攻防の中で見え始める光と闇・・・そして・・・・・・
退屈そうにベンチに腰掛けてフィールドを見つめる三白眼の女・・・ピンク。
その後ろで突っ立っている大柄な男・・・グレイ。
また別の場所で離れてフィールドを心配そうに見つめる色白の肌に白い紙の女・・・ホワイト。
そして、フィールドに立つ赤い髪と瞳の青年。その服装は少々小汚い・・・カーマイン。
もう一人、青年の対面に立つこの夏の季節に黒いスーツを着こなす黒髪の男・・・ブラック。
5人の男女、交わる視線、プレッシャー、それぞれの思惑・・・・・・
ただのお手合わせにしては、そこに渦巻く意思の大きさが不自然だ。
そして渦巻く意思の中で
ブラックはあることに気が付き始めた・・・・・・
PAS Chapter3 第10話 対決、烈火のカーマイン
分厚い石の壁に囲まれたこのバトル場には、外の世界から力を得られないように窓が一つも無い閉鎖的な空間。
この部屋の光源は、天井に取り付けられている大く広い照明と、壁に均等な間隔で取り付けられている燭台の明かりだけ。
昼間の時間帯ながらも、その程度の照明力ではやはり薄暗く、太陽の光を浴びないためにか、いやにじめついている。
このバトル場のフィールドは床と高さが同じというタイプで、床には白線で公式ルール基づいたラインが書かれている。
だが、この円卓の騎士という組織の人間が、そういうルールで単純にお手合わせしてもらいたいとは言わないし、思わないだろう。
その理由として、今もなお自分自身に向けられる敵意むき出しのプレッシャーが、対戦相手であるカーマインから向けられているからだ。
カーマインの目はそれでいて、純粋にバトルを楽しもうとするものの目。
もしかしたら彼は、自分自身の揮う力を暴力や武力と認識できていないだけではないだろうか・・・・・・
一瞬でも、正常なバトルができるのではと思ってしまった自分を恥じた。
ここがいったいどこで、相手がどんな組織の人間かを忘れ去っていた。きっとそれは、彼の目の純粋さに惑わされたのだろう。
ブラックは今の自分の服装である黒いスーツでは、これからのバトルを想定し、その動きにくさから開放されるために
一度スーツを脱いで、カーマインに背を向けるように、普通に歩いてフィールドの外へと向かい、ラインの外へとスーツを置こうとした。
「“かえんぐるま”!!!」
背後でカーマインのボールから呼び出されたバクフーンが、その身体に己の炎を纏わせて猛烈な勢いで転がって突っ込んできた。
バクフーンが転がった床には黒いこげと炎の道ができ、回転の勢い以上にその猛烈な炎の威力には戦慄を覚える。
「ニョロ!!!」
背後からのその一撃を、黒いスーツを投げ捨てながら体勢を崩して紙一重で回避すると
手に握られていたボールからニョロボンのニョロを呼び出して応戦させる。
「“ちきゅうなげ”!!!」
突進のスピードをそのまま活かして、炎に包まれる身体を無理矢理両腕で捕らえると、ニョロの身体がジュッと音を立てて焼ける。
いくら【しめりけ】のある身体とはいえ、このレベルの炎を身体で受け止めるのには少々厳しい。
それでも胸と両腕を上手く使い、バクフーンを捕らえて強靭な足腰で踏ん張ると、分厚い石の壁に投げ飛ばす。
バーンッ!! と激突と同時に激しい音がするとが崩れてきた壁の破片とそのダメージがバクフーンの動きを止めた。
「頼むぞ、ニョロ!!」
ブラックの声を聞くと、ニョロは瓦礫に埋もれるバクフーンの元へと追撃のために駆け出した。
その間、ブラックには次のカーマインのポケモンが襲い掛かる・・・!
瓦礫に埋まったバクフーンは、首だけを瓦礫から出すと口に炎のエネルギーを集中させる。
現在、ブラックの背後を完全にとっているので、別のポケモンへの対処に手間取るブラックを焼き払うにはタイミングがよい。
凝縮された灼熱のエネルギーをブラック目掛けて放とうとするバクフーン、しかしそこへとニョロが駆けつけた。
火炎を吐き出そうとしていたバクフーンの動きを止めている瓦礫の上に飛び乗ると、ニョロボン特有の大きな手を思い切り振り下ろした。
振り下ろす際、ニョロの大きな手は硬く握り締められており、拳で殴るというよりもハンマーで叩き潰すといった感じだ。
振り下ろされる拳の威力は凄まじく、バクフーンが凝縮していた灼熱の炎のエネルギーなどいともたやすく散らしてしまった。
ドスッ、ドスッ と十数発の攻撃を頭部へ集中的に受けると、流石にバクフーンもグロッキーになってしまう。
虚ろになったバクフーンに、今度はニョロの必殺の拳“きあいパンチ”が側頭部へと打ち込まれた。
真っ直ぐに打ち込まれる必殺の拳。抵抗することができないバクフーンを見事完全に捉えた。
ここまで完璧に決まった“きあいパンチ”は早々無いだろう、衝撃の瞬間に感じ取る間違いない完璧な手ごたえ。
その凄まじき衝撃はバクフーンを一撃で戦闘不能にすると、その身体を埋もれていた瓦礫の中から引きずり出して
ピンクたちはいないが、丁度ピンクたちの隣の隅となる部屋の隅へとぶっ飛ばした。
「・・・スゴ・・・・・・。」
ピンクの口がいつの間にか無意識のうちに漏らしていた言葉。その言葉にグレイの表情が明らかに曇る。
その威力と衝撃音にピンクとグレイは、二人が戦うバトルフィールドから目を離してその様子を見てしまったのだ。
この攻撃までの流れをブラックがニョロに命じていた節はどこにも無い。
唯一ニョロに言ったことは、先ほどの「頼むぞ、ニョロ!!」の一言と、呼び出す際の「ニョロ!!!」、
そしてバクフーンを投げ飛ばしたときの「“ちきゅうなげ”!!!」だけだ。
どこでここまでの命令を下したのだろうか。グレイの方をチラリと見てみるが、グレイも首をかしげている。
「あ・・・確かあの時・・・・・・!!!」
ピンクはふと一連のブラックの動きそのものを思い出した。
バクフーンの突然の不意打ちであった“かえんぐるま”を避けて、ボールからニョロを呼び出した一瞬である。
呼び出されたニョロはそのままバクフーンに飛びついたわけではなく、一瞬、本当に一瞬、ブラックの方をチラッと見ていた。
そうやって一瞬ブラックと目を合わせたからといって動作が遅れたわけでなく、そのタイミングは完璧だった。
千分の一秒以下くらいのの世界でアイコンタクトを交わし、ここまでの一撃を加える。
まさに達人、いや、ここまでの段階に達していると達人などという言葉ではぬるい。
超人・・・そう、通常のトレーナーを基準とするならば、この段階の実力はもう超人といっても過言ではない。
「アレが・・・アレが・・・私たちへの切り札・・・・・・。」
ピンクは生唾をごくりと飲み込んだ。そしていつの間にか、その身体は小さくカタカタと震え、嫌な汗をかき始めた・・・
「ニョロ!! いくぞ!!!」
ぶっ飛ばされたバクフーンが再び石の壁を砕くとほぼ同時に、上空のブラックがニョロを呼んだ。
何やら策があるような雰囲気だ、ニョロはそれを感じ取るとフィールドへと急いで駆け戻る
次に襲い掛かってきたのは、ブーバーとヘルガー。
ブーバーが“ほのおのパンチ”で至近距離を、ヘルガーがいくつかの火の玉、“おにび”を放ち中遠距離から援護する。
(“おにび”か・・・迂闊にポケモンを展開できないな・・・・・・。)
ブラックの考えの根拠として、この“おにび”という技の鬱陶しさが挙げられる、
“おにび”は、その火の玉一つが微妙なサイズで、回避が難しいなんともいえない大きさをしており
そして、技自体に大した威力は無い。が、攻撃が命中したときにやけどを負わせるという非常にいやらしい効果なのだ。
さらに、至近距離で攻撃を仕掛けてくるブーバーの特性【ほのおのからだ】は、触れたポケモンをやけどさせる効果があるのだ。
これは完全に相手ポケモン一体づつにハンデを負わせてから、追い詰めていくという作戦だろう。
やけどを負えばポケモンの戦闘意欲が少なくなり、攻撃力が低下する。また、酷いやけどならば、状態が悪化する場合もあり非常に不利となる。
ポケモン図鑑や様々なポケモンの知識を持たないものは、この段階でこの作戦にはまりカーマインのペースで戦うことになるということだ。
(ここは、一度・・・・・・)
ブーバーの燃え盛る拳をヒョイッと後ろに避けると、飛んできた火の玉が直撃する寸前に呼び出したプテラのプテに片腕で掴まり空へと一時退避した。
空へとかなり急いで退避したために、黒いネクタイが肩に引っかかり少々みっともない。だが、それを気にしている暇はなさそうだ。
カーマインはさらにボールからキュウコンを呼び出すと、すぐさま攻撃の命を下す。
「ヘルガーとキュウコンは“おにび”、ブーバーは“スモッグ”を放て!!!」
上空のブラックを指差すカーマイン。それと同時に二十発以上の火の玉と、見るからに毒々しい色をした有色の煙が上空に放たれた。
「チッ!! プテ、飛び回って回避だ!!!」
舌打ちと同時に、結構なスピードで上空を飛び回り攻撃を回避するプテとブラック。
しかし、片腕で掴まっているのでプテがすばやく飛び回るたびにその身体は今にも振り落とされそうだ。
結構な高さで飛び回っているので、もしも振り落とされてしまったら、打ち所が悪ければ死、最低でも全身打撲と骨折は免れることはできない。
攻撃を回避しながらもカーマインとそのポケモン、そしてニョロの様子を上空から全体的に観察するブラック。
(状態異常を狙いすぎだな。決定打を仕掛けてこない今がチャンス・・・か?)
ブラックは新たなボールを何とか腰のホルダーから取り出した。が
「やらせるか!」
カーマインはブラックよりも早く、ボールを取り出してブラックに向けてそのボールを投げつけた。
「おっと!!」
ボールそのものは回避した。しかし、天井に当たったボールからマグカルゴが飛び出してきた。
(開閉スイッチを天井に当たったときの衝撃で・・・!!!)
ベチャリとマグマのような身体で“のしかかり”をしてくるマグカルゴ。しかも、特性【ほのおのからだ】持ちだ。
「うおぉぉ!!!」
必死の声と共に真上から落ちてくるマグカルゴを間一髪なんとか回避した。しかし、そこへと降り注ぐのは地上からの攻撃!
「ッ・・・!!!」
その刹那、ブラックの思考を伝達されたプテはかなり無理矢理な体勢から“こうそくいどう”でその場を回避
しかしここでブラックは痛恨のミスをしてしまった。
回避に無理をしすぎたのかブラックの持っていたボールは、彼の手を離れて地上へと落ちていってしまったのだ・・・
流石のブラックも焦りと失態へのからか、その表情は厳しい。
(まず一匹戦闘不能だ!!)
どうやら上空から地上へとポケモンを放ち応戦させるのは、初めから想定済みだったらしく
上空へ逃がしたのも彼の、カーマインの作戦だったようだ。 これでブラックは無条件でポケモンを手持ちを一体失ってしまった。
この調子では、地上に戻り戦闘に持ち込むのも少々厳しいだろう。やけどを負うことを承知で戦闘をするしかないのだろうか・・・・・?
「ニョロ!! いくぞ!!!」
上空のブラックは突然、大きな声で地上のニョロを呼んだ。
プテと共にいる上空でのブラックの表情は、怪しげな笑みを浮かべている・・・・・・
ブラックの手から落ちてしまったボールは床に強く打ちつけられると、その衝撃のために数回バウンドした。
カーマインは落ちたボールを大して気にかけず、今展開しているメンバーでどうやってブラックを倒すかを考え始めていた頃だった。
「ニョロ!! いくぞ!!!」
この一声で、初めてカーマインは後ろを振り向き、部屋の隅で戦闘不能となっているバクフーンと
地上から上空へと攻撃を仕掛ける自分のポケモンたちに迫る、自分が最も恐れるタイプである「水」タイプのポケモン、ニョロボンを確認した。
(それでも、数の上では4対1・・・この際、属性は関係ない・・・!!!)
カーマインの全身に力がこもり、腹から声を出した。
「ニョロボンを一斉攻撃!!!」
カーマインの声と同時に、全ての攻撃がニョロに向けられた。彼の元へと戻ってきていたマグカルゴもブーバー同様、“スモッグ”を放つ。
単身、攻撃を仕掛けに行ったニョロが今度は絶体絶命。しかし、そのタイミングで“こうそくいどう”で回避したために
その余韻で部屋の隅の壁の部分まで移動してしまっていたブラックが、一度、プテから離れて壁を蹴って再びプテにその身を委ねた。
その一瞬、プテから離れた一瞬に、プテは自分自身の身体を一捻りして、進行方向をカーマインの方向へと修正すると
壁を蹴ってきたブラックの身体を今度は、その両肩をしっかりと掴んで飛行を開始した。
一瞬の方向転換の間、四方から攻撃を受けることとなったニョロ。流石に攻撃を全て避けきれるはずも無く、やけどを負ってしまった。
苦戦するニョロの元へ、上空から閃光が放たれた。
「プテ、“はかいこうせん”!!!」
上空からの閃光は次々にカーマインの2体のポケモン、マグカルゴとブーバーを焼き払う。
ブラックの援護で活気付いたニョロは、やけどを負いながらも再び拳を握りなおして、硬い拳でヘルガーとキュウコンに攻撃をしかける。
(上空からと地上から・・・電撃攻撃!!!)
ちなみに、ここで言う“電撃攻撃”とは、「雷」タイプの攻撃のことを指すわけではないので注意してほしい。
ブラックがプテに命じる“はかいこうせん”は、全てが全てポケモンを狙っているわけではない。
時にはカーマインの動きを封じ、時にはやけどというハンデを背負ったニョロの援護を行う。
その攻撃のタイミングの良さは完璧で、次の策を考えようとするカーマインの思考を阻むように打ち込まれてくる。
トレーナーであるカーマインが乱れると、自然とそのポケモンたちへの指示も乱れ、かなりぐだぐだになってしまっている。
「・・・とにかく、全員、散るんだ!!!」
窮地に立たされたカーマインがやっと言った言葉を、実行しようとするポケモンたちに最後の追い討ちが発動した。
カチッ。
確かにボールの開閉音が聞こえた。 カーマインの残りの手持ちは後一体だが、そのボールはまだ握られていない。
そして、ブラックも攻撃に夢中でボールを握っていない。 では、どこのボールが開かれた音だろうか?
その答えは、カーマインの指示通りに散開しようとした彼のポケモンたちが進路を塞がれたことで判明した。
散開しようとしたヘルガーの前にあるのは、巨体。そして、その巨体の主はその巨体にあった大きな腕を既に振り上げていた。
ヘルガーはその巨体から繰り出されるであろう一撃に、完全に怯えきってしまい、身動き一つとれなかった。
巨体の正体、ブラックのカビゴン、ゴンはフィールドを全力で強打すると、なんと周辺の石畳のフィールドに大きなヒビが入り
そして、まるで力士が四股を踏むような動作をして思い切り床を踏みつけると、その衝撃が床に伝わり
ヒビの入ったフィールドがドーン!!という凄まじい音と共に砕け、大きな亀裂をいくつも作り出し、
散開しようとしていたカーマインのポケモンたちを一匹残らず亀裂の下、地中奥深くに完全に追放した。
これが、至高の大技・・・“じわれ”。
この決着にピンクとグレイ、そしてホワイトたちは驚きを隠すことができなかった。
運良くなのか、故意になのか、フィールドに上手い具合に残された、または残ったカーマイン。
ここまで完璧に決められると、もう、お手上げである。
「この程度・・・とは思ってないぜ?」
上空から降りてきたブラックは、ニョロとゴンに「サンキュ!!」と元気に笑顔で声をかけると、二匹をボールに戻した。
棒立ちしたまま動かないカーマインを見て、肩を未だに掴んでいるプテの大きな口の辺りを撫でてやると、プテもボールに戻す。
そして、その状態からブラックはカーマインの瞳を見た・・・
(・・・まだ、目が死んでいない・・・天井を引っ張り出すチャンスか・・・)
ブラックはそう思い、瞳を見つめ続けた。若干の挑発の気持ちを込めて・・・・・・
「・・・じゃあ、本気をだしますよ。」
そう呟くように言ったカーマインの雰囲気が少し変わった。異変を察知したのか、外野でホワイトだ何やら叫んでいるが
悪いと思いつつも、その声に一切耳を傾けない。無論、カーマインの耳にもその声は入っていないようだ。
残り一つのボールを取り出すカーマイン、そして何やらまだ叫んでいるホワイト。
一瞬、視線を送ってピンクたちの様子を確認するが、ここは傍観といった感じの雰囲気だ。
このカーマインという男、本当に昔の自分を見ているようでなんだか複雑な気持ちだ。
戦い方は確かに違うかもしれないが、バトルに対する熱意とその性格(単純熱血漢)、そして若干の自信家・・・
お手合わせといいながら、それなりに本気の攻めを見せるところ、実力を隠しきれない幼さ・・・
きっと、昔の自分があのまま育っていれば、こういう人間になったのだろうか。
ものや人を冷たい観察と洞察の目の見てしまう、今の自分の闇の冷たさが無性に嫌になった。
(今の生き方を否定したくは無いけど、でも・・・・・・こうして、光を手にしたいと思うときもある・・・・・・)
身勝手極まりない考えに、グローブの右手をギュッと音がするほど強く握り締めた。
カーマインは握っていたボールを天高く投げると同時に、何やら怪しい機械を胸ポケットから取り出した。
取り出されたそれは、折りたたまれていたようで、カチャカチャと音を立てて簡単に展開されると
彼はそれをメガネのように両耳に引っ掛けると、薄く細長く長方形の、若干反った不思議な銀色のプレートが
カーマインの目元全体をアイマスクのように覆い、隠してしまった。
銀色のプレートの真ん中には真っ直ぐ真横に赤い線のようなものが一本あり、それは時より怪しく赤く光る。
「バトルバイザー、セット!! スキャンスタート!!!」
はっきりとした口調でカーマインがそういうと、銀色のプレートの赤い線の部分が左から徐々に右に移動しながら赤い光を眩しい位に発光。
その光の眩しさにブラックは右手で目を隠した。 カーマインの投げたボールはまだ天高い位置だ。
「“同調率解析”!!」
今まで左から右にまるで、人を検査するかのように調べていた光が突如、今まで以上の発光を見せた。
今度は、左からではなく、赤い線の部分全体が真っ赤な光を発光している。
(なんだ・・・何をしているんだ・・・??)
ブラックが怯んだ瞬間、天高い位置にあったボールが地上に落下を開始する
それと同時に、カーマインは銀色のプレートの側面に付いていたボタンを押した。
「バイザー展開、バトル開始!!」
ウィ〜ンとゆっくりとしたモーターの音と共に、銀色のプレートは額の辺りまで移動し、
変わりに赤い透き通ったプラスチックの板のようなものがカーマインの目元を覆っている。サングラスのような役割をしているのだろうか?
(どこかで・・・似たようなものを見たんだよなぁ・・・でも、何でこんな場所で・・・・・・?)
ブラックはカーマインが使用している道具に見覚えがあった。
ただ、何故それが円卓の騎士たちによって使用されているのかが謎だった。
先ほど投げたボールが、砕けているフィールドに落ちた。運良く亀裂の中には落ちなかったが
反り返ったり、へこんだりしている面で何度も跳ね回り、カーマインからもブラックからも少々離れた位置でその動きを止めると
これまた運良くカチッと開閉スイッチが押される音がすると、光と共に見覚えのあるシルエットが現れた。
(ウィンディ・・・・か・・・・・・?)
ブラックはとにかく一度、安全圏へと距離をとるために、ボールを黒いグローブの右手に持って距離をとった。
ウィンディというポケモンの強さは良く知っている。それでも「炎」タイプのポケモンである以上は、十分勝ち目はある。
だが、そんなブラックの考えは、近づいてくるウィンディを至近距離で見た瞬間に崩れ去った。
「ウィンディ、“こごえるかぜ”!!!」
突っ走ってきたウィンディはカーマインの命令に従い、その大きな口から炎の代わりに真冬の凍てつく風を吐き出した。
「なっ・・・!」
あまりのことに驚くブラック。それでも、ボールから呼び出したプテに両肩を掴ませて“そらをとぶ”でなんとか空中に退避した。
「炎」の変わりに「氷」を吐き出したウィンディ。カーマインの目の前で動きを止めたその身体は
白くてふさふさした立派な毛と、赤いはずの体毛が青白く変化している。
・・・これもまた、どこかで似たようなものに知っている。
ブラックは先ほどの道具のこといい、この色違いのポケモンといい、ある一つの結論を導き出していた。
しかし、そんな結論が出たからといって青白い色違いウィンデイの攻撃が止むことは無く、空中への「氷」タイプの攻撃は開始される。
「“こなゆき”!!」
「“れいとうビーム”!!」
「“ふぶき”!!」
砲台のようにカーマインの元で動きを止めて攻撃を続ける青白い色違いウィンディ。
しつこく繰り出される「氷」タイプの攻撃。“れいとうビーム”以外の攻撃は、その攻撃範囲が広いために
迂闊に反撃を仕掛けるわけにもいかない。しかも、一撃でもその技を受けてしまったら、自分の身体は地上に叩きつけられ
いつかのときのように、後遺症に悩む日々が始まってしまう・・・
(なんとかしないと・・・どうする・・・??)
攻撃を何とか回避しながら、次の一手を考える。考え始めた瞬間、カーマインがピクリと小さく反応する。
(5・・・5.3・・・6・・・・7・・・・・・)
心の中で何やら数を数え始めるカーマイン。しかし、その値は彼の赤い視界の中に映る電子数字を数えたものだった。
攻撃をブラックを狙いながら続行する青白い色違いウィンディ、その動きを回避しながら観察するブラック
必死に回避する中で、ブラックは技を放つ際の身体の硬直と、攻撃方法、そしてあるものに目をつけた。
(やってみるか・・・!!)
ブラックは再び空を飛び回ると、ある技を仕掛けてくるのを待った。
「“こごえるかぜ”!!」・・・違う。
「“ふぶき”!!」・・・違う。
「“こなゆき”!!」・・・違う。
「“れいとうビーム”!!」・・・!!!
ブラックは青白い光線を紙一重で回避する。光線が直撃した天井がガチガチと音を立てて凍りつく。
しかし、そんなものに目もくれず、回避して体勢が崩れた状態からあるもの目掛けて攻撃を放つ!!
「プテ、“はかいこうせん”!!」
体勢を崩しながらの攻撃だったが、一直線に放たれた強烈な閃光は進行方向にあった障害物を破壊して突き進む。
光の終端となった石の天井との直撃点は、そのまま突き抜けて石の天井に閃光の太さと同等の風穴を開けた。
そこからは、外の世界の夏の力強い日差しと、匂いと風が入ってくる・・・・・・
(硬直を狙っての攻撃・・・外しちゃったのか・・・意外に大したこと無いな。)
カーマインはそんなことを思いつつ、先ほどの道具“バトルバイザー”からの情報を見続けていた。
自分に迫る危機に一切気づかずに・・・・・・
空中のブラック、そして地上のピンクとグレイの顔が真っ青になった。
一切、今の位置から身動き一つとろうとしないカーマイン。“バトルバイザー”に夢中になりすぎている。
そんな中、ホワイトがただ一人、必死の表情でボールをカーマインの元へ投げてオニゴーリを呼び出すと
オニゴーリはすぐさま大きく分厚い氷の結晶を作り出した。そしてそれを、天井に開いた大きな穴目掛けてぶち当てた。
時を同じくして、ブラックとプテが極限の同調を見せた!
「[ブリューナク]!!!!!」
外野のホワイトの必死の絶叫がしたと思うと、先ほどの“はかいこうせん”を軽く超えていると思われる熱量の閃光が
カーマインと青白い色違いウィンディに迫る大きな照明器具に直撃した。しかし、若干威力が足りないようだ。
(な・・・同調率・・・ひゃ、100パーセント??!!)
バイザーに示された値に驚きを隠すことができない。そしてまだ、自分の頭上に迫る危機を理解していない。
「うぉぉぉ−ーーーー!!!」
ブラックの絶叫。その声にプテが応える!!
空中で崩れた体勢を無理矢理なおして、さらに“はかいこうせん”をプテに放たせると
天井に風穴を開けた時以上の強烈な閃光が完全にカーマインの頭上の照明器具を捉えた。
その瞬間、カーマイン以外のトレーナーたちの視線がその結果に釘付けとなった・・・
ゴンの“じわれ”で地中深くに追放されてしまったポケモンたちを一緒に助け出すと
しばらくは、このバトル場の修繕に追われそうだなんて思っていた。
そんな中、手伝いなど一切せずにバトル場を立ち去ろうとするピンクとグレイが見えた。
「お〜い、ちょっと待ってくれ。」
結構大きな声で呼びかけたはずなのだが、立ち止まっても、振り向いてもくれない。
別に手伝ってほしいというわけではないのだが、何か一言くらい感想のようなものがほしかった。
ブラックは砂埃と土で汚れた服装でピンクとグレイたちに近づく
「どうだった?」
「・・・別に。」
相変わらずグレイは一言も話してこない。
ブラックは申し訳なさそうに話を進める。
「そういえば、ここを使うつもりだったらしいけど・・・悪ぃな。」
「まったくね。」
頭を下げてピンクに謝罪するブラック。相変わらずピンクの態度はとげとげしい。
「今度、お前たちともお手合わせをしてみたいんだけど・・・ダメ・・・かな?」
しばらくの沈黙。
何か、とても緊張した空気が張り詰めた。
「・・・そのうち・・・そのうち、相手をしてあげるわ。」
そういい残すとピンクとグレイは部屋を退出してしまった。ブラックは若干の手ごたえを覚えつつ
カーマインとホワイトの手伝いへと戻っていった・・・。
「そのうち・・・そのうちじゃなくても、アンタとワタシたちは敵対する運命にあるのよ・・・・・・。」
石畳の回廊で、ピンクはぼそりと呟いた・・・・・・
第11話へ・・・