“ウェポン”発動・・・・激突するトレーナーたち!!
カントー地方における伝説的トレーナー、レッド、グリーン、ブルー。
数々の大事件を解決に導き、多くの人々とポケモンを迫る悪から守ったトレーナーである。
その彼らが、自分たちの故郷であるマサラタウンを守るために、再び仲間として共闘する。
ナナシマでの戦いを最後に実に8年ぶりの共闘・・・・・・
久々の共闘、その相手は3人の円卓の騎士、グレイ、ブラウン、キミドリ。
“ウェポン”と呼ばれる特殊な技をポケモンで仕掛けてくるトレーナー・・・
ブラックであり、レッドでもある青年が招いたこの敵は
青年の故郷、ここマサラタウンの人々に危害を加えるためにやって来た・・・。
今、繰り広げられるバトルは既に、その目的を達成しているのかもしれない・・・・・・。
PAS Chapter3 第15話(前編) 植え込まれし力
“戦場の統制者”の降下により、再び心理的に五分五分の状態にまで復活したグリーンとブルー。
しかし、心理的に五分五分に戻ったとしても、現在の状況そのものが元に戻るわけではなく
傷ついたポケモンを手持ちに残しての、厳しいハンデを背負っていることには変わりない。
降下からの奇襲を成功させて、再び仲間として力を揮う青年は、グリーンとブルーの間を通ってプテラのプテと共に駆け抜けた。
すれ違いざまに呟いた感謝の言葉、そして結果的に背後を任せあうことになった3人・・・。
共通の敵となった騎士たちを討つべく、それぞれの力で立ち向かう。
ただ、騎士たちの手には{硬き剣}と{魔の槍}と{魔力弾}が握られていた・・・・・・。
再び睨みあうグリーンとブラウン。ブルーから少し離れて、完全にサシでの勝負へと戻った。
「こんな力を使わずとも、お前のような小童一人ひねり潰せるがのぉ。」
「“力”・・・?」
意味深な言葉に反応するも、ブラウンはそのまま言葉を続ける。
「お前たちが庇った男の罪の大きさを、この力で感じ取るといい・・・。」
少々興奮状態なのだろうか、ブラウンの眼球は血走り、呼吸が荒くなっている。
今まで気づかなかったが、ブラウンの瞳は薄い茶色をしている。
そういえば、この老爺とは先程から睨み合ってきたが、ここまではっきりとこの老爺の瞳を見たのは今が初めてだ。
その様子を冷静に観察してみると、この老翁から、ただならぬオーラが出ているのが解る。
狂気を感じてのオーラ・・・・・・オーラというものが自分自身で出すものでなく、見たものが感じるものだとすれば
このオーラを全身で感じとっている今の自分は、目の前の老爺を危険な存在と肉体が認識している状態なのだろう。
(・・・しかしこの老爺、初めて見たときは大してオーラを感じなかったのにな・・・)
グリーンはふと、このブラウンという老爺の存在に引っかかりを覚えた。
「アイツが何をしたかは知らんが・・・・・・故郷を荒らされると困るのでな。」
これがグリーンがこの老翁と戦う理由。
別に今日、ブルーとデートをしていたわけではなく、向こうが名指しでこちらを呼んだのである。
静かな休日の朝に、町中に響き渡るほどの大声で自分の名前を叫ばれて呼び出されたのだ。
初めはおかしな人間の行動と思い、自宅でのんびりと遅めの朝食であるトーストを食べていたが
自宅の位置を知っていたらしく、わざわざ自宅の前で大声で人の名を呼び続けた。
堪忍袋の緒が切れるというよりも、近所迷惑という考えがすぐに浮かんだので、グリーンはこの老翁の誘いに乗り
今この場所で、マサラタウンの入り口付近・・・即ち郊外でバトルしているのである。
ちなみに、ブルーも同じような考えで誘いに乗ってこの場所に来たようだ。流石、自分のフィアンセだと思う。
こんなことを思い出し、考えながらも足を動かして、ゴルダックと共にブラウンからさらに距離をとる。
ブラウンの前にはあの堅牢なる守りのアーマルド。再びハッサムで斬撃合戦、即ち白兵戦になったら勝てないことはよく解った。
ならば、距離をとって“飛び道具”による攻撃が最も最善の攻撃方法であろう。
先程のブラウンの“力”というキーワードが妙に引っかかる分、ここは“見”に徹したほうがいいかもしれない・・・・・・
グリーンらしい冷静な見解。
“見”に徹することは別に悪くは無い。ただ、この“見”という行為が即ち、防御、回避に徹するということであり
自分自身の防御能力以上の威力の攻撃を必中させられた場合は、それで終わりでもある。
絶対防御、回避の体勢でブラウンの動きを見るグリーン。
ゴルダックは念撃の構えを取り、先手を取る可能性もあるとプレッシャーを与える。
(来るか・・・・・・)
グリーンとゴルダックに緊張が走り、集中力が自然と高まっていく・・・
「くらえ小童!!・・・魔弾・・・[タスラム]!!!」
言葉の発声と共に、ブラウンの脳内ではとある変化がおき始めた。
[タスラム]という言葉がキーワードとなり、ブラウンの脳内、視床下部近辺でとある変化がおき始めた。
今まで使われていた神経伝達物質に変わり、全く新たな伝達物質が分泌され始めたのだ。
視床下部はその伝達物質に刺激されて、自然と自身が司る“本能”を開放し始める・・・。
“記憶”している力ではなく、はるか太古の時代から受け継がれたもの。・・・“ヒト”の遺伝子情報に既に書き込まれていた。
そう言わんばかりに、“本能”の一つとして“ウェポン”は機能し始めた。
まるでそれは、“ヒト”・・・いや、“生命”が生きるために栄養やエネルギーを欲することと同じように。
今、グリーンの前にいるこの一人の老翁は、人間の本能の中に「“ウェポン”をする。」という本能を植え込まれた人間なのだ。
そして、人間だけでなく、そのポケモンにもそれは植え込まれていたようで、アーマルドの脳内でも同じような変化が起きる。
おそらく、トレーナーであるブラウンの声でのみでそれは反応し、植え込まれた本能をその声の主のタイミングで実行する。
(・・・ん・・・・・“どろあそび”・・・・・・か・・・?)
ブラウンのアーマルドの足元は再び液状化をはじめ、グチャグチャの泥へと変化していく。
泥の範囲はどんどん広がり、グチャグチャの泥がアーマルドを中心に半径3メートルほどの泥のフィールドを作り出した。
「小童・・・・“見”し続けるのは構わないが、この一撃・・・避けきれるか?」
ブラウンは今までの声よりも低い声で話す。はたしてこの声の変化が示すのは、自信か、それとも策略か・・・・・・
(あの口ぶり・・・墓穴を掘ったな。)
グリーンはアーマルドの様子を見ながら、腰のボールホルダーから左手でボールを掴み、右手でゴルダックのボールを掴んで
一瞬のうちにポケモンを交代させる。右手のボールにゴルダックは戻り、左手のボールからカイリキーが姿を現した。
(「避けきれるか?」・・・要するに必中攻撃を仕掛けてくるということ。ならば“まもる”までだ。)
パチリ。
ブラウンが無表情で右手の指を弾いた。
それとほぼ同時に、アーマルドは周囲の泥をかき集めて高速で撃ち出し始めた。
高速で、尚且つ長距離に泥を飛ばすために、泥をほぼ球体に近い形に加工して撃ち出す。・・・そう、“マッドショット”。
発射されたのはカイリキーとゴツダックの交代直後、正面から無数の泥球が高速でカイリキーに真っ直ぐ飛んでくる。
「カイリキー、“まもる”!!!」
“マッドショット”の着弾寸前で、カイリキーは完全に防御を完成させて泥球攻撃をひたすら耐える。
グリーンはそんなカイリキーの後ろに回りこみ、しゃがみこんで背中をあずけると、泥球から難を逃れる。
(これがあの男の言う“力”か・・・? この程度の威力ならば、必ず反撃のチャンスは来る・・・!)
確かにこの“マッドショット”の威力、泥球の連射力、泥球の速度はかなりのものだが、耐えられないものではない。
・・・・・・これではただの地面タイプの必中攻撃でしかない。
おそらく、何かまだこの攻撃には秘密があるだろう。・・・この攻撃自体が別の、本命の攻撃への準備かもしれない。
(ここまでは予想通り・・・後は、あのアーマルドへの決定的なダメージを与える反撃・・・)
飛び交う泥球をこのままカイリキーに任せて、予てからの作戦通りに遠、中距離攻撃で攻める。
条件的、そして技、タイプを考えると、先程交代させたばかりのゴルダックが最適任だろう。
“ハイドロポンプ”か“サイコキネシス”で確実に攻撃できる・・・特に、水タイプの“ハイドロポンプ”は弱点も突ける。
防御姿勢でひたすら泥球の猛攻に耐えるカイリキー。泥球が被弾することによって泥で身体の動きは鈍くなっていく・・・
(これで今、テンガロンハットでも被っていたら・・・西部劇だな・・・・)
自分で思い、自分でクスリと笑う。なんだかんだで心理的には多少は余裕があるようだ。
泥の弾丸を乱射してくるアーマルドに、水砲で反撃。グリーンは再びゴルダックの入ったボールを手に取ると
相手のリロードの時を静かに待つ・・・・・泥にも限界はあるはずである。
そして予想通り、泥球の発射は中断された。グリーンは、すっとアーマルドとブラウンの様子をカイリキーの影から覗くと
アーマルドはせっせと次の攻撃のための泥をかき集めている最中であった。ブラウンはその様子とカイリキーの方を交互に見ている。
(仕掛ける・・・!!)
グリーンはカイリキーの影に隠れられるようにゴルダックを呼び出すと、すぐさま水砲の準備を取らせる。
「・・・“ウェポン”発動、[タスラム]・・・“拳弾”!!!」
「ゴルダック、“ハイドロポンプ”!!!」
ブラウンが叫ぶ。グリーンはゴルダックに命令する。
アーマルドは先程とは違った音をさせて泥球を撃ち出す。ゴルダックは両手を前に出して、手と手の間から大量の水を撃ち出す。
その結果を見守るためにグリーンは、カイリキーの影から首だけ動かして外の様子を確認しようとした瞬間であった。
ゴッッッ!!!!!
流れ弾の直撃。どうせ飛んでくるものが泥と思い込んでの浅はかな行動であった。
「なっ・・・・・!!」
泥・・・ではなく、明らかに硬い何かが激突した鈍い音が全身を駆け巡った。同時に黒目が飛ぶ。
顔が自分の意思と関係無しに勢いよく横を向き、はっきりと自分の脳に激しい振動が伝わったことが解る。
(成程・・・“マッドショット”と“ロックブラスト”の複合技と言った所・・・・・・か・・・・・・。)
薄れていく意識の中で、この技の正体に気付いた。
土、そして泥で厚くコーティングされた握りこぶし大の石が顎へと直撃。
石だけなら弾丸のように骨を砕いただろうが、土と泥がクッションとなってまるで人間の拳のような衝撃へと変化する。
顎に真横から入った高速の泥を帯びた石の弾丸は、プロボクサーの全力パンチ並みの威力を持っていた。
・・・・・・コレは技の強弱云々ではなく、完全に意表を突かれた。
攻撃に転じて、甘くなった守備を叩く。まるで、
こちらの考えが全て先読みされていたような気がしてならない・・・・・・
真っ白に染まる世界。ふわりと力なく崩れる身体。未だ飛んで来ている[魔力弾]。
残されたゴルダックとカイリキーのことを心配しながら
飛んでいく意識と共に、グリーンの敗北がマサラの大地に刻まれた・・・・・・
「あのバカが帰ってきたら、そうそうアタシたちは負けないわよ?」
「はい、解ってます。 それでも、何も問題はありません!」
笑顔で返してくるこの少女に、金髪の後輩に近いものを感じ取る。
呼び出された当初から、その雰囲気で似たような存在だろうとは思っていたが
この天然なのか、わざとなのかよく解らないこの性格、性質には嫌気が差しそうだ。
あの後輩でさえもバトルの時は性格が変わるのだが、あの性格をバトルの時にまで延長されるとは・・・・
確かにあの後輩とは数年前にいろいろあったが、今では和解しているし関係も良好だ。だが
少々、ストレスを解消するには格好の人物かもしれない。別に恨みは無いが。
それに、故郷を荒らそうとする輩を許すほど自分はバカではない・・・・・・
「だって元々、貴女を潰すのが私の役目ですから。」
満面の笑みで楽しそうに話す。
「・・・・・・あのバカが何をしたかは知らないけど・・・アイツの理由に関わらず、アンタはアタシが倒すわ。」
何度も何度も頷きながら話すブルーは、明らかに怒っているのが解る。
ここまでなめた態度を取るトレーナーを今までに見たことが無い。そしてそれが素なのかどうか判別できないので困る。
「そうだ!! 折角“ウェポン”発動の許可が下りたんだから、使わない手は無いよね。」
「“ウェポン”?」
聞き覚えの無い不思議な単語に当然のように疑問を持ち聞き返してみる。
「あっ・・・じゃあ、見せてあげますね。」
丁度よかったと言わんばかりの表情で呼び出してあったテッカニンをボールへと戻すと、新たなボールを取り出して、中のポケモンと交代させる。
そして、テッカニンに変わって姿を現したのは・・・どくばちポケモン スピアー。
スピアーはボールから現れると同時にブーンと耳につく高い音程の羽音を鳴らしながら、両手の針を針どうしで研ぎ始めた。
「行きますよ・・・・[ゲイボルグ]!!!」
ブラウンと同じように、彼女とスピアーの視床下部でも特殊な神経伝達物質が声に反応して作られ始めた。
眠らされている本能をこの物質に刺激されると、“ウェポン”は初めて機能し始める。
「スピアー、あのお姉さんをあなたの巣にしましょう。」
キミドリの命令(?)で、彼女のスピアーは両腕の針に意識を集中し始めた。
ニョキニョキニョキ・・・
みるみる針の形は変化を始め、先端部にかえしができてその形状はまるで銛のようになった。
形を変えた針を見つめるブルー。そして、ブルーを先程から守り続ける形となっているニドクインのニドちゃん。
(あの形状・・・貫きに来る訳ね・・・・・)
冷静に見解するが、今度はそれをどうするのかを考えなければならない。
貫くということから、身体で受けての防御=大ダメージの方程式が成り立つ以上、避けるか、軌道を逸らせる以外対処法は無い。
ニドちゃんに何らかの対処を命じようとした時である。
「ごめんなさ〜い!!」
非常に申し訳なさそうでありながらも、どこが楽しんでいるような高いキーの声で謝罪の言葉をキミドリ言った。
スピアーは、銛のように変化した針をニドちゃんに向けるとエネルギーと意識を集中させる・・・・・・
「シュゥゥゥゥゥーーーーートォォォォォッ!!!」
もしやコレが彼女の本性なのだろうか・・・・・?
とたんに変わるキミドリの口調と声。今までの女の子の声が、まるで男のような太い声で唸るように叫んだ。
それと同時に、彼女のスピアーは集中とエネルギーを解き放ち、銛状に変化した片腕の針を撃った。
放たれると同時に、針はコンマ0秒以下の時間で音速以上の速度まで加速。衝撃波を巻き起こしながら、ブルーのニドちゃんへと迫る。
針の精度はあまり正確では無いらしく、射出時にその軌道はずれてくれたようだ。
物理的に十分ありえる話だとは思うが、意図的だった可能性も否定はできない。
ドンッッ!!!
鼓膜を破くような爆音と共に、凄まじき衝撃波が発生した。
「きゃっっっ!!!」
ブルーとニドちゃんの身体がビュンと宙に舞った。
針は命中こそしなかったが、音速以上の速度で物体が通過すると必然的に衝撃波が発生する。
その衝撃波に巻き込まれたブルーとニドちゃん。宙に舞った身体は、うつ伏せの状態でドシンと地面に叩きつけられた。
撃たれた針は真っ直ぐにどこかに飛んでいき、その姿を確認することは一瞬のうちにできなくなった。
針の行き先が人やポケモンの住んでいない場所だといいのだが・・・・・
(なによ・・アレ・・・・・・。)
“ミサイルばり”、“とげキャノン”・・・そんなレベルではない。
ブルーはニドちゃんと共に痛みをこらえながら立ち上がると、身体や衣服についた砂を払う。
凄まじきスピードで飛ばされた針。直撃しなくても近くを通過した時の衝撃波でも攻撃ができる。
コレを短い間隔で撃たれ続けたら敗北は必至・・・そして、大怪我もまた必至。
そして断言できる。もし、アレが完全に身体に直撃したら、人であれ、ポケモンであれ、確実に死ぬと断言できる。
(やっぱりこういうバトルになっちゃうのねぇ・・・・・・。)
ブルーはかなり渋い顔をしながら、ニドちゃんの方を向いてその様子と戦闘続行が可能かどうか確認を取る。
(これはもう、このバトルを終わらせたら、絶対にアイツを問い詰める権利があるわよね。)
握りこぶしをギュっと作ると、ブルーはニドちゃんと共にキミドリの方を向いた。
「あ、大丈夫でしたか!! それでは、2発目行きますので!!!」
手を振ってこちらに元気よく、そしてはきはきと明るく声を掛けるキミドリ。・・・一切の罪悪感を覚えていないようだ。
彼女の姿が先程よりも遠くに見えたので結構な距離を先程の衝撃波で吹き飛ばされていたらしく
元いた場所からさらに10メートルは離れた場所にキミドリと彼女のスピアーが見える。
(まずは、何とか“普通の”バトルに持ち込まなきゃ勝ち目は無いわね・・・。)
表情を変えずに、ブルーは次の一手を冷静に考える。
そしてその間に、いつの間にか再生していたスピアーの針は再び、先程と同じようにニョキニョキと変化を始めた。
先程よりも遠くにブルーは居る為、どんなに目を凝らしてもその変化の様子を詳細に確認することはできない。
特に、その本数は・・・・・・
「ゲイボルグ・ダブルアーム・セット!!」
構えられる両腕の針。攻撃の威力から考えれば、既に何を狙っているのかが解らない。
バトルという形式上、おそらくポケモン狙いの攻撃なのだろうが、トレーナーにもほぼ間違いなく被害は及ぶ。
遠目でスピアーの動きを確認していたブルーは、構えられた2本の針に、果てしない絶望と恐怖を覚えた。
(ここを凌がなきゃ・・・アタシだってマサラのトレーナー!!!)
そう決意したとしても、未だに浮かんでこない次の一手。
針のスピードがもう少し遅ければ、発射と同時に走って回避できたかもしれないが、発射されたらもう避けることはできない。
ならば・・・・・・
ブルーはニドちゃんとアイコンタクトをとると、その考えを伝える。そして・・・・・・
「一気に距離を詰めるわよ!!」
威勢のいいブルーの大きな声がバトルフィールド全体に響き渡る。
ブルーはさり気なく腰のボールホルダーからボールを手に隠し持つと、お互いに正反対の方向へと駆け出した。
ニドちゃんは右へ、ブルーは左へ。真横に走って2本の針の集束発射をまずこれで無効化する。
・・・・・・ただし、相手がどちらかを集中的に狙ってきたら話は別だが。
「あくまでも私の目的は貴女を潰すことですから!」
ニッコリ笑ってキミドリはスピアーにターゲットをブルーに絞らせた。
そして、ついでにと、2つのボールから2匹のポケモンを呼び出した。ほたるポケモンのバルビートとイルミーゼだ。
「“ウェポン”の邪魔はさせませんよ〜?」
またニッコリ笑って余裕をアピールするキミドリ。まるでこちらの策を読まれているような予感がした。
呼び出された2匹はイルミーゼの“てだすけ”から、バルビートの“シグナルビーム”のコンビネーションで
ニドちゃんに一切の接近を許させず、2対1の有利な状況で確実にニドちゃんを追い詰めていく・・・
横へ横へと走りながら、回り込むように円を描いて着実に距離を詰めていくブルー。
それを見たキミドリはニッコリと笑うと、またあの声で叫ぶ
「シュゥゥゥゥゥーーーーートォォォォォッ!!!」
空間を振動させるような気迫溢れる圧倒的な声と同時に、スピアーは走り続けるブルーに向けて両腕の針を射出した。
無論、こんなことをしてもただでさえも狙いが定まりにくい攻撃を確実に直撃させることは不可能である。
しかしそれでも射出を強行したのにはキミドリの策があったからだ。
音速並みの速度で凄まじき衝撃波を発生させながら真っ直ぐ飛ぶ{魔の槍}。その狙いの先にターゲットがいなくとも・・・・・・
ドンッッッ!!!
再び聞こえたあの激しい音。
針は衝撃波と共に走っているブルーの左右を通過すると、その衝撃波でブルーの身体を再び宙に舞わせた。
同時に隠し持っていたボールもポトリと落としてしまった。
(まさかあの“針”・・・左右への道を断つためだけの・・・!!)
再び宙に舞ったブルーは、飛ばされ、落ちながら今の攻撃の目的をふと思う。
必殺の攻撃をああいう風に使ってくるのはかなり予想外であったのだろう・・・
ドサリ。
運よく、今回もうつ伏せの状態で落ちた。
「つぅっ!!!」
結構な高さから落ちたため、先程よりも痛みが激しい。特に肘や膝といった間接部を強く打ち付けたようで、かなり痛い。
痛みを耐えていると、立ち上がることができない。地面にうつ伏せで痛みを耐える彼女のすぐ近くで
あの、高い音程の羽音がいやに大きく聞こえた・・・・・・
「ちょっと、チクッとしますよ〜?」
なんとか首だけ動かして声のしたほうを向くと、カワイイ笑顔のキミドリと、腕の針を再生し終わったスピアーの姿が見えた。
ブルーの顔が、冗談ではなく真っ青になった。
キミドリの言うとおり“ちょっと”程度で済むならば、ここまでの恐怖は絶対に覚えることはない。
ブルーは静かに目を閉じて。ふぅーっと息を吐いた・・・・・・。
第15話(後編)へ・・・