体が帯電し始めると、自然とその身体は磁化されて、レアコイルは強力な電磁石へと変化する・・・
周囲の地面に含まれる砂鉄がレアコイルにペタペタと張り付くと同時に、地面に刺さった鋼の剣[カラドボルグ]と
先程ボスゴドラに持たせていた分の[カラドボルグ]が、地面から抜けてレアコイルの身体に激しい金属音と共にべったりと張り付いた。
「螺旋型超帯電空間展開・・・・レアコイル、標的は、あの男のみ!!!」
グレイは静かに興奮しながら言葉を呟く。その言葉の端々には、どこか狂気を感じ取ることができる。
べったりと張り付いていた鋼の剣を、上手く磁力を調整して、柄の部分だけを身体とくっつけて刃先をブラックに向ける。
向けられた刃先の数は1つ。残りの3つはまだべったりとレアコイルの身体に張り付いている。
そしてグレイが小難しい単語を話した時から、なぜかレアコイルの正面の空間に激しい帯電現象が起きており
どんな原理かは知らないが、空間中を青白い電気が時よりバチバチと輝く。
しかし、ブラックはなぜかその様子を見ても、動揺するわけでもなく、ただその様子の結末を期待するような目で
ひたすらニョロとプテに待てをかけて、グレイに好きなようにさせておく。
「螺旋型超帯電空間集束・・・・レアコイル、[カラドボルグ]射出だ!!!」
グレイの一声で帯電現象の起きている空間の範囲が狭くなる。そして、その空間中にレアコイルの身体にくっつき
ブラックに刃先を向けている1本の鋼の剣がぴったり収まると、空間の帯電現象と、レアコイル自身の帯電現象が激しさを増した。
(さぁ・・・どうなる?!)
ブラックは万全の体勢で身構えながらも、なぜかその表情はあまりしまらない。
別に極端にへらへらしているわけではないのだが、全身にみなぎってくる興奮が、自然と表情を明るくワクワクの顔へと変化させるのだ。
きっとこれは、故郷の空気に満たされ始めて、心の奥底に封じていた“戦う者”、そして“レッド”として心が煽られてきているのだろう。
帯電現象の起きていた空間が、刃先を向ける鋼の剣に触れるか触れないかのギリギリまで狭くなると
突如、レアコイルはその空間への電力供給を爆発的に増加させる。すると、青白い色をしたほぼ隙間の無い螺旋の筒が、まるで砲身のように形成される。
そしてその中にすっぽりと収まっている鋼の剣にも爆発的な電流が流れた・・・・・・
「貴様は私からピンクを奪う者・・・絶対に生かしておけない!!!!!」
「とんだ被害妄想だなぁ?! あの目つきの悪い女には、さほど興味は無いけどな・・・・・・!!」
ブラック目掛けて超絶スピードの空を切る刃が放たれた。そのスピードは銃弾に近いものがある。
グレイの言う、“螺旋型超帯電空間”が螺旋型の電線の同等の効果を生み出し、
そこに電流が流れると、電流が流れる向きに応じて磁界が発生。この磁界と、同じように電気を流されて
強力な電磁石へと変化した鋼の剣が収まると、通常ならそのまま磁界を発生させて終わってしまうのだが、
どちらか一方に流れる電流の向きを反転させることによって磁界同士が反発。よくある同極性における反発現象が発生する。
磁石の強さは、流れる電流によって変化することを考えれば、大きな電流を流せば流すほど、
磁石は強力になりその反発力も大きく、大きくなっていく・・・・・・
強力に磁化した物体に、強力な磁力を向けて反発現象を起こし、その際の力学的エネルギーを利用。
・・・・この原理を用いたものを通称、“コイルガン”という。
これを平和利用したものが、皆さんご存知であろう“リニアモーターカー”である。
射出された鋼の剣。キミドリの“ウェポン”である[ゲイボルグ]と違い、こちらにはかなりの精度があり、
ブラックを刺し殺そうと、ブラックの胸を目掛けて真っ直ぐに、そして凄まじきスピードで飛んでいく・・・・・
(勝ったっ!!!!!)
グレイは心で確実な勝利に酔いしれた。避けられないスピード、ほぼ完璧な精度、なによりその殺傷力。
ポケモンバトルの勝利よりも、ブラックを殺すことの狂気に取り付かれたグレイ。その灰色の瞳の目が興奮で血走った。
勝利、勝利、勝利・・・・・・
心と身体に、自分の幸せを奪う存在を消した喜びが溢れかえり、約束される愛する者との日々を想像して酔いしれる。
これで自分は愛する者に認められ、“あれ”にあたる存在を超えたことが証明された瞬間でもある・・・!!!
幸福に包まれるグレイ。その時である
「“ゴッドバード”みたいな、直進的な攻撃は側面が弱いんだ・・・・・・。」
マサラに、季節外れの、あの時吹いたような風が優しく吹いた・・・・・・
幸せの絶頂から、一気に地獄へ。
グレイの目の前には、自分が想像するとは全く違う光景が映し出されている。
目を瞑り、首をほぐしながら黒いネクタイを右手で緩めるブラックと、一仕事終えたと言わんばかりの、キリっとした表情のニョロが
[カラドボルグ]射出時と、ほぼ変わらない位置で、完全無傷、そして一切の精神の乱れも見せずに立っているのである。
そしてよくよくブラックの隣の方を見てみると、地面に射出した[カラドボルグ]が刺さっている・・・。
黒いネクタイを軽く緩め終わり、首をほぐし終わった青年は、目を瞑ったまま首を下げた。
「・・・ふぅ。」
何かを感じさせるため息。
そして、静かに首を真っ直ぐと元に戻すと、ゆっくりと瞑っていた目を開いた・・・・・・
「やっぱ、故郷はダメだな・・・・・・血が・・・魂が騒いでしょうがないぜ。」
開かれた青年の目。その瞳は漆黒の黒だけだったのだが、そこに
あの、燃え上がる炎のような熱き赤が、瞳全体のうち、1割ほどであるが若干、混じってきている。
その瞳の色に、青年の言葉に、そして、グレイにまるで見せ付けているかのような、はにかむような笑顔に
全挙動、及び、その存在、雰囲気が。青年が一切のプレッシャーを意識しなくても、グレイに強大なプレッシャーを与えた。
「サンキュ、ニョロ。」
優しい笑顔で自分の傍にいるニョロにハイタッチを求めると、ニョロも目をへの字にして喜んでハイタッチに応じる。
その何気ない、トレーナーとポケモンの交流の様子が、グレイの狂気を冷ますほどの恐怖へと変化した。
ガタガタと震えるグレイの身体。2メートル近い大男が、目の前の自分よりかは20センチは下の人間に恐怖している姿は異様であった。
「・・・き・・・貴様、何故・・・生きている・・・???」
完全に怯え、動揺するグレイ。その灰色の瞳は同様のあまりか、グリグリと青年の姿を見つめる。
「あのな・・・」
青年はしょうがなしなしと言った感じで、後頭部をポリポリと掻きながら話し始めた。
「直進的な攻撃は基本的に側面に弱い。・・・それにな、お前の今の攻撃は、射出した物体が悪かったな。
スピードはかなり速かったけど、その薄く広い翼の剣じゃあ、横から力強く殴れば軌道ぐらい簡単に変えられるぞ?」
まるで当たり前のことを話すかのように、青年は淡々と話す。
だが、お気づきだろうか。
この言葉の意味することと、ここまでの青年の状態から、青年がどれだけのことをやってのけたのかを・・・・・
「・・・じゃあ、貴様は・・・・真っ直ぐ、尚且つ、胸を狙い、高速に飛んでくる[カラドボルグ]を一切恐れず、
回避を考えるわけでもなく、何らかの防御手段をとるわけでもなく・・・・・・」
青年の行動の異常さに、グレイの声が震える。
「・・・た・・・ただ、そこに立って、そのニョロボン・・・が、と、飛んでくる[カラドボルグ]の側面を
タイミングよく殴り、そして軌道を変化させることだけを・・・・・・信じていたのか?!」
ご理解いただけるであろうか。
簡潔に言うならば、
“銃口を向けられた状態で、一切の延命手段をせず、且つ微動だにせず、自分以外の存在が放たれた銃弾の軌道を変えてくれるのを待っていた。”
放たれる銃弾の側面を殴って軌道を変化させるということ自体が、既に神の領域の技術だというのに・・・。
青年と、手持ちのポケモンたちとの絆は、あれで証明されている通り、このレベルにまで到達しているのである。
「さてと・・・一発、反撃させてもらうかな?」
いつの間にか、素早く前傾姿勢をとっていた青年はニョロと空中のプテと共に、グレイ、そしてレアコイルに向かって駆け出した。
グレイは灰色の瞳でなにやらグリグリと見ていたために、その対処が完全に遅れてしまった。
ニョロと一緒に駆ける青年に向かって空中のプテが一鳴きすると、なんと、ニョロへの直接指示をすると思っていた
青年の両肩を大きな足でがっちり掴んで、空中へと誘うと、プテと共に空中で一気に加速する・・・!!
一方、地上のニョロはグレイの指示遅れで発生した隙を完全に突いて、レアコイルへの一方的な格闘攻撃を仕掛ける。
軽く跳躍しての右ストレート、着地時のグリップを利用しての後ろ回し蹴りを左下へ振り落とし
体勢を一瞬で整えてからの、右拳の拳骨振り落とし、その時に引いていた左腕の側面からの痛烈なフック。
身体を軽く浮かせる右アッパーカット、そして左右のジャブ連打・・・。
完全にレアコイルをグッロキー状態に追い込むと、ニョロは右拳を深く強く握りこみ、腕を捻ってのコークスクリューアッパーで
レアコイルの身体に抉りこむような拳を放ち、そして、レアコイルを空中へと高々と飛ばした。
ニョロが格闘でレアコイルを圧倒している間に、プテと青年は、レアコイルと同じように隙を突かれたエアームドを狙う。
プテは一気にエアームドの至近距離まで猛スピードで距離を詰めると、ブレーキを掛けるわけでもなく
青年の存在を忘れてしまっているのだろうか、そのままの勢いで突っ込んで“すてみタックル”をエアームドにかました。
プテはその【いしあたま】を利用して、思い切り頭からエアームドに突っ込む。
隙を突かれ、尚且つ、硬い【いしあたま】での凄まじい一撃。「鋼」タイプであるため、大半の物理攻撃には耐性があるが
この一撃はかなり効いたらしく、エアームドはまともに羽ばたくことさえも出来なくなってしまった。
だが、その程度のダメージで青年とプテの攻撃は中断されない・・・寧ろ、更なる攻撃が始まった。
プテはまともに羽ばたくことも出来ないエアームドの身体を、強靭な顎でガブリと“かみつく”とエアームドはその痛みに悶えて暴れ狂う。
悶える身体を開放すると、今度は別のポイントに“かみつく”。その痛みにエアームドは悲痛な高い声を上げ続ける・・・
右の翼、開放、首、開放、左の翼、開放、右足、開放、左足、開放、胴体、開放・・・・・・
エアームドの鋼の身体に歯形を無理矢理つけていくプテ。そして、ほぼ全身を“かみつく”と、
完全にグロッキー状態になってしまっているエアームドを開放してあげた。
エアームドは既に羽ばたく力もなく、ただただ力なく地上に向けて落ちていった。
「プテ、総仕上げだ!!!」
青年の気迫の一声。これが、本当に決める時の声である。
プテは青年の両肩を掴む足の力を強くする。そして素早く空中で宙返りして少し後ろに後退すると、高度を若干下げる・・・
下げられた高度、そして後退した距離。一見、よく解らない行動であるが、青年にははっきりと解っていた。
丁度その位置。まさに青年と、青年の翼となるプテの正面。尚且つ、適度な距離。
そこへ地上から飛ばされてくるレアコイルと、空中から落ちるエアームドがドンピシャの位置で激突した。
「鋼」タイプ同士の嫌な金属同士の激突音と同時に、激突地点で待ち構えていた青年とプテから
「“はかいこうせん”!!!」
正確には青年の口からは放たれる技の名前が、プテの口から強烈な一直線の閃光が、2体の「鋼」ポケモンに向けて放たれた。
閃光に包まれる2体の「鋼」ポケモン、エアームドとレアコイル。この技に対しても「鋼」タイプとして耐性は持っていたが
ここまでの蓄積ダメージと、グッロキー状態での完全無防備状態では、この攻撃をまともに受けて戦闘不能は避けることができない・・・。
空中からグレイの足元へと、戦闘不能になったエアームドとレアコイル。
そして、レアコイルの身体に張り付いていた[カラドボルグ]がバサリ、バサリ、グサリと落ちてきた。
青年はプテと共にグレイと適度な間合いをとってから地上に降りてくると、ニョロを自分の元へと戻らせた。
「さて、バトル続行といこうか?」
あくまでもポケモンバトルのスタンスを崩さない青年に対して、グレイはピクリとも動かず、何にも反応もせず
ただ、呆然と戦闘不能となった自分のポケモンたちを見つめた・・・。
(何だ今の動きと戦いは・・・・・・アレに勝てというのか・・・・・・・?)
顔面蒼白となったグレイ。その灰色の瞳も動くことはなく、なぜか一点だけを見つめている。
(・・・・・怖い、怖い、怖い、怖い、怖い・・・・・・)
恐怖という名の闇がグレイの心を満たした。通常ならば、ここで戦意喪失である。
(怖い、怖い、怖い、怖い、怖い・・・・・・!!!)
ドクンドクンと突如高鳴る鼓動。グレイに明らかな変化がおき始めていた。
「おい、大丈夫か?」
グレイの明らかの異常に気付いた青年はグレイに声を掛けてみた。
別に、この時点で直接攻撃を加えて黙らせておいてもいいのだが(寧ろその方が安全)
青年はあえてそうはしなかった。これがもしも瞳の色に少しでも赤が混じっていなければ、この時点で間違いなくバトルは終了である。
(怖い・・・怖い・・・奴が怖い・・・奴が・・・・・・!!)
グレイの脳内で極度の恐怖による興奮が、異様なほど神経伝達物質を生成させているために
彼の脳内では異常が発生し始めた・・・。
(怖いならば、消せばいい・・・消せば、ピンクも奪われない・・・!!!)
青年への恐怖が一回転し、その恐怖は狂気へと姿を変えると、沈静化したはずのグレイの狂気が再び呼び覚まされた。
そして彼は、狂気の中で何かを理解し、己の答えを導き出した。
「お前を消せば、ピンクはお前に奪われない・・・・・・」
呼吸が不規則な状態で、何とも言えない不気味な声で話すグレイ。
やっと話した言葉がそれだと、さすがに青年も困惑した。
「だから、別に興味はさほど無いってば。」
「貴様に無くても、ピンクにはある!!!」
「えっ・・・・・・?」
はっきりと断言された言葉に、青年は耳を疑った。
だが、すぐさまその興味の正体を気付く。
「貴様には解らなくても、何年も一緒にいる私は解る。 ピンクは貴様の実力を見て、貴様に興味を示している・・・」
「おいおい、それはお前の考えている感情とは別の感情だと思うぞ?」
当然の見解を話してみるのだが、グレイは一向にその感情を抑えようとしない。
既に狂気に身を完全に委ねてしまっているのだろう。
「・・・ピンクは私のものだぁぁぁぁ!!!」
「ぐっっ・・・!!!」
襲い来る狂気に怯む青年。
狂気の力を手にしたことがある人間だからこそ、この力の恐ろしさはよく解っている。
「貴様はここで確実に消す、無論、私の手によってだ!!!」
口調も変わり、人格そのものが変貌を遂げ始めるグレイ。
青年はこの変化を冷静に観察すると、どうやらこの変化が狂気による変化だけとは考えにくい。という結論を出した。
その時、青年の脳裏にある言葉がひらめくと同時に、過去の自分自身の状態を思い出した時、グレイに眠る闇が見えた気がした。
「・・・ダイレクト・リライト・・・心の鍵・・・か・・・・」
今考えていることが正しいとすれば、そして、あの“お手合わせ”のことも踏まえて考えれば・・・・・・
おそらくこの男、いや、“ウェポン”使い、そして円卓の騎士という存在の真実が見えてきそうだ。
ただ、あのノートの情報を肯定するとすれば、この戦いの結末は・・・・・・
見えてしまったのか、解ってしまったのか、それとも、ただの妄想か。
青年の描く未来のヴィジョンには、後味の悪い展開が待っているのだろう。
「私の最強の切り札・・・行けぇ!!!」
狂気に完全に支配されたグレイは、ボールから4匹目のポケモンを呼び出した。
「アレは・・・確か・・・・・・」
グレイのボールから呼び出されたポケモン。青年はあまり見慣れないポケモンだったのでその名前が出てこなかった。
だが、彼のポケモンの知識が告げている。このポケモンこそが、ニョロの戦闘スタイルにおいて最も危機を招くポケモンである。
平均体重550キログラム、平均体長1.6メートル。「鋼」・「エスパー」タイプ、特性【クリアボディ】・・・その名を
「メタグロス!!!」
グレイの絶叫と同時に、4本足の鋼鉄の化け物が姿を現した。・・・これは厄介なことになった。
「そういえば、ダブルバトルだったな・・・そいつ1匹で十分だが、コイツも呼び出しておこう・・・」
狂気のグレイはさらに新しいボールからポケモンを呼び出した。呼び出されたポケモンは・・・
「いくぞ・・・クチート!!」
あざむきポケモン クチート。ただし、このクチートの色はあまりいい色をしていない。
その色の特徴は、薄い紫色・・・。恐らくだが、“お手合わせ”の時や、古城脱出時のことを考えると
色のイメージからあのクチートのタイプは「エスパー」か「毒」・・・。
しかし、「毒」タイプにする利点はあまり無いと思える。ならば単純に、「鋼」タイプとして運用したほうが幾分ましだろう。
「鋼」タイプならば、強靭な装甲を突き破られない限りは、「毒」タイプの技を無効化できるからだ。
消去法で考えれば、あのクチートのタイプは十中八九「エスパー」。ただ、純正「エスパー」タイプかどうかは怪しいところ。
ここは恐らく・・・・・「鋼」・「エスパー」タイプであろう・・・・・・
「・・・クククッ・・・ブラック・・・消してやる!!!」
グレイの目が異常に血走る。このままでは、恐らく・・・・・・
「メタグロス、[カラドボルグ]を集めろ!! ・・・最終奥義を放つぞ!!!」
狂気に満ちたグレイの最終奥義というフレーズに青年は反応した。
先程の“刀擲”の時のように青年はプテとニョロに待てを掛けると、グレイたちの様子をまるで見守るように観察する。
そう、青年は待っている。 意図的にその最終奥義を待っているのである。
メタグロスは“サイコキネシス”で自分の周りに4本の[カラドボルグ]を集めると、
それをそれぞれの腕に持ち、刃の向きを統一させる。それはまるで風車のようだ。
同時に、クチートが念を放つ準備のために集中を始めた。この時点で、やはりこのクチートが「エスパー」タイプであることが解った。
どうやらこの最終奥義は、メタグロスとクチートの“ツープラトン”のようである。
「最終奥義、鋼四刀流・・・“超念動・大回転旋風斬”!!!!!」
青年はその様子をひたすらに観察し続ける。 心のワクワクが爆発的に大きくなっていく・・・
対してグレイは、青年を、ブラックを消せる、殺せるワクワクが爆発的に大きくなっていく・・・
それと同時に、グレイの脳内へのとある可能性が爆発的に高くなってきているだろうと、青年は推測した。
「行け、クチート!!! 回れ、メタグロス!!!!!」
クチートは集中した念を開放しでメタグロスの身体を宙にを持ち上げる。
そしてメタグロスは、己の念でグルグルグルと時計回りに横回転を始めた・・・
回転速度はどんどん上がり、いつしかメタグロスの身体全体を確認することは出来なくなり、青年の目に映るのは
超高速で回転する金属光沢を持つ不思議で大きな円盤・・・もう既にメタグロスには思えないし、見えない。
この回転体を例えるならばUFOだろうか? しかしUFOはこんなに嫌な空を切る音を出さないだろう。
「ブラック!!! これで貴様も終わりだぁぁぁぁ!!!!!!」
狂気と化したグレイが叫ぶ。
クチートの念で高速回転する[カラドボルグ]を持ったメタグロスが青年に一直線に迫る。
そしてその時、青年は・・・・・・
「お姉さま・・・私たちは先に向かいましょう。」
「そうですねセピアさん。・・・用件は伝えましたし、私たちの危機には必ず来てくれるはずです。」
瞑想を続ける青年に聞こえる声でそう話すと、双子の姉妹は闇にまぎれてどこかへと消えた。
姉妹が去った後は、再び滝の水の落ちる音が周囲を支配し、騒がしくも静かな空間を作っている。
「・・・・・・。」
特にこれといって話さない青年だが、姉妹がどこかへと消えてから数分してから滝に打たれるのをやめた。
既に準備してあったバスタオルで全身を拭く青年・・・・青年の背中には立派な竜の彫り物が。
身体を拭き終わった青年は、洗濯済みの衣服を着用するのだが、その衣服というのがシックな紺の“甚平”である。
そして簡易式のボールホルダーを腰に着用すると、青年は雪駄を履き、そして唐傘を手に取った。
薄っすらと青い髪の色。瞳は未だ細められているのでその色を確認することは出来ない。
「・・・・・・。」
青年は終始無言で、どこかの山中の滝を後にした。
後にして数分後、これまでかなり天候がよかったのだが突如、雨がぱらぱらと振り出した・・・
「・・・ッ!!! 何で、お前の言うことを聞かなくてはならない!!」
「まーまー。そう言うなって。」
「私も、一度行ってみたかったんですよ。」
「さすが、ミカンちゃん! 話が解るゥ〜」
指を弾き、パチリと音をたてるゴーグルの若い旅人。どうやら、ニビシティで出会ったカップルは知り合いだったらしく
旅人独特の軽いノリで話を、楽しく、そして強引に持っていく。
「やっぱ、シルバーを巻き込む時はまず、女絡みをいじる・・・・これは、鉄則だな!!」
若い旅人が、ミカンと呼ばれた女の子の彼氏である赤い髪をした青年に聞こえるように話す。
「ゴールド・・・プロを舐めると、手痛いぞ?」
赤い髪の青年、シルバーは、若い旅人をゴールドと呼んだ。
「ハイハイ。エセ隠密さんご苦労様です。」
「フッ・・・道楽風来坊。」
シルバーの一言に、プツッとゴールドは確実にキレた。
「シルバーテメェ・・・彼女の前だからって、カッコつけやがって・・・・!!!」
「この程度で頭に血が上るとは・・・まだまだだな。」
かなり困惑気味のミカンが、何とか2人の間に入ってなだめようとするが、
あのプロの捕獲屋の女性ではないので、そうそう上手くこの2人をなだめることが出来ない。
しかし、それでも3人の足は確実にマサラに向かっているのであった。
迫る危機、迫る脅威、迫る後輩。
今、マサラにトレーナーたちが終結する。
反撃にでる、グリーンとブルー。
応戦するしかない、イエロー。
決着を狙う、ブラック。
反撃と応戦と決着・・・・そして遭遇の時がいよいよやって来た・・・・・・
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