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 眼を覚ましたレッドの前に、現れた一人の少女・・・・・・。






PAS(red side) Phase.5 運命の出会い −クリーム・デ・アイス−













 この日から始まる日々を、レッドは一生涯忘れなかった。


無論、結婚後であろうが、死する直前まで。


それだけレッドの中を変化させた出会いであった。


出会うべくして出合った、正に運命の出会いである・・・・・・










 闇の中を彷徨い続ける魂。

右側には命の力を感じる活力有る暖かい光が、左側には冷たく寒い漆黒の闇が待っている。

魂は中間地点で右側に寄ったと思えば左側、左側に寄ったと思えば右側へと彷徨う。

本能的に惹かれるのは光、しかし知性が惹かれるのは闇。


彷徨う魂は気がついている。


どちらにいっても結果は同じことを。

闇に取り込まれて消え去ったとしても、光を浴びて命を感じ取ったとしても

先に“希望”という言葉は存在しない。

だが、光の先には“希望”の代わりに“責任”が待っている。

“責任”は“希望”にはならないだろう。

しかし、存在するための理由にはなる。

第一に“責任”をここで放棄したら、いったいどれだけの人の“希望”を奪い去るのか・・・

彷徨う魂は光に向かって進み始めた


その先に自分自身の“希望”は無くても、他者の“希望”があるのなら


その“希望”を守る“責任”を放棄することは許されざる罪であるから・・・・・・


彷徨っていた魂は光に包まれると、闇の中から消えていった。




(ここで終ったらアイツたちを再び迷わせる・・・・・・それが終ってからでも、遅くは無い・・・・・・)




光の中で一瞬よぎった故郷の仲間と最愛の人。

もう会うことも無いと思われる過去の“希望”に、涙が流れた気がした。




(・・・イエロー・・・・・・オレは・・・・・・)




許しを請う、寂しい声が魂の中を駆け巡った。










 ボーっとする視界が、たくさんのものを映し出している。

頭がはっきりしないため、目に映るが何なのかは理解できない

重い瞼を今、自分が持っている全ての力で引き上げて、視覚から情報を得る。

とりあえず首を回して周囲を見ようとするが、首を巧く動かすことが出来ない。

どうやら何かで固定されているようで、同じように全身を動かそうとしても巧く動かせない。

何だかイライラしてきた男は、無理に全身に力を入れて体を動かそうとした。



「・・・・・!!! 痛っっっっってぇぇぇぇ!!!!!」



全身に走るまるで身体が引き裂けるような激痛。それが終ったと思うと、ジンジンと痛みの余韻が全身を包み込む。

流石に痛みのあまり涙が流れた。

男は、今の状況にデジャヴするものを感じた。

その時の絶叫を聞きつけて、いくつかの足音が接近してきた。



トコトコトコ、ペタペタペタ、タッタッタ・・・・・・



その足音の正体を見た男は、その正体たちの名前を叫んだ、


「ピカ、ニョロ、ブイ!!」



驚く主人に嬉しそうに身体の上で喜びまわるピカチュウのピカ。(結構痛い)


同じように主人の顔に頬ずりをするエーフィのブイ。


飛び跳ねて喜ぶニョロボンのニョロ。


また、その3匹の歓喜を聞きつけて、窓を蔓で器用に開けてそこから顔を覗かせる


プテラのプテ、カビゴンのゴン、そしてフシギバナのフッシー。


何れも顔をニコニコとさせて、主人の復活を喜んでいる。

これらのポケモンの主人ことレッドは自分の手持ちたちの様子を見て、皆元気そうであることを確認すると

目を細めてとびっきりの笑顔をすると、ポケモン達もそれにつられてもっともっと嬉しそうな顔をした。



ふと、思い出してみる。



自分は確かあの戦闘の後、倒れて意識を失ったはずである。

それが何故、今こうして生きていて、手持ちたちは元気なのか?


それだけではない


よくよく自分の身体を見ると、まるでミイラのように全身包帯でグルグル巻きになっている。

当たり前のように感じていたが、自分は今まで枕をして眠っていたようだし、ベットで眠っていることも分かる。

ふと何かデジャブするものを感じたレッドはニョロに力を貸してもらい、外の状況を確認する。


まず、窓の外。


マサラに似たような、ほのぼのとしてどこか心が和む、草原と草木。

ちょうど昼頃の日の光の下でオタチやジグザグマが草原を走り回り、木の上ではオニスズメがお昼寝中

そんな景色の中にいくつかの住宅が存在し、ポケモンセンターや病院、ポケモンショップなど

結構充実した設備が揃っているようだ。

しばらくその景色に見とれていると、背後で人の気配がした。



「あ、起きたんだ・・・・・・」



振りむくレッド。すると声の主と思われる一人の少女と目が合った。



「・・・・・・」
「・・・・・・」



視線の先にいるのは、何処にでもいそうな小柄な女性。

ただ、黒い瞳に肩まで伸びた茶髪。左目の下に小さな泣きボクロがあるのが特徴だろうか。

イエローほど小柄ではないし、童顔でもないが、どこか可愛さを持った顔立ちをしている。

レッドと目が合ったまま、キョトンとしている仕草は本当に可愛らしく

見つめているうちに、自然と笑いがこみ上げてきた



「・・・プッ・・・・・」
「・・・・・・!!! ちょっと、何笑ってるのよ!!」







どこか優しく力強い雰囲気を持った彼女に、何か惹かれるものをレッドは感じていた・・・・・・








 とにかく2人は落ち着いて話すために居間へと移動しようとしたが

レッド容態を考えたその少女は、レッドを再びベッドに寝かすと

木製の椅子を居間から持ってきた。

レッドのポケモンたちはレッドにじゃれるものもいたが、それ以外は思い思いに外でくつろいでいた。



「・・・さて、何から話せばいいかな?」



可愛らしい声で聞いてきた少女にレッドは何故か知らないが心を許して、話をしようと思った。

仮にもレッドは約1年の間“不幸の影”によって人と交流することが許されなかった。

その為か、人との交流に罪悪感を感じてしまい、終いには人との交流を拒絶するようになっていたのだが

彼女が帯びる雰囲気なのか、自然と彼女には甘えたくなった。

“不幸の影”は、ロケット団員を倒したから終ったという、単純な発想もあったかもしれないが

何よりも、少女の優しさがレッドの心を和ませているのだろう。



「・・・まず、ここはどこで、キミは誰で、何でオレはこうやって生きているのかを説明してくれないかな?」

「わかった。じゃあ、まず・・・・・・」






彼女の説明をここにまとめてみよう。





・・・この場所について。

ここは、リュラルタウン。あの廃墟街からずーっと西に行ったところに所在する町とのこと。

ポケギアのタウンマップで確認してみたら、確かにそのようだった。





・・・生きている理由について

彼女がその話をしようとしたとき、突如、部屋の一箇所が怪しく輝きだした。

どうやら何かが“
テレポート”してくるようだ。

レッドはその光の中にいる影の形から、その存在が何であるかだいたい分かった。


「・・・・・・!!!」


レッドは自分のジャケットを探す。

そして部屋の先ほどの外を覗いたとは別の窓枠に、ハンガーに掛けられているのを発見すると

まだ部屋にいた、ブイの“
ねんりき”でそれを取ってもらうと

ジャケットの内ポケットの中を念入りに探した。


「・・・・・・ボールが無いってことは・・・・・・やっぱり・・・・・・」


怪しげな“
テレポート”の光から、あのポケモンが姿を現した。



今から2年ほど前、ポケモン協会の生態調査グループにその生態を調査された後、

3ヶ月の月日を経てレッドにそのポケモンは返却されていた。

返却時の条件として、一般人の目に入らないようにすることと、誰にも奪われないことが条件となっていた。



(・・・主人、目覚めましたか・・・・・・)



「・・・・・・キメリアン!!!」




レッドは安心と喜び、そして感謝の気持ちでいっぱいになった。


「あなたね、この子に感謝しなさいよ。ボロボロのあなたを運んでくれたのも、深い事情があって病院に

行くことができないことを教えてくれたのもこの子なんだからね!!」



(そういうことです。・・・すいません、約束を破ってしまって・・・・・・)



ちなみに、キメリアンとレッドとの約束とは返却時の条件と同じである。


「何言ってんだよ!!お前が無事ってことと、オレを助けてくれただけでも、そんなことは帳消しだって!!!」


その時、ふとレッドは疑問に思うことがあった。


「・・・なぁ、キミはコイツがこうやって話しかけてくることに驚かないの?」


その質問に少女は微笑みながら答えた。


「別に・・・。だってそれが個性だと思えば、いいんじゃない?」


彼女のその広い心と高い感受性にポカーンとレッドは驚いていた。

こういう意見を言えるということは、彼女は相当、ポケモンに対する理解や知識が深いようだ。


「兎に角、この子があなたを抱えてこの町を見つけたわけ。そして偶然外に居た私が、あなたを介抱しましたってとこね」
「・・・あ、ありがとう」


レッドはとりあえず納得した。





・・・少女の正体について

とりあえず、自分がこの少女に助けられたことは分かった。

そして、今、自分がいる場所はリュラルタウンの彼女の自宅であることも分かった。

後は彼女がいったい何者であるかということだ。


「っとその前に、私が名乗る前にあなたの名前をあなた自身から聞きたいな」


彼女のお願いにレッドは従った。


「・・・・オレは・・・オレの名前は・・・・・・ブラック・・・ブラックだ・・・・・・」


一応、仕事を忘れているわけではないので、こっちの名前で名乗っておく。


「・・・歳は、21。今は・・・旅をしているんだ・・・・・・」


途切れ途切れと言った感じの自己紹介に多少、疑いの目を向けながらも、少女は一応納得しているようだ。


「あの子の話と一致しているみたいだし、まぁ、いいかな。」


レッドはその言葉にホッと胸を撫で下ろした。

そして、彼女の自己紹介の番だ


「私は、クリーム・デ・アイス。 クリームって呼びにくいから、“クリム”って呼んでくれていいから。

歳は18歳、今は・・・・・・いろいろ勉強中のフリーターってとこかな」


笑顔で話す彼女にレッドは癒された気がした。








しばらくの間は、彼女こと、クリムと過ごすことになるだろう。

レッドはふと、ポケギアの画面を見つめると

その画面の日付と時刻の表示は、1月15日と、1月の中旬くらいになっていた。

このことから推測するに、あの戦いからは少なくとも軽く1週間以上は過ぎていることが分かった。



1月・・・現在の自分の体調を考えれば、あと2ヶ月以上はここにお世話になるだろう。

クリムと様々な世間話兼情報収集をすると、話は弾みに弾んで、いつの間にか夕方になっていた・・・


「そうだ、ブラック。 ご飯食べるよね?」
「いや〜、オレ、お腹ペコペコで・・・・・・」


相当互いの波長が合うのだろうか、数時間話すだけで2人は打ち解けていった。


「じゃ、ちょっと簡単に作ってくるから・・・待っててね」


クリムは椅子から立ち上がると、奥のほうへと消えていった。



完全にクリムが見えなくなってから、レッドは何とか腕を動かして、ジャケットのポケットから

あのイエローとのイヤリングを取り出した。

イヤリングを見つめてから、そっと手のひらで握り締めると、眼を瞑って物思いにふける。



(・・・イエロー・・・元気にしているか・・・?・・・きっとオレのことを忘れて幸せに暮らしていると思う。

これからもその調子で頑張って、大きな幸せを掴んでほしい・・・・・・。)



少し切なく、悲しそうな顔をしたレッド。だが、今度は薄っすらと笑顔になった。



(それと・・・お前に会わせたい子がいるんだ・・・・・・名前はクリーム。“クリム”って呼んでる。

歳はお前の一つ下で、性格はなんていうか、ブルーとお前を足して二で割ったような・・・・・・まぁ、分からないよな・・・

早く体調ってかケガを治して、クリムとお前を会わせてみたいんだ・・・きっと話も合うと思う。)





そんなレッドの背後に迫る1人の影・・・。



レッドは物思いにふけっていたのでその気配に気付かなかった・・・



「・・・イエロー・・・・・・」



つい、レッドは愛しさのあまり呟いてしまった。

その声を聞くと、背後の人物は少しがっかりしたようだった。



「そのイエローって人、ブラックとはどんな関係なの?」



背後で突然聞こえた声に驚くレッド。その声から声の主がクリムであること分かった。


「・・・・・・想い人かな・・・・・・まぁ、もうオレの片思いだけどね・・・」


ハハハ、と乾いた笑いを浮かべるレッドに、傍にあった棚に作ってきたおにぎりを載せた皿を置くと

クリムはレッドの正面に移動してレッドと視線を合わせる。

レッドはその真直ぐな瞳から、目線をずらすことが出来なくなった。

真剣な表情で見つめてくるクリム、それに若干途惑うレッド。

しばらくその状態が続くと、クリムの方から瞳を逸らした。

そして一瞬俯くと、優しい笑顔になってレッドに話しかける


「おにぎり作ったけど・・・・・・中身が梅とかだけどいいよね?」
「・・・・・・う、うん」


先程との表情の違いに未だに途惑ってしまうレッド。

俯いた瞬間に感じ取ったのは、彼女の中にある“闇”。

その後、クリムに手伝ってもらっておにぎりを食べるレッド。

思えばこのときからレッドの中では、クリムへの恩返しとして

クリムの“闇”を払うことを思いついていた。

ロケット団を単独で壊滅させるような力を持つようになった自分である

自分のことを手厚く介抱してくれた彼女の“闇”を払うことなど容易であると思っていた・・・。






これから始まる、彼女、クリムとの日々をレッドは一生涯忘れない。

クリームとの出会いがレッドに大きな変化と、成長をもたらしていく・・・





クリームに課せられていた運命とその結末をレッドはまだ知らない。

1月の寒い日々が終わりを告げて、レッドの傷がほぼ完治する2ヵ月後の3月の中旬。

クリムの運命にレッドは巻き込まれていく・・・・・・











Phase.6へ・・・