AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する



 儚い命の結末・・・。悲しみ、無・・・そして怒り。






PAS(red side) Phase.8 心、壊れる時・・・ −力への疑問−









一線を越えて更に彼女は元気を取り戻していった。

結ばれるたびに彼女が癒えていくように見えていた。

この事実は、自分自身の力だと思っていた。

そんな冬の日。









本当に、本当に、感動も何もなく、命は消えた。











よく晴れたその日、元気を取り戻していた彼女に朝の挨拶を済ませ

ベットに腰掛けて彼女との一時の談話を楽しむと

バイトの時間がやってきたので別れを告げて病室を後にした。


「いってらっしゃい、おみやげ楽しみにしてるから」


ベットの上からのいつも通りの彼女の声を聞いて、今日も一日頑張ろうと、気合が入った。

思えば、それが最後の彼女の言葉だった。










レッドのバイト先はリュラルタウンの雑貨店の店員だ。

商品陳列やレジ、また接客等様々な仕事をこなす。

しかし、元々不器用なレッドにそれらの仕事がそうそう上手くこなせるはずがなく

もっぱら棚卸しや掃除といった肉体労働がメインとなっていた。

店先で掃除をする姿が多いので、町の人にも結構、名前と顔を覚えられたりしていた。

レッドの人を惹きつけやすいキャラクターがそうさせているのだろう。



今日も店先を掃除していると、寒さに身を縮ませた。

その寒さに耐えて掃除をするレッド。 

店先を歩む人々に笑顔で挨拶をしたりして、いつも通りの時を過ごしていた。


「ブラック、ポケギアがさっきから鳴りっぱなしだ、すぐに出てやれ。」


店長がレッドのポケギアを持ってきた。

別に着信相手が誰かを確認せずに、軽い気持ちで通信する。


「もしもし」


ポケギアの先から聞こえたきた、女性の声は非常に慌てており

また周囲の慌しい雑音をマイクが拾っているようで、何か相当大変な事態が起きているようだ。


「今すぐ来てください」


直感的にクリムの事と感じ取ったレッドは、そのまま走り出した。





残された店長は掃除用具を手に持つと

もの凄い速さで走り去ったレッドを見て、ポカーンとしていた。



ポツ、ポツ、ポツ・・・・・・。



いつの間にか雲に覆われた天から小さな雫が降り始めた・・・。










 急いで走っているのに、全く速く感じない。

今の心境なら、たとえリニアだろうがカイリューだろうが遅く感じた。

天候が小雨になったが、レッドはそれにも気付くことはない。

雨に濡れながらレッドは走った。

途中、人に何度もぶつかりそうになったりしたが

即座に謝罪して、休むことなく走る。



正に一心不乱。



ただただ、クリムを目指して走り続けた。

本来、バイト先の雑貨店から病院までは徒歩で30分以上は掛かる。

プテの翼でも10分は掛かる距離だ。

それにも関わらず、バイト先の雑貨店から走り出して十数分が経過した頃には、レッドは病室の扉の前に居た。



「クリム!!!!!」



バァン!!!とドアを勢いよく開け、今まで出したこともないような大きな声で叫んだ

その登場に看護婦さんや担当医の先生が振り向いた。

絶叫の直後、乱れた息を整えることなく視線はクリムの居るベッドを見た。

視線の先には、ぐっすりと眠るクリムの姿があった。



「ハァ、ハァ、ハァ・・・何だ、寝てるだけじゃないですか・・・・・・」



息を整えてレッドはクリムに近づき、ベットに腰掛けると、眠っているクリムの頭を撫でる。

気持ちよさそうな顔で眠っている彼女を見て、自然と顔がほころんだ。


「もう、ビックリさせないでくださいよ・・・・・・オレ、本当に焦りましたよ。」


「・・・・・・ブラック君、すまない。」



担当医の先生は頭を深々と下げた。


「何、謝ってるんですか先生?」


レッドは笑顔で、眠っているクリムの身体を起こして、自分に寄りかからせた。


「今もこうして、寝てるじゃないですか?」


だが、寄りかかっているクリムに何処となく違和感を覚えた。


何となく手を口の辺りにかざすと、違和感の正体に気付く







「・・・あれ・・・・・おかしいなぁ・・・・・・息してないや・・・・・・」







溢れてきた涙。

瞳から流れる雫は、ボロボロと音を立てて流れる

それを見た看護婦さんたちは、後を向いて涙を流した。

その時の泣き声で、自分に連絡してくれた人が、看護婦さんであったと分かった。

そして担当医も目を逸らして下を向いていた。






「・・・おみやげ・・・楽しみにしてるんだろ・・・・・・」







クリムを力強く抱きしめて、レッドはただひたすら泣き続けた・・・。












「・・・・・・クリム・・・・・・」












何かが壊れる音が、はっきりと聞こえた。










あまりにも唐突な別れは、レッドの心を打ち砕いた。






その後の、時は非常に早く流れ始めたように感じた

ただ、呆然としている自分など置き去りにするように早く

その日のうちに、クリムの両親がやってきて、同じように涙を流した。

ある程度、両親にはクリムや担当医から話があったようで、オレの存在は知っていたようだった。

何が何だか分からない状態で、クリムの両親が泣きながらお礼を言ってくれた。





時は本当に早く流れ、通夜が済むと葬式が行われた。

病院関係者やクリムの友人、そしてリュラルタウンの人々が参列した。

それを見たクリムの母が、一言泣きながら言った。



「・・・こんなにたくさんの人に思われて、娘は幸せだったでしょう・・・・・・」



その言葉を聞いて、初めて分かった。







自分の力や愛情は果てしなくちっぽけなものだということに。









呆然とする間に時は流れて、いつの間にか一週間が過ぎた。

何もする気になれず、廃人と化していたオレは、クリムの家でそのまま塞ぎこんでいた。

クリムの両親に「気が済むまで、居てくれてかまわない」と言われたので、その言葉に甘えていた。

彼女との思い出がエンドレスで頭の中で流れ続ける、そんな日々・・・・・・。






そして、ある日の夜。

夜にもかかわらず、明かりも点けずに真っ暗な部屋で思い出が、ピタリと止まった。

外は、冬には珍しい大降りで、雨の音が部屋中を満たしている。

立ち上がり、ボールを部屋に残してたった一人、ドアを開けて外に出た。

雨具も持ったわけでもなく、普段の格好で外に出た。

降り注ぐ雨は、冬の寒さと夜の寒さも伴って、まるで刃物のように痛い

冷たい雨に刺されながら、フラフラとリュラルタウンの墓地へと向かった。






クリムの亡骸は、故郷ではなくリュラルタウンに埋葬された。

それはクリムの遺志だったようで、最近発見されたクリムの遺書に書き残されていた。

しかし、レッドに関する記述は一切無く、余計にレッドの心を傷つけた。





こんな大雨の夜に人の気配などあるわけが無く

墓地には、レッドただ一人。

クリムの埋葬されている墓前に立ったレッドは

何か言葉を話すわけでもなく、涙を流すわけでもなく、ただ、見つめていた。


レッドの瞳が、より黒く、漆黒の闇のように黒く染まった。

しばらく墓を見つめたレッドは、墓に背を向けて墓前を去った。






帰りがけ、墓地を囲う塀を見たレッドは、その塀に近づくと

右手を当てて、塀の表面の様子を確認する。

塀は、コンクリートでできており表面はゴツゴツしている。





「うあぁぁぁぁぁ!!!」





ゴンッ!!!


何を思ったのか、レッドは右手でその塀、壁を殴った。

皮膚が壁にこすれて、そこから鮮血が散った。

降り注ぐ雨が、鮮血と交じり合い赤い水となってレッドの身体から抜けていく。





ゴンッ!!!





再び壁に向かって拳を放つ

衝突と同時に、信じられないほどの激痛が右手を襲う。

そして更に右手は傷ついていく・・・





「俺は・・・何だ・・・? 俺の力は何だ?」






ゴンッ!!!





肉がぶつかる鈍い音と同時に、出血が増していく。

そして、痛みも増していく・・・





「力って何だ・・・? 大切な人を守れないのが力・・・・?」






ゴンッ!!!






降り続ける雨が、レッドの問いかけの言葉を消していく

そしてまた、壁を殴る音もかき消していく・・・






「くっそぉぉぉぉぉぉ!!!」





ゴンッ!!!





怒りに任せて殴り続けていた右手の皮膚はずる剥けて、肉が抉れる。

殴り続けた壁には血がべっとりついたが、降り注ぐ雨が流していった。






ゴンッ!!!





ゴンッ!!!






ゴンッ!!!






殴るたびに痛みは増して出血は激しくなっていく

その後も、レッドの問いかけと壁を殴る音はしたが、雨によってその音はかき消された。




「うっ・・・う・・・ぐぅぅぅぅぅ・・・・・・」




レッドは壁を殴るのを止め拳を当てたまま、その場に膝をついて座り込んだ。

ドクドクと右手は痛み、赤い血を流し続ける。

それだけではなく右手はプルプルと痙攣しだして、痛みで動かすこともできない。

もしかしたら右手の骨は砕けているのかもしれない。



(“戦う”って何だ?・・・何故、オレは何にも役に立たない力を持っているんだ・・・・・・?)



自分自身の力は、どうしてこうも役に立たないのか。

何故自分は、こんなにも役に立たない力を持っているのか。

そして、ロケット団を単独で打ち破るほどの力は、何に使えるというのだろうか。



(大切な人を守れないのが・・・力? ポケモンにしか力を発揮できないのが、オレの力?)



レッドは、自分自身の力と自分自身に絶望した。









“育成”に関する知識や技術が非常に卓越しており、また、人の尻を叩くのが非常に巧い 
      
育てる者 グリーン




“進化”に関する知識が非常に豊富であり、また、自らが力強く変わっていく、進化していく
      
化える者 ブルー




“回復”を司る力を使いこなすことが可能であり、対象となった存在の傷だけでなく心をも癒す
       
癒す者  イエロー




“孵化”させたポケモンに己の想いを注ぎ込んで力強くさせる、またその才能を開花させる
          
孵す者  ゴールド




“交換進化”という知識と技術を豊富に持っており、またそれを熟知しており、自らの居場所を交換して力強くなった

換える者 シルバー




“捕獲”という技術を持っており、巧みな足技は正に天下一品。それで生計が立てれるほどで、その仕事で他人の夢や欲をも捕獲できる。

捕らえる者 クリスタル









何れも、ポケモンという分野を超越して表れる才能。

しかし自分はどうなのだろうか?

ポケモンを使い相手を傷つけるのが、戦う者の才能なのだろうか?

何の役にも立たない、相手を傷つけるだけの最低最悪の才能だ。



(・・・・・・“統べる者”・・・・・・)



“統制”する方法や知識を豊富に持ち合わせ、ポケモンを意のままに操る。また、人々を引き連れる力が卓越しており

リーダー的な存在として、人々に振舞うことができる。






明らかに明確な効果を示すことができる力。

少なくとも、“戦う者”としての存在よりは、相当マシだった。

もしも自分が、レッドではなく、ブラックとして誕生していたら

もしかしたら彼女を救えたのかもしれない。



右手の痛みというリアルな痛みが、現実から逃れていた心に

無理矢理現実を教え込んだ。

そして、心は自分への怒りで満たされる。

慢心していた自分へと怒りの矛先は向いた。


「・・・・グッ!!!」


再び立ち上がり、傷ついた右手で壁を殴った。

皮膚が剥げ、肉が露になっている右手が壁に激突するたびに

ベチャリと聞くに堪えないなんともグロテスクな音がする。

しかしその音も、降り注ぐの音がかき消していく・・・・・・






自分が傷つくこと以外で、自分の存在に対する償いができないと思った。

傷つくことが、自分に残された本当の償いだと思った。

犠牲になることが、自分を証明する方法だと思った。


死が、自分の唯一の救いだと思った・・・・・・


壁を殴り傷つく自分を止める存在は無い。

その事実が余計にレッドを後押ししていた。


(・・・・・・これが、“無”の力・・・・・・・究極の自己犠牲・・・・・・)


あの声が聞こえた。





いつか無くなる幸せ、奪われる幸福に恐怖することも無い

初めから信頼などしなければ、裏切られる恐怖は無い

失うものが初めから無ければ、失う恐怖は無い

得ることも無ければ、失うことも無い

何も無い、即ち“無”。



弱りきった精神は、何もかもを投げやりにさせていた。




思えば、この時からレッドとブラックの混迷は始まる。

この混迷が解決した時、おそらくレッドとブラックに答えは出るのだろう。

ただ今は、大切な人を失った今は、生き方を、自分自身を見失った今は

自虐的に生きること以外で、生きる意味を見出すことができなかった・・・。







降り続ける雨の中、涙を流し続け、壁を殴り続けた・・・・・・

止めどなく流れ続ける涙と赤い血は、雨に混じって消えていく・・・・・・

人の死がこんなにも辛いものだったとは・・・・・・

自分がこんなにも弱く、意味の無い存在だったとは・・・・・・

顔をくしゃくしゃにしてレッドは泣き続ける。




冷たい雨は、ただただ、降り続けた・・・。







Phase.9へ・・・