七夕・・・織姫と彦星が年に1度だけ合える日。
ここカントーに織姫と彦星が3年ぶりに再会する。
ただ、2つの星は互いの闇に囚われていた・・・・・・
PAS 第2章最終話 涙・再会・制約
3年と7ヶ月前、この田舎町を旅立った青年がいた。
彼は仲間たちを守るために嘘をついて、故郷を後にした・・・
取り残された青年の恋人は、悲しみを乗り越えることが出来ず
青年の親友に助けを求めた・・・。
青年の親友との日々が、その親友の恋人との間に溝を作り
一時期、青年の故郷には明けない夜が訪れ続けた・・・・・・
そのころ青年も同じように闇の中を彷徨い、たった一人戦い続けた。
その戦いを乗り越えた青年の前に現れた女性は青年を変えていった・・・・・
また長い月日が流れて、青年の故郷の夜が明け始める頃
青年は遠く離れた地で、大切なものを失い、心を闇に閉ざした
そして今日という日、青年は闇の中に力の答えを求めて
恋人は闇の中の青年を探す旅を決意した。
再びすれ違う2人・・・・・・
だが、運命という絆が2人を導いた・・・・・・
この作為的な運命に、今は誰も気付くことはなかった。
七夕パーティの準備をしている時、こういったことに非協力的傾向にあるなゴールドは
一人居間でテレビをボーっと眺めていた・・・。
「七夕の今日、星に関するニュースが入ってまいりました。」
テレビは、ニュースが放送されていて、男のアナウンサーが原稿をたんたんと読み上げていく。
ゴールドは大きなソファの背もたれ寄りかかった状態で、ボーっとテレビを見ている。
無論、その間に彼以外の面々はせかせかと準備をしているのだが
「世界天文台では6日夜、大規模な流星郡を発見。近い将来、空一面を覆いつくほどの流星が確認できると発表
この発表で全世界で、天文ブームが起こると見られており、専門家は・・・」
「イテッ!!!」
テレビに夢中になっていたゴールドの耳を結構力強くクリスが引っぱる。
「ゴールド・・・皆手を動かしてるの、人手は足りないくらいだから、手伝ってくれない??」
クリスは話しながら、ゴールドの耳を上下に引っぱる。
「はいはいはい、手伝わせていただきますよ・・・」
テレビの電源を切ると、ゴールドは渋々、クリスに連れられてキッチンへと向かった。
何だかんだで一番平和なカップルであることに違いないと
丁度通りかかったシルバーは思った。
「あら、良いトコに来たわねゴールド・・・」
ニッコリ笑っているブルーに、直感的に嫌なものを感じた。
まぁ、何を言われるかは予想がついている。
「・・・で、何買ってくればいいんスか?」
「あら、物分りがいいのね♪ じゃあ、悪いけどこのメモ書きのもの買ってきてくれる?」
全く予想通りの展開に、溜め息も出ない
とりあえず渡されたメモ書きに目を通してみると
「“適当にお菓子をたくさん買ってきて byブルー”」
そして、メモ書きと同時に渡されていた小銭を見てみる。
そうか、これはきっとこの金額の倍額以上は買って来いという暗示なんだと理解した。
「行かせていただきます。」
はぁ、とこのタイミングで溜め息をつくと、ゴールドは渋々外へとでた
どうしてこうも独特のペースを持った女が傍にいるのか不思議で堪らない
ホウエンのサファイアも、自分の恋人も、天然マイペースのイエローも
そして女王ブルーと、どうしてこうも強い女性が多いのか、それとも
女という生き物が元々強いのか・・・。
そんなことを考えながらボールからバクフーンのバクだろうを呼び出して
夜のマサラを、バクたろうの背中に乗って駆けていった・・・
ふと見上げた夜空には、今にも落ちてきそうなほどたくさんの星
“天の川”とは、昔の人間は上手い例えをよく考える
きっと、娯楽が殆ど無かった時代、人間は夜、空を眺めていたのだろうか
普通の感性では、空の星々を見て“川”という発想は出来ない
そういう高い感性は、人は初めから持っている。
それが、幼少の頃の絵であったり、文や言葉だったりする。
だが、いつしか感性は現実と社会にある“醜いもの”によって潰されていく。
“醜いもの”・・・しかし、それが無ければ社会は成り立たない
人がどういう風に存在すべきなのかの結論は、永遠に出ないだろう
それを探し続けるのが、全ての人間の目的だと思った。
(そういえば、こんな漠然としたでっかい話、あの時いっぱい話したなぁ・・・)
ふと、シロガネ山であの先輩と過ごした日々を思い出した。
暖かな表情でポケモンや人と接して、楽しげに、そして時に鬼のようにバトルをする。
そして旅をこよなく愛する、正に自分の生き方の“先輩”。
ただ、女心にとんでもなく鈍感で、どれだけの女の子を泣かしてきたかはよくわからない。
他にも挙げればいくらでもボロが出てくるのだが、そこはあえて考えない。
そんな憧れの先輩が、自分たちを裏切って傷つけた時は、本当に許せなかった
あの後から狂い始めた歯車は、憧れの先輩をただ、絶望と闇へと落としていった・・・
闇を隠し、たった一人で全てを解決しようとしたところは、本当に変わらない
やはり、あの先輩らしい行動なのか・・・・・・
(先輩・・・やっぱ、オレ・・・・・・)
バクたろうの背中から見上げた空は、キラキラ輝く満天の星空
こうやって空を見つめていろいろ考えていると
そういえば、先輩もよくこうやっていたことを思い出した。
(この星空の下で、先輩は今、何を考えているんスか?)
雲ひとつ無い満天の星空に、尊敬する先輩を想う。
しばらく空を見つめた後、ゴールドは近くのコンビニへと急ぐのであった・・・
時刻は八時半を過ぎて、七夕パーティは始まった。
グリーン宅の屋上のテラスには、カントー組とジョウト組の姿がある。
それぞれの手に握られたグラスには大人の味が注がれており
時より気泡が出ているところを見ると、シャンパンの類であろう。
よくよく見てみれば、用意されたテーブルの上に栓の開けられたシャンパンの瓶が
氷によって冷やされているのがわかる。
銘柄等はラベルが夜の闇にまぎれて読むことができないのでよくわからない。
彼らは乾杯を済ませた後、全員の同じ方向を見上げて星空を楽しんだ
談笑とほろ酔い気分の甘ったるい声が飛び交うテラスは、何故か夏場なのに心なしか涼しい
夜の影響もあるのだろうが、身体を満たすアルコールが大きく影響しているのかもしれない。
1時間ほどの時間が流れた頃、さほど酔っていないグリーンが
ジョウト組の面々に話を切り出した。
「・・・お前たち、ひとつ聞いてほしいことがある。」
真剣に話し始めたグリーンに、ジョウト組の面々はほろ酔いの状態だったが、真剣に話を聞こうとしている。
今日のパーティはこのことを伝えるために開いたといっても、グリーンにとっては過言ではない。
「どうせ、“・・・レッドを探しにいく”なんて言うんスよねグリーン先輩?」
ニヤリと笑って話すゴールドに、少々驚く。
「大体、何年の付き合いだと思ってるスか?先輩に今日のパーティに招待された時点で薄々感づいていたッスよ。」
ゴールドの言葉に、クリスとシルバーも大きく頷くと
その瞳に迷いは無く、既に準備はできているといった様子だ。
「オレッちは、流浪の旅人、プロの捕獲屋、凄腕の隠密・・・悪ぃスけど、先輩たちよりも動きやすいッスよ。」
鼻をこすって得意に話すゴールド。
よくよく考えると、クリス以外はたいした自慢でないのが痛いところだが
その言葉の力強さと頼りにできそうな雰囲気だけは間違いは無い。
おそらくこうなった彼らはこちらの言うことなど聞いてくれないだろう
特に、ゴールドは一人でも動く可能性が高い。
あの話を告げた後の一年間、クリスの話ではやはり自主的に探していたらしい情報が入っている。
あの話・・・・・・
グリーンが親友に対して行ってしまった2つの裏切りの内一つ。
残り一つの裏切りが、イエローに変な優しさをかけてしまったことであり
そして、その裏切りとは、レッドとの約束を破り、全ての真実を暴露してしまったことだ。
完全に追い詰められて、もう逃れられない、言しかない状況になってしまったというのが一番の理由だが
もしかしたら内心、全てを打ち明けることによって
マサラにレッドが帰りやすくするという考えがあったのかもしれない。
「みなさんがそういう風に頑張るなら、私も、頑張ります。」
しばらく、口を閉ざしてゴールドたちを見ていただけのイエローが口を開いた。
ムードメーカーのゴールドに感化されたのだろうか。
「・・・私、これから泣かないって決めました。
それが私の大人としての覚悟で、それが乗り越える力です!!」
屋上と外を分ける手すりに寄りかかり、天を仰いで話すイエロー。
その瞳は力強いようで弱々しい、なんとも不安定な瞳
手に持っていたグラスが、月明かりによって、キラリと輝く。
ブルーはそれを見て、今のイエローのモチベーションを高めようと
あえて、イエロー一人に語らせず質問してみる。
「レッドに会ったときも、泣かないのね?」
少々意地悪な質問だと思いつつ、イエローに聞いてみる。
しかしその反応は予想を反していた
「会えません・・・私なんかが会っちゃいけません・・・!!」
ヒステリック気味の声で叫んだイエローに、ブルーは自分の失敗を責めた。
まだその部分は、自分で結論を出しているようで、出ていない不安定な
そして、まだ簡単に触れていけない心のデリケートな部分なのだ。
イエローの瞳が潤んでいる
全員が口を閉じて沈んでしまった・・・・・・
その時、一つの流星が天に輝き、夜風が吹いて笹の葉をさらさら揺らした。
「でも、でも・・・会いたい、どうしてもレッドさんに会いたいから!!」
沈黙を破ったのは、悲しみと苦しみに溢れたイエローの悲鳴
それは、いまだ彼女の中に残る“子供”としてのこだわり
彼女にとって最も譲れない大切な大切なこだわり。
この感情は誰がなんと言おうが、大人になろうが、忘れ去ることも消し去ることもできない
非常に幼稚な感情・・・・・・
涙が零れ落ちると、より一層静まり返ってしまった。
流星と夜風ともに星空から密やかに降りてきた人影は、グリーンたちに気づかれないようにテラス着地した。
着地した場所はグリーンたちの背後に当たり、誰もこちらを見ていない
しかし、それ以前にどうやら別のことに気をとられているようで、誰にも気づかれていないようだ。
今までその人影の翼となってくれていたプテラに、手すりに掴まって休んでいるように命じると
その存在は切なげな視線を、グリーンたち全員の背中に送る。
(この思い出ともサヨナラするのか・・・・・・)
溢れてきた涙を拭うことなくその存在はただ、自分の瞳に彼らの最後の背中を焼き付けた。
一度視線を外し周りを見渡すと笹竹と予備の短冊、そしてペンが用意されている。
せっかくなので赤い短冊を一枚選ぶと、カリカリとペンで願い事を書きはじめた
字を書こうとしているのだが、涙で視界がぼやけてきれいに字を書くことができない
それでも数秒もしないうちに笹の葉に、赤い短冊が取り付けられた
そこには少々汚い字でこう書かれている
「“仲間たちが幸せになりますように”」と。
その短冊を書いた人は、プテラに再び翼になってもらうと
たった一人、物音も立てずに星空へと舞い上がろうとした。
「でも、でも・・・会いたい、どうしてもレッドさんに会いたいから!!」
悲しみと苦しみに満ちた叫びで呼ばれた自分の名前。
しかもその声には非常に聞き覚えがある。
静まり返っているこの空間には、あの子の嗚咽だけが支配している
その時間が長引けば長引くほどに心が揺れる。
「・・・・・・ッ!!」
両手の握りこぶしに力がこもり、ギュッと鳴った
心や覚悟以前に、身体が動いていた・・・。
打破できないイエローの悲しみに、ブルーが慰めようと必死に言葉を探している。
「ゴメンゴメン、イエロー泣かないで。」
「泣いてなんかいません!!」
必死に涙を手の甲で拭ってブルーの慰めを拒む。
その優しさが嫌なのではなく、それに甘えてしまおうとする自分が嫌だった。
そしてそんな我侭な自分も嫌で、彼を裏切ってなお求めようとする自分も嫌で
弱い自分が嫌で、とにかくもう自分が嫌で・・・
「イエロー、ゴメンね・・・・・・。」
「ほっといてください!!」
興奮しているイエローは、つい強い口調で怒鳴ってしまった。
しょげてしまったブルーを横目で見た瞬間、もう、自分自身を許せなかった。
我侭で弱くて裏切って迷惑をかけて・・・・・・
自己嫌悪によって自分が崩壊しそうだった
「そんなにオレに会いたいの?」
「会いたいに決まっ・・・・・・」
背後で聞こえた懐かしい声に、全ての時が止まった。
一人で溢れてくる感情を、ただ吐き出していたはずなのに
ただ叫んで、人を傷つけていただけなのに
その言葉はいつしか会話へと変化していた
それも、一番聞きたかった懐かしい声によって・・・・・・
背後の存在、いや、レッドはイエローの背後に立つと、イエローの頭を優しくなでてあげた。
突然の登場。あまりの驚きに、一同はポカーンとレッドを見つめることしか出来ない。
静まり返った七夕の星空の下、あまりにもその空白が長いので
レッドは久々に笑ってしまった。
後を恐る恐る振り向いたイエローの目に飛び込んできたのは
黒い半袖のジャケットに白いシャツ、それにジーパンを着用していて
髪の毛は少し茶髪になっていてツンツン三角がある、独特の短めのヘアスタイルで
高身長で黒い瞳、そして、見覚えのある顔・・・・・・
「元気してたか?」
聞き覚えのある声、その言葉の後に見せた申し訳なさそうな笑顔
ただ、その身体は心なしか細くなっていて
半袖の腕から見える腕には至る所に傷跡、そして見知らぬ右手だけのグローブ
「・・・レッドさん・・・・・・」
目の前の青年の名前を呼んだ。
それに対して青年は、こちらに視線を合わせて呼ばれたことに対する反応を求めている。
先程まで話していた、叫んでしまった、どうしても会いたかった人が目の前にいる・・・・・・
過剰な表現ではなく本当に涙がボロリと音を立てて、瞳から溢れて零れ落ちた
身体が震える。
涙が溢れて零れ落ちる。
嗚咽が襲ってきて、声を上げて泣きそうになる。
「ど、どうした?!」
突然大泣きをはじめたイエローに混乱するレッド。
あたふたしながらも、とりあえず泣いてるイエローの頭を撫で、涙を指で拭ってあげた。
その優しさも間違いなく彼だった・・・
「うっ・・・うっ・・・・・・レッドさん!!」
嗚咽交じりの声でレッドの名を呼ぶと
イエローはレッドの胸に飛び込んだ。
手に持っていたグラスは手からこぼれて、ガシャンと音を立てて割れる。
音が時を動かし始めた・・・・・・
実際に会ってみて、あの時のグリーンの質問の答えが出た。
自分でもどうなってしまうか解らなかったが、実際に目の前にしてみると
変な意地や、強がりは忘れてしまい、素直に自分のしたいことが出来た。
本当は平手打ちの一発くらい顔面に決めてやりたかったが、そんなことよりも
今、思うことは目の前の、いや、既に自分が掴んでいるシャツを着た青年に
単純に自分の傍に居て欲しいということだけだ。
それだけ、月日が長すぎた・・・・・・
自分だけの存在でいてほしい、もう、離れて欲しくない
悲しい思いをさせないで、苦しい思いをさせないで
優しい嘘はいらない、ただ、あなたが傍に居て欲しい・・・
(今だけ、今だけは、あなたの胸で泣かせてください・・・・・・)
思い出を振り切りにここに戻ってきたのに
現実にはこうやって思い出を振り切ることが出来ない。
元々、優しい男が“無”の冷酷な力を手にすることなど無理な話だったのか・・・
(オレは、どうすればいいんだ・・・・・・)
天を仰いで溢れ出る何かを必死に耐える
戸惑う心が、胸に寄りかかる存在への対処を躊躇わせている。
“無”の力を掴むために、今、この胸の存在を拒み故郷と思い出を捨てるのか
優しい自分は胸の存在を受け入れて、故郷と思い出を拒めず、中途半端な状態になるのか
彷徨う心に決断を・・・・・・
レッドはイエローの背中に腕を回して、優しく抱きしめた。
それを見守っていた仲間たちは、驚きから開放されてその光景にホッと胸を撫で下ろし、暖かな祝福の視線を送る。
しかし、実際はレッドのその腕はイエローを包んではいない
抱きしめる寸前で腕は止まり、プルプルと震えている。
(ここで・・・ここで、抱きしめたらオレは・・・・・・)
回していた腕を解放して(厳密には回していないが)、両手でイエローの小さな肩を掴み
レッドは・・・・・・
イエローの存在を拒んだ
伸ばしきられた腕の分だけ、2人に距離が出来る
イエローの涙が止まった。
こうなることは予想はしていたが、実際に起こってしまうと果てしない絶望を覚える。
それでもその理由を聞くために、瞳はレッドの黒い瞳を真っ直ぐに見つめた
「・・・一時の気の迷いで、抱きついていたらキリが無いよ。」
言葉を理解するのに少し時間が掛かった
そうではない、先程あなたに抱きついたこの想いは
傍にいない間に気付かされた大きな大きな想い
気付いてから今日に至るまで、消し去れないほどの忘れ去れないほどの深い想い。
レッドの言葉に口が反射的に動きそうになった。
「わたし・・・は・・・・・・」
裏切った。
信じきれなかった。
自分の想いに自信が持てなかった。
再び湧いてきた罪の意識が心と口を閉ざす。
この想いを口に出すなんて虫が良すぎると・・・
言葉は途切れて、文になることはなかった
直感的に感じ取ったイエローの変化に、先程の言葉が肯定であるとレッドは受け取った。
やはり、移ろいやすい女心だけある。
たが、その結末は自分がそうなるように仕向けたものだったので、嫉妬の感情は湧くことがない。
当初の予想通りの結末に、レッドは納得しかしない自分の心を冷酷だと思った。
大きな溜め息を吐くと、レッドは絶望の中にいるイエローを優しく抱きしめてあげた。
やっとレッドに包まれると、イエローはその身体を離さないように腰に腕を回してがっちりと抱きつく。
そして今度こそレッドの胸に顔をうずめて、自分の感情を再びアピールする
だが、レッドの抱きしめ方はまるで、泣いている子供をあやしているように思える。
それはレッドのイエローへの想いの変化の表れだ。
変化した想い、それは泣いている仲間への“慈悲”の心。
それは間違いなく、イエローが望んでいない感情である。
だが、元来鈍感なレッドがそれに気付かなかった・・・
それ以前に、そういう感情でイエローに接しないのには訳がある。
今ままでのレッドの暖かな愛情は、あの日あの時“彼女”と共に消滅していたのだ。
暖かな愛情は大切な人を守ることはできない弱い力であり、人を幸せにすることは出来ない。
そして何よりも、今、目の前に居る女性は“彼女”を超える存在では無い
厳しすぎる、悲しすぎる世界と社会と現実は
レッドの心を、打ち砕いていたのだ・・・・・・
イエローに“慈悲”の心で接しようとする自分は、この世に存在する何よりも冷たいと感じた。
だが、そういう感情が湧いてこないのが現実。
“無”の力を受け入れようとしている存在には、そういう感情は湧いてこないのかもしれない・・・
「・・・イエロー、約束してほしいことがあるんだ。」
この約束を一瞬で思いついた自分は、間違いなく冷酷。
だが、この冷酷が自分の力となるのならば、それは受け止めなければならないもの
何にせよ、何れは失わねばならない存在なのだから・・・・・・
「オレはイエローのことを愛する。お前の力になって、お前を守る存在になる」
力強い決意の言葉
男はこの言葉に“慈悲”の感情を込めていた
女はそれを、愛の言葉と理解した
その証拠に、女は抱きつく力を強めて身体で喜びを表現している。
想いのすれ違いがはじまっていた・・・・・・
「ただし・・・、イエローはオレに全く何もしないでくれ。いっそ、今のままで嫌いでいてくれて全然構わない。」
未来など存在しない自分に、何も与えないでくれ。
時間の無駄になってしまう。これ以上、イエローの時間を奪いたくない。
もう、大切な“仲間”を不幸にするのはたくさんだ・・・・・・
「オレは、この“制約”でイエローに贖罪をしたい。そしてもし“制約”が破られたら、オレは・・・マサラを去るよ。」
最後の一言に、イエローは全身が凍りつくような恐怖を覚えた。
あの耐え難い苦しみを味わうのも、苦悩の日々を送るのも、もう・・・・・・
「・・・わかりました・・・・・・」
先程の“制約”をイエローは深く考えなかった。
なぜなら、今得ている愛しい人のぬくもりと幸せをここで乗り越えることは出来ないからだ。
待ちに待っていたこのぬくもり・・・
それに包まれることが、イエローにとってどれだけ幸せなことかなど容易に想像がつく
この幸せを拒否して“制約”を拒めるほど、イエローは、いや、同じような境遇の人間は強く無い。
“今”得られる至高の幸せをその身体で感じる。
腰に手を回してギュッと抱きつき、胸に顔を埋めて抱きしめあう。
本当に離れたくない、一緒に居たいという想いだけがイエローを支配していた・・・・・・
この時はまだ、これから起こる“制約”の恐怖をまだイエローは知らなかった。
2人はイエローの涙が止まるまで抱きしめあい続けた
仲間たちと、星空はそれを優しく見守っていた
3年と7ヶ月ぶりに、イエローの心の夜は明けたのだ・・・
七夕の星空の下で抱きしめあう、帰ってきた男と待っていた女。
それを見守る仲間たちは、これを幸福な結末だと思っていた
だが、帰ってきた男の心は既に壊れていて
“無”の力を掴むために、女との間に“制約”を結んだ。
女への贖罪は仲間の姿を見ることができた彼の最後の心残り。
故にこれが達成されれば、故郷にいる意味は無くなる。
無論、破られた時はそのままだ。
男の考えと、心の状態に気付くものは今は誰もいない・・・・・・
“制約”の結末がどうであろうと、結果的には思い出を捨てる覚悟をした男。
“無”の力を手にしようとする彼を、誰も止めることはできないのだろうか?
己の破滅しか導かない“無”の力、未来など存在しない“無”の力。
詰将棋と化した生き方はきっと全ての希望を駆逐していくだろう
ただ、今、抱きしめた存在への想いが“慈悲”だとしても
きっと、きっと何かが彼を変えていく
これから得ていく全てのものが、いままで失った全てのものが
“これから”の答えを導き出していくことだろう。
もう一度始めよう、故郷での日々を
取り戻せ、失った全てを
そして目覚めよ、“本当の自分”
大いなる存在が示した“運命の絆”が歯車となって
新たな時を動かし始めた・・・・・・
Pocket monster special
Afterwards Story Chapter 2 〜空白編〜 終
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