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 想いは一つ、ただ、彼を求めて・・・・・・。






PAS(yellow side) Phase.13 I want to see you −旅立ちの予感−








 あれから数ヶ月の時が流れた・・・いや、正確にはもう少しで1年になる。

ブルーの発案でレッドのポケギアに連絡を取ってみようと言う話になったのが

あの話の後、一ヵ月後だった。とりあえず、ブルーが思い切って連絡してみたが

どうやらそのポケギアは既に使われていないらしく、連絡を取ることはできなかった。

その結果、レッドの行方を知る手がかりもなくなり、生死の確認も取ることができなくなった。

いや、逆に可能性としてだが、生死の確認は出来たのかもしれないが・・・・・・

この連絡が取れなかったという現実を、どういう風に受け止めるべきなのか

そして、それをイエローにどう伝えればいいのか、伝える必要は無いのか・・・

グリーンとの協議の結果、“不用意に不安を煽るようなことはやめる”となった。









場所は変わってイエローの家・・・時は、夜11時を過ぎた深夜

ここの家主は、たった一人で苦悩と戦い続けていた・・・・・・





あまりにも多くの感情が精神と肉体を支配している。

あの話の後の1週間くらいは情緒不安定に近い状態にあったが

1ヶ月もすればその状態はだいぶ良くなった。

ただ、一人っきりになる自宅では、自分の内側に秘める思いが爆発してしまう。

裏切った罪、信じられなかった罪、止められなかった罪・・・

そして、知ってしまった深い愛情、気付いてしまった自分の揺るがない思い・・・





こんなことを考えていると、眠れなくなってしまうので

布団を頭まで被って、自分自身を閉じ込める。

だが、それが逆に自分の思いを煽っているとも知らずに・・・




名前を発声することさえも罪のように感じてしまう。

思い出すことも、考えることも、思うことも・・・・・・

何度も何度もレッドのことを忘れよう忘れようと努力する

他の事を考えて、早く寝てしまおうと努力する

ただひたすらに我慢する・・・

それでも



「・・・・・・レッド・・・さん・・・・・・」



自分の考えと我慢に反していつしか名前を呟いてしまう

身勝手で我侭な自分が嫌だったが

その名を声に出すと身体は疼き、熱い吐息が口から漏れる。

自分の手を胸にそっと当てると、切なさと罪悪感が同時に溢れてくる

禁止されることをしてしまう自分が嫌になって、首を何度も力強く振って溢れる想いを必死に否定する。

罪悪感だけが自分の肉体と精神を支配してくれていれば、償いの思いだけで助かるのだが

同時に知ってしまった愛情が、自分をひたすら惑わし続ける。

結果的に今の自分の思いと彼の思いは同一であり、それが堪らなく嬉しく、愛しい

だが、そんな思いを裏切った自分が持っていいはずが無く

この思いは捨て去らねばならない思いと自分で何度も思うが

そんな考えよりも、愛しさが勝ってしまい切なさが自分を襲い続ける。

また、今感じる切なさや寂しさを紛らわせてくれるのは

今までの経験から言っても、レッドの存在だけであった。

だが、そうやって彼に甘えようと考える自分は、罪を全く反省していないように思える。

罪の意思、辛さを乗り越える力になってくれるレッドの思い、それを押さえる罪の意識、それで生じた辛さを・・・

永遠と続く罪の意識とレッドの思いのループが、イエローをひたすら追い詰める。





(レッドさん・・・助けて・・・許して・・・もう・・・もう、気が狂いそうです・・・・・・)





この想いの元は全てレッドだが、この想いから脱するにはレッドが必要なのだと理解してしまう。

レッドへの罪の意識とレッドからの深い愛情が、イエローを惑わし続ける。


「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


考えられないほどの熱い吐息が口から漏れると、そのまま自分の匂いがする布団の中でうずくまった。

胸を触っていた自分の手が、また今日も自分自身を慰める。

この行為でなければ、自分自身が抱える苦悩は発散できないのだろう

行為をやめるには、それこそレッドが傍に居てくれなければ無理だ。

閉じられた瞳から溢れ出した涙が布団を濡らす。

募る思いと苦悩を処理するには、こうでもしなければならないのだ・・・



こういう日は別に今日だけが特別ではない。

もう、何日も何十日もそして何ヶ月もこういう日は続いているのだ・・・。

自分の部屋には麦藁帽子を除いて何一つ彼から貰った物も思い出の品も存在しない。

無論それは自分で処理したからであって・・・

今、この部屋で彼を感じることが出来るのはこの布団の中の自分だけ

何か一つでも力強く彼の思い出を感じさせるものがあれば、幾分楽なのだが・・・

そう考えて、一度レッドの家を訪れたことがあったが(屋内には入っていないが)

既にそこはレッドの匂いも雰囲気もなくただの家となっていた。

謝罪したい思いと、会いたい思い、会ってはいけないという罪悪感がイエローの心を乱し続けた。

だがその乱れた心を正す為に、イエローにはある考えがあった。











「レッドを探しに行く?!」

「・・・はい。」


夏の日の休日の午後、冷房の効いたブルーの家の今で2人で紅茶を飲みながらのこと。

あまりの驚きにブルーは素っ頓狂な声を上げてしまった。

カレンダーは6月30日にを示していることから

これから夏が最高潮に向かおうとしている事が解る。

もしかしたらイエローは、暑さにやられてしまったのかとさえ思ったが

イエローの瞳はいつに無く力強く、しっかりしているように思える。


「・・・待ってれば・・・いいと思うわよ・・・・・・。」


ポケギアのことから解った結果を思えば、応援するような言葉は吐けない。

寧ろ、それを止めるような言葉をかけなければいけないとさえ思った。


「レッドさんは、私のことを本当に心配してくれていて・・・・・・」


力強く向けていた瞳が潤み始めた。



「待たなくていいって言ったかもしれません・・・だけどそれは

探しに行くな、探しに来るなという意味では無いですよね?!」



「・・・そうかもしれないけど・・・でも、イエローが無理に動く必要性は・・・・・・」



泣きそうになりながら、必死に訴えてくるイエローに少々、ブルーは困惑していた

だが、イエローの思いも大事だが、自分たちのことを思って行動してくれた

レッドの意思を無駄にすることもできない。



「第一、レッドに会ってどうするつもり?」



問答をしてイエローの心理を読み取る。こうすることで、イエローの心を落ち着かせることも

今自分が話していることの意味を理解させる必要がある。


「会って・・・ですか・・・・・・?」


核心を突いた質問だったようで、いきなり返答にあきらかに困る。

そんな目的も無く旅立って、生き抜くなど、女のイエローには無理な話である。

今まで、レッドや自分たち、そして未成年だったということで社会がイエローを守っていたが

今や、成人となったイエローが迂闊に旅立ったりしたら

どんな悲惨な結末が待っているだろうか?

世の中は、自分たちが生きる世界は、表面上綺麗に見えても

その裏側は、薄汚れた欲望丸出しの人間や、人を騙して生きる人間で溢れかえっている

どんなにポケモンたちの力添えが会ったとしても、女一人旅なんて危険なことを

大切な親友兼妹分にさせるわけにはいかないのだ。

ただでさえも、天然、マイペース、素直で健気と、要領の悪い3原則のような

性格、性質をしているというのに、どうやって殺伐とした世界を歩むのだろうか?

ブルーは大きな溜め息を吐いた。


「アンタねぇ、そんな無鉄砲なことはレッドだけにしてくれる?」


ブルーの言葉にイエローは、しょんぼりと下を向いて聞いている。

だが、イエローの話を全て根本から否定するほどブルーは話がわからない人間ではない。


「・・・とりあえず、さっきの質問にしっかりと答えられるようにしてきなさい。

そこから先は、その答えが聞けてからよ。」


ブルーはしょうがないといった感じで、イエローに話すと

しょぼくれていたイエローは、パァッと明るくなって満面の笑顔でブルーを見つめた。


「ありがとうございます、ブルーさん!!!」


ニコニコ笑ってイエローは喜んでいる。

自分の意見に賛同してくれたことが嬉しいのか、レッドに会えることが嬉しいのか

まぁおそらく両方だとは思うが、かわいい妹分がそれで喜んでくれたのならば

それは別にいいのだが、問題はここからである。

はっきり言って、レッドを探す旅になったらこの笑顔を維持させることは不可能だ。

もしもそれを可能にする方法があるとすれば、それは一つしかない。





そして、その日の晩のうちにブルーはグリーンに今日のことを話していた。

イエローがこの話を持ち込んでこなかったら、いつまでも決断できなかっただろう。

この1年に近い月日の間、ずっと考えていたことを、いよいよ実行に移せるのだ。


「で、グリーンはどうするの?」


ポケギアでから聞こえてきた、彼女の声にグリーンは

目を閉じて。窓から注ぐ月の明かりをその身に浴びて答える。

もうとっくに、答えは出ているのだから。


「・・・いつ出発の予定だ?」


予想通りの回答に、ブルーはニヤリと電話越しで笑った。

意思疎通は完璧のようだ。


「とりあえず、来月・・・・・・」


言いかけて時計を見ると、深夜12時を差していた。


「今月中よ。」

はっきりと、そう言い直した。


やる気を出したイエローの行動力の凄まじさはよく知っている

間違いなくイエローはそれなりの答えを近日中に出してくるだろう。

この確証があったので、こうも断言できるのだ。


「・・・わかった」


グリーンは納得して返事をした。





「そうだ、その前に・・・ジョウトのやつらを呼んでお別れパーティーやらない?」

「・・・お別れパーティ?」

ブルーの突然の発案にグリーンは少々考える。

場所や経費、スケジュールを考えるのは結構面倒くさいが、確かにいい送別会になるかもしれない。

いろいろなことを伝えられるチャンスだろう。



「・・・わかった、で、場所は何処でやる?」

「フフフ、いい考えがあるのよ・・・♪」



ノリノリで話し出す彼女に溜め息を吐きながらも、彼女の計画を聞いてあげる。

そしてその計画に納得すると、グリーンはブルーとの雑談を1時間ほど楽しんでから

ベットに横たわって眠りにつくのであった・・・・・・





イエローの笑顔を維持させて、レッドを探す旅をさせる方法とは

カントー組でレッドを探しに行くということだった。

腕っぷしも、バトルの腕も、また金銭面でも強いグリーン

情報収集能力、頭のきれ、要領の良さを持ったブルー

この2人がお供としてイエローの旅についていけば、何とかなる可能性は高い。

実際この案は、イエローが言い出さなくても計画されていたようで

ある程度の準備と心構えは、2人は出来ているようだ。











 翌朝、早朝からブルーのポケギアが鳴り響いた。

目覚まし代わりにそれで目を覚ましたブルーは、着信に応答する。


「・・・はい、もしもし・・・」


流石に寝起きでぼやける頭では、まともな声で応対することは出来ない。

通信先の相手に怒りを覚えながら、応対してあげる。



「ブルーさん、私、答え見つかりました!!」



マイペースの女神 イエローだと、その声を聞いた瞬間にわかった。

このテンションは恐らく、夜通しで考えていたのだろう

昨日の喜んだときのテンションとほぼ同じなのでよくわかる。

少々呆れたが、夜通しで考えていた彼女の熱意を無駄にしないために

気合を入れて、昨日と全く同じ質問をしてみた。



「レッドに会ってどうするつもり?」






「はい、わかりません。」









・・・・・・。


外でオニススメの鳴き声が聞こえた。マサラに朝が来ている証拠がはっきりとわかる静寂。

その回答にブルーはしばらく沈黙していた。



「あの・・・ブルーさん・・・?」



一切の応答が無くなったブルーを不思議がって、イエローは呼びかける。


「アンタ、まじめに考えての結論がそれなの?」


呆れかえったブルーは、一気に脱力してしまった。

確かに結構しっかりしているが子だが、この天然は本当に困る


「はい、私は・・・自分を知りたいです。」


先程の天然丸出しの雰囲気とは打って変わって

真剣に語り始めたイエローの言葉を、ブルーは姿勢を正して聞いてあげることにした。



「あの人のことを思うと、どうにかなっちゃいそうになるんです・・・。


今の状態でそうだったら、あの人に直接会った時、自分がどうなってしまうのか


知りたいです・・・そして、乗り越えたいです!!」



語り終わったイエローの雰囲気から、本当に昨日考えに考えたことがよく伝わってきた。

自分がどうなってしまうのかがわからないくらい

レッドという存在はイエローにとって大きな存在なのだ。

この話を聞いてしまったら、ポケギアの結果を話すわけにはいかない。

でも、覚悟は必要だ。


「もし・・・もしもの話よ。 レッドがもしも死んでたらどうする?」

「その時は・・・・・・」


イエローは言葉を返せなくなった。

流石に意地悪しすぎたかとも思ったが、これ十分に考えられる結末だ。

その回答を聞いておかなければいけないだろう。



「その時は・・・頑張って、諦めます。」



もしもレッドが死んでいたら・・・

自分は永遠に罪の呪縛に拘束され続け、自分の心を深くえぐるような愛情に、心を砕かれてしまうだろう。

そうなった時の自分自身も、やはり想像はつかない。

涙声で答えたイエローの覚悟を聞いて、ブルーは大きく溜め息をついた。


「今の言葉、絶対に忘れちゃダメよ。」


慰めるように話すブルーに、電話越しでイエローのすすり泣く声が聞こえた。

しばらくイエローを慰め続けると、昨晩決まったことをイエローに話すことにした。


「イエロー、7日の夜は暇?」

「七夕ですか? 暇ですけど・・・・・・」

「丁度良かった。 グリーンの家の屋上で、出発前のパーティをやるって話になったのよ。」

「ホントですか!」


パーティと聞いて喜ぶイエロー。ブルーはその反応に満足したようだ。


「シルバーたちも呼んで、天の川を一緒に見ましょうか。」

「はい!」


快い返事に安心するブルー。

この明るさを、これからも維持してくれればきっと、どんな最悪の結末も

イエローは乗り越えていくだろう。













 時は再び流れて、7月7日の夕方・・・

グリーンの家の屋上は結構広いテラスになっていて、観葉植物などが飾ってある。

その植物の間に今日は特別な植物が一本立っている。

それは、笹竹。この時期、短冊をつけるのがしきたりとなっている。

早くもその笹竹には短冊がいくつかつけられており



“グリーンといつまでもラブラブでいられますように”や“シルバーとミカンちゃんが上手くいきますように”等



誰が書いたか一発で解ってしまう短冊や



“孫の顔が拝めますように”と達筆な字で書かれた短冊



“おじいちゃんが健康でいられますように”、“ゴールドの放浪癖が治りますように”、“シルバーに圧勝する!!”等々・・・



それぞれは思い思いに、願い事を書いて短冊をつける。



“旅が成功しますように”そう短冊に書いた人は、恐らく未だ自分と戦い続けているのだろう。



日はいずれ暮れて、今日のような晴天の日ならば、星たちが空一面に広がるだろう。

七夕の日に相応しい夜がもうじきやってくる・・・



笹竹の近くには、誰でも短冊を書けるように、予備の短冊とペンが机の上に置いてある。

まだテラスには人の影は見えない。 きっと夜の闇がマサラをカントーを包むまでは、人の影は現れないだろう。

その間に、グリーンの家の中では様々な準備が参加者総出で忙しく行われている。

七夕パーティは今夜、この場所で・・・・・・











自分自身がどうなってしまうかは解らない。

だけれども、それ以上にその現実から逃れることが嫌だった。

いつまでも引きずり続けるわけにはいかないと思った彼女は

答えを求めて、旅立つ決意を固めた。

その先に待っている結末がどんなものであろうとも

それを頑張って乗り越えると決めた。






天に輝き始める星たちが、きっと、これからの旅路を照らしてくれるはずだから

彼女は今、一人の女として、大人としての道を確実に歩み始めた。

全てに決着をつけるために、けじめをつけるために。

そして時は、夕日を地平線のかなたに消した

カントーに、いよいよ夜がやってくる・・・









女はけじめをつけるために動き出した・・・・・・








Wside endへ・・・