黒き真首領からの地獄の鉄槌。
「かはっ・・・・・・」
金色の瞳の青年は、その場に倒れた・・・。
1人の黒いスーツの青年が赤い「R」のエンブレムを輝かせ
ただ冷たい瞳で見下ろす。
青年の前に横たわる3人の身体。
何れも衣服がボロボロに破け、全身傷だらけだ。
ピクリとも動かないその身体。
それを見ても無表情の黒いスーツの青年。
時は、20分前にさかのぼる・・・・・・
PAS 第15話 粉砕
ゴールド、シルバー、クリスの三人は部屋の扉を開けて外に出ると、そこは薄暗い廊下であった。
とりあえず部屋の扉を閉めると、扉には貼り紙がしてあった。 貼り紙にはこう書いてある。
「B1階 闘技場倉庫・・・・・・。」
クリスがその貼り紙の文字を読み上げると、事の重大さに気付いた。
最上階に進み、レッドを助けるもしくはブラックを倒すのが今回の目的である。
これでは、振り出しに戻ったようなものだ。
「「「はぁあ・・・。」」」
3人は落胆のため息をついた。
ロケット団 四聖獣という異常な強さを誇るトレーナーを倒したというのに、3人はスタート地点よりも後退していた。
「骨折り損のくたびれもうけってか・・・・・・。」
ゴールドが一人呟くと、クリス大きなため息をついた。
「・・・とりあえず上の階に移動するぞ。うだうだ言っている暇は無い。」
シルバーは2人に呼びかけると、さっさと移動を開始した。
「だから、勝手に行くなっつーの!」
ゴールドはシルバーの後を追う。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!! ポケモン達の回復だってしなきゃ・・・・・・って、勝手に行かないでよ!!」
「だぁーーーーーーうるせぇ!!回復なんて移動しながらだってできるだろ!!」
「いつ、さっきみたいなトレーナーが出るか分からないのよ!! ちゃんと万全の用意はしておくべきよ!!」
「大丈夫に決まってんだろ!!そんな簡単にオレたち3人がやられるわけねーだろ!!」
いつもの調子で言い争いをはじめる2人。 そんな2人をみたシルバーは一言。
「・・・痴話ゲンカなら、目的を達成した後にしてくれるか。」
その一言を聞いたゴールドとクリスは、2人とも顔を赤らめて必死に否定する。
「ち、違うわよ・・・。」
「う、うるせぇよ・・・。 お前だってブルーさんのことになったら必死じゃねぇか。」
「・・・・・・3人から2人にしてやろうか?」
この3人が先ほど、脅威のコンビネーションで四聖獣を倒したとは、普通の人が見たらとてもそうは思えないだろう。
とりあえず、事態が収拾がつくまでしばらくの時間がかかった。 時間にして2分ほどだろうか・・・。
運命の時間まで後、18分・・・。
3人はとにかく上の階に移動するために、各自散開して階段かエレベーターを探し始めた。
どこの廊下も薄暗く、電灯一つ点いていない。 人の気配がしないこの空間は異様な雰囲気を醸し出している。
3人はポケモン達の回復を移動しながら行っていた。しかし、この薄暗さではポケモン達の回復も一苦労だ。
傷口に“きずぐすり”を使用するのにも結構な集中が必要だ。ポケモンの傷を探し、薬を吹きかける。
しかもそれを移動しながら行うとなるとかなりの難易度だ。
3人は汗をかき始めた・・・。
それは、この“薄暗い空間を移動しながら傷の治療”が原因かと思われたが・・・。 どうやら、それだけではないようだ。
(((プレッシャー・・・・・・。)))
この階層全体を包み込む、強大なプレッシャー、存在感。 3人は別々の場所に居るにもかかわらず、同等の圧迫感を覚えた。
人の気配さえしなかったこの階層に、この強大なプレッシャーは3人の神経を刺激する。
普通こういう空間にいると、孤独感、孤独からの恐怖、霊的な何かへの恐怖などを覚えるものである。
静まり返っているこの階層に、この強大なプレッシャー。 明らかに不自然だ。
(・・・人の気配がしないのにこのプレッシャー。 先ほどの四聖獣とかいう奴の異常ぶりからも、相当な異常者が居ると見ておかしくないな。)
シルバーが一人、思考し始めた。 その一瞬であった。
「考え過ぎはよくないぞ・・・。 頭がキレ過ぎるのも考え物だな・・・。」
シルバーの耳元で囁かれる、低く冷たい男の声。 そしていつの間に右肩には手がのせられていた。
そのあまりにも突然の出来事にシルバーは、ゾクッと背筋に悪寒が走ると身体も心も思考も全てフリーズした。
「ヤミラミ、“シャドーボール”・・・。」
薄暗い廊下の影の部分から、一匹のポケモンが姿を現した。
その姿は影の妖精とでも言ったとこれであろうか。50センチほどの体長をして全身紫色の身体、青く不気味に輝く2つの瞳・・・。
そしてそのポケモンは漆黒の球体を生成すると、それをためらいも無くシルバーにぶつけた。
「・・・・・・ッツ!!」
謎の男の存在、言葉、行動によって完全にフリーズしてしまっているシルバーは、“シャドーボール”の精神侵食に耐えることはできなかった。
ガクリと力なくその場に倒れようとするシルバーを謎の男は片腕で支えると、そのままの状態で闇にまぎれてヤミラミと共に消えた・・・。
運命の時間まで後、15分・・・。
先ほどから、結構な距離を歩いているはずなのにエレベーターも階段も発見できないもどかしさと、謎の強大なプレッシャーにクリスはおかしくなりそうだった。
とりあえず自分の手持ちポケモンたちの治癒はアイテムで済ませたが、暗闇、孤独、焦り、プレッシャー・・・・・・クリス自身の精神状態は癒せそうも無い。
不安を司る感情が頂点に達したのだろう。 クリスは誰かと合流することを考えた。 連絡を取ろうと思ってポケギアを取り出すも、圏外で通信不能だった。
(ポケギアがだめなら、自分で探すしか・・・。)
そう思ったクリスは、大きな声を上げて歩き回る。
「ゴールド!!シルバー!!聞こえたら返事をしてぇーーーー!!!」
クリスは必死に2人の名を叫んだ。 何度も何度も叫んだ。 精一杯叫んだ。 叫べば叫ぶほど涙が溢れる。 クリス自身の不安の表れだろう。
その声が聞こえたのだろうか、ゴールドもその声に返事をする。
「どーしたぁ、クリス!! 今からそっちへ行くからそこで待ってろ!!」
クリスの不安そうな声を聞いて、ゴールドは大きな声でクリスを元気付けるように返事を叫んだ。
(ったく、可愛いとこもあるんじゃねぇか・・・。)
ゴールドは顔を赤らめながら、クリスの声が聞こえた方角へ走る。
ゴールドの返事がクリスに届いたようで、クリスは大きな安心感に包まれてほっと息を吐いた。
「安心。安堵。人間に存在する隙の一つ・・・。 此処は戦場だ。 隙一つで全てが終る・・・。」
「・・・・・・!!!」
クリスの背後で、低く冷たい男の声が聞こえた。 クリスは声も上げられなかった。
闇から伸びる一本の腕、そしてその手はクリスの左腕を掴むと闇へ引きずり込もうと力強く引っぱる。
クリスはその恐怖に思い切り声を上げた。
「ゴールドーーーーー!!! 助けてぇ!!!」
その声を聴いた瞬間、ゴールドはバクフーンのバクたろうをボールから呼び出すと背に飛び乗ってクリスの元へ駆ける。
「クリス!!今すぐ行くから待ってろ!!!」
ゴールドは絶叫しながらバクたろうと共にクリスの声が聞こえた方角へひたすら駆ける、駆ける、駆ける。
途中にあったゴミ箱や自販機、ベンチなどの障害物を力任せに吹き飛ばしてひたすらクリスの元へ駆ける。
「クリス!!!何処だ、返事しろぉ!!!」
ゴールドの叫びに対する、クリスの返事の叫びは返ってこない・・・。 焦りと不安が同時にゴールドを襲う。
その感情を拭い去ろうと、ひたすら、ひたすら叫び続ける。
「クリス!!!何処だぁ!!!」
返ってこない返事に、プレッシャーのことも含めて最悪な結果がゴールドの目の前に広がる・・・。
(させねぇ・・・、アイツにそんなことさせねぇ!!!)
何度も何度も首を横に振って、最悪の結果を否定する。 すると、目の前に人影が見えた。
ゴールドはバクたろうをボールに戻すと、その人影をクリスだと思って駆け寄った。
(バカ野郎が・・・、返事しなかったからすげぇ不安になったじゃねぇか・・・。)
顔を赤くしたままでその人影に接近するゴールド。 しかし、人影が目視できる位置になったときゴールドの表情は凍りついた。
「王子様の到着だが、姫君は先ほど精神を侵食されてこのとうりだ。」
低く冷たい男の声がゴールドに聞こえた。 クリスはその声の主であろう男に俗に言う“お姫様抱っこ”をされて、その腕の中で気を失っているようだ。
「て・・・テメェ。 今度という今度は許さねぇ・・・・・・。 信頼してくれていた人々や仲間、イエローさんを裏切った挙句、
今度は無関係な人々まで巻き込んで・・・。挙句の果てには、クリスにまで・・・・・・。
テメェ、テメェだけは何があっても許さねぇ・・・・・・。
ブラック・・・、いや、あえてこの名で呼ぶぜ・・・、マサラタウンのレッド!!!!!!」
ゴールドの絶叫を聞いて謎の男はフッと鼻で笑った。 そして、闇の中からその姿を現す・・・。
黒いスーツ、黒いグローブ、黒い靴、黒いネクタイ、黒い髪、黒い瞳・・・。と黒で統一された服装。
目視で黒で無い部分を上げるとすれば、Yシャツの白と肌の肌色。
そして、スーツの胸元に輝く赤い「R」のエンブレム・・・。この姿でレッドに会うのは、2度目のことだ。
「そんな大声で叫ばなくても、声は聞こえるぞ・・・ゴールド。 何度も言うがオレはもうマサラタウンのレッドではない。ロケット団真首領のブラックだ。」
声のボリュームも、声の強さも変化させるわけではなくただ、淡々と話し続けるブラック。そんなブラックの態度にゴールドは激怒した。
咄嗟に、背中のリュックに差してあった愛用のビリヤードのキューを右手で引き抜くと、その先端をブラックに向ける。
「何で、何でだよ!! アンタをどれだけ皆が信頼して、信用して、尊敬して・・・・・・。アンタを愛する人が居て・・・。何が不満なんだよ・・・。」
ゴールドのキューを持つ手が震えた。
「アンタを取り戻そうと皆必死なんだよ・・・。元のアンタに戻ってほしいから、皆必死なんだよ!!!」
ゴールドの瞳からは大粒の涙が、何滴も何滴も落ちる。 いくら自分にとって大切な人を傷つけたとはいえ、ゴールドにとってレッドは尊敬できる先輩であり、
よきバトルの師匠、そして頼りになる相談相手・・・。 ゴールドが一番レッドを慕っていたといっても過言ではない。
レッド自身も、ゴールドのことを時には厳しく時には優しく接し、よき弟分、弟子として付き合っていた仲だ。
だが、今目の前に居るレッド、いやブラックはそんなゴールドにただ一言、同じボリューム、同じ声の強さで言った。
「それがどうした?」
たった一言、しかしその言葉はゴールドの心を砕くには十分すぎた。
ゴールドは歯を食いしばると、キューを握る手の力を強めた。そして、
「・・・もう、もうアンタをレッドとは思わねぇよ・・・。 アンタはもうオレの、いやオレたちの敵、ロケット団真首領 ブラックだ・・・。」
その一言を聞いたブラックは、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ゴールド、オレを倒したければこの階層の中央闘技場に来い。 シルバーも待ってるぞ・・・、まぁ、もう当分起き上がることもできないがな。」
「テメェ・・・、シルバーまで・・・!!!」
ゴールドはギリギリと歯軋りをするほど力強く歯を食いしばると、手に持ったキューでブラックに殴りかかったが、ブラックは闇に姿をくらまして
クリスを抱いたまま姿を消した。 ゴールドはハァハァと肩で息をするほど、激しく興奮していた。そして、
「行ってやるよ・・・、中央闘技場・・・!!!」
運命の時間まで後、10分・・・。
中央闘技場・・・B1階のまさに中央部にあるバトル場のことである。 実にシンプルな闘技場で何らギミックも存在しない公式戦用のフィールドだ。
その闘技場の出入口の前にゴールドはバクたろうと共に立っていた。此処に立つことで気付くことはどうやらこの先にあの強大なプレッシャーの主が居るようだ。
扉に手をかけるのも嫌になるくらいの、扉の先からのプレッシャー・・・。 四聖獣のときに感じたものの比ではない。
しかし、過去に一度コレに似たプレッシャーを感じたことがある。
・・・そう、レッドがブラックとしてはじめてゴールドたちの前に現れたときのことだ。 今思えば、あのプレッシャーはブラックのバンギラス、ギランのものかと
思っていたが、どうやらブラック本人のプレッシャーのようだ。 先ほどブラックと対峙したときに感じた感覚に非常に酷似している。
ゴールドは首を何度も横に振って、気を紛らわす。 そして、扉を開いた・・・・・・。
(!!!!!)
バトル場に入った瞬間、全身でプレッシャーを感じる。バクたろうでさえ、弱気になっている。
何とか耐えて、動きたくない、逃げ出したいという本能的な衝動を抑えて前へと進む。 すると、バトル場の中央にブラックが腕を組んでこちらを睨んでいる。
非常に冷たい視線。目線を合わせたら凍え死にそうだ。 少し前に進んでみてあることに気がついた。
(クリス!!シルバー!!)
クリスとシルバーはブラックの足元にぐったりと倒れている。どうやら完全に気を失っているらしく、ピクリとも動かない。
ゴールドは今すぐ、その場に駆け寄って介抱したかったが、ブラックからのプレッシャーに前に進む勇気さえ湧いてこない。声を掛けたくても声さえ出ない。
「返してやるよ・・・。この2人。」
すると、2人の身体はフワッと宙に浮きフヨフヨと飛んで、ゴールドの足元にボトッと落とされた。
そのとき初めてゴールドはブラックの背後にいるポケモンの存在に気がついた。長く伸びとがった耳、紫色の尾・・・。
(ポケモンを出しているなら・・・、一か八かだ!!!)
いくら待っても湧き上がることの無い勇気に痺れを切らし、ゴールドはバクたろうの背に乗るとバクたろうに突撃を命じた。
「うわぁぁぁあああぁぁぁぁあああぁあぁ!!!」
ゴールドは全ての手持ちをボールから呼び出すと、全てに攻撃を命じる!
「エーたろう、“スピードスター”!! キマたろう、“ソーラービーム”!! ニョたろう、“ほろびのうた”!!
ウーたろう、“すてみタックル” マンたろう、“みずのはどう”!!」
技を命令し終わると、バクたろうから飛び降りて着地すると最後の命令をバクたろうに命じる。
「バクたろう、“オーバーヒート”!!!」
バクたろうの炎がさらに激しく燃え上がると同時に、身体から赤い灼熱のオーラが浮かび上がる。 そして、口から紅蓮の劫火を吐き出した!!!
しかし、そんな状況にもかかわらずブラックは表情一つ変えず一言呟くように自身のポケモンに命じる。
「・・・・・・“サイコウェーブ”。」
ブラックの背後にいるポケモンは念力で引き起こされた竜巻は、直進的に進んできた攻撃全てを竜巻の回転に乗せてエネルギー全てとウーたろうを捕らえた。
「剛の力で攻められたら、柔の力で返すまでだ。 飛んできたエネルギーは竜巻の渦に飲まれて中心に集まってくるが、その間に竜巻の螺旋でなく単独で回転する渦を
仕込み、その渦にエネルギーをため込めばその渦のところでエネルギーは回転を続ける・・・。例えて説明するなら、バネの終端部分にエネルギーが来たとき、
終端部分だけを切り離してそこで回転させ続けるわけだ。そしてそのエネルギーはそのまま返すことができる・・・。」
ブラックがニヤリと口元だけの笑みを浮かべると、溜められていたエネルギーとウーたろうを含んだその渦はゴールドとゴールドの手持ちポケモンたちの中心部分に
落とされた。 落とされた瞬間、念力で制動されていたエネルギーは解放されて大爆発を起こした!!
「あ、あ、あ、あぁ・・・。」
辛うじてうめき声を上げるゴールド。爆発による衝撃波と熱によってゴールドの手持ちも、ゴールド自身もボロボロになってしまった。
ゴールドは何とか立ち上がろうとするが全身に力が入らない。いや、もうすでに入れる力さえも存在しないのだろう・・・。
砕かれた心、ボロボロの身体、トレーナーの格の差・・・。様々なことがゴールドから力を奪う。
(情けない、情けない・・・。 無力な自分が情けない・・・。止める力が無い自分が情けない・・・。本当に許せないのは、尊敬する人を、目標とする人を
止めることのできない、情けない自分自身・・・。)
ゴールドの瞳からは涙が流れる・・・。 そんなゴールドの心に何か声が聞こえた気がした・・・。
(「人々の才能を開花させる者“孵す者”よ・・・。“統べる者”に対してお前はよくやった。今は眠れ。」)
なぜか分からないが、懐かしいような声だった。そして、その声を聞いたゴールドはよろめきながらも立ち上がった。
「眠ってなん・・・か、い、・・・られねぇ・・・つぅ、の・・・。」
しかし、立ち上がったゴールドに待っていたのは、真首領からの一撃であった。
ドスッ。
腹部への打撃。立った一発の拳だ。
「かはっ・・・・・・」
ゴールドは、その場に倒れた・・・。
運命の20分目の出来事である・・・・・・。
そして話は冒頭部に戻る。
ブラックはボールに自身のポケモンを戻すと一人出入口に向かった。
すると、ブラックの携帯する通信機に連絡が入った。
「こちらも、終った。 お前は最上階で待て。こちらはプロジェクトの準備に入る。それまで身体を休めておけ。」
通信機から聞こえてくるのは低い男性の声だった。
「わかった。」
ブラックは返事を返すと通信を切り、エレベーターで最上階を目指すのであった。
第16話へ・・・