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 絶望の中を生き抜く術・・・それは、封じられた記憶の中に・・・・・・ 






PAS(red side) Phase.9 悲しみの超越 −記憶の中の邂逅−










 生きているのに生きている気分ではない。


自宅、いや、クリムの家に帰ると、ドクドクと流れ続けた血を水道で流し続ける


外は未だに夜の闇に包まれ、大粒の雨が降りしきる音が聞こえる。


すると突如意識が朦朧としてきて、何時のまにかその場にバタリと倒れていた。


衣服も雨に濡れたまま、ビショビショの身体で・・・・・・












生い茂る草木、時より聞こえる大きなポケモンの雄たけび、そして激しいバトルの音。

ここは・・・・・・シロガネ山。


「お前に課題を出す・・・簡単なことだ。」


黒服の男が、山道(といっても完全に獣道だが)入り口で赤いジャケットの青年に話す。


「課題?」


赤いジャケットの青年は、黒服の男の言葉に首をひねる。


「この山に、とんでもない化け物がいる。そいつを見つけ出して倒し、仲間にしてこい」


そう言い残すと黒服の男は山道を登っていった・・・・・・。


「ちょ・・・・おい・・・・・・!!」


あまりにも漠然としている課題。

この山に化け物が居ることなどとっくに知っている。それもうようよと。


(・・・・・・まぁ、行ってみますか)


何とも軽い発想で青年はシロガネ山に足を踏み入れていった・・・・・・。







既にシロガネ山に足を踏み入れて一週間は経過しただろうか。

シロガネ山の特有の温泉付近に陣取って毎日、課題の対象となっている化け物を探す。

ちなみに一週間の間に化け物のような敵ポケモンとは何十戦も戦っている。

体格が2倍はあると思われるギャロップに襲われたり、洞窟を探ってみればゴルバットの群れに襲われたり

周辺のゴーリキーを束ねている親分カイリキーと戦ったりと本当に大変だ。

しかし、何れの敵を倒しても黒服の男から課題を終了したという報告も無い。

本当にとんでもない化け物が存在するのかと疑いを持ち始めたある日、青年は遭遇した。


「・・・な・・・・・なんだ・・・コイツは・・・・・・」


伝説のポケモンと対峙したこともある青年だが、この存在に畏怖した。

体長は10メートルは超えている超巨大バンギラス。 自然が生み出した産物とは思えないほどの狂気。

しかし、シロガネ山の王者との出会いは一瞬で終了してしまった。

青年が本能的にこのバンギラスが課題の対象であると思い、ボールに手をかけようとした瞬間

巨大な尾が振り回され、その尾から放たれた重く鈍い一撃に青年の身体は宙を舞った。








その次の日から青年とシロガネ山の王者との戦いは始まった。

正攻法でのバトルを挑もうとしても、尾の一撃で全ては終了する。

尾の一撃を避けたとしても、大きな足で蹴り飛ばされるか踏みつけられるかの2択しかない。

それさえも仮に避けたとしても、待っているのは悪夢の閃光“はかいこうせん”。

様々な攻撃で傷つき倒れても青年は立ち向かい続けた。


何故か?


当時、青年には想い人がいた。

故郷の町の隣町にある森の近くに住んでいる金髪の少女、名をイエローと言った。

課題のおかげで会えない日々が続いているが、幸運なことにポケギアがある。

夜、孤独に襲われる時、ポケモンではなく人と話したいと思う時

青年はイエローへと連絡し続けた。

そして何故か必ず受け答えてくれる少女に、彼の思いは高まっていったのだった。









それからしばらくして、あの課題を出した男が久しぶりに青年と顔を合わせた日の事。



「いいか、どんな苦難も乗り越える術を教えてやる・・・・・・」



今日もシロガネ山の王者にボロボロにされて大地に倒れた青年に、男は上から話しかける。



「心に一つでもいい。信じることができるものがあれば、それを思うだけで苦難は超えられる」



土と血の香りが混じりあい、鼻に嫌な感覚がする。

そんな状態でも何とか顔を上げて口を動かす


「もしも、信じるものが奪われたら・・・?」


何となく出た反論、それに対して男はしばらく考えた。




「その時は・・・・・・まぁ、揺るがないものを信じるようにするんだな」



「答えになってねぇ。」




青年はうつ伏せになりながら笑った。




「・・・ただ一つ言える事は、もしも奪われる恐怖に怯えるのならば、信じるものを守れ。


揺るぐことが無いように守れ。」



「・・・ヘヘ・・・・ロケット団(奪う側)元首領のお言葉とは、思えないな」




皮肉もほどほどにして、余力を振り絞って体制を仰向けにして跳ね起きると

衣服についた砂埃や土を両手で払う。


「っ・・・」


身体を動かすとはしる痛み。

何度と無く味わってきたこの痛みも、逆に考えれば、痛みの分だけ自分の生き抜いた証。


「・・・・・・必ず・・・やり抜くさ・・・・・・。」


自分に言い聞かせた呟きは、声の大きさとは反対に闘志に満ちている。

帽子に付着している砂埃をズボンではたいて綺麗にすると、帽子をかぶりなおした。


「さぁ、いこうぜ・・・みんな!!」


赤いジャケットの青年の声に傷ついていた彼のポケモンたちが元気に声を上げて返事をする。










(どうする・・・このままだといつも通りのパターンだ・・・・・・)


尾の一撃、回避。“ふみつけ”、回避。凶悪な“はかいこうせん”、回避。

避けることしかできないが、確実にエネルギーと体力は消耗させているはずだ。

シロガネ山の王者との戦いは熾烈を極めた。

尾の一撃を今度はプテラにつかまることによって空への回避をする。


「さて・・・どうするか、見ものだな」


あの男も高みの見物。少し離れた高台から、自身のポケモンであると思われるサイドンと共に戦いを見下ろす。

超巨大バンギラスの攻撃を回避し続ける間に、地上にポケモンを放ち攻撃を仕掛けさせようとしているようだ。


(だが・・・命令をしている暇は無いだろう。主の攻撃は自分自身に向けられている限りな・・・・・・)


バンギラスが大きな腕を振り回して、飛び回る青年とプテラを叩き落とそうとしている。


「・・・っ!!!」




青年の何かが弾けた。





迫り来るバンギラスの攻撃を紙一重で回避すると、青年はバンギラスの瞳を見つめた。

そしておもむろに右手の指を弾くと、地上に展開されていた彼のポケモンが一斉に攻撃を開始した。


(・・・なっ?!)


男は青年の行動と彼のポケモンの動きに驚いた。

指を弾く音一つで、複数のポケモンをまとめて意のままに動かしている現実。

明らかに何か策が合って展開したようには見えない。その理由として、地上に展開された彼のポケモンは

応戦の構えは見せていたが、攻撃の構えは見せていなかった。

おそらく、青年と長い期間の付き合いをしていたポケモンたちなので、瞬時に青年の考えることを行ったのだ。



統べる者の発動・・・・・・。



決着は発動と共に訪れた。

フシギバナが蔓で両足を拘束すると、ニョロボンやカビゴン、エーフィーやピカチュウが一斉に足元を攻撃した。

足元の地盤が破壊され、バランスを崩したバンギラスは仰向けにもの凄い轟音をさせて倒れこんだ。

青年は仰向けとなったバンギラスの首元に着地すると怒り狂っているバンギラスと目線を合わせた。





「楽しかったぜ、また、バトルしような」





満面の笑みで話す青年に拍子抜けがしてしまい、バンギラスは怒りを静めた。

何の気なしにバンギラスの大きな顎を撫でてあげると、どうやらそれが気に入ったようで

バンギラスはおとなしくその行為を受け続けた。

それを見ていた黒服の男は、青年の元へと向かった。



「・・・信じるものが見つかったか?」

「ああ」



お互いに顔が見えない状態で話をする。

昼下がりの温かい日差しが降り注ぎ、バンギラスの上の青年は光を浴びる。



「イエローか・・・・・・」



男の一言に青年は驚いて顔を真っ赤にした。


「何で知ってるんだよ!!」

「夜の楽しみか・・・フ・・・」


青年にとって意外な人物にからかわれたので、その動揺は大きかった。








青年と男のポケモンをフルに使ってバンギラスを起こしてあげると

バンギラスは夕日で焼けるシロガネ山のどこかに消えていった。

ちなみにこのシロガネ山の主であるバンギラスがギランという名で呼ばれるようになるのは

青年がイエローの元を去ってからまもなくのことである。

そして青年は、ギランで仲間たちを傷つけていくのだ。


「・・・・・・課題は終了だ。」


男はそう呟いた。青年はその言葉を聞いて達成感による大きな喜びに包まれた。


「もう一度聞くが、揺るがない信じるものは見つかったか?」

「ああ、見つかったよ。」


男の質問に青年は即座に答えた。



「そういえば、信じていたものが奪われた時だがな・・・・・・」



自分自身で答えを導き出したので、別のそのことは聞かなくてもいいように思えたので

一応耳だけを傾けて、聞いているようなそぶりだけはしていた。




「人は悲しみによって全てが見えなくなるだろう。特に、守ることが出来なかった時

自分自身に罪を感じて自分自身を保ち生きることもままならなくなる・・・。」




男は続けた。




「だがな、そうやって自暴自棄になることが一番他人に対して迷惑なんだ。

そうなった時は、自ら死ぬか、吹っ切るかだ・・・。」



「まるで、経験者は語るって感じだな」




茶化すように返してきた青年に、男は呆れた様子で旅支度を整え始めた。


「・・・次へいくぞ。」

「ああ、いつでもいいぜ。」



男の声を聞くと、青年は既に整えてあった支度を持って移動に備えた。








次に青年の課題として与えられたのは、“休みの無い永遠の戦い”であった。

生きた心地がしないバトルを連日、休み無く繰り返していく。

複数のトレーナーと同時に戦うこともあれば、ギランのようなポケモンと交戦することもあった。

無論、敗北は許されない。

敗北のリスクとして存在するのは自分の死、それほど危険なバトルを繰り返し続けた。

この危険なバトル漬けの日々はその後、青年が故郷に帰る直前まで続く。

期間にして約2年。 青年がその後、“不幸の影”に追い回された時、辛うじて人としての精神を保てたのは

この経験があったからといっても過言ではないだろう。

青年の心にイエローの存在がある限り、会いたいと思う心が、意地でも生き残り勝ち続ける力になる。

この力を原動力に青年は戦い続けた・・・・・・。








この後、青年は後に四聖獣となる存在と戦ったり、統べる者としての才能を開花させていく。

そしてその行程の中で、イエローへの想いを利用して洗脳されていったのも事実である。









「お前には話しておかなければいけないかもしれないな・・・・・・」

男は青年のほうを向いて何かを伝えようとしている。


ピリリ、ピリリ
ピリリ、ピリリ・・・


突如、世界にそぐわぬ音が響き渡った。

音にかき消されて、男の伝えようとしていることがよく聞き取れない。


ピリリ、ピリリ
ピリリ、ピリリ・・・


音は鳴り続ける。

意識はその音を拒むのだが、否応無しにその音は聞こえてくる。


ピリリ、ピリリ
ピリリ、ピリリ・・・


音の正体に気付くと、意識は薄れていった。




男の伝えたかったことは解らずに・・・・・・













ポケギアの着信音が鳴っている。

いつの間にか血が止まった右手で、ポケギアを取った。


「・・・はい」


まだ朦朧としている意識のためか少し落ちたトーンの声で受け答えるレッド。

電話の先からあの男の声が聞こえてきた。


「仕事です。残党の方々が、再集結する模様です・・・。」


既に守りきれず、失われた愛情と幸せ。

今の自分には失って怖いものは存在しない。

それがたとえ自分の手持ちであろうと・・・・・・

戦いに敗れたら後を追えばいい。

そんなことを考えていたレッドの耳に、あの男の声は入っていなかった。


「・・・わかった。」


力ない声でただ一言、あの男に告げるとポケギアの通信を切った。

外は少し明るくなり始め、雨も止んでいた。







受け入れようと、そして望んだ「無」。


しかし「無」は望んではならないと黒服の男こと、サカキは言った。


いっそ望み、受け入れるというならば、死を選べと言った。


自分の中で入り混じる、「無」を求める心と「無」を拒む心。


とてもじゃないが、あの男が言ったような“吹っ切る”ことは本当に難しい。


1年間も愛し合った大切な存在を、綺麗さっぱり忘れろというのが不可能な話だ。


レッド、そしてブラックの中では“力の在り方”に対する戸惑い、葛藤が生まれていた。


この葛藤が晴れぬ限り、ぼんやりとした力で戦い続け、生き続け無ければならない。


究極の結論として、死を選ぶことも可能だが・・・・・・。


中途半端を嫌う性分の彼は、今の状態に苦悩し続ける。


葛藤が晴れる日と答えを求めて、出発の朝はやってきた・・・・・・










前日に右手の傷を隠すために、ボロボロになっていた絶縁グローブを捨てて

リュラルタウンの店で黒くて薄いオープンフィンガーのグローブを片手分だけ購入した。

早速、自分で巻いた包帯の上にグローブをしてみると、右手の感度はさほど落ちずに前のように動かすことが出来た。

そして、めちゃくちゃに傷だらけになった右手を上手く隠すことが出来た。

この傷が癒えるのには相当な時間が掛かるのだろう・・・・・・









クリムの両親に感謝の言葉を電話越しで伝えると、家の中を綺麗に掃除したが

掃除をしていくと、家の至る場所に転がっているクリムとの思い出に何度も涙を流した。

掃除も一通り終わり、荷物をまとめたレッドはリュラルを発つ前にクリムの墓前にいた。


(答えを見つけたら・・・必ずここに来るよ・・・・・・。)


墓前で手を合わせるレッドの頬にはやはり、涙が伝っていた。












冬は終るのか、それともまだ冬なのか。

何ともいえない冬の短い夕方、レッドはただ一人リュラルタウンを後にする。

雪さえ舞わないこの地方特有の乾いた冬は、レッドの心を締めつけた。








これから始まるのは本当の贖罪の旅路・・・・・・そして、本当の自分を探し出す戦いの旅路。








Phase.10へ・・・