人とポケモンとの力の発現。今、次元を超えて・・・。
キメリアンは時間の狭間へ逃亡。
そして、それを追うレッド。
存在を否定された悲しみと苦しみが
キメリアンを暴走させる。
その悲しみ訳を知った時、
レッドはどんな決断を下すのか・・・・・・。
PAS 第27話 絆
時のはざま・・・・・・
かつて、「仮面の男事件」においてその存在が立証された空間のことである。
とあるポケモンの力を用いることによって介入し、“時渡り”を可能にする空間であり、
“にじいろのはね”、“ぎんいろのはね”、この2枚の羽根を持たざるものは、時のうねりによってその存在を抹消されてしまう。
という、特殊な次元空間である。
本来は前記したように、とあるポケモンの力を用いらなければ介入不可能であるが、
高められた強大な念の力が、空間を押し広げて時のはざまへの道(ゲート)を造り出してしまったようだ。
そして今、ゲートの先の時のはざまは悲劇の魔獣と同じく戸惑いの魔人の最終決戦の舞台となろうとしていた。
(ここが、時のはざま・・・・・・・。)
足をつけている感覚は無いのに、自由自在に動き回ることが出来る。水中にいるようで水中にいない。
何ともいえない不可思議な空間である。
キメリアンがその空間の不可思議に思考を奪われていると、そこへレッドが上からゲートを経由して降りてきた。
その時、空間がざわざわと動き始めて様々な場所から様々な音や映像が流れ始めてきた・・・・・・。
「ポケモンを捕まえたけりゃ、もっと弱らせてからボールを投げるもんだぜ。」
ちっちっち、と指を振っている非常に自信家という感じの赤い帽子をかぶった少年が映し出された。
それで終わりかと思えば、別の場所では
「・・・・・・何故、動かない?アタシの技量じゃ命令は聞けないって言うのかい?!」
一人騒ぐ老婆、キクコの姿が映し出される。
そういった過去の事がいくつもいくつも映し出され、流れていく。
その音や映像を無視しようとしても、否応無しに2つの情報は耳に眼に入ってくる。
一人のトレーナーと一匹のポケモンがそんな中、睨みあう。
(何故だ・・・?何故貴様はこの空間で生きていられる??)
「・・・そんなことはどうでもいい。キメリアン、お前が人を滅ぼすって言うなら、俺はお前を止める。」
レッドはボールを一つ取り出すと表情を険しくする。その表情は何か戸惑いを感じさせた。
(人間・・・私の行く道を再び阻むか・・・。だったら、この場で確実にケリをつけてやろう。)
キメリアンの身体が紐状にばらけると、再び形を構築していく。
(この空間ならどんなことをしようと大丈夫だ・・・。怨むなよ人間・・・塵一つ残しはしない・・・・・・。)
形成されていく大きな鉤爪のついた両足と両腕の砲塔。バーストフォルムへと形態が変化していく。
「・・・倒すのかオレは・・・?殺すのかオレは・・・?どっちだ・・・・・・。」
自然の摂理は人一倍理解しているので、種に関わる危機に対しては割り切ることは出来る。
だが元来ポケモンを愛してきたレッドは、ポケモンを殺めることにかなりの抵抗があった。
そして、何よりも否応無しに耳や眼に入ってくるキメリアンの過去が、より判断を鈍らせる。
「フェフェフェ・・・。そんな強がりをいくら言おうと無駄さ、フェフェフェ・・・。お前はポケモンである以上、主人の命令に絶対服従なんだよ!!
フェフェフェ、ボールに戻してしまえば、お前などいくらでも改造できるわ!!!フェーーフェフェフェ!!!」
キクコが高笑いをする姿と共に声が聞こえ始める。
「飼い犬に手をかまれるとはな・・・。」
悔しそうな表情をしたサカキの姿と共に声が聞こえる。この2つの映像以外にも、キメリアンの過去の情報がレッドの伝わっていく。
キクコとサカキ、どちらもキメリアンを利用し存在を認めない者たちだ。
(強大な力を無理やり植え込まれて、全ての権利を失って、終いには不良品という理由で始末される・・・・・・。)
そんな悲しい人生を考えてみる。それをたった一言、運命という言葉で片付けるにしては、あまりにも残酷すぎた。
もしも、自分がこの立場に立った時、どんな思いになるのか。どうされたらこの苦しみと悲しみは解放されるのか。
そんなことを考えているうちに、キメリアンは両腕の砲塔にエネルギーを集束しはじめた・・・。
(失せろ、“はかいこうせん”!!)
両腕の砲塔から全く別のタイミングで放たれる閃光は、レッドに向かって一直線に進む。
思考にふけっていたレッドは、その攻撃に対処することが出来なかった。
(・・・・・・ッ!!!しまった!!!)
レッドに閃光が直撃すると、そこへもう一撃の閃光が撃ち込まれた。
強烈な光が発生すると、レッドは光の中へと姿を消した・・・・・・。
大量の砂埃が辺りを包み、視界を完全に妨げている。
そんな砂埃の舞う中、聞こえるのは礫の落ちる音とかすかなうめき声。
動くものなど何もなく、ただあるのは砂埃だけである。
しばらく、その状態が続いたと思うと、何処からか大地を揺らす音と共に2つの動くものが影として現れた。
一つの影は人の影。もう一つの影は、怪獣のような大きな影をしている。
「フフフフフ・・・・・・ハハハハハハ!!!!!!」
静かだった砂埃の中で、男の笑い声が響き渡る。 その笑いは狂気の笑いのように聞こえた。
笑い声が止むと、海からの風が、砂埃を徐々に吹き飛ばしていく。
薄れた砂埃の間から辛うじて確認できる箇所を見ると、ここが、アサギシティであることがわかる。
いまだ、濃い砂埃で覆われている場所にはバトルタワーがあった場所である。
だが、そのバトルタワーを確認することは出来ない。
なぜなら、バトルタワーそのものが存在していないからだ。
バトルタワーの前では、ロケット団員が数百名以上とそのポケモン達。
そして、図鑑を持ちし者達と四天王及びチャンピョンのポケモン達が戦っていた。
そこへと地上5階建ての大型建造物が倒壊したのだ。下敷きになったものは少なくないだろう。
この狂気の行為をしたのは、ロケット団元首領 サカキ。
現時点で、彼は四天王全てと、図鑑を持ちし者を一人で倒したことになった。
この世界において、彼は今最も強い文字通り最強のトレーナーということになる。
(フン、後はもう一度キメリアンを造り出すか、レッドから奪うかだ・・・。どちらにしろ、私の計画は揺るぎはしない!!!)
瓦礫の山を前にしてサカキは、無言で顔を険しくさせて考え始めた。
しばらくすると、その結論が出たようでパチリと指を弾くと、ニドキングは瓦礫の山の中にもぐりこんで姿を消した。
一方。瓦礫の下では多くの人が力尽き、もしくは大ケガをしていた。
もしも、この瓦礫を綺麗に取り除くことが出来たら、そこに広がるのは悪夢の光景だろう。
眼も当てられないグロテスクな状態の者もいるだろうし、もはや原型が何か解らないほどのものもいるだろう。
そんな中でも、ポケモンとの結びつきが強い者達は辛うじて生き残っていた。
だが、ポケモンたちが変わりに大ケガが、もしくは息絶えてしまっているだろう。
そうやって、何とか生き残った者達の中にグリーンはいた。
ハッサムやゴルダック、そしてカイリキーに庇われてグリーンは何とか生きていた。
「・・・・・っ!! ここで・・・倒れるわけには・・・・・・。」
全身が激痛で動かすことができない上に、もともと、空気が少なく呼吸がしにくかったが、さらに強烈な圧迫感が呼吸を制限する。
間違いなくこの状態が長時間続けば、絶対にここで倒れることになってしまう。
そう思ったところで、何ら一切策も無く、ただ此処で終るのを待つしかないのだ。
正に万事休す。神の気まぐれでも起こらぬ限りここで倒れるだろう。 そう思うと、グリーンの瞳に、悔し涙が浮かんだ。
(結局・・・・・・、何も出来ないのか・・・・・・??)
涙が頬を伝うと、同時に嗚咽に襲われる。しかし、その嗚咽でさえも、強烈な圧迫によってかき消される。
(・・・何も出来ない・・・そんなことは無い・・・・・・お前は託したじゃないか、あの男に・・・・・・。)
突如、グリーンの頭に、過去に聞き覚えがあるような声が聞こえた。
(・・・安心しろ・・・必ず助かるさ・・・どんな形であれ・・・絶対助かる・・・・・・。)
非現実的だが、声は確かに聞こえている。何処からかはわからない、もしかしたら脳内から自然に発生したものかもしれない。
とにかく、聞こえた声に何か勇気付けられたグリーンは信じてみたくなった。
託した力と、謎の声を・・・・・・。
重量による圧迫が限界を迎える頃、グリーンの身体は急激に引っぱられた。
無理やり引っぱられているので全身のいたるところを強打する。
そして何時しかその強打が収まった頃、グリーンは砂埃の中で赤く輝く夕日の光を見た。
西を向いて寝転んだ状態になっているので、夕日が少しまぶしく感じた。
(・・・・・・奇跡か・・・・・・?)
現状を把握しきれないグリーン。そこへ接近する一人の男。その男は、寝転んでいるグリーンの胸倉を掴むと無理やりグリーンを起こした。
「フン、グリーン生きていたか・・・。どうだ、真の大地の極意ってヤツは??ためになったか??」
胸倉を掴む男サカキは、その一言をグリーンに吐き捨てると、グリーンをそのまま大地に投げ捨てた。
ふと、周りを見てみると、仲間達が全員ボロボロながらも無事でいることが解った。イエローにいたっては無傷だ。
現状から把握するに、どうやら助け出したのはサカキのようだ。その事実に驚くよりも、死を回避できた安心と感謝が心を占領していた。
「お前達を助け出したのは他でもない・・・。歴史の目撃者になってもらうためだ。」
サカキは、ボロボロになって倒れているグリーンたちに話し始めた。
「あのババアにも、レッドにも話していないプロジェクト最終段階、ディバイド計画・・・。欠陥品だったのが痛手だが、あの戦闘力だ、
そして、人間を憎む心は利用にしがいがある・・・・・・。」
ディバイド・・・・・・
かつて、サカキと対峙した時に戦ったことがある簡単に言ってしまえば量産型のポケモンのことである。
その時はデオキシスであったが、今回はそれをあのキメリアンで行おうというのだ。
戦闘経験のある者はその狂気に凍りついた。
「キメリアンと戦って傷ついたレッドなど秒殺出来る・・・。実際、オリジナルなど無くても何時だって計画は実行可能だ。
ただ、オリジナルが手に入れば手間が省けるからな。」
これから先起こる、狂気を打ち砕くためにはこの男をこの場で倒すしかない。
しかし、もう自分の意思で動かすことも出来ない状態の身体で何が出来るのか。
絶望とあきらめがグリーンたちを包んでいく・・・・・・。
(・・・託したんだろう・・・・・・。信じてやろう・・・。“戦う者”を!!!)
グリーンの脳裏に再びあの声が聞こえる。そして、その声に勇気付けられると、グリーンは出せるだけの大きな声で叫んだ。
「ブルー!!アイツに届けてやろう・・・俺たちの声を!!!」
同じくボロボロで倒れているブルーの耳にしっかりと聞こえた。
こんな状況を打破してくれるのはアイツしかいない・・・・・・。そんな思いが2人の中にあった。
もしも今、イエローに意識があったらイエローも同じように思うだろう。
裏切られても、傷つけられても、信じられる・・・・・・。最高の仲間だから。
信じてみて、裏切られたことは無い。本当に頼れる最高の親友だから。
今一度、信じてみる。きっと、いや、間違いなくアイツなら全てにケリをつけられる。
だから、呼ぼう、アイツの名前を・・・。
「「レッド!!!」」
グリーンとブルーの声が重なると、その声は響き渡った。
(“バリアー”か・・・。主人を守るために自ら姿を現すとはな・・・・・・。)
直撃したかと思われていた閃光は、ミュウツーの“バリアー”によって無効化されていた。
球状の念の壁の中でレッドは、力強く眼を閉じている。どうやら、ミュウツーの存在に気がついていないようだ。
しばらくして、恐る恐る眼を開けてみて見えた光景にレッドは非常に驚いていた。
自分の全身を両手で触って無傷であることにホッと安心すると、後頭部を描きながら照れくさそうにミュウツーに頭を下げる。
(私はそうはならない・・・・・・。絶対人間はこの手で滅ぼす!!!)
キメリアンは再び両腕の砲塔にエネルギーを集束しはじめた。その間にレッドとミュウツーは、例の同調を始める。
「いくぞっ!!!」
(お前を倒して、私は人類を根絶する!!!)
“バリアー”を展開したまま、キメリアンへと接近するレッドとミュウツー。それに対して、容赦なくキメリアンは“はかいこうせん”を放つ。
ミュウツーはその攻撃に対して全力で“バリアー”を張る。そして、その攻撃を捌くと再びキメリアンに接近する。
再び接近していくレッドとミュウツーの周りに、キメリアンの過去の映像と音が流れている・・・。
「あきらめろ。」
映し出されたサカキの姿と言葉にミュウツーは憎悪を覚えた。そのミュウツーの変化にレッドは再び戸惑う。
そんなことを知るはずが無いキメリアンは、容赦なく攻撃を続行する。今度は、“せいなるほのお”と“エアロブラスト”の複合技だ。
放たれた劫火と空気弾が混ざり合い強烈な爆風を巻き起こした。その一撃にレッドとミュウツーは吹き飛ばされる。
辛うじてダメージは無いが、せっかく詰めた距離が無駄になってしまった。
(休む暇など与えない・・・。ここで消し去る!!!)
“はかいこうせん”と違い、エネルギーの集束がほとんど無い。よって、この攻撃が始まると終ることの無い連射、連射、連射。
体勢を立て直す暇は与えられない。無論、ミュウツーによるカウンターなどもってのほかだ。
この攻撃を防ぎ続けるミュウツーの“バリアー”はレッドとミュウツーの生命線である。
だが、そんな八方塞の状態から見事に起死回生するのがレッドの戦い方である。
どんな時もあきらめない、真っ直ぐに立ち向かう。この純粋な考えが、強烈且つ戦略的な攻撃を生み出すのだ。
レッドはキメリアンの攻撃の中、ニヤリと笑みを浮かべるとミュウツーに前進を命じる。
(無駄だぁ!!!)
再び放たれる複合技はレッドとミュウツーを直接狙った。
しかし、その攻撃を上へと回避すると自分達の後方で発生した爆風が追い風となって、ミュウツーとレッドは一気に距離を詰める。
(終りだ、人間!!!!!)
キメリアンは渾身の一撃を放った。通常以上に巨大化した火球に莫大な量の空気が交じり合った。
猛烈な爆風がレッドとミュウツーを襲った。
(“バリアー”を展開しようとこの一撃は防ぎきれないだろう・・・・・・。丸焼きだ・・・・・・。)
勝利を確信したキメリアンの正面に、また過去の映像と音声が流れ始めた。
「作られた命でも、人間と仲良くしちゃいけないはずないでしょ。」
ボロボロの姿なのに、瞳を活き活きと輝かせている少年の姿が映し出されていた。
どこか、あの人間に似ているような気がした。
その言葉と少年の瞳に、キメリアンは初めて人を根絶するという事に戸惑いを覚えた。
(・・・・・・私の過去だ。コイツとその仲間たちと出会い、私は今こうして生きている。)
キメリアンの目の前にスプーンをもったミュウツーが立っている。スプーンは大きく振りかぶられており、今にも一撃を放とうとしている。
(あの一撃を?!一体どうやって?!!)
振りかぶられたスプーンを思い切り振り落としてキメリアンの脳天に一撃を加えると、片手でキメリアンの顔面を掴む。
(・・・信じてみないか?人間を・・・!!!)
顔面を掴んでいる手から強烈な念を放ってキメリアンを吹き飛ばすと、その場で身体を固定させる。
すると、はるか上のほうであの人間の声が聞こえた。
「いっけー!!ゴン、“メガトンキック”!!!」
身体を動かすことの出来ないキメリアンの元へと、上から巨体がものすごい加速で蹴りの姿勢を維持したまま落ちてくる。
(・・・・・・!!!)
身体は足の部分に完璧に直撃。ゴンと共に、はるか下のほうへと飛んでいってしまった。
レッドはプテと共にミュウツーの元へと降りてくると、息を整えた。
(爆風を発生させるために、射線上に別の“バリアー”を展開・・・。直撃と同時に、私は“バリアー”の状態で爆風に飛ばされる。
レッドは発生した爆風をプテの翼で受けて一気に上昇。そして、はるか上からゴンによる加速をつけた一撃を加えるために、
爆風で飛ばされた私が、キメリアンの動きを封じる。・・・・・・短時間の間に、此処までの策を練るとは恐ろしい。)
ミュウツーがレッドの行動に感心していると、ゴンが吹き飛ばされて戻ってきた。
(アイツも、此処まで粘るとは・・・・・・。)
キメリアンはバーストフォルムは解除されていたが、レインボーボディを発動させていた。
そして、ミュウツーとレッドの前に戻る頃には全身が黒メインの色になっていた。色から推測するに、「悪」タイプへと姿を変えたのだろう。
(「悪」タイプという事は、私を敵と認識しているようだな。)
ミュウツーが戦闘姿勢をとると、レッドはミュウツーを制止させる。
「お前でもこのタイプはかなり厳しい。ここは総攻撃だ。」
レッドはゴンをボールに戻すと、残り全てのポケモンを解放した。
フシギバナ、リザードン、カメックス・・・。親友から託されたポケモン達もふくまれている。
プテとミュウツーは戦闘姿勢をとると、3匹も同じく戦闘姿勢をとった。
(私は人間の力を見くびっていたようだ・・・。もう、ポケモンの相手はよそう・・・。お前をこの場で殺す。)
キメリアンは先ほどのダメージを感じさせないような機敏な動きでレッドに一気に近づくと、右腕を変化させて大きな口を作り出した。
その行動を止めようと、解放されているポケモン達がキメリアンの動きを止めようとしたが見事に全て振り払われた。
(もらった!!“かみくだく”!!!)
右腕の大きな口に鋭い歯が作り出されると、そのままレッドの左肩に噛み付いた。
鈍い音と共にレッドの左肩の骨が砕ける音が聞こえた。レッドは激痛を歯を食いしばって耐えると、キメリアンと眼を合わせる。
「お前の苦しみは解る・・・・・・。だからって、人間全てを否定するのは間違えているだろう・・・。」
レッドの左肩からは鮮血が溢れ出し、腕を伝って血が滴り落ちる。
(この世に人間など不必要だ・・・。命を弄び、憎しみ合い、醜い感情の塊となる人間など・・・。)
レッドの脳に送り込まれた思念波を聞いた瞬間、レッドは表情を怒りの表情に変えた。
「そんな、建前みたいな理由は要らないんだよ!!お前の本当の思いは、利用された悔しさと、憎しみなんだろう??」
レッドは表情を変えずに、キメリアンに怒鳴りつける。
「お前はただ、その憎しみや悔しさの捌け口を人間に向けただけだろう?!この空間に逃げたのは、自分よりも強者が現れたから逃げたんだろう??
こうやって、兵器になるべく宿命を振り切れる程の力があるのに、何故それを弱い存在に向ける?? 力はな、自分よりも弱い存在に揮うためにあるんじゃない。
自分より弱き存在を守るためにあるんだ!!!」
(お前に何が解る?! 無理矢理、力を植え込まれ、兵器と呼ばれて利用される。生きることも許されない恐怖が、お前に解るのか!!!)
レッドの左肩に噛み付いてるキメリアンの右腕の力がさらに強くなる。メキメキと再び音がし始める。
「お前一人が悲劇の存在だと思うな!!お前と同じような境遇の人間もポケモンもいくらでもいるんだよ!!!」
レッドの背後に、レッドの過去が流れ出す。そこには、ブルーやシルバー、ミュウツー、ルギア・・・・・・・。
多くのトレーナーと多くのポケモンたちが映し出される。
「皆、逃げない・・・。辛いことがあったら泣く時もあるけど、運命に立ち向かっていく・・・!!」
レッドの言葉を否定するために、キメリアンは左腕も大きな口に変化させる。そしてレッドに頭を噛み砕こうとした瞬間、
ミュウツーがスプーンで左腕を“たたきつける”と、フシギバナのフッシーが蔓で右腕をレッドから引き剥がそうと引っぱる。
その動きの呼応して、リザードンは自分の拳に炎を宿すと、“ほのおのパンチ”を、カメックスのカメちゃんは、“メガトンパンチ”を
それぞれキメリアンに放つと、キメリアンの力は抜けて、蔓によって右腕は引き剥がされた。
止めにプテが“げんしのちから”を放つと、キメリアンは大きく吹き飛ばされた。
レッドはその場に蹲ると、苦しそうな呼吸をする。その様子にポケモンたちが心配そうに見つめる。
「ヘヘ、・・・・・・そうか。傷ついてみてやっと解った。・・・・・・見せてやればいいんだ。 ・・・ポケモンと人間の可能性を!!」
「「レッド!!!」」
繋がるはずがない世界のはずなのに。何処からか声が聞こえた。友情という名の絆がレッドに力を与えたのだろうか。
(・・・・・・こんなに離れているのにな。)
レッドは眼を閉じると、2人の存在を力強く感じた。
(「・・・お前が居たから出会えた人がいて、今の自分がいる。」)
(「アンタが教えてあげなさい!!)」
レッドは蹲りながらも、ニィッと笑みを浮かべると立ち上がった。
その様子に、自然と3匹のポケモンがキメリアンの方を向いた。
「カメちゃん、“ハイドロカノン”!!!」
「リザードン、“ブラストバーン”!!!」
「フッシー、“ハードプラント”!!!」
それぞれの主人の声が、ポケモンたちに聞こえると、ポケモンたちは全ての力を解放して強烈な一撃を放つ。
「「「三つの力を、今一つに!! “トリニティ・フルバースト” いっっっけぇぇぇぇぇぇーーーーーーーー!!!!!」」」
放たれたそれぞれの一撃が、一つの閃光となってキメリアンを襲う。閃光は白く光り輝くと空間を振動させる。
キメリアンは立ち上がっている最中だったので、防御は間に合わない。
三つの力の合成に、キメリアンのレインボーボディは完全に戸惑った。絶対有利な形態が存在しないのだ。
いや、正確には、存在しない属性による攻撃だったので、レインボーボディは変化できなかった。
(・・・!!人間が、此処までポケモンの力を引き出させるというのか!!!)
直撃寸前で、キメリアンはゲートを造って通常空間へと逃れた。それを確認するとレッドはポケモン達をボールに戻すと
再びプテを呼び出して、プテと共に開かれたゲートへと“こうそくいどう”する。
ゲートを展開後、ゲートから落ちて、キメリアンは大地に叩きつけられた。ゲートは空高く造られたようだ。
キメリアンが立ち上がると同時に、レッドがプテラと共にゲートから飛び出してきた。飛び出すと同時にゲートは閉じられた。
「行くぜっ!!!うおおぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!」
レッドは叫びながらプテと共に、キメリアンに向けて垂直にそして一直線に突っ込んでいく。
(私は・・・、私は・・・、負けはしない!!! )
キメリアン本人の混乱と先ほどの現象によって、身体の細胞が非常に不安定になっていた。腕の色が緑色の変わったり、足の色が赤になったりしている。
とにかくキメリアンはレッドの方を向くと左腕を変化させる。そして、その腕をレッドに向けた。
(“ニードルアーム”!!!)
キメリアンの腕から5本ほどの太く、長い針が伸びて、レッドの左肩を貫いた。
貫く瞬間、ブツリと筋繊維を引き裂いていく惨い音がレッドにはしっかりと聞こえた。貫かれた針は、プテの翼も貫く。
「ぐあああぁぁぁ!!!」
傷口を再び攻撃されるという、想像を絶する激痛に大声を上げるレッド。全身は痙攣し、眼を見開いたので、瞳の黒目が小さくなったように見える。
加速のスピードと、重力、そしてプテを含めた自身の重さが加わって、針が深く食い込んでいく。
(これで、これで・・・終わりだぁ!!!)
戸惑いと悲しみがの思念波がレッドに届く。それと同時に心臓に向けて右腕を向けた。右腕も左腕と同じく針に変化する。
心臓に向かっていく針を、プテが“はかいこうせん”で焼き払っていく。
レッドは右腕でボールを掴むと、そこからミュウツーを呼び出した。ミュウツーは真っ直ぐキメリアンの元へと降りていくと
強烈な“サイコキネシス”を放った。キメリアンの身体は軋み、針となっていた細胞は壊死した。
レッドがプテと共に降りてくる頃には、キメリアンの戦闘能力は何も無かった。
(私は結局、殺される運命だったのか・・・。誰とも分かり合うことなく、一人で死んでいくのか・・・・・・。)
悲しい声がレッドの脳に響いた。その声を聞いたレッドは肩の痛みを忘れてキメリアンをただ抱きしめた。
キメリアンは抱きしめられた瞬間、戸惑ったがレッドの温もりを、いや、人間の温もりを初めて感じて、その温かさに心を許していた。
「大丈夫、大丈夫だから・・・・・・。お前の苦しみと悲しみは、オレも、オレも背負うから・・・・・・。」
(・・・・・・。)
「だから、安心してくれ・・・。・・・・・・お前は一人ぼっちじゃない・・・・・・。」
(・・・・・・信じていいのか・・・?)
「・・・裏切るようなことがあれば、お前がオレを殺せばいい。」
キメリアンは静かにレッドから離れると、その場で静かに動きを止めた。
レッドはコクリと頷くと、胸からマスターボールを取り出した。
「このボールに入ったら、お前とオレは仲間っていう絆で結ばれる・・・。もう一人じゃないだろ?」
レッドは優しい笑みを浮かべると、マスターボールをキメリアンに投げた。
キメリアンは何の抵抗もせず、そのままボールの中に納まった。
(・・・・・・今一度、人という存在を信じよう・・・・・・。人とポケモンの新たな可能性をもったこの男・・・。いや、レッド・・・・・・。
“仲間”をな・・・・・・。)
第28話へ・・・