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「・・・まだ、やるか?」


そのグリーンの言葉に、ブラックは荒い息を整えながらプテの顔と翼を見た。


既に何度かの衝突によって、プテの翼は痛々しい傷がついており、何も知らない素人が見れば


続行は不可能と安易に判断してしまうような傷。しかし彼らのような一種の“プロ”の視点から


すればここが踏ん張りどころであり、やるのかやらないのかの大きな分かれ目でもある。





ただ、やらないという選択は、いずれやってくるであろう同じ場面で敗北を認めることを意味した・・・。











PAS Chapter3 第32話(後編) 光と影と・・・(後)












 (・・・まだ、いけるか?)

心で静かに語りかけながら傷口とプテの瞳を交互に見て、プテの体調と精神状態を探る。

しかし実際は“究極連携”状態であるので、プテの身体の感覚や精神状態を

共有できるので、聞かずともその状態の把握はできる。



「・・・・・・?」



プテを心配して見たつもりだったが、なぜか逆にプテに心配の瞳を向けられた。

その心配の理由を知りたいところだが、この“究極連携”はイエローやワタルといった

“トキワの力”を持つ者ができる“通心”(ポケモンの意思を読み取る力のこと)はできない。



究極連携”は発動すれば絶対無敵、最強無比の才覚ではない。そしてまた万能の力でもない。

あくまでも感覚や感情を共有するだけであり、思考の詳細などは解らない。



理解を超えた違和感を覚えたが、解ったことが1つある、それは・・・もう一度チャンスがあるということ。





「ゴメン、もう一回頼む・・・!」





今のところ“斬撃”の成功は無い。徒にプテの翼を傷つけさせているだけだ。

このまま続行すれば、プテの飛行能力さえも奪ってしまうことも十分に考えられる。

同調の“質”が違うブラックにとって、どれだけ“戦う者”としてのセンスが存在していようとも

繊細で細かく、微妙で鋭利な集中。というものが非常に困難を極める。





(イメージは“打つ”じゃない、もっとキレイな直線の“斬る”イメージ!)





そうなんども思っても響く音はひたすら鈍かった。イメージを練ることができても、

それを確実にプテに伝導しなければ結果は出てこない。

単純に同調の“質”の違いなのか。それとも何か、雑念のようなものがあるのか。




 (これがラスト・・・)




プテの翼以上に疲弊した自分自身の体力と精神力。支持と極限の集中の連続によって生じたその疲弊に

限界を感じ取ると、荒い呼吸の声を静かに心で一人呟いた。


心の呼吸も正すように、息を静かに吐いて目を閉じる。


そして自身に“これで最後、次は無い。”と、何度も何度も自分に言い聞かせてプレッシャーをかけていく・・・。



静かに“興奮”と“集中”を精神の中に同居させる、丁寧に、慎重に。それでいて勢いを失わないように。

感覚という感覚全てを研ぎ澄ませ、鋭利なイメージを強く思う。心に描かれるイメージと

研ぎ澄まされた集中は“究極連携”で“共有”されて、プテに伝導されて思い描く力を発揮させるのだ。



しかし・・・名目上絶対同調値100パーセントとしている“究極連携”という現象も、確実な値を求められる

計器があったとして、それで測定すれば厳密には100パーセントに“近い”値であることを示すだろう。

究極連携”も一種の物理現象であり、3次元空間でおきる現象である以上、完全なる100パーセントを

達成することは理論上ありえない。99の後に小数点、そしてその後に9がいくつも続く数でしかないの。

それが意味する事、それは“究極連携”があったとしても、完全に理解しあうことはできないということだ。

最後のそのわずかな値の理解が無い限り、“真実の共有”はありえない。即ち、何れかが譲歩しない限り

究極の相互理解は不可能だということだ。

だが、それでも・・・






(ここ一番で決められないヤツは、話にもならないんだ!!!)






目指す世界は果てしなく高く。そこで生きる覚悟はただ強く。

研ぎ澄ませた感覚と集中を維持したまま、息を止めてグローブの右手を天高く上に伸ばすと

肩を掴むプテの右の翼がブラックの腕に沿うように、同じように天高く上に伸ばされた。

それはまるで、中世の世界、軍を統べる若き将軍が剣を高く掲げて行った号令の姿。

人々や戦場を、そして兵たちを統率した者の姿。掲げた剣には多くの視線と意思が集まり

兵たちは結束と士気を高めた。そんな姿に、今のブラックの姿は酷似していた。

無意識なのか、考えがあっての行動なのかは解らないが、この姿が引き出したものは、プテの“従う心”。

半ば無理矢理プテに最後の1パーセントを譲歩させてて、感覚を強烈に、そして鮮明に伝導させる。



掲げた翼の剣は、若き将軍の腕と共に振り下ろされた。






「「ッ・・・・・・!!!」」






刹那、部屋に響いたのは、金属と金属が鋭くぶつかり合ったような音。

プテの翼をグリーンのハッサムが両手のはさみで捌いた一瞬の音だ。

その音が示したのは、ブラックの構想していた“プテの翼での斬撃”が成功したことを示していた。





 興奮と感動、喜びと達成感。そんな感情たちの余韻と限りない爽快感が与える

静かな一瞬の無音空間と止まった時。ガッツポーズを上げる直前の“溜め”の時間。

時間がわずかだが、この一瞬に人生を賭ける人々は数多い。





「ピンク!! 今の見てた?!」





その“溜め”の一瞬から解き放たれたブラックの第一声がこれだった。

ほぼ正面に立っていたグリーンは、一気に拍子抜けしてしまい、同時に場に張り詰めていた

集中と真剣な雰囲気は一気に晴れてしまった。 それだけこの声が、どこか場違いで

穏やかな感情を秘めた暖かい言葉であることが伺える。



「あぁ・・・見てた、見てた」



ピンクのその、しょうがなく返したという感じの言葉を隣で聞いていたブルーは、そのピンクの反応と

声にあった“まんざらでもない”感情に驚愕とまではいかないが、表情には出さずに大分驚いた。

そして同時に、この2人の新しい関係を作ってきたのが、こうしたブラックからの、いやレッドからの

積極的な働きかけなのだろうと理解できた。



人は、相手から想われることを基本的に嫌わない。

(本当に生理的に相手を受け付けないという状況を除いて)

大概の場合は、相手に想われれば好意を持つことはほぼ間違いない。

(※ここでいう“好意”とは、恋愛感情だけでなく全ての好印象な感情を指す)






「っ・・・」



元気な声を発していたが、一瞬、ブラックの視界が一気にまどろんだ。崩れ去りそうになる身体を

気力だけで持ちこたえさせる。この変化にグリーンが気付いたようなそぶりを見せたが

即座に持ちこたえさせたので、その変化は完全に見逃された。

いや、むしろブラック自身が“見逃させた”のだろう。



本来“同調”は、一種の自然現象であり、精神の高揚によって発生する現象である。

それを意図的に発生させる・・・即ち自然の摂理に反する行為というのは、大概、莫大なエネルギーを必要とし

大きな疲労を生み出すものである。さらには、自分のペースで活動する生物が、いくら心を通わせた相手とはいえ

相手のペースに合わせる、または特定のペースに合わせるという事は、実は心身共に大きな負担を掛ける。


そこに加えて集中による疲弊。

生物は、集中や緊張という状態を長く続けていると多大なエネルギーを消費するものだ。

これは様々な事柄で立証されているが、最も極端な例で言うならば、将棋の最高位を決める試合を打った

棋士が、将棋というインドアな競技でありながら、試合後に10キロ近く体重が落ちたという話があるほどだ。

それだけ集中というものはエネルギーを消費する・・・。



単純に“同調”状態になるだけでも結構な疲労。そこに加えて大きな集中。

さらには肉体的な反動。こういった要素が重なる“同調”現象を意図的に発生させるブラックの“究極連携”・・・。

常人ならとっくに根を上げている莫大な疲労とストレス。


その疲弊を例えるなら、炎天下の中での重石をつけての休みの無いマラソン。

そしてストレスを例えるなら、それを翌日もやるとわかっている時の、夜のベットの中。


覚悟のできないことを明日に控える不安、そんな極度の不安が与えるストレスというのは凄まじい。

そんな現象を使用する、それこそ一瞬の発動でもそれらと同等の反動を受ける“究極連携”。

連発、多用は間違いなく寿命を縮めることだろう。・・・あまりにもハイリスク、だがハイリターン・・・。






 「悪ぃ・・・ちょっとトイレ。」



本当はこういうバトルや練習の後は、必ずアドバイスをしあったりするのものなのだが

突如襲った必然の体調不良に、青白い顔をしたブラックはその一言を発して、静かにバトル場から退場していった。

そのブラックの変化に戸惑う3人であったが、彼から漂う雰囲気からか、彼を引きとめることができなかった。

ちょうどタイミングを見計らってバトル場に4人が集合したいたのだが、このブラックのトイレへの退場によって

場には微妙な関係の3人が残ってしまった・・・・・・。









 「「「・・・・・・。」」」




グリーン、ブルー。そして・・・ピンク。

ブラックという名のクッションを通さずに、こうして向き合うのは初めてである。





 「「「・・・・・・。」」」





3人とも、誰がどういうタイミングで話し出すのかを雰囲気で伺っているのだが

どうにもそのタイミングを3人全員がつかめていない。普段無口で、少々無愛想な

グリーンが積極的に言葉を話していかないのは解るのだが、その逆の性格、性質を

しているブルーが喋るタイミングをつかめていないということは、この場を包み込む

まるで沈黙を強制するかのような雰囲気が相当なものだということだ。それは初対面

の人間同士が無理矢理会話をする時以上の不自然さと、その不自然さを快く思わず、

現状を別の方法で打破したい思惑が交錯した状態。 要は、身動きが取れない。





「結局、アイツとはどうなの・・・?」


「・・・別に、まぁ、普通。」





ブルーがどうにかしようと切り出した話題に対して、ぶっきらぼうにピンクは言い返す。

そこからは会話を広げようという意思は感じ取れない、また、同じような雰囲気が漂いだした・・・。





「・・・別に好きじゃないけど、嫌いでもない。」





流石にそんな雰囲気を再び漂わせてしまったことに責任を感じたのか、ピンクは話を広げだした。

一応、広がりをみせた話題と、若干だが好転した状況に、グリーンとブルーは少し安心した。



「じゃあ、どんな感じなの?」



ピンクの表情はいかにも「そんなことを聞いてどうするつもり?」と明らかに言いたげだったが

ここで会話を途切れさせてしまうというのもいかがなものか。

そんな冷静な判断ができていたのかは定かではないが、ピンクはブルーの問いかけに素直に答えだした。




「“同志”かな・・・なんか、根本的な波長が合っているみたいな・・・・・・」




育った環境の違いや、今までの経歴など、いろいろと違うような、似ているような道を歩んでいるが

“ポケモンバトルが好き”という点から始まって、どこかブラックとピンクは“そり”が合った。

惹かれあいとか、運命の出会いとかではなくて、単純に人間同士の相性が良い。

男勝りで強気なくせに、どこか弱い部分がある女と、それを見守れて、さらには笑って余裕すら見せられる男。

・・・よくある話、なのかもしれない。




「よく、バトルの話とかするけど・・・結構、話が合うし、どこか考え方も同じなんだよね」


「意気投合する時もあるし・・・」




なんだかんだでいろいろと自分から語りだしたピンクの言葉を、2人は興味深そうに聞いていた。

語られる言葉はどこか大雑把で、説明不足。考えはしっかりとあるのに、それを確実に他人に伝えられ無い為に

勘違いされやすく、いろいろと不遇にあうタイプだ。と、2人は同じように分析した。

どこかグリーンに似ているといえば似ているのだが、グリーンの場合は行動でしっかりと示せる為

勘違いを修正させることができるが、このタイプはその行動さえも勘違いされる為、どうもうまくいかない。

それでいて気が強いので、いやでも孤立するタイプでもある・・・。




「・・・内心、まだ“敵”っていう認識はある。」

「でも、いや、別に・・・“好き”じゃない、“好き”な訳が無い」




一方的に語りながら、彼女自身、自分の考えや想いを整理整頓しているようだ。

人間のこういう時の自問自答は非常に滑稽である。


おそらく彼女は、こういう質問が来ることが想定外だったのだろう。ブラックの方に聞いても、こちらが

大方そういうことを聞いてくることを既に知っているので、下手糞で面倒くさい“はぐらかし”をいちいちくらうが

(前回は結構早い段階で本音をぶちまけてくれたが。)

それが無い分、“今のところは”非常に扱いやすいといえば扱いやすい存在である。

と思うのはブルーだけであり、グリーンの方は、そう思っているであろうブルーに内心呆れている訳だ。



(ちなみに、ブルーの「アイツのことどう思ってるの〜」系統の話が、きっかけになる場合があるのだが

 ブルー自身はその事実には気づいていないようである。)
















 「・・・クソッ」



はぁはぁと荒い呼吸をしながら、冷や汗を流す。既に洗面台からはやや酸味のある嫌なニオイが漂っている。

ニオイの元を流し続ける為に流れ続ける蛇口の水。水の流れる音と息遣いが、静かなトイレに反響する・・・

グローブの右手は顔を覆い隠すようにあてがわれ、酷く血走った両目を隠す。



 ポケモンバトルにしろ、スポーツにしろ、勉強にしろ、何かを積み上げていくものにおいて

反復練習というものは最も大切な事。これを怠る者は、例えどんなに天才であったとしても

いつか必ず落ちていくことは間違いない。逆に、落ちていかない者はそれを怠っていない証拠だ。

遥か高みを目指し、そこで生きる者には必要不可欠なこと。

しかし・・・そんな反復練習をやるにしても、やらないにしても、彼には限界が近づいている。




「ウゥ・・・」




獣のようなうめき声を苦しそうに発しながら、ブラックは崩れるようにトイレの床に座り込み、洗面台に背中を預ける。

その姿はあまりにも辛そうで、苦しそうで、そして何よりも、どこか悲しみを誘うような孤独の姿。

先ほど一瞬見せた、若き将軍の姿はここには無い。

そこにあったのは、辛い戦い孤独に続ける1人のやせた男の姿だった・・・





(トイレだけど・・・床がキレイなのがせめてもの救いだな・・・・・・)





そんなことを考えながら、笑えない笑いを浮かべる。

両目を閉じて、視界を遮断しているのにもかかわらず、世界がグルグルと回り、歪む様な感覚に襲われ続ける。

一向に落ち着かない荒い呼吸と滝のように流れ出る冷や汗。そして発狂しそうなほど強烈な感覚の異常。

しかしそれでも、“これから”への予感と予想がある限り歩み続けるしかない・・・




「まだ、そっちには行けないんだ・・・ゴメン・・・・・・」




ぷるぷると震えるグローブの右手を、無意識のうちに伸ばして“何か”に触れようとするが

当然のようにそこには何も無い。仮にそこにその“何か”が在るとしても、はたしてここで触れることが正しいのか。

それが正しくないと理解しているが、触れたい感情は確かに存在する。




“感情に従いすぎる”ことは愚か・・・。



しかし、“感情に従わないこと”は不幸。




適度が理想なことは解っているが、上手く生きられない人もいる。

この青年の場合、上手く生きられないというよりも、“生きさせてもらえていない”というのが正しいのだろう。

トイレに響くのが蛇口から流れる水の音と、それが排水溝に流れていく音だけになると、

しばらくの時が静かに流れていった・・・・・・

















 「・・・なにやってんの?」



突然聞こえた声に、ビクッと反応する。どうやらしばらく意識を失っていたらしい。

本来この場所でするようなことをしていても、存在の接近くらいならある程度は感知できる。

それができなかったということは、意識を失っていた可能性が高い。



「んっ・・・あぁ・・・ちょっと、転んでな」



まだ意識が朦朧としているのだが、とりあえずその声の主に言葉を返す。

自分自身の抱えるものの重大さを悟られないために。




「トイレで転ぶって、面白い足取りだな。・・・それに、転んだにしてはやたら汗かいてるけど・・・?」


「トレーニングの後だからだよ、オレ、汗っかきでさ」




鋭い指摘も笑顔を見せて余裕で切り返す。しかし、未だに視界がぼやけたままなので

相手の姿をしっかりと確認することはできない。ただ、今の会話で、相手の性別は把握できた。

しかし、相手の名前が思い出せないあたり、未だに意識が正常ではないようだ。




「顔も、随分と青白いな。」


「オレさ、こう見えても実は色白でさ」




非常に苦しい切り返しは、場の雰囲気でここを乗り越えようとしているブラックの意思の表れ。

少し考えれば、彼が何を望んでいるのか、この場をどうしたいのかが解ることだろう。




「蛇口の水が出しっぱなしなのは?」


「ほら、今の季節って乾燥してるだろ? だから、少しでも湿度を上げて快適にしようかなって。」




意地になって切り返すブラックと、それに食い下がるピンク。

お互いにお互いのことを考えるからこそこういう事態は起こるもので、

決して、無関心同士では起こりえないこと。おそらく異性意識の好意ではないだろうが

それでも、“心配する”ということは社交辞令という可能性を除けば

少なからずとも相手に好意を抱いていることは間違いない。




「・・・・・・。」


「・・・・・・。」




ブラックのあまりにも苦しい切り替えしに、2人とも沈黙してしまった。

また男子トイレには蛇口から流れ出る水の音と、それが排水溝に流れる音が支配する・・・



ふぅ。わざとらしいため息を吐くと、どこか諦めているようだが、何かを感じ取り理解した表情を浮かべて

ピンクは洗面台に背中を預けたままのブラックに近づいて手を差し伸べた。





「・・・立てる?」





その言葉は彼にとってかなり意外な言葉だったようで、しばらくどう対処すればいいのかが

解らないようだった。頭の中で難しいことを考えようとしていたが、ため息と同時に笑みをこぼして

目を細めたまま差し伸べられた手を、グローブの右手で優しく掴んだ。




「ん、おぅ、サンキュ」

「ニョロ、ちょっと手伝って。」




ピンクの声を聞いたニョロは、主人であるブラックの意志とは関係なくボールから勝手に出てくると

ブラックの左腕を肩に回して、ゆっくりとやさしく主人を立ち上げる補助をする。

普通、勝手にボールから出てくるというのは、トレーナーとポケモンの関係において

絶対にやってはいけないことであり、信頼を裏切る行為に当たるのだが、それを破ってまで出てくるというのは

相当感情が高まっていたのだろう。


(これを守るというのは、最低限のポケモンとトレーナーとの間の信頼関係であり、これが

破られるようでは、本当はトレーナーとしての技量を問われてしまうことにもなってくる)






 「名前、覚えてくれてんだな。」


「お前が四六時中呼んでれば嫌でも覚える。」



差し伸べられたニョロの腕に浮かべた笑顔のまま、申し訳なさそうに身体を預けると、よろよろと足をふらつかせ

ながらだが、なんとかトイレの床から立ち上がることができた。

しかし、そんな状態は数秒と保つことができず、ブラックの身体は前へとよろめいた。




「おッ・・・」

「ほら、しっかりしろよ。」




身体を身体で受けとめると、未だに青白い顔色をしているブラックの荒く生気を感じさせない冷たい息が

ピンクの首もとにヒヤリと冷やした。本来なら生温かい息から“生”を感じ取るものなのだが

今のブラックの息からはそれを感じることはできない。逆にもはや死者と言わんばかりの“死”を感じ取らせた。






「・・・・・・お前、そういう生き方って辛くないのか・・・?」






全てを知っている訳ではないが、この現実を見ると、今までもそうしてきたのだろうという推測は出来た。

無茶や無理、きっとそれを乗り越える術を持ち合わせているのだろうが、乗り越える度に何かしらの

反動や代償をこの男は受け続けてきたことだろう。



多少なりとも報われてはいる・・・しかし、報われることが反動や代償を無にすることにはならない。

どれだけ若い肉体であったとしても、酷使をし続ければ老いる以前に肉体は崩壊する。

この世界に“絶対”が無い以上、癒しきれなかった微量な“毒”が必ず存在し

それは蓄積されることによってやがて“死”へと繋がっていく。



そう、“繋がっていく”・・・彼の生き方は“繋がっていく”、“繋げていく”。それは己の“死”さえも。

彼は、今を犠牲にしてでも“先”の為に生き続ける、“これから”の為に生き続ける生き方。

今の自分を捨て、“これから”に託す生き方・・・それはまるで、先を知った老人のように。

蜉蝣のように今を輝くのではなく、“己の死”によって齎されるであろう“これから”を見据えて。







「寒ぃ・・・」







凍えた声を聞くと、冬の冷たさよりもはるかに冷たい身体を、ピンクは何のためらいも無くギュッと抱きしめた。








to be continued......





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