揺れる心、想いの先は・・・・・・。
PAS(yellow side) Phase.5 それぞれの想い −気付き始める、自分の心−
想像を絶する、凄惨なバトルの後にシルバーは驚きを隠せなかった。
とある廃墟街で凄まじいバトルがあったという情報を手がかりにその場所に向かうと
そこには既に何十台という救急車とパトカーが来ていた。
シルバーは捜査の目を巧く掻い潜り、廃墟街に侵入すると、逃げていく4人の男女を見かけた。
そのうちの一人、スキンヘッドの男は最近、とある刑務所でバトルした男である。
その時は、その男の戦いに翻弄されてしまい、ケガは負わなかったが
ロケット団員たちが、刑務所から脱獄するという事態を招いてしまった。
先程から、救急車に運ばれるトレーナーたちの服装は皆、ロケット団員のものであると分かる。
それは、黒字の服に大きく赤い字で「R」と書かれているのですぐに分かる。
この一件にマスコミが介入しているようには見えない。
何故、こんな大きな事件といっても過言ではないこの状況に
マスコミが立ち上がってこないのかシルバーは非常に疑問だったが
その前に、レッドの残していた情報を元に手にしたこの結果が非常に衝撃的過ぎて
シルバーは、レッドの捜索をここで一時的に打ち切ると
あの時、あんな場面に遭遇したために聞くことの出来なかった
グリーンに、レッドのことについて、この情報と結果が示す真実を聞くために
シルバーはカントー地方、マサラタウンへと向かった。
いろいろな意味でシルバーの目的はグリーンだ。
ポケギアの先で泣いていた義姉ことブルー。
義姉を傷つけた罪は、シルバーの中では何よりも重い・・・
ブルーを傷つける原因を作ったのは間違いなくグリーンである。
しかし、もっと根本を見つめれば
ブルーからグリーンを奪ったイエローも悪い、
さらに根本を見つめれば、イエローを捨てたレッドが悪いということになる。
そして更に根本を見つめていけば・・・・・・
こんないつ答えが出るのか分からないことを考えるのをやめたシルバーは
とにかく、マサラタウンを目指す。
今日はトキワジムが休みとのことで、休日は家で過ごしていると思ったシルバーが
目指すのは、マサラタウンのグリーンの家。
確実にあのグリーンの顔に、拳を叩き込まなければ、腹の虫は治まらない。
ヤミカラスに掴まって飛ぶシルバーの姿は、既に、トキワシティ上空にあった・・・・・・
自宅で黙々と勉強に励むのは、ブルー。
おしゃれな眼鏡を掛けて、様々な分厚い書籍や資料を読みながら
パソコンでレポートを完成させていく・・・。
タイピングに疲れたのか、傍においてあったこれまたおしゃれなコーヒーカップを
手に持つと、温かいブラックのコーヒーを一口飲んだ。
そして、同じ場所にカップを戻すと再びレポート製作に戻ろうとした。
「・・・・・・はぁ・・・・・・」
切なく、悲しく、そして寂しい溜め息を、一つ吐いた。
一度に大切な人を2人も失うことになろうとは・・・・・・
しかも、親友に彼氏を取られるという、最悪の悪夢だ。
彼女自身、結構サバサバした大人の性格をしているので
グリーンのことはさほど後は引いていないが、裏切られたことが後を引いていた。
結構、自分は強いと思っていたが、こういう形だとやはり弱い。
しかも、それを癒してくれる男が周りにいない。
シルバーは確かに頼りになるので結構慰めてもらうために、ポケギアで連絡を取ったりする。
しかし、実際に会っていないので、かなり不満は多い。
自分の周りに寄ってくる男達は、それなりに選定してみているが
何分、前の彼氏が彼氏だけに、選定の基準が高い。
その理由としては、やはり、自分を捨てた男を見返すという
ブルーらしい、前向きな考えがあるからだろう。
だが彼女も、見返す対象であったり、選定の基準であったりと
グリーンのことを完璧には忘れ去ってはいなかった。
どうあがいても、もう一度やり直そうという思いには、今はなれないだろうが
向こうが頼んでくるのなら・・・・・・多少揺れるかもしれない。
そんなことを考えながら、ブルーは再びコーヒーカップに手を伸ばすと
コーヒーを一口飲む。
そして、レポート作成の為に、またパソコンとにらめっこを始めた。
いつも通り、仕事で忙しいのは、イエロー。
今日も、いつもの格好であのおばあさんの家で家事をこなすイエロー。
おばあさんも、今のイエローの人間関係については近所の人からある程度聞いていたので
深く、イエローに問うことはやめていた。
(とりあえず、笑顔と元気を取り戻してくれたのだから・・・・・・)
そう思うおばあさんは、気にしないように気にしないようにしていた。
だが、無常にもその避けていた話は、イエローのほうから話を振られた。
「おばあさん、あの、グリーンさん・・・その、トキワのジムリーダーをどう思いますか?」
「・・・そうねぇ・・・真面目だし、カッコイイし、運動も出来て、ポケモンも強い・・・・・・
あの人の良いところを上げ続けたら、日が暮れちゃうわねぇ・・・」
「そうですよねっ!!!やっぱり、グリーンさんは誰から見ても素敵ですよね!!!」
この一言を聞いて、おばあさんは何か引っかかるものを感じた。
そして、自分の長い人生経験の中にあった、“自分の旦那を振り向かせようとした時”のことを思い出した。
(・・・・・・あぁ、そうなのね・・・・・・)
おばあさんは一人、イエローの行動と心理に気付き、納得し始めていた。
「イエローちゃん、グリーンくんと仲良くするんだよ。」
「はい!!」
幸せそうに笑うイエローを見て、おばあさんは微笑んだ。
全面的にイエローを応援しているおばあさんにとって、イエローの恋の相手が誰であろうと関係は無い。
おばあさんの言える結論は、まだ若いイエローはもっとたくさんの経験を積むべきであるということである。
“本物”に出会うまで、たくさんの恋をして、たくさんの傷を負うことが大切なのだと、おばあさんは分かっている。
今、イエローは取り返しのつかないことをしているだろう。
それが分かっていても、おばあさんはイエローを応援する。
なぜなら、人は傷つかなければ分からないことがあるからである・・・。
(もし、あのレッドくんが“本物”だとしたら・・・・・・)
おばあさんは少しだけ微笑んだ。
ヘタに大人になっていない分、イエローは自分の心の表現方法が分からなかった。
イエローは再び仕事に戻り、その日の既定の時間まで仕事に従事した。
掃除機を掛けて、洗濯物を干して・・・・・・
そして夕方になったら、自宅へと帰っていくのだった・・・・・・。
ジムを休みにして今日は読書を自宅で楽しんでいるのは、グリーン。
なるべく分厚い本を読んできを紛らわせようとしてみるが、なかなか紛れない。
ジムでの一件以来、ブルーとは連絡も取っていないし、話もしていない。
確かにイエローの傍に居れば、ブルーのことを多少は忘れることが出来る
だが、こうやって一人になった時に、一番思い出してしまうのはブルーのことであり
イエローのことではない。(別にイエローが嫌いという訳ではないが)
その例として、今、自分の手元には自分で淹れたコーヒーしかない。
今までは、作ってもらっていた分、コーヒーを自分で淹れていると
なんだか、とても切なく、一人でいる寂しさが際立ってくる・・・。
そうやって、別れてしまった彼女のことを何度も思い出す。
あの時、追いかけてあげれなかったことが未だに心の中で大きな後悔として残っている。
しかし、親友との約束が常に頭から離れない。
親友は今、誰よりも辛い状況で、地獄のような戦場でたった一人戦い続けている。
そのことを考え、思うだけで、自分の今いる立場など意味の無いものに感じてしまう・・・。
共に苦しみを分かち合うことが出来ないのなら、同じように苦しむこと以外で
親友として示しをつけることができない・・・・・・
そんなことを考えながら、本を読み続けるグリーンの元へ、チャイムの音が聞こえた。
ピンポーンという電子音が数回家中に響いたのを聞くと、グリーンはその音を鳴らした
人間を誰か確認するためにドアホンから見える映像を確認する。
「・・・・・・!」
そこに写っていたのは、赤髪で銀色の瞳をした青年、シルバーの姿であった。
グリーンにとって今、一番会いにくい人物の一人である。
そのまま付属の電話で対応できたが、グリーンはそのまま玄関へと向かった・・・。
ガチャリと開いたドアから出てきたグリーン。
それを見つめる銀色の瞳・・・。
瞳に込められた怒りが、嫌というほど身体にヒシヒシと伝わってくる。
「・・・何か・・・用か?」
その一言を話したグリーンの胸倉を掴み引き寄せると、シルバーはそのまま顔面に拳を放った。
鈍い音と共にグリーンの身体がバタリと床に倒れた。
床に倒れたグリーンの胸倉を再び掴むと、起き上がらせて目線を合わせる
「・・・お前、何やってんだ?」
「・・・・・・。」
何も答えずに黙っているグリーンに、シルバーは再び顔面に拳を放った。
今度は胸倉を掴んでいたままだったので首だけが殴られた方向とは逆に回った。
「お前がそういう人間だとは思わなかった。」
シルバーはグリーンを掴んでいた手を離すと、その場を立ち去ろうとした
「・・・あの男、何かとんでもないことしでかしただろう・・・。」
あの男という言葉をシルバーの口から聞いた瞬間、グリーンは表情を変えて立ち去ろうとする
シルバーを全力で引き止めた。
「・・・お前のしていることを全部話せ。」
「話すとでも思ったか・・・?」
その言葉にカッとなったのかシルバーを振り向かせて、そのまま壁に押し付けた。
行動にイラつきを覚えたシルバーは、グリーンの顔を睨む
その顔は、先程自分が殴った為に大きく腫れ上がり、口内を切ったのだろうか
口元から血が若干垂れている。そして、その瞳は真剣そのもので
殴った時に一瞬見えた、迷い有る、弱々しい瞳ではなかった。
その迫力に、シルバーはしょうがなく、全てを話し出した・・・。
「・・・軽く千人以上のロケット団員が、とある場所で全員大怪我をしていた。その跡をよく見てみると
バトルをした形跡がある・・・。何か内部抗争があったように思えたが、話によると倒れていた全員が、
限られた技や攻撃で倒されているとのことだ。普通、内部抗争が起きて千人以上のトレーナーが一斉に
バトルした時、それぞれの手持ちによって戦術や戦闘方法は違ってくる・・・。」
「・・・・・・要するに、その千人以上が少人数によって倒されたってことだな。」
「お前は、何か知っているんじゃないのか? あの男のことについて・・・?」
あの時の一件があって聞くに聞けなかったことを今聞いてみる。
グリーンはその質問に答えることはなく、ただ、黙っていた。
(この話は、あの男と関係があると見て間違いないな・・・・・・)
グリーンの反応を見て確信するシルバー。
「ねえさんには、報告しておくよ」
「・・・・・・!!!」
グリーンはシルバーの一言に再びカッとなってしまい、シルバーを壁に力強く押し付けた挙句、
胸倉を掴んでシルバーを睨みつけた。
「・・・・・・誰にも話すな。いいか、絶対に誰にも話すな・・・・・・」
グリーンの殺気がこもった鋭い瞳に見つめられると、流石のシルバーも冷や汗をかいた。
胸倉を掴む手を振り払い、シルバーはグリーンの家を今度こそ去ろうとした。
「それと、言い忘れていたけど・・・ねえさん・・・ブルーは貰う・・・いや、渡さない」
言い残された言葉に、痛む胸。
ブルーへの想いも、イエローへの想いも、レッドへの想いも、全て自分は捨てきれない。
人に優しくすることがどうしてこんなにも難しいのだろうか?
優しくあり続けるために、板ばさみになって、自分を見失う・・・・・・。
そう考えた時、親友の凄さを改めて認めることになった。
仲間やポケモン、彼女や友達・・・いくつもの板ばさみの中で、どうやって自分自身を見失わずに
ああやって実力を発揮して、闘い続けることができるのか。
ここで初めて気がついた。
レッドに一番会いたがっているのは、イエローでもなく、シルバーでもなく、ブルーでもなく
自分であるということに・・・・・・。
夕方のブルーの家に鳴り響くチャイムの音。
グリーンの家と同じように、ドアホンからの映像を確認するとブルーは
玄関まで小走りで移動すると、玄関を来訪者のために開けた。
「おかえりなさい、シルバー・・・。」
「ただいま、ねえさん。」
やってきたシルバーを家の中に招き入れるブルー。シルバーも遠慮なく家に上がる。
「夕飯まだでしょ?」
「うん」
「じゃあ、一緒に作ろっか?」
「うん」
シルバーはブルーの問いかけに、優しい声で答えると
2人は一緒にキッチンへと向かう。
そこで談笑しながら料理を作り始める2人。今日のメニューはスパゲッティのようだ。
パスタを茹でるブルー、ソースを作るシルバー。
2人での久々の共同作業だ。
ふと、ソースを作る手を止めて、パスタを茹でるブルーのほうを向いたシルバー。
「ねえさん・・・・・・」
鍋からの湯気に隠れて、パッと見た感じではよく分からないが
ブルーの瞳に涙が溜まっていることがわかる。
思い切り裏切られた後に、こうやって信頼できる人間が傍にいてくれることは
とても嬉しいことで、その嬉しさに、つい、強い存在であるように振舞い続けようとする心の箍が外れて
涙が、溢れてきた・・・・・・。
シルバーはソースを作っていたフライパンの火を止めると、ブルーに近づく。
そして、ブルーの瞳に溜まった、今にも溢れそうな涙をハンカチでそっと拭った
「ねえさん、これからは、俺が居るから・・・・・・」
シルバーの優しい声と言葉に、思い切り甘えたくなった。
我慢していた感情が一気にあふれ出したブルーはそのままシルバーに抱きついていた・・・・・・。
それぞれに欠落するとある感情。それは優しさでは無い。
抜け出すことができない様々な呪縛の中で、彷徨い続ける心。
様々な感情を引きずったままで、物語は進んでいく。
誰一人失っている感情に気が付かず、あるがままの現実に縋るだけ。
レッドがイエローと別れて1年。
12月は終わりを告げて、1月が始まる・・・。
未だ、誰一人夜明けの鍵を握るものはいなかった・・・・・・
Phase.6へ・・・