ココロを取り戻す時・・・・・・、しかし、時は止まる・・・・・・
狂いだした歯車を止めることはできず
人間への憎悪をもった魔獣は
人類根絶のために暴走を始める
その間にぶつかり合う2人・・・。
しかし
忍び寄る死神の影。
心の鍵を壊すために
老婆が一人、2人の元へ・・・。
PAS 第23話 純粋な想い、開放される心
「「メガトンパンチ!!!」」
カビゴンのゴンとゴローニャのゴロすけの拳と拳がぶつかり合う。互いに互いの攻撃を相殺するたびに再び拳を放つ。
拳と拳がぶつかり合うたびに、ドン、ドンと大きな音が部屋中に響き渡る・・・。
(決定打に欠けるか・・・なら!!)
ブラックはニヤリと一瞬笑みを浮かべると、パチリと指を弾く。 その音を聞いたゴンも笑顔を浮かべる。
ブラックと同じく、一瞬笑みを浮かべたゴンは左の拳で応戦する。ゴロすけの攻撃を捌くのには十分かもしれないが、明らかに反撃に転じれるほどの力は無い。
拳を放ち続けるゴロすけは手ごたえを感じ、さらに拳に力を込める。その様子を見たイエローはこのタイミングで一気に攻める。
「ゴロすけ、いっけーーーーー!!!」
イエローの言葉で、ゴロすけは拳に全力を込めて素早い拳を放つ。その拳はゴンの顔面を捉える。その威力にゴンの身体は後に大きく仰け反った。
ゴロすけがゴンに追撃をかけようと再び拳に力を込めた瞬間、仰け反った反動と今ままで蓄えられていた力でゴンが強烈な右ストレートを放った。
その攻撃をもろに顔面に直撃したゴロすけの黒目はとび、白目だけとなる。岩の身体全体にひびが入り打撃の衝撃で壁に打ちつけられた。
吹き飛ばされたゴロすけがイエローの真横を通過する瞬間、バフンと風が巻き起こりイエローの長い髪を揺らした。
ゴロすけが直撃した壁にもひびが入りゴロすけはその場で気絶して戦闘不能となった。
「“カウンター”・・・。相手のスピードを利用し、待ちかまえる技。だっけな。」
ブラックは目を細めてニシシッと浮かべる余裕の笑み・・・。レッドの笑みそのものだ。
その笑顔にもだが、ゴン、そしてニョロの動き、戦闘方法、駆け引き・・・。その技量には驚くばかりだ。
今までも何度かレッドのバトルを見たことはあっても、体験したことはない。そして体験してみてから分かることが一つだけあった。
(無理だ、勝てない・・・・・・。)
2匹目の戦闘不能を出して分かる、圧倒的実力差。経験、知識、ポケモンのレベル・・・。何一つ勝てる事柄が存在しない。
こういう相手と対戦した時、対戦している本人は(この場合イエロー)少なからず希望を持ってしまうものだ。
“どんなに強い人でも、何かしらの隙はある。” “私のこの部分なら負けてはいない。” “この隙はもらった”など。
だが、真の強者はその感情さえもコントロールする。 “あわよくばの希望”を鼻っ柱からグシャッと叩き潰す。
大概の人はこういう感じに実力差を味あわされると、意思も曲がるし気力も尽きる。
だが、此処で負けられない、レッドを取り戻したいイエローは間違いなく立ち上がり、這い上がるだろう。
(でも、まだ、負けたわけじゃない・・・。レッドさんを取り戻すんだ、助けたいんだ!!) と。
しかし、それでも立ち上がり、這い上がる人に対して強者が行うのは、一辺倒な行動を取ったり、手玉にとって翻弄したりする。
「お願い、オムすけ!!」
イエローは別のボールを腰のホルダーから取ると、そのボールからオムスターのオムすけを呼び出した。
ここで強者の理論を展開するブラックは当然、ポケモンを変えずゴンのままで戦闘を続行する。
(いくらゴンが怪力でも、小回りが利いて特殊攻撃ができるオムすけなら・・・。)
そう思ったイエローは先手必勝と、オムすけに攻撃を命じてゴンに攻撃を仕掛ける。
「オムすけ、“れいとうビーム”!!」
オムすけの口から、青白い光線が放たれる。しかし、ゴンは見た目とは裏腹に軽いフットワークを見せてヒョイと光線を回避する。
「成程ね・・・。」
ブラックは一言呟くと、指をパチリと弾いて音を鳴らす。 その音を聞いたゴンはコクリと頷くとドスドスと“はらだいこ”を鳴らし始めた。
(“はらだいこ”ってことは、レッドさんが狙っているのは一撃必殺の攻撃・・・。)
イエローは“はらだいこ”を鳴らし続けるゴンに対して、オムすけに攻撃を命じる。
「“れいとうビーム”!!」
再び放たれる青白い光線。しかし、ゴンは“はらだいこ”を鳴らしながら攻撃を避ける。やけになったオムすけはひたすら“れいとうビーム”を撃ち続ける。
しかし、その攻撃は全て回避されてしまう。相手はあの重々しく動きの鈍いカビゴンなのにこちらの攻撃はまったく命中しない。
また、やけになっているのはオムすけだけでなく、主人のイエローもだ。闇雲に“れいとうビーム”と連呼し続ける。
(何で当たってくれないの・・・?! どうして・・・?!)
オムすけの“れいとうビーム”の技のエネルギーが切れると、今度は“ハイドロポンプ”に技を変更してゴンを狙う。
その攻撃がダメなら、次の技。それがダメなら次の技・・・。何一つ攻撃を命中させられないオムすけに苛立ちを覚え始めるイエロー。
(何で?どうして??相手がレッドさんだから??それとも仲のいいポケモンだから??)
攻撃を当ててくれないオムすけに怒鳴ってしまいたくなるような衝動がイエローを襲う。焦りと苛立ちがイエローの精神を攻める。
いつしか“はらだいこ”を鳴らし終わったゴンは、徹底的に回避に徹してオムすけの攻撃を避け続ける。
そして、攻撃を回避し続けられて技を放つエネルギーが尽きたオムすけは、そのことを訴えかけるようにイエローを見るが、
すでに焦りと苛立ちで周りが見えなくなり、冷静さを欠いているイエローにその訴えに気付くことなくオムすけに攻撃を命じる。
「オムすけ、“ハイドロポンプ”!!!」
ビシッとゴンを力強く指差して攻撃を命じるイエロー。だが、すでにそんな大技を放つエネルギーなど残っていないオムすけがとる行動は一つだけだ。
オムすけはゴンまで接近すると、でたらめに身体を動かしてゴンを攻撃しようとする。
「ああっ!!!なんで、勝手に行っちゃうんだ!!!戻ってよ、オムすけ!!!」
苛立ちのために、怒声を交えながらのきつい口調と声でオムすけを呼び戻す。いや、呼び戻すというよりもヒステリックに叱責しているとも思える。
イエローのその様子に、先ほど浮かべていた笑みと違い、明らかに企みの笑みを浮かべるブラック。
そう、すでにイエローはブラックの術中にはまっていた。
相手の心理状態を巧みに操り、バトルの場を支配、統制する力・・・。それがブラックの力であり、戦闘方法だ。
一、二撃目の“れいとうビーム”をゴンが回避した時点でイエローとオムすけは手玉に取られていた。
焦り、苛立ちを意図的に引き出して冷静さを欠かせる。グリーンのときは姿と言動で惑わして思考を妨害する・・・。
どちらのやり方もなんともいやらしく、効率的な戦闘方法である。精神、肉体どちらも攻めることができるのだから。
そして、ブラックにとって予定どうりのオムすけの“わるあがき”はブラックの一辺倒な行動に利用される。
「“カウンター”!!!」
ブラックの声がした瞬間、ゴンは目の前ででたらめな攻撃を仕掛けようとするオムすけの顔面をフルスイングの拳で捉える。
直撃の影響でオムすけの巻貝の部分にピシリとひびが入る。 そして、ゴロすけと同じ位置の壁に叩きつけられ、壁に新たなひびを作る。
ブラックは始めから“カウンター”で倒すことを決めていた。 これが一辺倒な強者の理論。
一撃で仕留めることに関しては、イエローの読みもあながち間違いではなかったようだ。
「次・・・来ないのか?」
ブラックは非常に高圧的な表情でイエローを見る。その表情に、イエローはキッと睨み返す。
いつしか、本来の目的さえもイエローは見失っていた。 精神は完全にブラックに操られ、何をしようと手の中で踊り続けるしかない。
踊らされていることにも気付かず、イエローはホルダーから新たなボールを取り出して別のポケモンを呼び出す。
それと同時に、戦闘不能となった手持ちたちもボールに戻す。ブラックは右手をイエローに向けると、
人差し指だけを立ててチョイチョイと指を動かして“かかって来い”と挑発する。
(フェフェフェ・・・いつ見ても陰険なやり方だねぇ・・・フェフェフェ・・・。)
2人だけかと思われていたこのフロアにいつしか存在していた暗い闇。
そして、その中に紛れ込み不気味な笑みを浮かべながら傍観する杖を突いている老婆が一人・・・。
(見ていて楽しいが・・・、時間がないねぇ・・・。そろそろ止めを刺してくれないと、“完成品”の制御ができないからねぇ・・・。)
老婆は闇の中で、静かに2人を傍観し続けた・・・・・・・。
「ピーすけ、“ぎんいろのかぜ”!!!」
ピーすけは羽をはばたかせて、りんぷんの混じった風を巻き起こした。技自体の見た目は非常に美しく、幻想的だが、その威力と効果は凶悪だ。
付着、吸引したりんぷんは動きを鈍くしたり、視界を奪ったりと非常に凶悪な技である。しかも、広範囲に散布されるため、トレーナーに与える影響も大きい。
「おっと!! ゴン、戻れ!!!」
ブラックは攻撃から逃れるために顔を袖で覆い避難する。その行きがけの駄賃にゴンをボールに回収する。そして、別のボールを手に取った。
(風か・・・。ちょっと酷いけど、我慢してくれよ・・・。)
ブラックのボールからは、翼竜のようなポケモン プテラのプテが姿を現した。
「プテ、息止めとけよ・・・。“こうそくいどう”!!!」
プテは命令どうり、りんぷんが舞っている空気中を高速で飛行する。 飛行時の気流の発生でりんぷんを含んだ空気はイエローのほうへと吹き荒れた。
「イエロー、息止めて目を瞑れ!!!!」
ブラックの突然の声に戸惑いながらも、“こうそくいどう”で突っ込んでくるプテに反射的に目を瞑る。そして、ブラックの声どうり息を止める。
りんぷんを含んだ空気はイエローの周辺に充満する。ピーすけ自身は自らのりんぷんなので影響はないらしく、イエロー周辺に充満する空気を羽ばたきで吹き飛ばす。
しかし、なかなか羽ばたきだけでは間に合わず徐々にイエローの息の限界が迫る・・・。その様子はイエローの顔が赤くなっていくので分かる。
(・・・・・・。オレは・・・・・・・。)
戻ってきたプテに掴まって、ブラックはイエローの所へ飛ぶ。そして、ピーすけが羽ばたく中、イエローを連れ去るように小脇に抱えてその空間を脱出させる。
そして、通常状態の場所でイエローの衣服や髪、顔についているりんぷんを払ってやると、ブラックはイエローを床に座らせた。
「もう、大丈夫だ。 息止めなくてもいいよ。」
優しい声で話すブラック。その声を聞いたイエローは、安心しておもいっきり息を吸う。そして、息を整えると瞑っていた瞳を開いてブラックのほうを見上げた。
(オレは、何やってんだ・・・?あのまま放っておけば、終ったはずだ・・・。オレは何してんだ?)
驚いているのはブラックだけではない。助けられたイエローも、また、闇の中で傍観していた老婆もそうだった。
(・・・・・・レッドさん・・・・・・?)
イエローのブラックを見つめる瞳は潤みだした。ブラックはその表情を見た瞬間、何かが目覚めようとしている感覚に襲われた。
(・・・オレは・・・オレは・・・オレは・・・・・・。)
何か、失われていたものが蘇る、いや、目覚めようとしているのが分かる。自分に欠けていた何かが、忘れてはいけない何かが・・・・・・。
(チィ、マズイねぇ・・・。やはり、イエローへの想いを使って心に鍵をしたからねぇ・・・。本人と接触したら、自分を取り戻しちまうか・・・。)
老婆は、舌打ちしながら何処からともなく笛のようなものを取り出した。
(仕方ない、強制的に開きかかっている扉を閉めるとするかねぇ・・・フェフェフェ・・・。)
老婆は取り出した笛のようなものを口に咥えて吹いた。 音はしていない、いや、聞こえないのだろう・・・。
潤んだままの瞳でブラックを見つめるイエロー。目覚めようと、開放されようとしている何かを感じ取り始め自分に問い続けるブラック。
「・・・・・・レッド、レッドさん・・・・・・。」
イエローの潤んでいた瞳からは、いつしか涙が溢れ出し、ブラックを見つめ続ける。
そいて、イエローはブラックに手を差し伸べた。ブラックは戸惑いながらも、その手を掴もうとした。
(オレは、この手を掴めば・・・。何か、何か、取り戻せる・・・・・・。)
いままで、イエローへと陰険な攻撃をし続けたブラックだったが、イエローの精神を操るたび、彼女の考えや想いに気付き始めていた。
助けたい、救いたい・・・。必死な想いが伝わってくるたびにブラックの何かが揺らぐ。
揺らぐ何かを否定するために、より一層激しい陰険な攻撃をした。全ては、自分の抱く感情を否定するために。
しかし、感情に身を任せた結果今まで知りえなかった、熱い想い、優しい気持ち、一途な想いを知った
(オレは・・・この何かを掴みたい・・・。だから・・・・・・。)
ブラックは差し伸べられた手を掴んだ。イエローと目線を合わせて、見つめ合った・・・・・・。
「レッドさん・・・・・・。」
イエローから呼ばれる名に、呼応したくなる何かが今、自分の中から溢れ出そうとしていた。
ブラックは自分から溢れ出そうとしている何かを、自らの口から声として、言葉として引き出そうとしている。
心の鍵が今・・・・・・!!!
「フェフェフェ・・・世の中、甘くないよ・・・フェフェフェ!!!」
老婆の声が2人に聞こえた瞬間、ブラックは突如、激しい動悸に襲われた。
ドクン、ドクン、ドクン・・・・・・!!!
激しい心音はブラックの全身駆け巡り、音がブラックの脳を支配する。
(・・・オ、オレは・・・オレは・・・・・・。)
手を掴んだままブラックは下に俯き、イエローから目線を外す。
「・・・残りの手持ち全てを出せ・・・。ケリをつけよう・・・。」
静かにそして低い声で話しかけるブラック。その声を聞いた瞬間、イエローの全身の毛が逆立った。
冷たく、暗く、イエローはその声に戦慄を覚えた。ブラックの手を握っている腕が震える。
そして目線も合わせていないのに感じる、突き殺されるような強烈な視線・・・。
先ほど見せていた優しさを微塵も感じさせない。いや、もう別人としか思えない。
ブラックはイエローの手を放すと、背を向けて歩き出した。その後をプテが追う。
「さっさしろ・・・。もう、時間が無いようだ。終らせるぞ・・・。」
イエローは立ち上がってブラックを引きとめようとしたかったが、恐怖よって身体を動かすことも、声を出すこともできなかった。
身体は震え、奥歯はガチガチと鳴っている。初めて味わう純粋な恐怖にイエローは何もできなかった。
「さぁブラック、さっさと終らせるんだよ・・・。この娘は何もできはしない・・・。止めを刺して終わりだ・・・フェフェフェ。」
闇から姿を表した老婆は、イエローと距離をとり続けるブラックに話しかけた。
「・・・オレの美学に反する。せめて、ポケモンを出したらな・・・。」
老婆に背を向けたまま、動きを止めて話すブラック。その声は未だに低く、冷たい声だ。
「美学とか言っている場合じゃ無くなったのさ・・・。アタシが此処に来たってことは、アンタも分かってんだろう・・・“完成品”が出来たってことは・・・。」
「そんなことは関係ない・・・。とにかく丸腰の相手に攻撃できるほど、オレは冷酷じゃないさ。」
そんな会話の最中もイエローは、怯え竦み動くことも声を上げることも出来ない。正確には、震える身体を収めるために両手で身体を覆っている。
(フン、まだレッドの心が根強く残っているねぇ・・・。だから始めから、人格も、心も、精神も変えちまったほうが良いと言ったのに・・・。
扱いづらくてしょうがないよ。サカキも何を考えているのか全く分からないねぇ・・・・・・。)
老婆は舌打ちすると、イエローの背後に杖を突きながら接近する。そして、イエローの背後に立つとボールからゲンガーを呼び出した。
「丸腰でなければいいんだね・・・。フェフェフェ・・・ゲンガー、“サイコキネシス”。」
ゲンガーは念でイエローのボールホルダーから5個、ボールを取り出して宙に浮かせる。
「フェフェフェ・・・砕いてしまいな!!」
念を動かす力から、衝撃を与える力に変化させて5個のボールに圧力をかける。10秒もしないうちにボール全てにひびが入りメキメキと音を立てる。
「さぁ、出てきてもらおうかなぇ・・・フェフェフェ・・・。」
イエローのモンスターボールは粉々に砕かれた。砕かれたボールから戦闘不能状態のポケモンも、そうでないポケモンも全てイエローの周囲に開放される。
自身の意思とは関係なく無理やり呼び出される、いや、追い出されたイエローのポケモンたち。あまりのことに混乱してしまっている。
「さぁ、この娘は丸腰じゃないよ・・・フェフェフェ・・・止めを刺してもらおうか・・・フェーフェフェフェ!!!」
老婆の笑い声を聞いたブラックは、プテをボールに戻すと別のボールを取り出した。
「・・・行くぞ、フッシー!!!」
ボールから呼び出されたのは、四足の緑色の巨体に、背中に生える美しい花・・・。たねポケモン フシギバナ。
このポケモンの強さは、イエローの手持ちたちは知っている。 巨大な岩をも易々と砕く“つるのムチ” 見た目以上に軽いフットワーク。
そして、まだ目にしたことは無いがグリーンやブルーも受け継いだ、究極必殺技 “ハードプラント”・・・・・・。
どれだけ目の前のポケモンが畏怖すべき存在であるかはイエローのポケモンたちは分かっている。
だが、今主人であるイエローを守るには自分達が戦うしかないのだ。
戦闘不能となっていないドードリオのドドすけ、ラッタのラッちゃん、そしてピーすけがイエローの前に立ち主人を守ろうとする。
「・・・よく躾けられているな。だが、今日で終わりだ。なにせ、主人がこの世からさよならするんだからな!!!」
ブラックは背を向けるのを止めた。正面を向き、イエローを守ろうとするポケモンたちを指差した。
「フッシー、“つるのムチ”!!!」
ブラックは指差した手で横に大きく空を切ると、その手の動きに合わせてフッシーの蔓がヒュンッと音を立ててドドすけたちをなぎ払った。
タイプの相性的に、ピーすけやドドすけはさほどダメージを受けないと思われたが、その二匹でさえもピクピクと痙攣してしまっている。
無論、抵抗力を持たないラッちゃんはそのまま戦闘不能になったかと思いきや、ヨロヨロと立ち上がりイエローの前に立ってイエローを守る。
「・・・・・・。フッシー、続行だ。」
フッシーは再び蔓でラッちゃんを打つ。それでも、立ち上がりイエローを守る。そんなラッちゃんを見てドドすけやピーすけもイエローを守る。
とっくに、肉体の限界は超えている。蔓で打たれた部分は真っ青になり、しかもそこから出血している。それでも、守り続ける。
いつしか、静まり返った部屋には蔓で打たれる音しかしなくなった。痛々しく、聞くに堪えない音だ・・・。
「・・・も、やめて・・・・・・・。」
小さな声だが、悲しくて、悲しくて、とにかく悲しい声がブラックの耳に聞こえた。
「止めてください!!!」
イエローは絶叫と共に、蔓からイエローを守ろうとするラッちゃんを腕に抱きかかえるとトキワの力で癒す。
「・・・もう、これ以上、私のポケモンを、友だちを傷つけるなら・・・・・・誰であろうと許しません・・・!!!」
泣きながらも、トキワの力でポケモンたちを癒すイエロー。優しい光が周囲を包み込むと、なんと、戦闘不能になっていたポケモンまでも全快させた。
イエローはラッちゃん腕に抱えたまま全てのポケモンに攻撃を命じようとした瞬間であった。
(イエロー、止めて。ボクはあの人を傷つけたくない・・・。どんなに傷つけられようとも、ボクはあの人を傷つけたくない!!!)
イエローの心に流れ込んでくる、腕に抱かれたラッちゃんの思い。その思いにイエローは反論する。
「なんで、どうして!!?」
(ボクたちは、あの人の優しさも強さも知っているよ。どれだけいい人かも知っているよ。傷つけられようとも、ボクたちがあの人を信じる気持ちは変わらない。
だって、レッドなんだよ。あの人の笑顔や、言葉にいつだって偽りは無い。イエローと同じくらいに信頼できる人間なんだ!!)
イエローはポケモンたちの純粋な想いに心を打たれた。ポケモンたちはこんなにも純粋で、自分以上にレッドを信頼していたのだ。
(きっと、グリーンも気付いていたはず。レッドを救うのは憎しむことじゃないって。イエローだったらレッドを救える。
だってイエローはレッドを好きなんでしょう? だったらボクたちよりもレッドを信頼しているし、思えるはずだよね!!)
ブラックは、自分に対して想いをぶつけられないように相手の心理を利用する。それが、自分自身を維持するための術だから。
始めから、そういう風に仕込まれていたのだから。自分を見失うことが彼にとって安定なのだ。
だから、純粋に生き、思考や心を持ったポケモン達によって、彼の心確実に戻ってきた。 今のブラックの表情が証明している。
無垢な存在を痛みつける、苦痛にブラックの表情は辛さを訴えているようだ。
(今のイエローなら、絶対にレッドを取り戻せる。 今覚える憎しみは、後で彼に癒してもらえばいい・・・。 だから!!!)
「でも、どうしたらいいの?! 伝えたいよ・・・、でも、伝えられないよ?!」
(・・・信じてあげよう・・・何もせずに・・・待てばいいよ・・・。彼は、絶対に解ってくれる・・・。伝え方は、イエローが一番よく知っているはずだよ。)
イエローは眼を瞑り、ポケモンたちに命令を出す。
「みんな、楽な姿勢をとって。そこで待って。」
イエローは涙を拭うと、笑顔でポケモンたち言い聞かせる。そして、一人立ち上がるとブラックの元へと歩き出した。
(想いを伝えたい・・・あなたに!!)
「それ以上近づいたら、お前もろとも“ハードプラント”で消し飛ばす・・・。」
その言葉どうり、フッシーはエネルギーを充填し始めた。緑色のオーラが全身を包み込みはじめる。
それでも、イエローは決意の表情で、優しいながらも力強い表情をしている。
「・・・おい・・・聞いているのかよ・・・。」
イエローとブラックの距離は近づく。ブラックはフッシーに“ハードプラント”を放つように命じるようなフェイントをしたが、
それでも、イエローは動じずブラックに近づく。そして、その距離は1メートル、50センチ、10センチと近づくといつしか0になっていた。
イエローに抱きしめられたブラックは、驚きのあまり目が点になってしまった。
(レッドさん・・・・・・・。私を感じますか? 想い伝わりますか? 自分を取り戻してください・・・。皆、待ってます。私も待ってます・・・。)
ブラックはイエローを引き剥がそうとする力が入らなかった。今、自分を抱きしめている存在からの想いに呼応して、自分自身にも想いが宿り始めた。
(やはり、心の鍵と接触させるのは不味かったねぇ・・・。そうだ、ブラックを確立するにはいい機会だ・・・フェフェフェ・・・。)
闇に身を包み、老婆は杖を持って音も無く近づく。それに気付くことの無い2人・・・。もちろん、ポケモンたちも気がつかなかった。
(・・・そうか、オレはこういう感情を抱けるのか。そして、抱いていいのか。今、イエローを・・・。)
ブラックの目から涙がぽろぽろとこぼれ始めた。自然とイエローを包み込むように抱きしめる腕。力強くイエローを抱きしめた。
“愛しい”という想いを通して、ブラックは自分自身を取り戻した。それは、植え込まれたとか、仕込まれた思考、精神ではなく彼自身の思考、精神だ。
心の鍵は今、解き放たれた・・・・・・・・・・!!!
「・・・・・・・・・・!!!」
突如、レッドはイエローを抱きしめる腕を放して、イエローを振りほどいた。
イエローは訳がわからず、レッドを引きとめようとしたが、間に合わなかった。
「心の鍵で無くなろうと、心の支えが無くなれば、再洗脳くらいできるわ!!! フェーーーフェッフェフェ!!!」
杖に仕込まれていた刀は一直線にイエローを貫こうとした。 その瞬間であった。
「えっ・・・・・・。」
レッドはイエローをその身で庇い、代わりに刀身はレッドの身体を背中から貫いた。
「へヘっ、・・・取り戻して早々・・・終わりか・・・。 まぁいっか・・・イエロー・・・守れたし・・・・・・。」
レッドはその場に崩れ落ちるように蹲った。貫かれた刀身からは鮮血が伝い、レッドとイエロー、そして老婆の足元に赤い水溜りを造る。
「・・・!!!クッ、これじゃあアタシ自身の計画が台無しじゃないか・・・!!!サカキにアイツを取られたら元も子もない・・・!!!」
そういい残すと、老婆は闇にまぎれてどこかへ姿を消した・・・・・・。
青ざめていくイエローとレッド。赤い水溜りは広さを増していく。
短く、過呼吸気味になるイエローに対して、レッドの呼吸は弱々しく今にも消え去りそうだ。
イエローはあまりの光景に声一つ上げることができなかった・・・・・・。
第24話へ・・・