帰って来た男・・・親友たちは・・・・・・
未だにこの選択が正しかったのかはわからない
ただ、泣いている仲間を見捨てることができなかっただけ
だが、自分はこの仲間たちと別れなければいけない訳で
やはり、変に優しさを残していると、“無”の力は手にできないものなのだろうか・・・?
自分の中に共存する光と闇。
どちらに染まるわけでもないこの状況は、途方も無い苦悩に溢れていた。
心の夜に朝日が昇る日はまだこない・・・・・・
PAS Chapter3 第1話 戸惑いの闇の中で・・・
7月8日・・・
昨晩はイエローが自分からなかなか離れてくれず、まともに話もできなかったので
今日は、グリーンとブルーと共にある程度の報告だけはしておくことにした。
ただ、報告できることなど限られているわけで・・・・・
「・・・とりあえず、ロケット団の問題は現在解決中ってとこだな。」
真剣に話すレッドが居るのは午前9時を過ぎた頃のグリーンの家。
上記の通り、同席者はグリーンとブルーの2人だけだ。
レッドの言葉はそれ以上続かず、それ以上のことを話そうとしない。
コチ、コチ、とアナログ時計の時を刻む音が明確に聞こえるほど、部屋は静まりかえっている
「ふ〜ん、それだけ?」
机に肘を突き、つっかえ棒にした腕に頭をあずけるという、なんとも脱力的で挑発的な態度のブルーからは
その態度に適した声でレッドへ対応するブルーを、グリーンが咳払いで注意する。
「・・・まさか3年7ヶ月の間、それだけしかなかったなんて事は無いだろう?」
グリーンが真剣に聞く。怒りの感情が10パーセントほど含まれていると直感的に感じ取れる。
たくさんの闇や苦難を乗り越えてきたレッドだが
今回の旅(仕事)のことはとても口に出していえるほど強くは無い。
そして何よりも、目の前の存在に自分は心を開こうと思わない
遠慮という感情があるのかもしれないが、何よりも、仲間と思えない。
もしかしたら、仲間と思ってはいけない。
そう感じたほうが正確なのかもしれない・・・・・・
「話せるのは、それだけってことだよ。」
哀愁を帯びたあきらめたような言葉に、2人は辛くなった。
その言葉を話す瞳の色は、戸惑いの靄のかかる黒
今はまだ、この話を聞きだすことはできない、いや、してはいけない。
あれほど強い男がここまで哀愁を帯びるようになったのだ
途方も無い闇へと引きずり込まれたのだろう・・・・・・
「はぁ〜。」
ブルーのわざとらしすぎる溜め息が一つ、静まり返った部屋に吐かれた。
「あーもー、面倒くさいわ。“コレ”で解決よ!!」
テーブルの下から何かを取り出して、それをドンと置いた。
その取り出されたものは、ごつい瓶、いや、ボトルにラベルの貼られたもので
そのラベルには“Liquor”と大きく書かれている。
「オイオイ、いくらなんでも今は朝だぞ、朝!」
流石に動揺するレッドに、グリーンは薄っすらと笑みを浮かべた。
こういう反応を見ると、やはり彼だということがよくわかる。
帰ってきたことを実感できる。
ブルーがレッドをからかって、それを自分は冷静に傍観
時より自分もブルーに加勢したりして・・・
妙に自分よりも同調するレッドに嫉妬したりしたこともあったが
それを解っているのか、上手くブルーと2人きりにさせたりと
いらないようでありがたい気遣いをしたりと
レッドという存在は、自分の人間関係上で、仲介役をしてくれている。
故に多くの人に好かれ、“統べる者”なのかもしれない。
「朝じゃなかったら?」
「そ、そりゃあ・・・・・・決まってんだろ。」
ピリリリリ、ピリリリリ
ブルーとの会話の途中だが、鳴り出したポケギアにレッドは応対を始めた。
左手で謝る手振りと、申し訳なさそうな顔をしてレッドは部屋を一時的に退出した。
「おはようございます。 お元気でしょうか?」
鳴り響いたのは団員用の方ではなく、仕事用のポケギアだった。
そこからは、あの優しい声で残酷なことを話すあの男の声が聞こえる
「用件は何だ?」
先ほどのブルーやグリーンとの会話では見せなかった表情と声であの男と話す
その声は低く冷め切っており、表情も先ほどと一変し威圧的だ。
グリーンも鋭いような声をしているが、それ以上に鋭利な声
そしてその瞳は冷たく、暗黒の闇の色をしている。
これが、レッド、いや、ブラックだ。
「“お仕事”の進み具合を聞きたいと思いまして。」
この声を聞いて平然と受け答えられるということは、相当な場数を踏んでいるのだろう。
電話先のあの男は、やはり只者ではないようだ。
ちなみに、“お仕事”とはロケット団残党員を追撃、壊滅することである。
「ああ、問題ないよ・・・。近々、一掃する手筈だ」
その言葉に電話越しながら驚きが伝わってくる。
相当意外だったのだろうか、何れにしろ驚いていることには変わりない。
「何かしたか?」
あえてその驚きに反応して、腹のうちを探ろうとしたが
「何かしましたか?」
疑問を疑問で返されてしまい、見事に白を切られた。
これ以上の詮索は、自分が理解している相手の人間性から言って
手痛いしっぺ返しをくらうだけと容易に想像できる。
今はまだ、この男の闇に触れることは難しい・・・・・・
とりあえず定期報告を希望していただけのようで、必要以上の追求はされなかった。
ポケギアの通信を切ると、再びブルーとグリーンの待つ部屋へと戻る
部屋に入ってきたレッドを2人の視線が迎える。
「・・・で、飲むなら、せめて今晩にしないか?」
先ほど座っていた椅子に再び腰掛けて、何事も無かったかのように2人と話し始める。
その表情と振る舞いは先ほどの通信とは打って変わって、明るく気さくな感じだ。
「そうね、じゃあそうしましょう♪」
「・・・フ、昨日の分も飲むか」
そんな変化に気づくことなく、グリーンとブルーはそのままレッドと話す。
レッドも2人のノリのよさに喜びを表情として表す。
とりあえず話を終わらせると、レッドはいそいそとグリーンの家から去った
久々に飲む酒とはいえ、やることは悪く言えば尋問
精神的に準備を整えたりしなければならない。
再び鳴ったポケギアと応対しながら、レッドは自宅へと帰った・・・。
昨晩は、あんなことがあったが何とかイエローを自宅まで送り
申し訳ないと思いつつも寝室まで上がりこませてもらい、ベットへと寝かせた。
その後、久々に自宅のベットで寝てみたら舞い上がった埃でむせ返る
3年と7ヶ月という月日は長かったのだと、改めて自覚した瞬間だった。
それでも、とりあえず寝ることができれば何でもよかったので、そのまま熟睡
埃まみれの布団でも、寝てしまえば解らない
眠ってしまうと意識は夢の世界へと入り込み、冒頭のような後悔と迷いが襲い掛かる
“後悔”と自分で思う以上は、やはり自分のとった選択は間違えているのだろうか
一度自分で決めたことを達成できない、貫き通せないことを後悔している。
これは間違いなく事実であり、何度自問自答してみてもこの答えは揺るがない
だが、無意識のうちに自分の持っていた答えは反転した。
抱きついてきた存在に“かわいそう”という感情が自然と湧いて
なだめなければいけないという責任を感じたのだろう。
それを一言で表すのなら“慈悲”の感情
冷酷な存在になろうとする自分には、必要無い感情
自分が追い求める力とはまったく関係ない感情・・・・・・
時より思う
自分が手にしようとしている力は矛盾しているのではないのかと
一切の感情を排斥し、一つの目的に全てを賭けようとする力
だが、この力を揮うにあたって自分はポケモンたちや導くものたちに一切の感情を抱かないのか。と
自分が他人のために下げる頭は、ただの行動なのだろうか
自分がポケモンと心を通わせて戦う力や統べる力も、形式上のものなのだろうか
そうやって深く考えれば考えるほど、手にしようしている力が“狂気”なのではないかと思えるのだ。
自分が求める力を、自分で肯定できない。
否定すれば、自分が求めた力への期待が崩れ去り、何もかもが崩壊してしまいそうだ。
このままでは死ぬに死ねない。そして、後戻りできない。
触れてしまった、気づいてしまった“狂気”からは、逃れることはできない
夢の中で吐き気を催しそうになるほどに不安定な自分の心
“戦う者”も“統べる者”も自分自身も、1つの身体の中に存在するはずなのに
戸惑うほどにバラバラになっていく・・・・・・。
年齢にしては落ち着かない心がさらに不安を煽る。
不安を誰かに、なにかに吐き出さない限り拭われることは無いだろう。
いや、たとえ吐き出したとしても、それを共感する存在が必要だ。
しかし、それを仲間たちに求めようとしない、それをよしとしない自分自身への厳しい考えが
逆に自分自身を追い込み続けるという、悪夢のスパイラルが形成されているのだ。
こんなことを夢にまで見ているのにもかかわらず、レッドは一人全てを背負い込み続けるのだ・・・・・・
家の中を簡単に掃除しようかと思い、大掃除の準備をはじめる。
仮にこの町を去るにしても、この家の中を綺麗にしておかなければ住宅の売却は困難だ。
同日の昼下がり、レッドの大掃除は始まった。
いつもの服装からさらにラフに、シャツとジーパンという夏らしい服装になって掃除は行われる。
家の窓という窓全てを開け広げて、中に溜まった埃をたたき出す
探し当てた掃除用具、箒、はたき、雑巾で、できる限りの掃除をやってみる
だが、残念なことにこのレッドという男は根本的に不器用だ
基本的な家事はほぼ全滅。全自動洗濯機があるので辛うじて洗濯はできるが
掃除や料理といったほかの家事はまるでダメである。
その理由として、何事も大雑把すぎるということもあるのだが、元よりそういった事に関するセンスが無い。
恐らく、別のことで洗練されたセンスを持つ人間は、どこかこうやって酷い。
それでも、何とか箒とはたきを使いこなし、床や壁、棚上にある埃を落とし、濡れ雑巾できれいに拭いていくのだが
腰にぶら下げた2つのポケギアのうち、片方からは20分に1回は着信音が鳴り響く。
その対応におわれるためになかなか掃除がはかどらない。
(これは・・・終わりそうもないな・・・・・・)
3時間を過ぎ、遅めの昼食休憩を取ろうとした時、そんなことを思い始めた。
こう長時間やっていれば、まったくの手ごたえのなさを感じることも容易である
外の空気と太陽の光を浴びるには、季節が悪すぎる。
肌を焼くほどの太陽の光は、滅入っているところへとさらに追い討ちをかけてくる
自然にも見放されたような気がしてならない瞬間だ
いろいろな疲れのせいなのか、それとも故郷の匂いなのか
床に大の字になって寝転んでいると、そのままレッドは眠ってしまった・・・
青い草の匂いを風が運んで、レッドの家の中に流れ込むと、まるで家の中は草原のようだ。
その草原の中に別の匂いが紛れ込んだのだが、眠るレッドはそれに気が付かなかった・・・・・・
夢を見なかったようで、久しぶりにすがすがしく目を覚ます。
真っ暗となったあたりを見て、レッドは自分が結構な時間寝てしまっていたことを理解した。
(寝すぎた・・・)
両目をこすって視界をはっきりさせると、まずポケギアを見る
ポケギアには時刻が表示されているので、それを確認するためと着信履歴を確認するためだ。
「やっちまった・・・」
着信履歴を確認すると。数十件からの連絡が合ったようで、これはまた面倒なことになりそうである
そして時刻を確認するともう21時を過ぎており、グリーンとブルーとの約束の時間位になるのだろうか
レッドは簡単に着替えると、急いでグリーンの家へと向かった。
暗闇で気づかなかったが、家の中の掃除はきれいに終わっており、開けられていた窓をすべて閉められていた。
どうやら何者かが侵入して掃除をしていったようだ。
「「「乾杯」」」
3人でグラスを軽くぶつけ合うと、カチンと音が鳴る。
その後、各々グラスの中の液体を口に運ぶ。
明るい居酒屋で飲むというよりも、どこかシックで落ち着きのある大人びたバーで飲むような雰囲気だ。
向かい合って飲んでいるのではなく、横に一列になって飲んでいるからか積極的な会話をしようとする雰囲気は無い。
陽気な雰囲気で、ガシガシ会話にもちこまれるのかと思い、覚悟をしていたが
恐らく、グリーンが気をきかせてこういう雰囲気を選んだと思うのだが
なんだかもどかしいような空気が漂うだけだ。
本題に入ることもなく、ただ時間が過ぎ、グラスへと水割りが注がれるだけ・・・
マナーモードにしたポケギアが先ほどから何度か振動で着信を伝えているが、この空気では応対したくでもできない。
そして、飲み始めてから小一時間ほど経過したとき、自分から口を開いた。
「やっぱ、話せないって・・・」
真っ直ぐと正面をに視線を向けて、水割りを口に含む
何よりも、話したくないという感情もある。
弱い自分を他人に見せるとことはやはり嫌だし、こういう場を設けてもらっておいて悪いと思うが
心の底から信頼できない、信頼してはいけないという感情がある限り、見せていいような人間に思えない。
そして、何れ去ろうと決意しているのに、これ以上不安の種を残してどうするのか・・・
複雑な心境がレッドの中には在った。
「・・・そうか。」
グリーンが言葉を聞いて、一言、そう呟いた。
見捨てられたような、あきらめたような、冷たく、冷酷な言葉に思えた
やはり、自分の思いと考えは正しいのだと確信した。
時の流れは人の心を変えてしまうものだと、それは女心だけではないと・・・
それからしばらくの間、自分が居ない間にあったことを2人から少し聞いた
研究員としての道を歩むと決めたブルー、シルバーとミカンの話、2人のこれからの見通し・・・など
イエローのことについては、「本人から話し出すのを待ってあげて」とのブルーの言葉で
よく解らずじまいだったが、そのとき、グリーンの顔が曇ったので、なにか2人の間にあったのだろう。
まぁ、大人となった男女の問題と考えれば、薄々何があったかは想像はつくのだが・・・・・・
そのことを考えると、なんともいえない感情が湧いてきた。
悔しいのか、怒りなのか、祝福なのか、悲しみなのか・・・
頭に浮かぶ言葉を考えれば、自分はあまりいい気分でないようだ。
イエローが未だに自分のものだと考えているのだろうか
それとも、自分のものだったものに対する愛着がそうさせるのだろうか
自分自身を大切にしなかった影響なのだろうか、最近は自分の考えることに疑問が多く
今思う感情も、一度考えなければ見えてこない。
まるで自分は論理問題を解決するプログラムをもった機械のようだ・・・
これも“無”の力の持つ“狂気”の影響なのだろうか
手にしなければ解らない、だが、手にしたら全てが終わる
そんな思いと考えは常に自分の中に在る。
落ち着かない、不安定な心で飲む酒はあまり美味しいものと思えない
全てをさらけ出すほどに酔うこともできず、心の強すぎるストッパーが闇を外へと持ち出さない。
語ることもなく、語りたくもなく、ただ時間が過ぎるだけ・・・
23時を少し過ぎた頃、ポケギアへの応対を理由に2人の姿をあまり見ないように自宅へと帰った。
夜空は昨晩に引き続いて星々が競い合うように輝いている
自分の晴れない心とはあまりにも対照的な空に、一つ、溜め息が出た。
「・・・お前は、光と闇を使いこなすのがうまいよな・・・・・・」
呟かれた言葉を聞いたのか、その存在は星を流した・・・・・・
「・・・疲れた・・・・・・」
自宅へと帰り、バフンとベットに倒れ込こんで、うつ伏せになり、布団に顔も身体もうずめる。
(その時に布団から埃が舞い上がらなかったことに気が付かなかったが・・・)
そして吐き出された冷たく無感情な言葉は、レッドの“心”からの警告
自分が無くなっていく、全てを見失ってしまう日は近いと
その限界が近いと、崩壊はまもなくと警告しているのだ。
人付き合いが大変なことは昔から知っている
ただでさえも仲介役のような立ち振る舞いをしてきたのだ(自然とできてしまうのだが)
これは別にレッドだけがぶつかる壁ではない。
人と交流する機会があれば、誰しもぶつかる壁なのだ。
ただ、レッドはそれへの重圧が並みの人間の比ではない
数百人を超えると思われるロケット団残党、ポケモン協会、そして友人・・・
この小説にも描ききれないほどの複雑な人間関係が彼の回りには存在し
それぞれから期待をも持たれて、それに応えていかなければならない。
想像を絶するプレッシャーと苦悩の日々
それでいて協会を巧みに騙し続けるという苦労が加わると
いつしか自分自身を見失ってしまうものだ。
自分自身を見失うほど、寧ろ、あえて見失わせて揮う力こそが彼の求める“無”の力なのだ。
ただ、それが正しいのか、どうなのかを決めかねているだけだ・・・・・・
レッドの闇に光差す日は遠い・・・
しかし、刻一刻と新たな出会いと戦いは迫っている
心の闇は晴れぬまま、時は止まることなく流れていく
時は流れ、次週の週末
青年のとある一日の話・・・・・・
第2話へ・・・