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 女神の起こした奇跡・・・・・・、動きはじめる時間・・・・・・!!




魔獣暴走・・・。

そして散華した命を前に、何も出来ないイエロー・・・。

誰も、止めることも、救うこともできず

絶望の中で果てていく・・・。

禁忌の力へ触れた人への罰か、運命か・・・。

しかし、あきらめたら全てが終る。

あきらめないこと、それが、希望への道標。











今、究極の奇跡の時が訪れる・・・・・・。













 PAS 第25話 そして、勇者は舞い降りた

















鮮血の泉は枯れることなく、ひたすら赤い湧き水を生み出し続ける。

血の色と同じ名前の青年は赤い湧き水の源となって泉を広げる。

いつしか、立ち尽くしていた女性の靴は赤く染まる。その色に比例して女性の顔は青白くなっていく・・・。




震えだす身体、過呼吸、見開く眼・・・・・・、イエローはショック症状に陥っていた。

この状態が長く続くと人間は気絶、激しい動悸が発生している場合は心臓麻痺で死んでしまうこともある。

目の前の現実があまりにも酷すぎた。この現実をそのまま受け入れるのにはイエローには時間がかかるだろう。

イエローは眼を力強く瞑って、全ての現実を否定する。 耳を塞ぎ口を閉じて頭を振って逃避する。




(私は・・・、私は・・・、私は・・・・・・。)




自分を見失い、ただ錯乱するイエロー。もう、何もかも訳がわからなかった。




(私は、レッドさんを・・・・・・。)



























 暖かい風が吹き抜けると、香るのは土のにおいと、新緑の青いにおい。

どこまでも広がっている草原。そして、ところどころで戯れるポケモンたち・・・。

10人中9人は間違いなく口をそろえて言うだろう、穏やかな気分になる風景だ。と

まさに、“のどか”という言葉がピッタリな場所だ。




その草原の真ん中ぐらいで、寝そべって空を見つめる青年の姿が確認できる。

青年の周囲には、ピカチュウ、フシギバナ、カビゴン、エーフィ・・・と様々なポケモンが居る。

そのポケモンたちも、各々、眠っていたり、草原を駆け回っていたりと好き勝手している。

青年のいる場所へ、視点は近づいていく。そして、視点は青年を捉える。

黒い半そでのTシャツにジーパンと非常にラフな格好で青年は両手を頭の後で組んで寝そべっている。

この視線に気がついていないのか、青年はただ真っ直ぐ空を見ている。

視線は青年に釘付けとなった。しばらくその状態が続くと、一匹のピカチュウが視線の主に気がついて駆け寄ってくる。

そのピカチュウの反応で初めて青年は視線に気がついて視線の主のほうを向く。

視線の主を確認すると、青年は・・・。











笑顔になった。










とびっきりの笑顔とか、満面の笑みと言う訳ではないが暖かくて、優しい笑顔だった。

全てを包んでくれそうな、受け止めてくれそうな、そんな笑顔だ。

青年は上体だけを起こして、視線の主に言葉をかけようと口を開いた。





「・・・・・・」





笑顔のままで何かをしゃべっているのだが、それが何か聞き取ることが出来ない。いや、聞こえない。

次第に、見えていた青年やポケモン達の姿も暗闇に包まれて見えなくなった。

全体を暗黒に包まれると、究極の孤独が襲ってきた。

狂ってしまいそうな感覚に襲われる。すでに、狂っているのかもしれない。

たった一人、暗闇の中で何も聞こえず。 そして、何もかも解らず。 

ただ、襲い来る恐怖と不安が全てを曇らせた。

不意に何か暖かいものが腕を掴んだ。そして、何かコトバのようなものが聞こえてくる。










「・・・・・・ロー、イエ・・・・・・、イエロー・・・・・・。」





かすかに聞こえる声が、一筋の光明となって暗闇を照らし出した。

光明の先を見つめようと、イエローは眼を開いた。






(・・・・・・・レッドさ・・・・・・ん・・・)







 建物自体が激しい振動に襲われている。地下で“じしん”が放たれたか、大地をも揺るがす激しいバトルが繰り広げられているのだろう。

そんな中、レッドはイエローの両腕にしがみついて苦痛の声を上げながらよろよろと立ち上がった。

無論、腹部からは血が流れておりその勢いが止まる様子は無い。呼吸の様子からも限界を迎えていることがわかる。


「イエロー・・・・・・、頼みごと・・・がある・・・。聞いて・・・くれ・・・る?」


両腕を引っぱってイエローの耳を塞ぐ、イエローの手を下げさせて優しい声で話しかける。


「嫌・・・・・・嫌、・・・嫌です・・・。聞きたく・・・・・・ない・・・。」


涙を両方の瞳から、止めどない湧き水のように溢れさせてイエローは必死に拒む。この願いを聞いたら、おそらく本当に最後になると解っているからだ。



「・・・・・・今、地下で・・・キメリアンっていう「嫌!!!ダメ!!!ダメです!!!」



レッドの言葉を遮ってイエローは大きな声で泣き叫ぶ。レッドも少しヤケになって、イエローと顔を向かい合わせて真剣な表情でイエローを見つめる。



「・・・イエロー、ちゃんと聞いてくれ・・・「いつもそうです!!!」



再び、レッドの言葉はイエローによって阻まれる。レッドも流石に困った顔を浮かべた。




「・・・いつも、・・・いつもそうです・・・。大事なコトや大変なコト・・・・・・全部、全部一人で背負って・・・・・・。


何にも相談してくれなくて・・・、・・・・・・傍に居る意味なんて無いって思うとき、・・・・・・そんなことはないって慰めてくれて。


・・・些細なことをお願いする時は、・・・・・・私の性格を誰よりも解っているから、・・・ワガママ押し通して。


私はいつもやられっぱなしで、・・・・・・ちょっと悔しいな、なんて思うこともあるけど・・・・・・・それも嬉しくて・・・・・・。」




泣き声で、嗚咽の混じった悲しい声がレッドの胸に突き刺さる。イエローは溢れ出る涙を拭うことなく、真っ直ぐに見つめてくるレッドの視線を真っ直ぐ見た。


「断れないのを解ってて・・・、頼みごととか・・・ずるい・・・ずるいです・・・・・・。」


レッドは目の前の存在を包み込もうと、両手をイエローの細い腕から離して抱きしめようとした。 が、

身体的にも、精神的にも、もうすでに限界をとっくに超越して・・・・・・無理だった。

力なくイエローに倒れこむと、そのままイエローの身体を伝って鮮血の湖に身体を投げた。伝わったイエローの服には真っ赤な血が付着する。


「・・・・・・レッドさん!!!」


イエローは鮮血の湖に座り込んでレッドの頭を持ち上げて抱きしめる。その抱きしめる腕にも血が付着して白い肌を赤く染める。


(レッドさんをいかせない・・・・・・・どこにも・・・・・・・!!!)


大粒の涙が次々と瞳から零れ落ちてレッドの頭を濡らす。その涙に力を得たのだろうか、レッドは最後の気力で話し出した。



「・・・・・・・いいか、今、キメリアンっていう・・・・特殊なポケモンが地下にいる・・・・・・。アイツは単体でも相当な戦闘能力があるはずなんだ。

・・・だけど、真の目的が達成される前に・・・、アイツを楽にしてやってほしい・・・・・・。」



イエローは首を振ってレッドの言葉を聴きたくないとアピールするが、泣き叫んだりせず、結果的に話を聞いている。

レッドはそれが始めから解っていたのだろう、気にせず話を続ける。


「・・・・・・アイツの特性は、“レインボーボディ”・・・。対戦相手のポケモンに合わせて・・・・・・タイプ的に優位に立つように・・・

身体の細胞を変化させて・・・自分のタイプを変化させる・・・。2つのタイプを持つことは無い・・・。そして、なったタイプの技を自由自在に使える・・・。

通常に戦闘しては・・・常に弱点をつかれてしまう・・・・・・。そこでだ・・・・・・。」


レッドの声は徐々に小さくなっていく。その声が消えてしまいそうになると、イエローはレッドを力強く抱きしめた。


「フッシーに・・・・・・、“
ハードプラント”の応用技を教えてある・・・・・・。弱点をつく形態の弱点をつくんだ・・・・・・。」


それを言い終えると、レッドはガクリと全身の力を抜いた。いや、抜けてしまった。

一気にイエローの顔が青ざめた。その直後、イエローはレッドを抱きしめる腕の力を思い切り強くした。

涙がひたすら溢れる。いつしか、揺れも収まって静まり返っている。部屋に響くのはイエローの嗚咽だけだ。



「・・・・・・イエローに抱きしめられて逝けるなら・・・・・・、悪く・・・・・・ないかもな・・・・・・」



レッドはそういい残すと、再び全身から全ての力を抜いた。いや、抜けたのだろう。



「・・・レッドさん・・・?? ・・・・・・冗談止めてください・・・。 こういう冗談、私嫌いです・・・・・・。」



返答は返ってこなかった。




















イエローは目の前が真っ暗になった・・・・・・。
































 闇、絶対的な闇。その中はまるで水の中にいるような感覚だ。


全ての感覚が無くなってぼんやりとしている。


見えているのか、聞こえているのか、動いているのか・・・・・・。


何も感じることが出来ない。なにより、自分の存在でさえも解らない。 何も解らない。



「・・・・・・思ったこと無い?? この力で人を癒すことができたらって・・・・・・。」



全ての方向から声が聞こえている。聞こえた声から女性の声らしいことがわかる。


言葉を返したかったが、全ての感覚が無いので何も出来ない。



「・・・・・・此処は、精神世界・・・・・・。アナタの全て・・・・・・。アナタを構築するココロ・・・・・・。」



不可思議な言葉が全ての方向から聞こえる。とてもではないが理解することなどできない。



「・・・・・・私は、アナタの力・・・・・・。言葉を借りれば“癒す者”の始祖・・・・・・。脈々と受け継がれてきた、血の主・・・・・・。」



先ほどから、自分が思考したこと全てが返答されていることに気がついた。



「・・・・・・そう、此処はアナタのココロの最深部・・・・・・。言葉なんて要らない、だって聞こえるから・・・・・・。」



予想どうり、思考したことが全て返答されていた。どうやら本当に此処はココロの中のようだ。



「・・・・・・人を癒したいと思ったことは無い?? 心身両方とも・・・・・・。」




長年憧れてきたことの一つである。 傷つくポケモンを癒すことは出来ても、傷つく人を癒すことは出来ないことに何度も不便を感じた。


だが、人を癒すというのは禁断の力と言ってもいいだろう。人と言える存在が足を踏み入れてはいけない領域だ。


自然の摂理に反し、散っていった魂への冒涜・・・・・・。 理想と現実が全く反対の答えを導くと、答えは出ることは無い。




「・・・・・・でも、アナタが腕で抱いている最愛の人は・・・・・・。もう、この世のものではなくなるわ・・・・・・。」



初めて、暗黒に閉ざされてい空間に一人の男性の姿が現れる。男性は眼を閉じて、空間中を漂う。


良く見れば、自分の良く知っいる人物である。



「・・・・・・まだ、遅くは無いわ・・・・・・。 彼にはまだ、生気が辛うじて残っている・・・・・・。」



だからといって、どうすればいいのか。自分には救う方法など無い。あるのは、彼への想いだけ。


想いで人は救えた。 しかし、想いで人を蘇生させることなど絶対不可能である。



「・・・・・・アナタは、想いを発現する力を私から受け継いだ一人・・・・・・。大切な存在を守る力を受け継いだ一人・・・・・・。」



いくら、そんなことを言われようと出来ないものは出来ない。 この力は人を癒す力では無いのだから。


第一に過去にそんな話を聞いた覚えが無い。 瀕死の人間を蘇生させたなど・・・・・・。



「・・・・・・事例が無ければ、アナタが事例になればいいんじゃないの・・・・・・。それとも、あきらめる・・・・・・?」





“あきらめる”、この言葉を聞いた瞬間、空間が大きく揺らぎだした。 強い否定。それだけは嫌だった。





「・・・・・・このまま楽にしてあげるか、呼び戻すかはアナタ次第・・・・・・。どうする・・・・・・?」





理想を取るなら文句なしで、呼び戻すに決まっている。 だが、そんなことが本当に可能なのか、そして許される事なのかと現実が阻む。

























「・・・・・・この力は大きな代償を伴うわ・・・・・・。覚悟できる・・・・・・?」























 タワーの外では大きな光の柱が発生していた。その光に巻き込まれ消滅したポケモンもいたようだ。


(・・・・・・レッドさん・・・・・・。)


もう、ほとんど生気を感じることの出来ないレッド。イエローはそんな彼の顔を自分のほうに向けると












静かに、そして愛しく、口付けを交わした・・・・・・。













そして、静かに瞳を閉じると再び、あの暗黒の世界が出現する。



「・・・・・・此処が、彼の世界・・・・・・。まずは、彼を探してあげて・・・・・・。」



あの女性の声が再び聞こえだした。その声にしたがって探そうとするが、元より全ての感覚が無いに等しい世界で探すことなど不可能だ。




「・・・・・・五感じゃ彼を探すことなんて不可能よ・・・・・・。もっと、感じてあげて。彼の存在を・・・・・・。」




いきなりこんなことを言われても不可能な話だ。しかも感覚の話である、感覚ほど曖昧なものは無いだろう。


だが、こんなことであきらめるわけにはいかない。あきらめることが、希望への道標を見失うことだから・・・。




全ての感覚が無効と言うならば、全ての感覚など無くなればいい・・・・・・・。


五感への集中を捨て去り、たった一つ彼への想いだけを信じる。 それ以外、何もいらない・・・・・・。




(・・・・・・私の力で成しえなかった事を、この子はやろうとしているんだ・・・・・・・。ずるいな・・・・・・・。)




突如、暗黒の世界が薄れ始めた。暗黒が薄れるではなく、世界そのものが薄れてきた。


どうやら、彼の精神そのものが崩壊しようとしているようだ。




「・・・・・・時間が無い・・・・・・。早く、見つけてあげて・・・・・・。」




急かされる言葉に、集中が解かれる。 解かれた集中では彼を見つけることなどでき無い。


焦りと、もどかしさが集中を阻む。 その間にもどんどん世界は薄れていく。


暗黒の黒はいつしか、白くなっていた。




























 どこかで見た風景が、突如、白い世界を色づけた。 


草原の緑と、青空の青。金色に輝く太陽と、水晶の様に透き通るせせらぎ、そしてせせらぎを輝かせる銀色の照り返し。


さらに多くのポケモンが、自分達の色で世界に更なる彩を加えた。 その世界の中心で寝そべる一人の青年。


青年は眼を瞑って両腕を頭の後で組んで眠っているようだ。青年の周りには、青年のポケモンと思われるポケモンたちが、


各々、眠ったり、駆け回ったりしている。





「・・・レッドさん、見つかった・・・・・・・。」


いつしか、その世界に存在していたイエローは寝そべる青年、レッドの元へと駆け寄った。



「・・・!!!あの姿・・・・・・・、まさか・・・・・・?!」



あの声の主の女性は、レッドの姿を何処からか見たようでレッドの容姿に驚愕していた。


「・・・レッドさん!!レッドさん!!!」


眠り続けるレッドに、イエローは声を掛ける。声だけで反応が無いと解ると、揺さぶったり、頬を叩いてみたりした。

そんなことをしていると、レッドのポケモンたちがイエローを取り囲んだ。



(もう、レッドは起きないよ。)



(仲間達に囲まれて、幸せなんだ。このままにしてあげよう。)



ポケモンたちの意思が、イエローのココロに直接響く。その声を聞いていると、何処からか、黄色を主体とした服装をした自分自身が現れた。


その自分自身は、優しく微笑むとおもむろに座り込むと、レッドの頭を自分の膝に乗せた。




「お疲れ様でした・・・・・・。」




現れたもう一人の自分はレッドを膝に乗せたまま、静かに呟いた。レッドはその声に気がついたのかどうか解らないが、

寝顔が自然と幸せそうに微笑んでいた。 イエローはその表情に、このままこの場所を去ろうかと思った。











(レッドさん幸せそう・・・・・・。私に、レッドさんの幸せを奪う権利なんて・・・・・・。)






今の彼の表情を見ていたら、今自分がやろうとしていることの愚かさに気付く。

イエローは幸せそうなレッドに背を向けると、その場所から離れた。






「レッドさん・・・・・・。」




たった一言呟かれた悲しい声。イエローの瞳からは涙が溢れた。自然とイエローはそのままその場に蹲って嗚咽と共に涙を流し続けた。




(・・・私が、レッドさんの代わりに戦えばいいんだよね・・・・・・。フッシーに聞けば解るよね、やり方は・・・・・・。)





だが、もうしばらくこの状態は続きそうだった。とてもじゃないが、立ち上がる気力は無かった。




「・・・・・・ここで、あきらめるのね・・・・・・。別にそれでもいいと思うわ・・・・・・。」




声が再びイエローに聞こえた。所詮、人を癒すなんて神に等しい力を人間が発揮することは出来ないのだ。


自然の摂理に従う以外方法は無い、摂理を超越した行動は神の領域である。現実が理想を打ち砕く。








「うああああぁぁぁああぁぁぁぁああ!!!」







思い切り声を上げて泣いた。何も出来ない悔しさと、幸せを打ち砕いてでも蘇生させる勇気が無い自分の弱さに泣いた。



嗚咽と、叫びが入り混じって、咽る。何度も咳き込むうちに吐き気に襲われる。涙は止めどなく流れ続ける。




「レッドさん!!!レッドさん!!!レッドさん!!!」




何度も何度も狂ったようにレッドの名前を呼び続ける。自分の頭の中にレッドとの思い出が何度もリピートされて流れ続ける。



大切なものを失う喪失感がイエローの心を壊そうとしていた。





「・・・・・・ッ!!!」





あの声の主はこの光景にデジャブを感じていた。イエローに掛ける声も見つからず、その光景に恐怖していた。



その時、レッドのいた場所に光が集まり始めていた。 その光は小さな粒子になり始め天へと向かって上っていく。













最期の時が訪れようとしていた・・・・・・。 














声の主がイエローから眼を離していると、いつしかイエローの姿は無かった。


光になり始めるレッドの元へ駆けるイエロー。それを静止しようとレッドのポケモンたちが立ちはだかったが、


それを切り抜けて、イエローは光になっていくレッドを抱きしめた。













「・・・いかないで・・・・・・。」














腕いっぱいに光を抱きしめて優しく呟く。滴り落ちる涙が光に触れると、光が再び形を作りレッドの形に戻る。


現実の世界と同じく、イエローはレッドに口付けた。 その瞬間、2人の身体は光り輝き始めた・・・・・・。














(・・・・・・代償は取り戻すことができないもの・・・・・・。すなわち“時”・・・・・・。)




















暖かい何かを感じて、眼を覚ます。ボーッとする頭と視界。何がなんだかわからず、とりあえず自分が寝そべっていることが解る。

頭は枕の上にあるようで、とても居心地が良い。ぼやけていた視界がだんだんとはっきりしてくると金髪の女性が見えてきた・・・。



「イエロー・・・?」



レッドは状況がいまいちつかめない。 自分はイエローを庇ってキクコに刺された。その後、意思が遠のいて・・・・・・。

自分は死んだはずである。その証拠に自分の黒いスーツは血をたっぷり吸っており、衣服以外にもいたるとことに血痕がついている。

レッドはとりあえず起き上がると、イエローに声を掛けてみる。しかし、いくら声を掛けても返事をせず、瞳を閉じたまま、座った状態で静止している。

驚いたレッドは、イエローの片腕を持って脈を計る。なんとか脈は規則的に打っており生きていることは証明された。

一応安心したレッドは周りを見渡すと、なんと、自分が傷つけたはずのイエローのポケモンたちが完全に回復されているこちに気がついた。



「・・・お前達、大丈夫・・・なのか・・・・・・??」



レッドは驚きを隠せなかった。何が起きたのかさっぱりだったが、とりあえず、イエローをそのままにした状態で予備のボールを自分の机から取り出した。

予備のボールにイエローのポケモン達を戻すと、レッドはイエローのボールホルダーにポケモンたちを戻してあげた。

無論、その間もイエローの意識が戻る様子は感じられない。レッドは血が染みたスーツを脱ぎ捨てると、座ったままのイエローを力いっぱい抱きしめた。







「・・・・・・ありがとう・・・・・・。」







何故、この言葉が出たかは解らない。もしかしたら、自分の心を開放してくれた感謝の意味かもしれない。だが、

その意思とは別の想いで出て気がした。 なにか、心の奥底から言葉が出てきた気がした。

そんな2人にかまうことなく、タワーは限界を迎えていた。揺れなくとも、天井が軋み、パラパラと砂埃が落ちてきている。

レッドは無言でイエローを両腕で抱えると、俗に言うお姫様抱っこの状態になった。その状態でレッドは窓ガラスのほうへと向かった。

窓の外では、一体の人型のポケモンが両手を多くのトレーナーとポケモンの前に振りかざして、今にも全てを葬り去ろうとしている。

レッドは回復装置に預けたままだった6匹をボールホルダーにしまうと、いつものメンバーを全てボールから開放した。




「・・・・・・みんな、オレを信じてついて来てくれ・・・・・・。」




レッドの言葉に対して、彼等の返答はもちろん、肯定であった。






















 (愚かな人間よ・・・先ほどの光はなんだ?・・・・・・答えねばお前達の命は無いぞ・・・・・・。)


あの光は外まで到達していた。輝きはトレーナーたちにまで振りそそぎ、ポケモンたちの傷を癒した。

それは、キメリアンも例外ではなかった。傷ついた身体が光を浴びた途端に癒えたのだ、それは不審に思うだろう。

この癒しの力を感じた瞬間、グリーンたちは直感的にイエローの存在を感じた。



「ヘヘッ・・・・・・。すげぇ、暖っけー光だったな・・・・・・。」



ゴールドの一言に、グリーンたちに活気が戻り始めた。



そして、彼は舞い降りた・・・・・・。

















 ガラスが割れる音と共に、キメリアンに向かって一直線にカビゴンが突っ込んでいく。

(・・・!!!)

辛うじてカビゴンを回避するが、カビゴンが突っ込んだ場所にはまるでクレーターが出来たようになっている。

流石にキメリアンもこの一撃を受けていたらひとたまりも無かっただろう。

続いて、緑色の巨体が宙を舞った。緑色の巨体は、蔓を巧みに引っ掛けて、まるでターザンのように空中を移動する。

そして、振り子で位置エネルギーを最大値まで高めるとキメリアンに思い切り突っ込んだ。

(・・・・・・!!!)

突っ込む瞬間に、“
リフレクター”を展開して反動を抑える。一応、その一撃を回避したキメリアンだったが、緑色の巨体の背から降りてきた

ニョロボンに“
きあいパンチ”の一撃受けると、思い切り吹き飛ばされた。さらに、追撃としてピカチュウの“10まんボルト”が炸裂する。

したっぱのロケット団員と、ルビーたちは呆気に取られていたが、グリーンたち、そしてサカキはニヤリと笑みを浮かべていた。

ニョロボンとピカチュウは一度、緑色の巨体の正体であるフシギバナの元へ戻ると、またその背から“
リフレクター”を展開したエーフィが姿を表す。

そして、地面にもぐりこんでしまったカビゴンがのっそりと顔を出して、這い上がる頃。上空から、バサバサと羽音を響かせて一人の青年が降りてきた・・・・・・。

夕日をバックに降りてくる影は、救世主というよりも、悪魔、もしくは魔神のようだ。

その青年は、腕に誰かを抱えているのがわかる。そしてそのままの状態で大地に足をつけると、翼代わりとなっていたプテラをボールに戻した。



「遅れてゴメン。」



青年、は優しい声で申し訳なさそうに一言グリーンたちに向けて呟くと、グリーンはフッと笑顔を浮かべ、全身の痛みに耐えて立ち上がった。


「・・・・・・遅いぞ・・・。」


「悪ィ。」


眼を細めて苦笑いを浮かべるレッドを見るとグリーンは心から思った。




(・・・フッ、間違いなくレッドだ・・・・・・。)




グリーンが立ち上がったのを確認すると、他の仲間達も視線を移したり。よろよろ立ち上がり始めた。


「今、どうしてオレが生きていて、イエローが気絶しているのか理由はわからない・・・。」


レッドは腕に抱いているイエローの顔を悲しそうな表情で見つめると、より力強く、しかし優しく、愛しい人を抱きしめた。


「だが、今すべきことと、その方法はわかっている。・・・・・・だから、だから、力を貸してくれ!! 頼む!!!」


レッドの懇願にグリーンは頷いた。


「・・・・・・わかった、だから頼むぞ。・・・・・・イエローは任せておけ・・・・・・。」


「あぁ、オレの女神様だから・・・・・。指一本触れさせるなよ・・・。」


レッドはそう言うと、イエローをグリーンの足元に寝かせた。そして、ポケモンたちをボールに戻すと、いくつかのボールをグリーンに託した。


「オレが、アイツを止める。だから、ここにいるヤツらを使ってくれてかまわない・・・。だから、皆を守ってくれ!!!」


グリーンは再び頷くと、レッドの胸倉をいきなり掴んだ。


「・・・・・・必ず、帰って来い。」


照れくさそうに言ったグリーンにレッドは笑みを浮かべると、4つだけボールを持った。そしてうち一個からプテラを呼び出すと先ほどと同じように

肩を掴ませた。レッドがキメリアンの元へと向かうのに選ばれなかった、ピカとニョロが勝手に自分からボールを飛びだしてレッドの前に立ちふさがった。

いかにも、“自分達を連れて行け”といわんばかりだった。


「お前たちは、イエローを守るんだ。解ったな・・・。」


2匹の頭を撫でてやるとレッドは今度こそ、キメリアンの元へと向かおうとした。すると今度は


「「レッド先輩!!」」


ゴールドたちが、呼び止めようとしたので、レッドは親指を立てた。それに対して、ゴールドは同じようにレッドに親指を立てた。



「・・・レッド、餞別だ・・・。4匹では心とも無いだろう、受けとれ!!!」


「アタシからもよ!!! ほら、受け取りなさい!!!」


グリーンとブルーからボールを渡される。レッドはそのボールを受け取るとボールホルダーに押し込んだ。

そして、プテラと共にキメリアンへと突っ込んでいった・・・・・・。





「いくぜっ!!!」








夕焼けの中、最後の決戦が始まる・・・・・・。

















 第26話へ・・・