課せられていた運命・・・その結末を知る少女は・・・・・・
PAS(red side) Phase.6 少女の運命 −レッドの決意−
クリムの献身的な介抱によって、レッドの傷は癒されていく・・・
冬は過ぎ去って、暖かな気候がカントーよりも早くやってくるのは
ここが、カントーよりも西にある町だからだろう。
のどかな春の気候はレッドの心を和ませて、心も癒していく。
窓から見える草原には綺麗な花がたくさん咲いて、緑色の中に淡い色を加える。
その間をジグザグマが嬉しそうな表情でトコトコ走っていく・・・。
そして、青い空に白い雲。まるで水彩絵画のような景色を見ると
自然と顔は笑顔になって身体を動かしたくなって
包帯グルグルに関わらず、家主の目を盗んでドアから外へと飛び出した。
(・・・主人!!!)
後から話しかけられたような感覚に襲われて、後ろを振り向くと
キメリアンがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
何か思いついたようなレッドは、笑顔のままで草原に向かって走り出していく・・・
それを追いかけるキメリアン。
全力疾走するレッド、同じように追いかけるキメリアン。
「あの2人、またやってる・・・・・・・。」
その様子を窓から見つめるクリム。だが、その表情は微笑んでいる。
「よーし・・・私もいっちゃお♪」
クリムを2人の追いかけっこに参加するためにドアから飛び出して
レッド目指して元気に駆け出した。
「おわっ!!!」
レッドは草原の花が咲いている場所辺りで石に躓いて豪快に転んだ。
だが、転んだ衝撃は草が優しく受け止めてくれた。
鼻をくすぐる草の匂いと土の匂いがレッドを満たしていく・・・
そのままの状態からゴロンと大地を背に受けるように、大の字に仰向けになると
乱れた息を整えながら空の青さと雲の白さをその目で確かめる。
(・・・主人、まだ、養生しなければ・・・・・・)
「大丈夫、大丈夫。傷もだいぶ治ったし、何より、こんな気持ちのいい日に
外に出なかったら逆に養生にならないよ。」
目を細めて笑いながら仰向けの状態でキメリアンと話すレッド。
レッドの態度に、キメリアンはやれやれといった様子でいると
そこにクリムが走ってきた。
「とうっ!!」
「なっ!!」
仰向け状態のレッドにそのまま飛びつくクリム。
その衝撃と痛みはかなり凄まじかったのだが、久しぶりに肌と肌で異性と触れ合ったので
レッドの顔はみるみる紅潮していく・・・・・・
「ちょ・・・お前・・・・・・」
顔を真っ赤にしたレッドは何とかクリムと距離をとろうして、
何とかクリムを引き剥がそうとするが、クリムは無理矢理レッドにしがみついてそれに抵抗する。
その間、2人の雰囲気を見ていたキメリアスはその場から姿を消した・・・。
「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」
「・・・あのなぁ・・・」
クリムの行動に呆れるレッド。クリムはレッドの隣にしぶしぶ寝転ぶと
同じように空に浮かぶ雲と、空を見つめる。
そよ風が草花の匂いを2人に運んだ。
「・・・ブラックは、ケガが治ったら・・・・・・旅立っちゃうよね?」
先程までの雰囲気とうってかわって、真面目で真剣な声で
クリムはレッドに問いかけた。
「・・・・・・。」
レッドは無言で何も答えなかった。
「・・・そう・・・だよね・・・・・・」
無言の回答の意味にクリムは相当落ち込んだらしく、声のトーンは下がる。
「・・・・・・言っとくけど、恩返しをするまでは絶対傍にいるから。」
その言葉を聞いたクリムの瞳は潤み、キラキラと輝く
レッドとの距離を縮めて身体を密着させた。
「うん。」
心から嬉しそうなクリムの返事がレッドの耳に届いた。
その日は2人満足いくまでその場に寝転がっていた。
殆ど会話を交わすことは無く
ただ、2人で一緒に空の色や雲の形を見つめ続けた・・・・・・
それは、そんなある春の日の出来事・・・・・・
レッドとクリム、一つ屋根の下でそれなりの年齢の
男女が暮らしているのだからそういった感情を抱いても何ら不思議は無い。
しかしながら、2人の間には何故かはわからないが
言葉など無くとも惹かれあうという関係があった。
惹かれあっているのだが、レッドの心の中にはいつでもイエローがいる。
そのことが影響してだろう、2人は同居人以上恋人未満の関係でいる。
どちらかがそれなりの一線を越えるような行為にはしらなければ
突き抜けることは無いだろう。
レッドは介抱をしてもらった御礼として、現在の暮らしを続行することにした。
しかしながら、そのまま続行してはクリムに迷惑を掛け続けてしまう
よってレッドはバイトをしながらクリムとの同居生活を続けた。
無論、レッドは同居すること自体がお礼だとは思っていない
あの時、一瞬見せた彼女の“闇”の正体を知って
それを手助けし、解決するまではこの場所を離れるつもりは無いからだ。
しかし、その“闇”の正体の手がかり一つ見つからず
レッドはブラックとしてクリムとクリムの家で幸せな同居生活を送っていた・・・・・・
花が散って青葉に変わる初夏の頃、互いに休日となり
のんびりと初夏の少し暑い光を浴びながら、2人は散歩していた。
散歩と言っても、多少おめかししているクリムを見ると、
もう既にデートといったほうが正しいのかもしれない。
リュラルタウンの草原を抜けて、今日は初めて2人で遠出する
本当は街のほうに行きたいのだが、レッドの都合を考えると
ヘタに行動して被害が及ぶ可能性が多少なりともあるのなら、
自分たちも他人も安全な場所に行くのが望ましい。との結論から
今日は健康的に遠くの自然を見ることになった。
「ごめんな・・・なんか・・・・・・」
「別にいいよ・・・ブラックと一緒に居られれば。」
「・・・そっ・・・そう言ってもらえると、本当に助かるよ・・・・・・」
レッドは当初、遠くの自然を見に行くことを想定してかなり遠くの場所の下調べをしていたのだが、
クリムが飛行ポケモンを持っていないことによって、それは断念した。
プテに頼んで一緒に空を移動しようと思ったが、それは不可能に等しいだろう。
しかし飛行ポケモン以前にクリムは、ポケモンを持っていないことに気がついた。
この時代、あの年齢、あの性格でポケモンを所持していないことは相当珍しいことで
レッドの中で彼女の“闇”の次に気になることだった。
「到着。」
「・・・この森?」
リュラルタウンから東にしばらく行った所にある森。
地域の人はトランキルの森と呼んでいるようで
名前の通りのとっても静かな森で、たくさんの種類のポケモン達が生息している。
レッドの今日の目的はクリムにポケモンを捕まえてもろうことである。
森でポケモンを所持していない人に、ポケモンを捕まえてもらうのは
初めてのことではないのでその方法はよく分かっている。
とりあえず森の中に入ってみる2人。
森の中は木々の影によって日光を遮られて薄暗いが、場所によっては
葉と葉のスリットから光が差し込んでいる。
そして、生命を感じることができるのにとっても静かという、不思議な矛盾を持った場所。
「・・・すごい、不思議・・・・・・。」
「・・・・・・ああ」
クリムは森の不思議さに引き込まれてポーッとしている。
レッドはスリットから光を浴びながら
そんな行動をしているクリムの魅力に見とれてポーッとしていた。
「どうしたの?」
クリムに突然話しかけられて、驚くレッド。
ただでさえ紅潮していた顔を更に紅潮させて一人、焦る。
「ハハハ・・・・な、何でもない何でもない・・・・・・」
「・・・そう。」
若干腑に落ちないといった表情だったが、ごまかすように先に進みだしたレッドを追いかける。
森の奥に進んでもその静けさは変わらない。
その時、レッドたちの進行方向に一匹のポケモンが姿を現した。
「お、ヨルノズクだ」
丁度、帰り道はポケモンの力を借りて空を飛んで帰りたいと思っていたので
このヨルノズクの力を借りれば、クリムにも空を駆ける翼とポケモン与える子ことができる。
正に、一石二鳥。
レッドはクリムに、空のモンスターボールとピカが入ったモンスターボールを手渡した。
「・・・・・・?」
レッドの意図が読み取れていないようで、首をひねって見返す。
その仕草が可愛くて、レッドはまた顔を紅潮させた。
「こ、こ、これで、あのヨルノズクを捕まえたらどうかなって思って・・・」
レッドの言葉にしばらく考え込む。
「あー、ブラックにはまだ話してなかったよね・・・。」
「話?」
そんなやり取りをしている間に、ヨルノズクはどこかに飛び去ってしまった
「あっ!! ・・・・・・まぁ、いいか。」
残念そうなレッドを見てクスクスと笑う。
「お前なぁ・・・・・・ハァ・・・・・・」
少し怒ろうかと思ったが、笑顔のままで空のボールとピカの入ったボールを返してくるので、
何か怒る気にもなれず、溜め息が漏れた。
「先行くよ〜♪」
「おい、ちょ、待てって!!!」
駆け出す2人。
森の中を2人が駆ける。
そうすると、森の中なのに花が咲き乱れる光射す場所に出た。
「・・・・・・」
薄暗かった森の中にあった光射す神秘的な場所に、言葉を奪われた。
自然と動きが止まり、その場で立ち尽くす。
花々を目で確かめると、その中に彼女座っていた。
笑顔で自分を見つめるその瞳に、そしてその姿に、心を奪われた・・・・・・。
「ブラック、さっきの話、聞きたい?」
話、と聞いてすぐに先ほどのことが思い出された。
「ああ。」
優しく答えるレッド。その返事にクリムは笑顔を向けた。
「私ね、もうすぐ死ぬの。」
「なっ・・・・・・!!!」
笑顔で話し続けるクリムに驚くレッド。
そんなレッドを見ながら微笑むクリムは、そのまま語りだした。
「実はね、あの時、ブラックを助けた時、病院の帰り道だった・・・・・・」
元々、病気の療養の為にこの町、リュラルタウンに引っ越してきた。
両親と一緒に暮らす予定だったが、1人の自立した人間として
暮らすことが彼女の願いだったので1人で暮らしていた。
リュラルタウンに引っ越してきたのは今から2年ほど前のこと、
近くに専門の治療設備を整えた病院があるので
積極的に治療できると考えこの町を選んだのだである。
クリムの身を侵しているのは先天性の不治の病で
幼少の頃から、そう長く生きることはできないと医師からの宣告があった。
しかし、両親の愛と前向きに生きようとする強い意志がその命を保たせていた。
そんな彼女が聞いてしまった、あの日の夜・・・・・・
病院で両親と電話で話す担当医の話を聞いてしまった。
「・・・もって後、一年・・・・・・いや、もっと短いかもしれません・・・・・・」
その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ白になって
何もかもが嫌になった。
精一杯生き続けていたことが無駄になる日がもう間近に迫っている。
その現実が彼女を外へと駆け出させた。
自宅に帰る気がしなかった
もう、どうにでもなれと思った
とにかくめちゃくちゃに走った
人の気配などない、夜の町をただ走った
不思議なことに涙が出ることはなかった
その理由などわからない
もしかしたら、涙を流すことさえも無駄に思えたからかもしれない
そんな時、目の前に不思議な影が迫ってきた。
(・・・すいみませんが、主人を・・・・・・)
見たことがない影と声に戸惑ったが、ヤケになっていた自分はそれを受け入れた。
影に近づくと血まみれの男が影に抱きかかえられている。
明らかに今、散ろうとしている命。
その命を他人とは思えなかった。
「解った、病院へ・・・・・・」
(詳しい事情は言えませんが、病院には行けない身なんです・・・・・・)
明らかに不審すぎる人物に警戒したが、ヤケと散りゆく命がそれを拒む。
「・・・・・・じゃあ、私の家へ・・・!!!」
自宅へ帰る理由を見失っていたが、この出会いによって自宅へと帰ることになった。
ヤケになっていた先ほどまでの自分なら、
もっと無駄な方法で今まで生きてきたことを無駄にしたかもしれない。
そのことを考えると、この傷ついた男は自分にとって命の恩人だった。
「私はね、その病気に侵されることを小さい頃から両親に聞いていたから
ポケモンたちと一緒に居ることを止めたんだ。
だって、私が死んだ時に悲しむ存在をこれ以上増やしちゃいけないでしょ?」
それを笑いながら話すクリムに、レッドの心は痛んだ。
レッドは自然とクリムに近づいた
「・・・・・・オレの力で絶対に助けてやる、絶対に!!!」
膝立ちの状態からレッドはクリムを抱きしめた。
「うん。」
クリムは嬉しさのあまり、涙を流していた。
「じゃあ、いっぱい甘えてもいい?」
「・・・ああ」
レッドの返事を聞いた瞬間、そのまま力強くレッドを抱きしめると
心の中にある現実への恐怖を吐き出した。
「・・・怖い、怖いよ・・・・・・怖くて気が狂いそう・・・・・・助けて・・・・・・」
力強く抱きしめられた分、力強く抱き返す。
「大丈夫、オレが傍に居るよ。」
抱きしめる力を緩めたクリムは、レッドから少し距離をとった。
そして瞳を閉じると、レッドの唇と自分の唇を重ねた。
レッドは驚いたが、そのままクリムを抱き寄せて瞳を閉じると
深く深く口付けた・・・・・・。
「大丈夫、オレが、お前を“守る”から・・・・・・」
それは、ある初夏の日の出来事・・・・・・。
“守る”誓いをたてるレッド。
その決意は何よりも重く、そして真直ぐな想い。
自分の力ならば何でもできると疑わなかったこの日、
レッドの中で“力”への戸惑いが始まる。
夏を楽しく過ごしていく2人に大きな変化が訪れたのは、
初秋のこと。
1年という月日は、短く儚い・・・・・・。
儚い日々の先に2人を待つものとは・・・・・・?
Phase.7へ・・・