砕け散った心、その夜・・・
PAS(yellow side) Phase.1 傷心 −悲しみの日々の始まり−
一人、自宅へと戻っていくイエロー。
涙の痕をそのままに、フラフラと歩いて自分の寝室へと向かう。
自分のベットにそのままバタリと倒れこむと、そのまま布団の中に顔をうずめて我慢していた分の涙を流す。
それと同時に、嗚咽がイエローを襲うと、イエローは大きな声で泣きじゃくった。
「うあぁぁぁぁぁあああぁぁぁああぁぁぁ!!!」
辛うじて布団の中で泣いているので、その大きな声は夜のトキワの街に響いてはいない。
レッドを死から救おうとした時に流した涙よりも悲しくい涙が頬を伝い続ける。
涙が布団を湿らせる頃には、イエローの顔はくしゃくしゃになっていた。そしていつしか布団を力強く抱きしめていた。
結構な時間泣き続けているのだが、なかなかその涙は止まらない。
少しでもレッドの事を考えるだけで発作的に涙が溢れてきて泣き出してしまうのだ。
とりあえず、その涙が治まった頃、イエローはこのことをブルーに相談するためにポケギアを手に取った。
「あら、イエローこんな時間にどうしたの?」
ブルーはいつもと変わらない声でイエローに話しかける。
「・・・ブ、ブルー・・・ブルーさぁん・・・・・・」
既に泣き声のイエローに驚いたブルーはとりあえず事情を聞いてみる。
「ど、どうしたの??」
「・・・ヒック・・・ヒック・・・・・・」
質問に対しての回答がこれでは会話は成立しない。
ブルーは何とか泣き止ませようとしたが、直感的に何を泣いているか解った。
「・・・・・・レッドが何かした?」
その一言をブルーが話すと、イエローは先ほどよりも大きな声で泣き始めてしまった。
(あの馬鹿・・・イエローに何したのよ・・・・・・・)
ポケギアを切るわけにいかず、何とか口頭でイエローを慰めるブルー。
慰めるのにかなりの時間がかかり、いつしか時刻は午前1時になっていた・・・・・・
「イエロー、とりあえず今日は寝ときなさい。また、明日話を聞いてあげるから・・・」
「・・・・・・はい・・・。」
イエローは非常に元気のない声で返事をするとポケギアを切った。
ブルーはイエローとの通話が終ると同時に、レッドのポケギアに通信を求めた。
(・・・・・・とりあえず、シバく!!!)
イエローの話から、別れ際の台詞を聞いていたブルーの怒りのケージは最大値だ
しかし、何故か知らないがレッドはこちらからの通信に応じようとしない。
相手の応答待ちになってから既に5分経過・・・・・・
しびれを切らしたブルーは、自らレッドの自宅にのりこむことを決意した。
もう眠っている自信の手持ちたちを起こすと、ブルーはレッドの自宅へと向かった。
その手には、あの例の秘密兵器こと“クリティカルポインター”が握られている。
怒りの形相で自宅を出たブルー。冬の深夜だというのに一切の防寒着を着用していない。
冬のマサラの夜を一人駆けるブルー、妹分を傷つけられた怒りは、たとえ親友であろうと許しはしない。
もしかしたら、親友だからこそ許せないのかもしれない。
そして、ブルーはレッドの自宅に着いた。
「・・・絶対に、絶対に許さない。」
レッドの家のドアに接近すると、そこに、一人の人影が見えた。
既に頭に血が上っていたブルーはその人物をレッドと思い、その人影に向けてポケモンを繰り出すと総攻撃を命じた。
「アンタねぇ、何ふざけたこと言ってんのよ!!!」
「・・・ブ、ブルー・・・!!?」
ブルーのポケモン達から総攻撃を受けたその人影はドアに打ち付けられると、ぐったりとしてしまった。
「アンタ、この程度で許されると思って?!」
「・・・ちょ、待て・・・俺だ・・・」
ブルーはその人影に近づくとその人物の胸倉を掴んだ。そこで初めてその人物の正体に気がついた。
「・・・・・・グリーン??」
「・・・そう、俺だ・・・・・・」
総攻撃を受けてぐったりしているグリーンの表情を見たブルーの顔はみるみる青ざめていく・・・・・・
「あ、あ、あ、ゴメン、ホントにゴメン!! 今すぐ治療するから、ホントにゴメン!!」
「ケガはたぶんしていない・・・・・・だが、この真冬に濡れた身体は厳しいな。」
先ほどの総攻撃の際、ブルーのカメックス、カメちゃんが水砲から水流を撃ち出したため、グリーンの衣服はびしょびしょだ。
ブルーはグリーンの腕を引っぱって立ち上がらせると、合掌して頭を下げて何度もグリーンに謝る。
「・・・レッドなら、出かけているぞ・・・・・・」
グリーンの言葉に驚くブルー、だが、イエローがあの後グリーンにも相談した可能性を考えれば不自然な話ではない。
自分よりも先に家を飛び出てレッドをを問い詰めにきたのだろう。
そう、解釈するブルー・・・・・・しかし、グリーンは別の目的でレッドの家を訪れていた・・・・・・。
「とにかく、一回着替えたほうがいいんじゃない?」
「・・・だな。」
ブルーは手持ちのポケモン達をボールへ戻すと、グリーンと共にレッドの家を後にした。
「・・・・・・」
さり気なくグリーンは何かを握っているようだが、それはブルーの死角にあるのでブルーは気付かなかった。
着替え終わったグリーンは暖房の効いた自宅でブルーと一緒に熱いコーヒーを飲んでいる。
そのコーヒーはブルーが淹れたもので、そのコーヒーの淹れ方もかなり手馴れている。
おそらく、よくこの家のコーヒーメーカーを使っているからであろう。
思えば、この2人はレッドとイエローの陰に隠れてかなり進展した関係になっている。
図鑑の所有者達の中ではどのカップルよりも進展しているといっても過言ではない。
あの事件からの1年、ほとんどの復旧作業はポケモン協会やレッドの活躍もあって
全ジムリーダーの召集(といっても、ブラックとの戦闘でのケガで大半のジムリーダーは動けないが)はなかった。
実際グリーンも全治3ヶ月の大怪我、ブルーも全治6ヶ月の大怪我でほとんど病院暮らしであったが
逆に病院で一緒に過ごす時間が増えて、かなり仲が深まっている。
それが解る例として今のコーヒーが挙げられる。
グリーンの好きなコーヒーの銘柄や、砂糖やミルクの数や量(グリーンはブラックで飲むが・・・)は全て把握済みだ。
また逆に、グリーンもブルーのよく飲むコーヒーの銘柄や(大概、グリーンと同じものを好むが)砂糖やミルクに関しても把握している。
日常の些細な出来事が、話さなくても進めることが出来る。それほどにまで2人の仲は進展していた。
「ところで、レッドが今何処にいるか分かる?」
椅子に座り、コーヒーをすすりながらブルーはグリーンに問う。
「・・・・・・さぁな。」
「その口ぶりじゃぁ、何か知ってるみたいねぇ?」
「知っていたら、俺が先に出向いている。」
「それもそうよね」といった感じの表情で再びコーヒーをすする。
普段の行動を見る限りでは、腹黒でやり手といった感じのなのに、こういう一面を見るといつも、「コイツは意外に純粋」だということに気がつく。
腹黒でやり手なのは、そういうことをする知恵に長けて、それを実行に移す力と度胸があるからそういう印象があるように見えるだけであり
かまってほしい裏返しなんだと思う。 そういう一面を考えると、彼女は表現に問題があるが非常に純粋な存在であるのだ。
そういう一面に気がついたとき、そしてまたそのギャップによって誰よりも愛しい存在になっていたのは事実だ。
出合った当初、あんなにも煩いだけの存在がこんなにも変化するとは本当に驚きである・・・・・・
「じゃぁ、レッドがいつ頃帰ってくるか分かる?? 妹分を傷つけた罪は重いわ・・・・・・」
ギラリと瞳をを輝かせたブルーに少々呆れるグリーン、面倒見の良いところは評価したいが、その表現方法にはかなりの問題があると思う。
「・・・その女のところで世話になっているんだろう。そう簡単には帰ってこないと思うぞ・・・」
「あのレッドを世話ねぇ・・・・・どこの物好きかしら。」
「俺が聞きたいくらいだ」
「あら、私も知りたいわよ」
2人で笑い合うが、ブルーはハッと気がつく
「笑っている場合じゃないわよね・・・。 イエローのこと何とかしてあげないと・・・・・・」
「・・・しばらくは一人にしておいた方がイエローの為だろう」
「まさかとは思うけど、イエロー思い詰めて・・・・・・」
「それが起きないようにするのが俺たちの役目だろう。そうだ、クリスが暇をしているようだったら、イエローの傍に居させてみたらどうだろうか」
ブルーもその意見に大きく頷いて賛同した。
「でも、クリスにばっかり任せるわけにもいかないから、基本的にはアタシたちでフォローね」
「まぁ、そういうことになるだろう。」
グリーンがコーヒーのカップを置くと、ブルーも同じようにカップを置く。
「アタシ心配だから、今日はイエローの傍に居てあげるわ。」
「すまない、頼むぞ。」
ブルーは立ち上がり2つのカップを流しまで運ぶ。
「・・・送る」
「ありがと。でもいいわ、明日もジムの仕事があるでしょう?ゆっくり寝て頂戴。」
微笑みながらブルーはグリーンの家を後にした。
あの事件から1年たった今、グリーンとブルーはどんな生活を送っていたのだろうか。
まず、グリーン。
彼は、ケガが完治したあとブルーや後輩達の看病や見舞いに出向きながら自己修練を忘れず
トキワシティのジムリーダーとして日々精進し続けていた。
あの事件の時、親友を助けること、また、援護することさえ出来なかった自分を徹底的に鍛えるために
ジムの挑戦日を積極的に増やして様々なトレーナーとバトルし続けた。
そしてブルー。
実は事件発生前から、タマムシ大学でポケモン学を専攻。理工学や理数学は独学で学んでいた。
将来、オーキド博士を越えるまたは支えられる学者、研究者となるために日々勉学に勤しんでいる。
独学で作り出した物が例の“クリティカルポインター”であったりする。
現在、ポケモンの進化と特別な石に関する論文を既に執筆し始めており、大学内での評価は非常に高い。
イエローの自宅に到着したブルー。ポケギアに目を向けると現在の時刻午前3時。
流石にイエローも泣きつかれたか、時間帯的に寝ているだろうと思ったが
玄関の前に立つとなにやら、すすり泣く声が聞こえてくる・・・・・・
「お邪魔するわよー」
どんどん、ドアを開けてイエローのすすり泣く声が聞こえる寝室のほうへと向かった。
するとイエローは部屋の電気もつけずベッドの上で一人布団に丸まって泣いていた。
「イエロー、アンタ寝てなかったの・・・・・・?」
「・・・ヒック・・・・・・ヒック・・・」
そのブルーの質問に対しての回答は嗚咽だけであった。
ブルーはイエローに近づいて顔の部分に掛かっている布団をそっと退かして見るとそこには
目の周辺を真赤に腫らしたイエローのくしゃくしゃの顔があった。
あまりにも痛々しい彼女の状態に、ブルーは頭を優しく撫でてあげた・・・・・・
「イエロー・・・・・・今はいっぱい泣いてもいいからね・・・・・・」
「・・・・・・ブルーさん・・・・・・」
イエローはブルーに寄りかかると思い切り声を上げて泣いた。
「・・・レッド、レッドさんが・・・・・・ブルーさん・・・レッドさんが・・・・・・」
嗚咽が混じっているが必死に訴えようとするイエローの頭をただ無言で撫でてあげた。
「他に好きな人が・・・できたって・・・・・・私は・・・プロポーズ・・・・・待ってたのに・・・・・・」
「・・・・・・。」
イエローにかける言葉が見つからなかったので、ブルーただ、頭を撫でていた。
(・・・・・・レッド・・・・・・)
怒りを超越した憎しみの思いがブルーの中で湧き起こった。
その感情はイエローの頭を優しく撫でるたびに、イエローの嗚咽を聞くたびに高まっていった・・・・・・・
(アイツ・・・アイツだけは許さない・・・・・・)
先ほど密かに回収しておいたポケギアを見つめるグリーン。
ポケギアには着信履歴が残っており、イエローとブルーからの着信があったことを示す画面が表示されている。
だが、グリーンが知りたかったのはそんな情報ではない。
ポケギアの登録者リストを見ていくグリーン。 その中に、仕事用という名前で登録されているポケギアの番号が在った。
グリーンはその番号を自分のポケギアに密かに登録した。そして、その番号を登録し終わるとポケギアの電源を切る
「こんなことしか出来ないのか・・・・・・」
レッドのポケギアを自分のタンスの最下段の奥に隠すと、グリーンはぐったりとベッドに横になった。
そして自分のポケギアを取り出して、先ほど登録したレッドの仕事用のポケギアの番号を見つめた・・・・・・
(・・・・・・親友との約束か、傷ついた心か・・・・・・)
グリーンの親指は自然とポケギアでその番号に連絡を取ろうとしていた。
(ここでこのボタンを押して、アイツに連絡を取ったら・・・・・・何かなるのか・・・・・・?
イエローの件は時が解決するのを待つしかないのか・・・・・・??)
グリーンのポケギアの持つ手は震えていた。 そして
「・・・・・・すまん、イエロー」
そう一人呟くと、グリーンは自分のポケギアをタンスに向けて投げ捨てた。
ポケギアはタンスにぶつかるとそのまま床に落ちた。
そして投げた手で自分の顔を覆うとグリーンはその指と指の間から天井を眺めた。
イエローの嗚咽もいつしか治まり、イエローはブルーに寄りかかって寝てしまった。
ブルーはそんなイエローの頭を優しく撫で続けた。
「・・・・・・」
ブルーは表情を変えることなく、ポケギアを手に取った。そしてある人物に連絡を取った
「・・・はい、もしもし・・・ねえさんどうしたの・・・・・こんな朝早く・・・・・・」
「シルバー、お願い事があるんだけど・・・聞いてくれる?」
「ねえさんの頼みなら・・・・・・」
「ありがと、ホント、シルバーは頼りになるわ♪」
ブルーは優しい声でシルバーにお礼を言うと、ポケギアの先のシルバーの顔は紅潮した。
「で、お願い事って何?」
「・・・あのね、レッドを探して欲しいの。」
「レッドを・・・・・・?」
「もし見つけたら、その場所を教えてくれるだけでいいから。」
「・・・分かった」
「じゃ、頼んだわよ」
会話が済むとブルーは即座にポケギアを切った。
今だ寄りかかって眠るイエローの頭を撫でるブルー、しかしその表情は怒りの形相だ。
(絶対見つけ出して、土下座させてやる・・・・・・。イエローを傷つけた罪は、どんな罪よりも重いわ・・・・・・)
窓から見えていた外の闇はいつしか薄暗くなっていた。
いつしか、朝がやってきた。
イエローの家も、グリーンの家にも窓を通して日光が降り注ぐ。
結局、一睡もしなかったグリーンとブルー。
泣きつかれて眠ってしまったイエロー、そして早々行動を開始するシルバー。
この4人の思いが交錯し始める時、4人に本当の夜明けは訪れるのだろうか・・・・・・?
Phase.2へ・・・