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 最後の贖罪・・・その前に現れた存在・・・・・・。






PAS(red side) Phase.13 旅路の果てに −カントー地方にて−








カントー地方、セキチクシティ・・・青葉茂る5月のこと


「えーっと・・・確か・・・・・・」


困ったような声を上げて、襟を立てた黒いジャケットに白いシャツ、そしてジーパンの青年は

いつものスーツを鞄にしまって、新品同様のポケギアとにらめっこしている。

利き手と思われる右手で操作しているのだが、グローブをしているので少々、操作しずらそうだ。

これで何度目かのポケギアの買い替えになるだろうか、操作方法もよくわからなくなってきた。



旅をしているとこういった機器は容易く壊れる。

それが、ポケモンの攻撃であったり、水中へボチャンだったり、高い位置から落としたり・・・

様々な理由があるが、この青年はそれらの理由以上に別の理由がある。





ピリリリ、ピリリリ





初期設定状態のポケギアの着信音が鳴り響いた。


「もしもし」

「首領、あの・・・先日の件で・・・」


男からの電話に答えていく。


「詳細な情報はエッジが持っているから、そっちに聞いてみろ。」


威厳のある声で青年は応対する。


「了解しました!」


男のはきはきとした声を最後に通信は切られた。

そう、これがポケギア買い替えの大きな理由の一つ。

こういった通信が数分に一回は繰り返されている為に、ポケギアのバッテリー消費は激しく

消費→充電→消費・・・の繰り返しでバッテリーの寿命はどんどん縮む。

そうなってくると通話中に電池切れになることしばしば。

そんなこんなで、バッテリーを買い換えようとする頃には、最新型のポケギアも

発売されているので、ついつい新型を買ってしまう。

結果、冒頭のようなことになってしまうのだ。







 残党、いや、団員を導くと決めたあの日から早数ヶ月・・・

己の結論通りに、私生活を犠牲にして全てを仕事へと打ち込む日々。

その結果は予想通り自分の身体に表れてきているのがよくわかる


あきらかに前よりもやつれた身体。


寝ている暇もなくポケギアの着信音は鳴り響き、心休まる時はない。

協会の目を騙すために、仕事用のポケギアと団員とのポケギア2つを使いこなし

虚偽で協会の目を騙しながら、この数ヶ月は残党追撃を妨害してきた。

そうやって得たチャンスを、レッドは具体的にどう活用してきたのだろうか。

レッドはまず、四聖獣たちに部下達を分散、一度それぞれの実家へと帰らせた。

しかしそれでは公約通りとは言えない。社会復帰させることが公約なのだ。

そのためレッドは、他人のために頭を下げることを覚えた。

就職先や実家に住む親、恋人、家族に頭を下げて謝罪し続けた。

それが、人の上に立つということである。


皆のリーダーは“おいしい”存在ではなく、誰よりも辛い立場であるのだ。


また、社会の仕組みと理不尽をたくさん味わった。

元ロケット団という経歴はとても大きく、様々な場所で迫害される。

だがそれでも、レッドは頭を下げ続けてその誠意で人の心を動かし続けた・・・

いくら減ったとは言え、その数は膨大で、何人の人々に頭を下げて願い続けたかは解らない。

それを数ヶ月と言う期間でやっているのだから、自分の時間など存在はしないのだ。

今日もまた、頭を下げに行かなければならない。それが、統べる者の責務であるから・・・








何故レッドはカントー地方にいるのだろうか。

もう帰ることは無いと思っていたが、ロケット団という組織自体が

カントーで立ち上がったので団員たちは基本的にカントー出身者が多い。

必然的にカントー地方には立ち寄らねばならないのだ。

カントー地方に来たついでに、レッドには二つの考えがあった。

一つは今まで通りの、ジムリーダーへの贖罪。

これは必ず果たさなければならないことだ。

そしてもう一つは・・・・・・





ピリリリ、ピリリリ





少し暗い表情をしていたところに、再びポケギアの着信音が鳴り響く。

未だ終らない贖罪と謝罪の日々。

流石に細部にまで手が回らない時には、四聖獣たちに補佐してもらって何とかしているが

それでもこの忙しさは少しも晴れることは無い。

疲れきった身体で、ポケギアの応対を始めた・・・・・・











カントーの各ジムリーダーへの贖罪は、口止めも含めて何処よりも大変だった。

まず第一に、ブルーやイエローから相当話が回っているようで、出会ってそうそうに

連絡をしようとする者が多く、それを止めて事情を説明するのがとても大変だった。


(ちなみに、ヤマブキシティとクチバシティのジムリーダーは、サカキの行方を聞いてきたが)


次に大変だったのが、贖罪のつもりが逆に歓迎されてしまうパターン。

特にハナダとタマムシのジムリーダーは、ある程度の事情をブルーとイエローから聞いているようで

手厚い歓迎を受けてしまった(無論、歓迎は断るのだが)。

歓迎と雑談を何とか乗り越えてレッドが贖罪を始めると、容赦無く仕事や頼まれた。



花と草ポケモンの手入れ、船への搬送作業の手伝い、ポケモンたちのトレーニング相手から

ジムの掃除や、何故か知らないが1日デートまで・・・

そんな日々を送りながら、レッドはカントーのジムの大半を回った。

もちろん、トキワのグリーンの元には出向いていない。

ただグリーンの元へ出向くとなると、仲間たちと出会う可能性もある

まだ自分のなすべきことを終えていないし、第一に嘘をついた仲間たちに会うのは

あまり気が乗るものではない。しかも、その嘘はバレているようで・・・・・・

はぁ、と大きな溜め息を吐くと、もう一つの覚悟を一人考える。






自分の存在が与えてきた影響は、今身をもって味わっている。

これだけ多くの人間を惑わし、反社会的な道へと歩ませてしまった。

この大きすぎる影響力によって不幸が起こるというのならば

仲間思いのレッドならば必然的な結論が生まれる。

それが、カントーへと来たもう一つの覚悟、故郷を捨てることだった。

冷酷と思われるかもしれないが、自分の力を封じておくには

全てを捨て去って忘れられる以外の方法は無い。

元々、散すと決めた命である。戸惑いは無い。

そして、多くのトレーナーを牛耳っている協会の不穏な動きを考えても

迂闊に大切な人々がいる場所を巻き込むわけにはいかないのだ。




これ以上、仲間たちに迷惑をかけることは出来ない・・・




そんなことを考えながら、団員との通信を応対し、贖罪を行うのだ。

この日々が終わりを告げる日、即ち、トキワ以外のジム全てを回り終わる頃には

2ヶ月の月日が流れていた・・・・・・









時は少し戻って、梅雨の終わりの6月下旬・・・

最後の贖罪の地となったのは、火山島で有名なグレン島の麓の町グレンタウンのグレンジムだった。

グレンジムのジムリーダーのカツラが、贖罪の条件としてレッドに提示したのは

研究所の掃除と、町のトレーナーとのトレーニング、そして研究補助だったのだが

レッドはカツラにキメリアンの研究を頼み込んだ。

当初カツラは少々困惑気味だったが、レッドからの頼みとあり、快く返事をしてくれた。

キメリアンの研究に関しては、あくまでもミュウツーとの交流があったカツラだから頼むものであり

他の研究者や科学者たちに託すことは絶対に出来ないし、しようとも思わない。

何よりも、協会は一度、キメリアンをじっくりと研究している。

そしてその研究データはこちらに提示されたわけでも、他の研究者に流れたという情報も無い。

ある程度のデータは、ロケット団時代にキクコから提出されたレポートで知っているが

グレンタウン到着前に立ち寄ったふたご島で起きたあることをきっかけに

キメリアンはもう一度研究しなければならなくなった。



(“これから”の“鍵”・・・・・・)



レッドの心で呟かれた意味深な言葉

事の起こりは、グレンジム到着の数時間前にさかのぼる・・・・・・













真っ青な海と空の間を、プテの翼で気持ちよさそうに飛ぶレッド。

結構なスピードが出ているために、正面からの風に目をしっかりと開けることが出来ない。

それでも、海上で泳いでいる人や、海中バトルを楽しむトレーナーと

そのポケモンの姿は辛うじて見ることが出来る。

それからカーッと降り注ぐ夏の昼間の日差しが暑い。

また、その光の照り返しもキラキラと眩しい。

これもまた、目をしっかりと開けることの出来ない理由なのかもしれない。

夏男のレッドにとって何とも気持ちの良い景色で、開放感が溢れてくる

翼になってくれているプテも上機嫌で、時より楽しそうな声を上げる。


「おっ、あそこで一休みするかな。」


レッドが指差したところは、丁度目的地との中間地点に存在する島で、通称 ふたご島と呼ばれている。

この島もレッドにとっては思い出のある島で、伝説の鳥ポケモン フリ−ザーが暮らしている島だ。

フリーザーに久しぶりに会いたいなとフリーザーに面識があるレッドならではの思いだろう。

レッドがふたご島を指差すと、プテはふたご島を目指して降りていった・・・








ふたご島は夏の影響で草木が生い茂り、青々としていた。

カントーの南部、しかも海に囲まれての島では、珍しい植物が育ちやすい。

そんな自然の中にあった大きな石にレッドは腰掛けると

ポケモンたちをボールかあら開放してあげた。


「しばらくしたら戻ってこいよ。」


ピカとブイの頭を撫でてあげると2匹とニョロ、そしてプテはどこかへと(といっても島内だが)

遊びに行ってしまった。それを見届けてから、のっそりとゴンとフッシーが思い思いに動き出した。





ピリリリ、ピリリリ





一息つく間もなく、ポケギアの着信音が鳴り響いた。

レッドはとりあえず団員との応対を始め、その通信が切られる頃にあることを思い出した。


(キメリアンを、出してやってないな・・・)


通信が終了したので、レッドは懐に隠してあるキメリアンの入ったマスターボールを手に取った。












その瞬間、天から光の球が一つ降りてきた・・・・・・









「・・・・・・。」


普通、こういう現象に直面したら身構えるものだが、その存在から敵意を感じなかったので

ただレッドはポカーンとその光の球を見つめていた。すると、光の中に何かいることがわかる

レッドは目を凝らしてその存在を確認しようと思ったが

それよりも早く、光は薄れ始めて、中にいた存在がしっかりと目で確認できるようになった。






「・・・・・・ミュウ・・・・・・?」






体長40センチほどの小さなピンク色の身体が、宙に浮いている。

過去に遭遇したことがあるこの神秘的な存在の名をレッドが呟くと

ミュウから、唐突に思念波が脳内に直接送られてきた。俗に言うテレパシーだ。




(・・・因果を崩壊させてしまうその存在を、自然の代弁者である私が見逃すわけにはいかない・・・)




思念波でありながら、はっきりと伝わってくる“怒り”

唐突に怒りをぶつけられて、何が何だかわからない。そして、その言葉の意味も解せない。

ただ解ることは、その存在と言うのは、おそらく、今手に握っているマスターボールの中のキメリアンだということだ。

そこまでキメリアンの存在は自然にとって、そしてミュウにとって憎まれる存在なのだろうか



「ちょ、待てよ!! 何でだ!? コイツはもう、人を信用できる

一つのポケモンとしての命なんだ!! 自然にだって適合できるはずだ!!」



レッドが叫ぶと、ミュウは冷たい声で思念波を送る。




(・・・君がそうさせたのか。・・・ならば、君も見逃すわけにはいかないな・・・・・・)




“怒り”ではなく、“殺意”の込められた思念波に、ビクッと身体が震えた。

怒らせては、触れてはいけない領域の存在が怒っているのだ。これは本当にただごとではない



「・・・それが、お前の意思であろうと、自然の意思であろうと、オレは・・・

オレはコイツの苦しみも悲しみも背負うと決めた。だから、コイツの苦しみになる存在は

たとえミュウ、お前が相手であろうと、オレは仲間の為に戦う!!」



レッドがミュウを睨みつけると、マスターボールからキメリアンが姿を現した。

真夏の空の下、草木が青々と生い茂るふたご島で、一食触発の緊張した空気が張り詰めた・・・









(忘れないで欲しい。・・・君がそうやって守っているその存在は、“これから”の“鍵”なんだ・・・)





ミュウが思念波をレッドに送り、緊張した空気から解き放った。



「“これから”の“鍵”・・・」



ちんぷんかんぷんな言葉の羅列に、ただ、一番印象に残った言葉を、復唱することしか出来ない。

レッドはキメリアンのほうを向いて、問うような目でキメリアンを見つめたが

キメリアンもよくわかっていないようで、ミュウの言葉は理解できない。

全く意味不明な話に、レッドはミュウに問いかけようとしたが、その前にミュウの身体は再び光に包まれ

天高く飛翔すると、どこかへと消え去ってしまった・・・。








(でも・・・もしかしたら・・・・・・)



一人心の中でミュウは呟いた。

先程の結果が示すことから、いくつかの結論が生まれたようだ。




(あの存在が生まれ出たこと自体が・・・だとしたら、もう既に世界は・・・・・・)




光の球は天高い場所でフッと唐突に消えてしまった。








ふたご島に残されたレッドには疑問だけが残った。



「“これから”の“鍵”・・・・・・」



思い出されるのは、あの時のあの男のあの言葉



“これから”



そして、先程の話から考えてもキメリアンは“鍵”らしい。

それらの言葉を自分自身も、“鍵”自身であるキメリアンも全く意味不明

それでいて“鍵”は、自然界に存在してはいけない・・・

しばらく、レッドはボーっと考えていた。





ピリリリ、ピリリリ





そこへ、ポケギアの着信音が鳴り響いた。音が思考から現実へと意識を映させる。

団員の応対をし終わると、レッドは大声で自分のポケモンたちに戻ってくるように叫ぶと

しばらくして、手持ちたちが戻ってきた。


「・・・キメリアン、オレはお前のことをもっと知らなきゃダメみたいだな・・・。

そこで提案があるんだけど、目的地のジムで、お前のことを調べたいんだけど・・・いいかな?」


レッドはプテ以外の手持ちたちをボールへと戻しながら、キメリアンに問う



(・・・私は構いませんが、大丈夫なのですか?)


「大丈夫、信頼できる人だから。」



不安そうに聞き返してきたキメリアンを一言で説得すると、レッドはキメリアンをボールへと戻した。

そしてまた、プテに翼になってもらうと、夏の空に舞い上がった。


(一度、生体調査をした協会は・・・何か掴んでいるのか・・・・・・?)


より一層膨れ上がる、協会への不信感。

しかし、それをヘタに問いただしたところで、墓穴を掘ったらたまらない。

直接真実を問いただすよりも、自ら調べるしか方法は存在しない。

いくつもの疑問を抱えながらレッドはグレンタウン目指して飛んでいった・・・・・・



「・・・オレの手に負える・・・・のか・・・?」









それから時は流れ、7月7日。

贖罪として指定されていたことはあらかた片付けて

団員たちの社会復帰にポケギア片手に奮闘していた。

その日の午後にカツラに呼び出されて研究室へ行くと

渋い顔をしたカツラが、研究結果を話し始めた。

カツラの研究結果としては、確かに興味深い細胞や遺伝子配列をしているが

それ以上の追求は現代の技術では不可能という結論であった。


「力になることが出来ず・・・すまない。」

「いえ、カツラさんは十分協力してもらいました。頭を下げるのは俺です。」


カツラは何度も謝ってきたが、元はといえば無理を言わせたのは

自分であるのでその度にこちらも謝り続けた。

謎は深まるばかりだ・・・・・・










 研究結果を聞いて研究所を出る頃には、夕暮れ時になっていた。



夕日が町とレッドをオレンジ色に染める・・・・・・



「・・・夕日か・・・・・・」


海に消えていこうとしている暖かな丸に、静かに一人呟く。

その色を見ていたら、何故か解らないが切なさが湧いてきて、涙が流れ始めた。

思い出はとても力強く、そして優しく、人の心を包み込む。



「・・・ヘヘ・・・やっぱ、カントーはダメだな・・・・・・。」



涙を拭いながら、レッドは一人呟いた。

そして、ボールからプテを呼び出すと夕暮れの空へと舞い上がった。

ここ、グレンから北上すると、自分の故郷へと到着する。

到着する頃には丁度、夜だろう。 今の服装なら、そう簡単に見つかることは無い。



(思い出を超える力が必要なのか・・・・・・)



今、自分がやり遂げなければならないことと、“これから”の謎を解くには

今以上の力が必要になると、レッドは直感的に悟っていた。

全てを捨て去ることが出来れば、今の問題に全力で取り組める。



今の自分を乗り越える力があれば・・・・・・・




ただし、限界まで削った自分をこれ以上削ってしまえば、自分が自分でなくなってしまうだろう。


“究極の自己犠牲”その果てに待っているのは、“心と自我の崩壊”。


死による開放によってもたらされる幸せさえも否定しなければ、今以上の力は望めない。


“究極の自己犠牲”の行き着く先は、心無き存在。即ち、“無”の力。


既に自分を捨てない限り、単独で解決できる問題ではなくなってきているのだ。

右手がズキリと痛むが、今を越える力は間違いなく得ることができる。

大切な人々を傷つけずに済む、迷惑を掛けずに済む、もう誰も、悲しませずに済む。

何もかも失って、失うものが無ければ、それは間違いなく最強の力。

レッドは痛む右手で握りこぶしを作って、マサラに向かって飛びたった。





故郷にサヨナラするために・・・・・・










 力を渇望する青年が見出した力は、大きな矛盾を持った力だった。


だが、その矛盾を無視してでも青年は力が欲しかったのだ。


大切な人々守る力を得るために、自己を犠牲にする“究極の自己犠牲”。


そしてその果てに待つ最強の力“無”。


何もかも、心さえも無い人間が揮う力は、何よりも強力で冷酷な力。


歪み、傷ついた青年の心を癒すものは無く、青年の精神が途切れたときに


心の崩壊をもって“無”の力に覚醒するだろう。


夕日は沈み、暗闇に当たりは包まれる。


それはまるで青年の心のように、深い闇に包まれていく・・・・・・










だが、今日は、今日ならば、青年の心の闇に光を与えることが出来るのかもしれない。

天高く輝くいくつもの星たちが、いっそう美しく輝く今日は

星たちの川が天に流れるはずだから・・・









男は故郷を目指して夜空を駆ける・・・・・・









Wside endへ・・・